スノーフィールド コールズマン特殊矯正センター
表向きは当時のアメリカでは一般的な民営の刑務所という形を取っている施設。
その奥にある特殊管理設備を陣取っているのは黒幕側の一人、ファルデウス。
この聖杯戦争をフランチェスカと共謀して企画した張本人。
報告書に目を通し深く息を吐く。
「消えた。としか言いようがありませんね」
書いてあったのは警察署の人間が病院を包囲していた事。
そして、病院に対し警察側から事前に電話でコンタクトが取られた事が分かっている。
連絡が取られていた主治医の名前から担当患者の名前を割り出せた。
「繰丘椿…まさか自分たちでは無く実の娘をマスターに仕立て上げるとは」
今回の偽りの聖杯戦争においてファルデウスと協力的であった繰丘夫妻の動向に注視していた。
召喚予定とされていた始皇帝が実際に現れたのかすらも報告が無く、音信不通を貫いていた。
疑問を抱いていたものの、昨晩の騒動で大まかな事情は把握出来た。
「偶発的か意図的かは分かりませんが…なるほど。娘に魔力供給をさせ自分たちは安全な所からサーヴァントへ指示を出す…第四次ではかのロードも婚約者を魔力の供給源としていたと聞き及んでいますし問題ないでしょう」
「その、繰丘椿のサーヴァントが何かしたと?」
ファルデウスの副官である女性、アルドラの言葉に軽く頷く。
「認識障害の魔術の使用痕跡も、幻術の類がかけられた様子は無いとフランチェスカからお墨付きを貰ってますよ。彼女はこの状況を楽しんでいますけど」
「だとすると僅かな時間の間に三十人以上の人間が大通りから消えたことになります。しかも、サーヴァントも含めて」
事務的な口調で淡々と告げるアルドラに対し、ファルデウスは改めて報告書のリストに眼を通す。
「警官隊の他に姿を消したのはフラット・エスカルドス。教会に居た監督役を名乗るハンザ・セルバンテス。その部下と思しき四人のシスター…表向きは通常の神父ですが、オーランド署長からの報告とこちらの監視網に映った戦闘記録を見るに、代行者でしょうね。しかもかなり腕利きの部類だ」
そして、一度眉を顰めてからページをめくる。
「後は……シグマに、彼と同行していたセイバーとそのマスター。そして、カルデアのマスター……天文科が借金持ちなのは把握していましたが余程切羽詰まっているようだ」
しかし、本来聖杯戦争においてサーヴァントを使役出来るのは理論上一騎のみ。
アインツベルンのホムンクルスのように魔力量が桁違いである、もしくはキャスタークラスが令呪を宿した場合なら可能となる。
観測してきた情報を元にすると、カルデアのマスターはそのどちらも満たしていない。
外部からの魔力供給が考えられるものの補充する様子も見られない。
「それにあのサーヴァント。真名どころかクラスすら誰一人観測不能。これだとフラット・エスカルドスの方が可愛く見えますね」
フラットを個とすればカルデアは群れだ。
マスターを殺すことは世界そのものを相手にする事になる。
全てのマスターと結託しカルデアを倒そうとした時、どちらが残るのか予想出来ないほど戦力差があった。
「不意打ちで仕留め切れる保証は無い。となれば、確実な方を…いえ。今はこの事態をどう収めるのか判断しなければ」
意識を画面に戻し、今後の方針を固めるためにもアルドラに告げる。
「大通りの爆発は、先日のガス爆発の余波で脆くなったパイプの一つが連鎖的に破裂したことにしましょう。ガス会社が哀れですが所詮ダミー会社。末端の社員以外は張りぼてですから。切り捨てられた先は普通の『政治家』の社会保険へ託すことにしましょう」
他人事のように言いながら、次なる課題へ思考を傾ける。
(こちらも彼に対し動く必要がありますね…)
アルドラに指示を出し、観測室を離れ自らの『工房』へ入る。
扉を閉めてしまえばこちらの会話や物音が外へ漏れることはなく、電波や魔力すら遮断する。
「……貴方へ仕事を頼みます」
「何を示す。契約者よ」
喜怒哀楽といった感情が無く、底冷えするような恐ろしさを含んだ声が背後から響く。
ファルデウスが召喚したのはアサシンのクラス。
狂信者の少女では無く、本来の聖杯戦争で呼ばれるべき暗殺教団の一人。
「カルデアのマスターを始末出来ますか。気配遮断を用いても背後を取るのが難しいほどの存在ではありますが最低深手でも構いません」
この指示の前に、スクラディオファミリーの頭領、ガルヴァロッソ・スクラディオ及びその呪いにかけられた者を例外無く短期間でこなした。
今回の目標もスノーフィールドに戻ってきた瞬間なら、不意打ちも可能であると考え指示をした。
「それは出来ぬ相談だ」
しかし、返ってきた返答はまさかの否定だった。
「出来ない?それは周りのサーヴァントが強力だからですか。既に貴方の真名は割れているようなもの。状況に限らず宝具の使用を許可します」
「否。倒す倒さないの話では無い。彼の者は晩鐘の鐘を自らの力で鳴らしたのだ。我々が相対するべき存在では無い」
宝具の使用を許可しても行う気は無かった。
令呪をもって指示をしようとするも、ある疑問が湧いた。
「何故彼を避けているのですか?」
感情は確かに無いもののその言葉から明確なやる気を感じない。
何か意図がある。
そう捉え黙るようなら令呪を一画使う方針に切り替えた。
ファルデウスがその行動を取る前に答えは出された。
「彼の者の背後にいるのは我を与えてくださった方。それを討ち取ろうとした時には契約者の首も無くなるだろう」
「つまり、彼には他にもサーヴァントを仕えていて貴方が攻撃した時点で確実に私も死ぬと」
冷たい風が工房を吹き抜ける。
詳しく話さないものの理由が分かっただけでも十分だった。
「分かりました。彼への攻撃は控えます。それに聖杯など私には必要ありませんから」
次なる手を打つために再び思考へ浸る。
一度でも間違えれば死に繋がる。
それを弁えた上でファルデウスは駒を進める。
全ては己の計画の為に。
薄暗いどこか
映画館のようにモニターの明かりしかないフランチェスカの工房。
この聖杯戦争を企画し、ファルデウスとオーランドを巻き込んだ張本人。
「いい所だったのに消さないでよ〜!」
彼女はシワの寄ったベットに寝転がりながら不服そうに言う。
「そうだね。演者側の都合でエンディングだけ見せない作品のようなお預け感。何とかして見れないの?」
「それが出来たらこんな顔しないって」
リモコンを操作しながら映像を切り替えるも物珍しい映っていなかった。
飽きたのか適当な画面で止め投げ捨てる。
リモコンは壁に当たるのと同時に人の右手に戻り床に転がった。
「でもカルデアのサーヴァントは脱出したじゃん。マスター置いていくのは如何なものとは思うけど」
「おや?意外と評価低めだね。その心は?」
視線を画面から過去の自分の写し身でもある少年の姿をしたキャスターの、フランソワ・プレラーティへ向ける。
「魔術の知識もない人間が聖杯戦争に巻き込まれるのはよくある話でしょ?彼はそのパターンで生き延びただけかなって」
「ふーん…確かに始まりは巻き込まれただけかも。でも
「その結果であの面白そうなサーヴァントを呼べたのならいっか」
一口サイズのクッキーを口放るように投げ頬張る。
「そうだよ。それに彼には期待してるんだから」
「世界を一度救った彼なら私の心を満たせるかもしれないんだし」
スノーフィールド 食肉工場
真なるバーサーカーとの戦闘で半壊した工場で、バズディロットは簡易的な工房を作り上げ作業をしている。
ガルヴァロッソ・スクラディオの訃報を受けても表情は変わらず次なる手を模索していた。
「…肉体的な損傷は回復したようだな。夕べは随分と痛めつけられたようだが」
作業を止め振り返ると霊体化を解いたアルケイデスが立っていた。
「問題はない。ただあの状態からライダー、アマゾネスの女王の追撃が来た時は少々厄介だったが」
夕べ、病院から溢れ出た『黒い煙』がその身を覆い着くそうとした時、アルケイデスの宝具の一つ『ディオメデスの妖馬』の内三体を陽動に使い残り一体に跨り離脱した。
その時を狙っていたのか真なるライダー、ヒュッポリュテの襲撃を受け、余計な負傷を負った。
しかし、現在のアルケイデスにはヒュッポリュテの攻撃も、ヒュドラの短剣の跡も無くなっていた。
ジャック・ザ・リッパーから奪った『悪魔』の力も内に秘め、見た目は戦闘前と変わらない姿。
だが、バズディロットは自分のサーヴァントの裏側にある真実を問いただす。
「あと、何日持つ?」
「正気を保てるのはあと3日か4日程度だろう。かつての師がそうであったようにな」
さらりと答えを出したアルケイデス。
彼が発動した宝具『エリュマントスの猪』は師であるケイローンへヒュドラの毒矢を誤射した際に、その苦痛に耐え兼ね持ち合わせていた不死性をプロメテウスに献上した逸話が元となっている。
つまり、アルケイデスが持つ唯一の代替命でもある。
しかし代償としてギルガメッシュと同じ全身を蝕むような激痛が常に襲っている状態になる。
今は泥によりその苦痛を力に変え相殺している状態である。
「師を殺したことを後悔しているか?」
「…復讐に全てを捧げたこの身で言うのであれば『不死』などという神の悪しき呪いから解放されたことは喜ぶべきであるのだろうな」
遠回しに答えをはぐらかした後、アルケイデスは言葉を続ける。
「今はこの泥が勝っている。だが、この泥は死の象徴だ。体では飽き足りず、精神すら喰らい始めている」
泥によって緩和されているとはいえ、通常の毒と比べ物にならない苦痛が絶え間なく襲っている。
その苦痛を復讐心のみで抑え込み普段と変わらない様子を維持している。
ただ、それが通用する期間がマスターに告げた時間となる。
「充分だ。お前が終わる前に、聖杯が掴めれば構わん」
バズディロットの言葉に、アルケイデスは布の下で少し訝しむ。
「…貴様は、聖杯そのものに興味が無いと思っていたが?」
「俺の主が命の瀬戸際で欲しただけなら、そうだったのかもな」
どんな状況でも無表情を貫いていたバズディロットが目を細める。
彼の声には、憎悪と敵意が溢れ出していた。
「ファミリーの魔術師の一部が余計な真似をしてな…俺の主の人格を何人かに移植した…そいつらも例外無く別々の死に方で消えた」
「ほぅ」
「これは魔術的な副作用では無い。第三者が介入した事に他ならない。このタイミングでそれを為す組織には心当たりがある」
そして、バズディロットの体内にもある『泥』を尋常ではない精神力で抑え込みながら、自らの英霊を言祝ぐように宣言した。
「聖杯を手にした暁には、その力を存分に示すがいい。この国を破壊し、蹂躙し尽くした先で貴様が捨てた名を高らかに名乗るがいい。世界の常識を覆し、神秘を殺し尽くす事で『
「…言われるまでもない」
この日、この瞬間、アメリカにとって悪しき可能性が生まれた。
バズディロットが聖杯を手にすればアメリカという国家は政治だけではなく地図からも消え去る。
その場合、人理定理すらも覆り特異点として汎人類史に刻まれる。
それ程までの復讐心を逆立てた張本人であるファルデウスは知る由もない。
ファルデウスからすれば、バズディロットは神秘を秘匿する魔術師と真逆の評価をしていたからだ。
バズディロットは魔術師に非ず、魔術使いに非ず。
スクラディオ・ファミリーという一つの共同体に深く、複雑に根を下ろす何かであった。
FGO名物「幕間の物語」!!
新たなステージへ進むにあたって一息つかないと息詰まりそうなので。
そしてやっと登場のファルデウス。
アニメで出たからキャラについては何となく分かる人も多いはず。
出すタイミングがホントに無くこのまま音沙汰なく死ぬのではと思い幕間で参戦させました。
お付のアサシンも匂わせておけたのでよし!
雑談タイム
ぐだぐだ良かったよね…
晴信の男らしさと景虎ちゃんの狂気。
その運命を繋いだ川中島。
そして、五稜郭…五稜郭ゥ!?
しかも白い羽織を着る伊東さんが五稜郭を堕とすのに対し、赤い武田が「たかが石ころ一つ」発言。
逆だったかもしれねぇ…
あと出番がほぼないノッブ。
エピローグ後のトンチキイベント、期待していいよな?