宝具を簒奪され現界するのもやっとなジャックと共にバーサーカーのマスター、フラット・エスカルドスが戦場へ戻ろうとした時まで遡る。
『その服装、100年から200年ほど前のフランスの者と見受けられるが?』
狼に変身したジャックが男へ問いかける。
「人を見た目で判断するのはやめた方がいいぜ。その成でベジタリアンだとか言われても俺は驚かねぇさ」
「フランス…もしかしてマドレーヌ好きですか?」
「好きと言われれば微妙だがたまに食べるな」
「ならコメルシーの美味しいですよ!ぜひ食べて欲しいな〜!」
「まだあんのか。あそこのは絶品なのは変わらないか…」
「おい。そんな呑気な話をしている場合では無いぞ。あのマスターがいるとはいえ危機なのは分かっているだろ」
ジャックの言う通り宝具が空を舞い、爆音が地面から発せられている。
そんな状況で雑談に夢中な二人を見て居心地悪そうに見る。
「そうだな。でもな、人と話しながら影に術式仕込むのは如何なものと思うが。しかも完成しながらも発動させないとかお前本当に魔術師か?」
その指摘にジャックは驚きフラットを見るも彼は不思議そうに顔を傾けていた。
「え?だって、敵なら起動させましたけど話すだけなら無害じゃないですか。それに動かしたら魔力使うから無駄だし貴方に迷惑かかるじゃないですか」
男は少しの間黙って観察し、フラットを見て愉しそうに話す。
「坊主…お前、何だ?」
「え…?あぁ、名乗りの問題ですね!オレはフラットです!ミドルネームは明かせないんですけど、普通に人に名乗る時はフラット・エスカルドスって呼ばせてます!バーサーカーのマスターです!」
「いや、そういう意味じゃねぇんだが。あと、フルネームがあることを言うのは良くないと思うが…まぁいい。こっちも言わなきゃフェアじゃねぇな」
その発言に対しジャックが訝しそうに聞く。
「…名乗る?君も聖杯戦争に呼ばれたサーヴァントなら今の発言が自殺行為になり得るのは理解しているはずだ」
「あんな大胆に『俺はジャック・ザ・リッパーだ!』って宣言していたやつに言われたくねぇな。まぁ、あんたが暴れたのは俺が死んだあとだがな」
「…」
「それに真名を言わなくたって心臓を突かれれば死ぬ、頭をぶち壊されれば死ぬ、飢えでも寒さでも死ぬ。そこら辺の人間と大差ねぇくらい弱い男さ」
敵意の欠片も無いがそれでも警戒を怠らない。
「理解できないな。そこまでして何を求めている」
「なんもねぇよ。単にマスター同士の契約に従う。それだけだ」
「そうか。君が…」
ジャックとフラットは同盟関係を警察署長と結んでいた。
その彼から『こちらのサーヴァントの名は明かせないが、基本後方支援だから会うこともないだろう』と言われた。
何れ争う相手には変わりないのだからその判断は正しいとジャックは納得していた。
だからこそ男の行動は不自然だった。
「何も無いとは言ったが多少の担保は欲しい。それを踏まえた上で俺の腸を少し明かした方が後々役立つと考えた訳だ」
そんな疑念の目を向けられているのを承知の上で、男は名を告げる。
「俺の名はデュマ。何故かキャスターって事になる」
「えッ!あの、『モンテ・クリスト伯』の!? 」
「やっぱりそれが出るか。アイツも認知される存在になっちまったことか」
自笑気味に笑うデュマに対し、フラットは目を輝かせながら叫ぶ。
「あの復讐劇は今のダークヒーロー作品に通じるものがあります!没落し、世界を恨むかのような怒りを滾らせながらも紳士的に成敗する。そこがカッコイイんですよ!あぁ、もう少し時間があればもっと話せたんですけど今は警察の人たちを助けるのが優先ですし協力しましょう!」
「ふむ…マスターがそう言うなら信じよう」
ジャックは警戒を解き、時計の姿に戻る。
「その姿になるってことは時間がねぇな。安心しな、要件はすぐ終わる。小僧、お前がその命を鍋の中にぶち込む覚悟があればな」
「えッ?」
「別に魔女のような薄気味悪い鍋じゃねぇ。サーヴァントの宝具とお前のエッセンスを混ぜこぜにするだけさ」
「もしかして俺、みじん切りにされるとかですか?」
「そんなことしたら俺のマスターから叱られる程度で済まねぇって。ただの比喩だ。工程は企業秘密だが痛みは無いのは保証するさ」
この取引は魔術回路に細工を加え能力を一時的に強化するというもの。
しかし、比喩といっても魔力の側面から見ればサーヴァントとマスターの回路が混ざりひき肉のような状態と変わらない。
それにサーヴァント側の情報に負け、副作用や後遺症、果ては人格を失う可能性とマイナスな話しかない。
それでも彼は決断した。
「分かりました。お願いします」
フラットはそれ以上聞くことなく取引を受けた。
デュマの宝具によりジャックは強化され、『フラットという魔術師に行使する魔術まで含め、本人と大差無い形で変化できる』力を得た。
空へ伸びていた光の柱は消えさり、その下にあった教会の一部が崩れていた。
街とは思えないような闇の中、重くも静かな声が響き渡る。
「……何故だ?そこまで化けれるなら貴様がここでマスターになり術をかければ同じだ。命をかける意味が無い」
警官の姿に変身したジャックが答える。
「簡単な話だ。私には持ち得ないものがあるからだ」
地面に伏せた状態から立ち上がろうとしていたフラットを見て理解した。
彼の右手に刻まれた令呪の二画目があざのように変化していた。
「…自らの令呪を組み替えたか」
本来他者のサーヴァントへ行使することは不可能。
しかしその莫大な魔力を巧妙に書き換え、アルケイデスとそのマスターの魔力回路をハッキングし流し込むことで自害に等しい術式を可能にした。
「ええと…賭けだったというか…アーチャーのマスターさん。令呪全部使ってますよね。もし、一画でも残っていたらその繋がりで弾かれていたと思います」
幸運だったと
「なるほど。そこまで見通す『眼』を持つとは…貴様───か」
最後の言葉は相手にすら聞こえぬ僅かな声で呟いた。
藤丸はフラットの行動に驚きながらも違和感を感じた。
ヒュドラの毒はヘラクレスの師ケイローンが激痛のあまり不死性を返した程と伝えられている。
その毒を受けたにしては体に変化が見られない。
「見事だ。人の子よ。神の力を否定し、己の足で立つ同胞よ」
ゴポリ、と布で隠れた弓兵の口からドス黒い血がこぼれ落ちた。
「水蛇の力を用いたとはいえ、その武器・力・気迫に神は無い。弱き人でありながらも我が身を滅ぼす技を練り上げた事を言祝ごう」
まるで自らの消滅を受け入れ、最後の言葉を話すような言い方に聞こえた。
だが、それも即座に否定される。
「そして…憐れもう、勇者よ」
「え…?」
訝しむジョンの目の前で、刺された脇腹が毒によって蝕ままれ、溶けだしていた。
次の瞬間、その毒素がより禍々しい泥に飲み込まれた。
全身から溢れるように出た魔力の泥は、ヒュドラの毒を、『死』そのものを喰らうかのように絡め捕り、そのまま傷口に吸い込まれていった。
「ヤツめ…見様見真似で掴みおったか…」
苦虫を噛み潰したような顔でドラコーが睨んでいた。
「神の衣を打ち捨てている私ならば、苦しみの後に安らぎを得ただろう」
肋骨と胸骨が抉れるように溶け落ちていたはずの体が元に戻り、何事も無かったかのように立っていた。
「我が霊基が歪む前であれば、今のかすり傷で消えてやるのもやぶさかでなかった。この毒に限り、無数の命を投げ捨てるまで追い込まれたかもしれん」
魔力の放出による強制的な静寂の中、弓を強く握りながら言い放つ。
「だが…互いに不幸だったな。
この場で敵対する者のみならず、己自身と、果てなき『力』そのものへ怒りを込め、アルケイデスは呪いとも聞こえる声を張り叫ぶ。
「この穢れた私の血を…我が魂が抱く復讐の炎を!死毒程度の物で染められるものか!!」
溜め込まれていた魔力が放たれる。
覇気とも取れる赤黒く染まった風が吹き荒れる。
戦いを見守っていた使い魔が吹き飛び、魔力回路が悲鳴をあげ、マスターを守るため膝をついてまで耐えるサーヴァントもいた。
「そこにいるだけでこの力…」
「これが彼の本気…ですね」
「いえ…『これまでも本気』でした。ただ、周囲を警戒するという枷があっただけ…」
天草は焦りの表情を表しながら状況を告げる。
「私たちはその枷を外し力の全てを殺意に繋げてしまった。それが、ただ一つの敗因です」
次の瞬間、アルケイデスが動いた。
怒りの矛先は警官隊でもカルデアでも無かった。
神の気配をその身に纏う、セイバーへトドメをさそうとする弓兵へ。
教会上部
ギルガメッシュはセイバーの渾身の一撃を完全に防ぎ切り無傷のまま一人崩れた屋根に立ち見下ろす。
下には瓦礫の山で血みどろなっているセイバーがいた。
「星の紛い物とはいえ我の手を煩わせるとはな。その栄誉を抱いて死ね。フェ───」
自分勝手な遺言を捨て裁定しようとした時、赤黒い魔力の暴風が渦を巻き、色濃い殺意がこちらに迫る。
「…無粋な真似を」
冷めた表情で舌打ちを打つと空間を歪ませ『
「仮面を剥ぎ取られたか、道化」
教会の反対側に下り立った赤黒いアルケイデスを見てもさして問題ではないと言いたげに言葉を続けた。
「ついでに布を剥がすことを許す。どのような泣き面をしているのか見てやろう」
「…流す涙など、とうに枯れた。
「代わりに泥を目から零すか…王の財宝を掠め取ったには飽き足らず雑種の妄念で汚すとは。その罪、この儀式を用意したもの達に償わせるとしよう」
その赤黒い泥の正体を見抜いているかのような物言いをした後、アルケイデスを試すかのようにギルガメッシュは問う。
「それで、なんとする?余力がある内に我を討ちに来たことは褒めるが…その程度の穢れ払えぬとでも思ったか?」
「…強き王よ。確かに貴様なら財を使えばこの程度の穢れなどおそるるに足らないだろう」
魔力の凶暴さとは真逆に、不気味なほど静かに、自然体で立っていた。
だらりと下ろした両腕。右手に強く握られた弓。
脱力しているのにも関わらず、隙を見せた時には首を刎ねる刃にならんとしている。
「だが…弱き戦士よ。貴様を屠るのはその穢れでは無い」
「ほう?」
「その泥に溺れる…屍だ。この身は既に骸なれど、我が身の罪は永遠に消えぬ」
自らを死者と称したアルケイデスはそのまま一歩踏み出した。
「なれば、冥界に揺蕩う忘却の椅子に、我が身、我が魂を委ねるまで」
何気ない一歩。
それが、全てを乗せた重みのある一歩であるとギルガメッシュは理解する。
「偉大なる敵にして哀れなる輩よ。貴様も我が狂奔と共に踊るがいい」
そしてアルケイデスは、自然体のまま、力ある言葉を放つ。
『───
言葉と同時にギルガメッシュの背後の門が開き無数の宝具が飛ぶ。
慢心の無い、全てが相手の霊基を砕く必殺の一撃が布に包まれていない弱い部分を的確に射出される。
並の英霊なら何も出来ずに砕け散るような攻撃。
だが、横に跳びながらアルケイデスが撃ち出した矢の連撃が宝具を相殺する形で撃ち落としていく。
複数の宝具を一つの矢で落としているものの、目を見張るのはその連撃速度と軌道である。
一度に二、三本の矢をつがえ眼にも止まらぬ早さで放つだけでなく、矢そのものに意思があるかのように曲がり四方八方からギルガメッシュを襲っていた。
避け切れるものは布で防ぎ無傷を維持する。
その様子を見た英雄王は鼻で笑いながら次の一手を出す。
「この我自ら査定してやろう」
英雄王の左右の空間が大きく歪む。
「貴様の毛皮が、どこまでを人の業と見なすのかを」
左には、白く輝く炎。
右には、銀色に輝く液体。
英雄王の宝物庫に納められた以上、人の作り出した物なのだろう。
「そこの見えぬ王よな」
「カルデアでも見たことの無い宝があるなんて…」
「キャスターの方も持ってるかもですね!」
「使い道ないから出さないとか言いそうだけど」
「…!!」
「マスター。輪に入りたいのは分かるが気を緩めないでくれ…」
オーディエンスとなってしまった以上、ただ見ているしか無かった。
その先に待ち受ける現実を受け止めるためにも。
実質頂上決戦!
UBWのイリヤ城を彷彿させるマッチアップで初見時熱かったですね。
しかも射殺す百頭の幅広さ!
なんでもありとか強すぎでしょ…