夢想煉獄都市スノーフィールド   作:薫製

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暗転

左右の空間から放たれたのは雷や炎、氷といった自然現象が合わさった嵐。

人工的なものと言われても納得出来ないほどの力。

 

「…」

 

アルケイデスは、無言のまま一際大きく弓を引き絞る。

大弓が激しく撓み、真っ二つにへし折れるその瞬間に力が解き放たれる。

それは禍々しい魔力を纏い、空をうねるような軌道で飛ぶ九本の矢。

飛ぶ姿は正しくヒュドラそのもの。

迫り来る武器のみならず炎や雷も喰らい潰しながら空を覆い尽くす。

 

「本来なら神の力を纏わせていたでしょうね」

 

「流派・射殺す百頭とは言い得て妙ですね」

 

「全ての武器に適応し、的確に相手を倒す。それがヘラクレス…大英雄の力…!」

 

全てを食べ切り、最後の獲物と言わんばかりに拡散していた九本の大蛇がギルガメッシュに襲いかかる。

 

「ヒュドラの毒か。王は毒を盛られるのが世の理とはいえ…芸が無さすぎるぞ。雑種」

 

一度宝具の射出を止め、新たな宝物の扉を開くべく眼前に展開する。

 

「蛇めを我の蔵に納めるのは業腹ではあるが、その程度の毒は貯蔵済みよ。無論、その血肉も、解毒剤も含めてな」

 

 

スノーフィールド郊外

マナが漂う森にいる二騎のサーヴァントも戦況を見ていた。

 

「こっちの様子も考えて行動してるね」

 

「…」

 

長髪の青年、エルキドゥが笑うのに対して、角の生えた少女は少し不安そうな表情をしていた。

 

「どうしたんだい?」

 

「…あの子が来る」

 

「あの子?」

 

「母の知る子じゃない。彼女は今まで生き延びてしまった神の残滓そのもの…」

 

彼女には人でいう魔眼の分類に当たる力がある。

視界に映る全てを認識し、把握出来る。

かの花の魔術師が持つ千里眼の範囲を縮小させたようなもの。

 

「…まさか」

 

エルキドゥも遅れながらも『気配感知』によりその正体を感じ取り飛び立つ。

本来この世界に呼ばれても存在してはならないイレギュラー。

それが表舞台へ降り立とうとしていた。

 

 

カジノホテル最上階

ティーネはスポーツ中継を見る子供のように、手を握りしめていた。

カルデアを除いたサーヴァントの中でアルケイデスは屈指の難敵。

宝具を解放した時は、焦りを感じたものの攻防を見て勝利を強く感じた。

 

「勝てる…勝てます…ギルガメッシュ王…!」

 

状況を見れば乖離剣(エア)を引き抜ことも、奪われることも無いだろう。

何よりも、恐怖も焦りどころか笑みすら浮かべるギルガメッシュの態度こそ、ティーネは何よりも安堵する。

 

「流石で御座います。我が王よ…!」

 

思わず漏れだした言葉には、土地を守る魔術師の威厳は無くなっていた。

だが、ティーネ・チェルクは忘れていた。

自分がマスターであるのならどこへ居てどう行動すべきだったのかを。

そして、ティーネは知らなかった。

如何にギルガメッシュが強大で尊い存在だとしても。

慢心と油断を捨てた状態だとしても。

マスターとサーヴァントの共闘無くして勝てるほど甘くは無い聖杯戦争であったことを。

 

 

赤黒い九つの矢を打ち払うべく次なる一手たる宝物を出そうとした瞬間───

突如、ギルガメッシュの周囲に広がっていた渦が消え失せた。

 

「…何?」

 

初めて、ギルガメッシュが眉を顰める。

空間の歪みが消えたことは一つの事実を指し示した。

王の財宝を保管しているバビロンの宝物庫の扉が一斉に閉じた。

ギルガメッシュ本人以外で扉を閉めれる者がいるのだろうか。

ありえない。

英雄殺しの毒矢が迫るコンマの間にそう判断した。

例え、扉が閉められようとも王の心は折れることなく、既に射出した宝具を使いうち払おうとしたのだが───

 

『ーーーーーー ーーー ーー ーーーーーー』

 

突如響き渡る不協和音。

歌のようにも咆哮にも聞こえる『それ』は、聞いた者達の脳髄を掻き乱す。

藤丸は耳を塞がながらも見てしまった。

あの余裕の表情を崩さないギルガメッシュが僅かながら恐怖を感じていた事を。

キャスターの英雄王もビーストⅡの攻撃により致命傷を受けた時ですら焦りはあれど皮肉を言う余裕はあった。

今感じ取れるのは驚き、焦燥、戸惑いだけ。

全盛期のギルガメッシュが感じるべきでは無い感情が現れていた。

そして、英雄王迫っていた毒矢の一つが、その肩口を貫いた。

 

「ぬぅっ…!」

 

かろうじて急所を避けるも、毒矢の前には意味を成さない。

体勢を崩した英雄王に、軌道とタイミングをずらした矢が刺さる。

それでも宝物庫は開かない。

二発目、三発目を腕と足を貫かれ、残りの矢が急所を目掛け襲う。

誰もが万事休すと思ったその時、どこからか飛来した『土の槍』がギルガメッシュの横を通り過ぎながら、残りの矢を相殺する。

激しい衝突音と共に矢に込められた魔力が弾け高層ビル群の窓ガラスを激しく揺らす。

 

「邪魔が入ったか…」

 

「きさ………ま…」

 

英雄王は怒りに満ちた表情をアルケイデスではなく夜空に向ける。

 

「迷い出るとはな。貴様、よもや…そこまで堕ちていたか」

 

虚空のに向けられたギルガメッシュの眼は、確かに捉えていた。

巧妙に隠された魔力。

ギルガメッシュが毒矢に突かれた時、隠す必要も無いと言わんばかりに浮かび上がった気配を。

それは、答えるかのように大通りの空に第三者の声が響く。

 

「堕ちた、なんて酷い物言いね」

 

それは、美しく透き通りながらも、寒気を感じる声だった。

 

「私がいる高みは最初から変わって居ないわ。勝手に貴方が私達より上へ上り詰めたと思ってるだけ。そうでしょ?」

 

高層ビルの一つ、その陰から空に浮かびつつ現れたのは、白い肌に紅い眼を持つ、人間離れした美しさを持つ女だった。

ギルガメッシュはその外見に心当たりはなくとも、内側には知り過ぎている存在が見えていた。

 

「それにしても、やっと隙を見せたわね…っていうか、そろそろ苦しくないの?痛くて転げ回りたいと思うだけど。笑ってあげるから我慢しないでさっさと悲鳴あげなさいよ」

 

微かに笑みを浮かべ、ヒュドラの毒に犯されつつあるギルガメッシュに言い放つ。

本来なら、血管に強酸を流し込まれたような激痛が走っている筈だが、ギルガメッシュは額に脂汗を浮かべながら、上空にいる女を見下す。

 

「吠えるではないか。貴様の体に染み付いたその傲慢、千年単位の移ろいで消えぬとは、余程根をおろしたカビのようだな」

 

「なんとでも言いなさい。それにしても探すのに苦労したわ…私にあんなジメジメした洞窟歩かせるなんて不敬にも程があるわ」

 

洞窟という単語を聞き、ギルガメッシュとマスターのティーネはある場所を思い出す。

外部の魔術師が、ギルガメッシュを召喚するために使用した峡谷の洞窟。

 

「でも、許してあげる。おかげで貴方を苦しめる為に相応しい物が見つかったんだもの」

 

女はギルガメッシュを上から睨みつつ、一つの鍵を取り出す。

それは魔術師が英雄王を呼ぶ為に使った触媒に他ならない。

乖離剣エアが納められた最奥の倉を解放する鍵に酷似しているものの、宝物庫の表の扉そのものを開けるだけの鍵。

 

「ただの人間が持っていても使い道のない、何の役にもたたない物よね」

 

「貴様…」

 

脂汗を流しながらも呻き、なお立つギルガメッシュに向け女は小首を可愛らしく傾げながら、底冷えするような笑みを浮かべながら言葉を吐き出す。

 

「でも、私なら…『鍵を掛け直す 』こと位は出来るわ」

 

ティーネ陣営にとって致命的とも言える内容。

だが、英雄王はその事実よりも重要と言わんばかりに、皮肉を口にする。

 

「貴様が我の倉に目を奪われる前に閉じるとはな。堕ちたと言ったが訂正しよう…」

 

「………」

 

「随分殊勝になったでは無いか…█████よ」

 

吐き出された名前に冷たい微笑みを返し肯定する。

ギルガメッシュは全身を襲う猛毒の苦しみを常識外れのプライドで押さえつけながら、尚も皮肉の笑みを返す。

 

「それとも、その器にでも影響されたか?」

 

「それは無いわ。元の人格なんて完全に私の影に隠れてるわ。……この子、器になるためだけに作られた類の人形だもの」

 

次の瞬間、彼女の足元から虹のような七色の煌めきが広がり、その真下から巨大な何かが現れた。

「この子みたいにね」

 

「…ッ!」

 

現れた巨大な物体を見てギルガメッシュ本人は気づかなかったが、『真なるバーサーカー』へ向けいくつもの感情をその身に走らせていた。

 

「やれやれ。我としたことが見誤ったか…まさか本人ではなく、劣化した呪いの類とはな」

 

薄い微笑みを返すだけの女は、その言葉を返す代わりに周囲を見ながら愉しげに話す。

 

「本当はもっと苦しめながら遊びたかったけれど…これ以上いたら私も危なくなるからやめにするわ」

 

「何…?」

 

「エレシュキガル…いえ、ネルガルの眷属あたりかしら。早く逃げた方がいいけど?あぁ、さっき喰らい飽きたとか言ってた『神の罰』を受けたばかりなの忘れないでよ?」

 

最後に、神にしてはあまりに邪悪で妖艶な笑みを浮かべ言う。

 

「せっかく急所を避けたんだから、精々苦しみなさい」

 

「………って、言いたい所だけど。私は満足したんだけどこの子からしたら足りてないみたいね」

 

次の瞬間、鋼の巨体の後方で輝く光輪が放たれたと思うと、ドリルのように捻れ尖り、ギルガメッシュの腹部を貫いた。

 

「ギルガメッシュ王ーーーーッ!!」

 

藤丸の事を知らない王と言えど、その威厳を知るからこそ無意識に叫んでしまった。

光の中へ溶けていくかのように堂々とした立ち姿が消えていく。

 

「ギルガメッシュ王の霊基が、消えていきます…」

 

その報告は死亡したも同然とも取られられるものだった。

 

「マスター。ここも危険です。直ぐに移動を……」

 

突如、病院から黒い風が強く吹き荒れる。

吹雪の中と思うかのように一瞬にして、サーヴァントの姿が目の前から消える。

 

「みーーーー!!」

 

轟音の中叫ぶ自分の声すらまともに聞こえない。

藤丸はただ腕で顔を風から守りながら耐えるしか無かった。

 

 

ゆめのなか

オベロンは一人、空を見上げる。

その先にあったのは積乱雲のように高く、大きくなった黒い影の群。

誰もが異常だと感じる風景だが、取り込まれた者からすればどうも思わない。

 

「寝ている時に明るくされたら怒る気持ちは分かる。でも、周りに寝てるやつを起こしてつけた本人を逃がすってのはどうかと思うけど」

 

ボヤくオベロンの肩に降り立ったのは白い蛾。

共に妖精國を巡った友、そして押し付けられた目的の為に捨てた道具。

 

「お疲れ様。皆巻き込まれていたかい?……へぇ。それは面白い展開じゃないか」

 

優しく微笑みオベロンは白いマント姿へ変化する。

 

「それじゃ、お迎えに行こうか。どうせ一番乗りじゃないけどそれはそれ。妖精王らしく明るく元気に、ね」

 

小さくなり蛾の背中に飛び乗ると積乱雲の元へ飛んでいく。

 

 

●●●●にて

声がする。

微睡む『観測者』達の耳に、声が聞こえ始める。

 

「我が恩讐を喜劇にするとはな」

 

その声は酷く冷たいのにも関わらず、呪いのこもった炎と言わんばかりの声。

続いて聞こえた声には『観測者』達も覚えがあった。

 

「そう言うなって。あんたの復讐劇をリアルに伝えたら飽きちまう。まぁ本当のオチをあんたは教えてくれなかったが」

 

自分達に戦う力を与えてくれたサーヴァント、アレクサンドル・デュマの声だ。

ぼやけた視界が段々と焦点があっていく。

目に映ったのは黒の外套で包み込まれた男の前で酒を飲んでいた。

 

「それに話を盛るのは小説家の誰しもがやるだろ。事実だけを書くのは新聞の役割だ」

 

「喜劇を悲劇にする輩も似たような事を言っていたな」

 

「おい待て。もしかしてあの悲劇王か?」

 

「オレが答える必要は無い。その先は共犯者が話すだろう」

 

男と話すデュマの顔は少年のように笑みが絶えなかった。

 

「共犯者?あぁ、あんたのマスターか。すげぇよな。幾千もの英雄をバックにつけて世界そのものと対峙する。そんな奴がいちゃせっかく推しが大活躍出来るってのに霞んじまうだろ」

 

「共犯者は今も尚罪を重ねている。自分の世界を守るため多くの命をその手にかけてきた。お前の推しとやらはその覚悟はあるのか」

 

「そりゃねぇな。なんせ『正義』の題目を与えられただけなんだからな」

 

『観測者』達は気づいていた真実を改めて突きつけられる。

それも、力をさずけてくれた本人から。

 

「けどな…そんな偽りの正義も本物にしようと必死こいて戦ってるんだ。何故かって?自分の行動が本当に正義だと思ってるからだよ。かつてあんたがしたみたいにな」

 

「また民衆に託すのか。オレの、『復讐者』の行動が正しいと言わせるのか」

 

書に詳しい人であるならここまでのやり取りで黒衣の男が何者か理解していた。

それでも頭には『本当に実在していたのか?』と疑問符を浮かべる事になった。

 

「半分正解だな。ただ、民衆に見せるのは文字じゃねぇ。行動だ。英雄ってのは民衆が生み出す偶像だ。使い捨てになろうと俺は見てぇんだ!何も力もねぇ奴らが英雄になる瞬間ってのをさ!」

 

勢いよく立ち上がり両手を広げ語る。

その目には情熱が篭っていた。

黒衣の男はその姿を見ても微動だにしなかった。

 

「これは勝負だ。当然力比べじゃない、どっちの思いが勝るか。それに戦いってのは気持ちで決まるもんだしな」

 

「…ならば越えてみるがいい。世界を切り捨てた罪人の喉に光の剣を突き立て証明してみせよ。己の正義の重さを」

 

「代理戦争にはなるがやってやろうじゃねぇか。そうだ、もし俺が勝ったらお前の物語を一から教えろよな」

 

「好きにしろ…」

 

男は静かに立ち上がりデュマを見下ろす。

帽子と髪の隙間から見える目にはこの世全てを恨み、燃やし尽くさんとする憤怒があった。

しばらく黙ったままお互い見つめあっていたが、男が外套をひろげ闇の中へ消えようとしていた。

 

「次はいつ会える?聖杯の前か?監獄塔か?それとも、あんたの見た地獄か?」

 

「…オレが貴様に述べるべき言葉は今も変わらない」

 

ピタリと足を止める。

そして、僅かに苦笑を浮かべ背を向けながら言葉を放つ。

 

「待て、しかして希望せよ…」

 

その先の光景を『観測者』達は見ることが出来なかった。

黒衣の男の言葉と共に、再び意識を離したからだ。

ただ、この景色を見た誰もが感じ取ったことがある。

自分達はデュマの作り上げようとしている物語の一部となっており、英雄になる道を指し示された。

その道の先にあるのが運命(フェイト)運命(ディスティニー)になるかは自分達の行動次第だと。

そして、『観測者』達の意識は光へと消えていった。




衝撃的なシーン来ましたァ!!
あのギルガメッシュが負けるなんて…!
ハラハラしながらここ読んでいた記憶があります。
そして混ざり始めるサーヴァント達。
本来有り得ない出会いができちゃうのがFGO。
その強みを存分に活かしてどんどん召喚しちゃうぞー!
まだ増えるかって?
待て、しかして希望せよ!
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