夢想煉獄都市スノーフィールド   作:薫製

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夢の終わり、孤独の続き

藤丸はエドモンに抱き抱えられながら崩壊し始めたビルから離れる。

道満が全魔力を注ぎビルそのものを強固にし、瓦礫の数を大幅に減らせていた。

おかげで部屋の中に偶々あったパラシュートを使って降下するフラット達に被害は無かった。

 

「あの陰陽師。これほどの力を持って尚愚策を練り上げるのか」

 

改めて見せつけられた道満の実力。

あの安倍晴明にも認められる呪術は伊達では無かった。

彼の詰めの甘ささえなければ藤丸は下総で討たれていただろう。

 

「マスター。あれを見ろ」

 

視線の先にあったのはビルの上で瞬く閃光。

漆黒の闇の中で輝く一等星のように輝く剣は骸骨へ向かって何度も放たれる。

 

「綺麗…」

 

「星の聖剣の模倣とはいえ見た目は同じだな」

 

エドモンは感想を述べながらあるビルの屋上へふわりと降り立つ。

背後を見るとクリスタル・ヒルは音を立て上層から積み木のように崩れ落ちていた。

 

「フラット君は!?」

 

「近くに降り立ったようだ」

 

「なら助けに行こう。女の子の方はアサシンとオベロンが何とかしてくれる」

 

「了解した」

 

藤丸は改めてエドモンに抱えられ屋上を離れた。

 

 

アサシンは黒い影の波を避けるように繰岡椿の元へ向かっていた。

思考を読まれているのか防ぐように伸びる。

その合間を縫うように高速で駆け抜ける。

かつて耀星と呼ばれたハサンの使った絶技。

魔術回路を全て活性化し俊敏性、機動性を著しく上昇させる。

代償として使用時間に伴って魔術回路が焼けきれ内側から壊れていく。

アサシンの宝具は模倣であるため高速移動のスキルとして使われるが身体が追いつかない点は同じだった。

 

「クッ…!」

 

『そこまで無理するほど心配なのかい?』

 

小さくなったオベロンがアサシンの黒い装束にしがみつきながら問いかける。

念話でアサシンは椿の元へ向かうと告げたがオベロンもいたのは知らなかった。

振り払えばロスとなるためやむを得ず邪魔にならない場所で居座らせている。

 

「当たり前だろう…!あの子は血塗られた世界に居てはならない存在だ!」

 

傷ついているにも関わらず更に速度をあげる。

 

『それは君の意見だろ?彼女の望みの具現化がこの世界だ。サーヴァントによって変異はしているだけで本心は変わらないはずだ』

 

「そうだと言うのなら私は構わない。だが、純粋な心に邪な悪意を注ぎ込むなら容赦はしないだけだ!」

 

(意味合いは異なるがお互いのことをどこかで思っているのか。アイツの思惑通りとは口が裂けても言えないけど)

 

悟った目をしたままオベロンは口を閉ざした。

 

 

ビル群から離れた住宅地までたどり着いたアサシンは迷うことなく繰岡邸へ降り立った。

 

「アサシン!」

 

近くにいたシグマが心配そうに言うが、彼女は自分の怪我を構わずに言った。

 

「少女は無事か!あの吸血鬼はここにいるのか!?」

 

「ああ。だが、急に苦しみ出して…」

 

「あの魔術師達の術が効いたのか……奴はどこに?」

 

好機と言わんばかりにとどめを刺しに行こうとしたアサシンに椿が声をかける。

 

「『あさしん』のおねえちゃん?」

 

アサシンが名前だと認識している椿が、心配そうに声をかける。

その声が今にも泣き出しそうだったからか、装束で傷を隠しながら安堵させる声で優しく答える。

 

「あぁ、私は大丈ーーーー」

 

傷だらけの身体が横へ激しく吹き飛ばされる。

 

「ぐうっ…!こんな所までっ!!」

 

アサシンは装束の隙間から出した影で応戦するも、異形は次々と湧き上がる。

敵の本体、言わば核を狙うだけなら数ある宝具の中から適したものを使って戦況を変えられるだろう。

しかし、それが叶わないのはシグマも理解していた。

この結界世界が、本体と融合していること。

その本体が椿だということも。

 

「おねえちゃん!」

 

慌てて駆け寄ろうとした椿を、両親が引き留めた。

 

「危ないぞ、椿」

 

「そうよ。巻き込まれたら大変でしょ」

 

言葉は全うだが、その表情は周囲の状況とは噛み合っていなかった。

その違和感は子供である椿に違和感という楔を深く刺さる。

今にも泣き出しそうな声を出しながら訴える。

 

「なんで!?まっくろさんのおともだちじゃないの!?どうしてあのオバケは『あさしん』のおねえちゃんを……」

 

「それはね…君を殺そうとしてるからだよ」

 

「!」

 

皆の背後から、少年の声が響いた。

地下へ伸びる階段から現れたのは少年の姿のジェスター。

フラットの術式による苦痛に耐えながらも、無理やり笑顔を貼り付けて椿に言う。

 

「そのお姉ちゃんは、君が生きてたら困るんだってさ」

 

「え…」

 

「やめろ」

 

シグマが静かに静止の声を上げる。

だが、痛みに全身を震わせながらジェスターは更に続ける。

 

「ああ!そこのシグマのお兄ちゃんもそうさ…自分の為に君を殺そうとしている!悪い人なんだよ」

 

「…違う」

 

「わたしを…どうして?」

 

「君は気にしなくていいんだ。君はこの世界の()()だ。好きなことをすればいい、魔法使いになりたいんだろう?大丈夫、君なら出来る。僕は君の味方なーーーー」

 

椿に甘い言葉をかけようとした時、影がジェスターの前に立つ。

正確に言えばアサシンの装束から放たれた攻撃から庇ったのだ。

予想だにしていない攻撃だったのかアサシンは目を丸くしながら装束を見ていた。

ジェスターは影を貫き黒い泥になりかけているダンゴムシ(それ)を見て、ため息をつく。

 

「観客は黙ってて欲しいんだけど」

 

「おやぁ?苦しみ過ぎて幻想でも見てるのかなぁ?」

 

白い煙とコミカルな音と共に現れたオベロンは目を細めた笑みを浮かべていた。

当然心の底から笑っている訳では無いのは誰の目にも見て取れた。

 

「君も異物扱いされたようだね。椿ちゃんに取り付こうとした悪者」

 

「僕は悪者さ。気分で人を騙し嘲笑い弄ぶ妖精だからね。君みたいに終わった奴は妖精國(あそこ)で見たけどここまでじゃなかったよ」

 

「妖精さんも…」

 

今にも涙が溢れそうな目を向ける椿に対しオベロンは悪びれもなく告げる。

 

「ごめんね。でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「!!」

 

「お前ッ…それでもサーヴァントか!!」

 

アサシンがオベロンに対し明確な怒りを向ける。

その表情を見たジェスターは思わず頬を緩めてしまった。

 

(ああ、なんて美しいんだろう…この姿じゃなかったら膝を付いて歓喜に打ちひしがれていたよ)

 

興奮を覚えながらも自身の身の安全を優先し、椿を甘やかすように耳打ちする。

 

「この世界には君を羨ましいと思っている人達が、君を苛めようとしているんだ。だから、まっくろさんはそんな奴らから君を護ってくれるんだ。ずうっとね」

 

これで自分の身は安全だと思っていたジェスターだが、二つの誤算があった。

椿を病に侵された年相応の無邪気な少女であると思い込んでいたのだ。

実際、椿は無邪気だと言えるだろう。

この世界が椿の心象であることから推察は容易い。

しかし、その本質はーーー数多の痛みを乗り越え作られた偽りの無邪気だということを知らない。

そして、オベロンをただのサーヴァントで死徒である自分なら倒せると思い込んでいたのだ。

実際、ステータスを見れば非力なのは理解出来る。

しかし、その本質はーーー『大嘘つき』であり椿に対し『心からの本音』を本人すら自覚せず吐露していたのを知らない。

この2つが重なったことにより少女の持つ恐れ、恐怖、幸福が混ざり気付かされてしまう。

 

「そっか………」

 

生まれてきてからずっと続いていた『経験』から、この世界に根付く事実が『ねじ曲げられ』たことから、彼女は一つの答えに行き着く。

 

「わたし、また()()()()()()()()()()()()()

 

悲しそうに俯いた後、椿はゆっくりと顔を上げる。

そして泣きそうになるのを必死に耐えながら、周りにいる全てへ向かっていった。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……おとうさん、おかあさん」

 

()()()()()()()()、椿。お前は安心していればいい。何もしなくていいんだ」

 

謝ることは無い。

それは『失敗していない、何も悪くない』ではなく『失敗したけれども、怒らない』という意味である。

つまり、本当に自分のせいでこの世界に巻き込まれた人達が困っており、あの骸骨の群れは自分のせいで暴れていることを理解した。

今なお破壊されている音を聞きながら、椿は泣きそうな声で続ける。

 

「で、でも…ビルにひとがいたら、まちのみんなが…」

 

「街の人達のとは気にしなくていい。たとえ死んだとしても電池と同じ、ただの消耗品なんだからね」

 

「だからこの世界に椿を怒る人達は、みんなみんな、骸骨さん達が殺してくれるのよ」

 

「ああ、それに椿の世界なら、どれだけ死んでも神秘の秘匿は守られる」

 

「本当に良かったわ。あとは、表の世界への影響をどう誤魔化すかを考えてあげないとね」

 

(吐き気しか出てこない会話だな……)

 

異形達を払いながら聞いていたオベロンの表情が歪む。

椿を宥めるために嘘を付いてるなら妖精眼に反応があるのだが、一連の流れでは一切感じ取れなかった。

ならば彼らは、普段から素の調子で、自らの娘に今のような物言いをしていることになる。

両親の言葉を聞いた椿は、何かに縋るようにシグマ、アサシン、オベロンと順に見る。

だが、どう答えるのが正解か分からず、三人とも沈黙を返すしか無かった。

そしてーーー椿は自分の考えが間違っていないと悟った。

いや、悟ってしまった。

 

「だいじょうぶ、です」

 

椿はカタカタと震えながら、『周りの大人達』に笑顔を浮かべーーーー

 

「がんばります、から」

 

そのまま吸い込まれるように『まっくろさん』の煙のような姿にしがみついた。

 

「え?」

 

ジェスターでさえ椿の予想だにしない行動に、困惑する。

だが、最初に気づいたオベロンは目を見ひらき、続いて気づいたアサシンとシグマは止めようと声を上げた。

 

「よせ!」

 

「待て、君は何も……」

 

だが、その言葉は届かず、駆け寄ろうとした二人を『まっくろさん』から湧き出た異形に行く手を阻まれる。

結果として、椿は己の我がままを行使することが出来た。

 

「おねがい、まっくろさん」

 

少女の右手に刻まれた令呪が薄く輝く。

 

「ぜんぶ、ぜんぶもとにもどしてください」

 

「なっ…!」

 

ジェスター少年の驚愕の表情をよそに、椿は更に令呪を輝かせる。

 

「わたしを、ずっとひとりぼっちにしてください」

 

一瞬だけ『まっくろさん』が驚いた仕草をしたように見えた。

 

「はやまるな!」「やめろ!」

 

アサシンとジェスターは同時に叫ぶ。

シグマとオベロンはただ、その光景を見ているしか無かった。

やがて、ライダーが悲鳴をあげるようにその身を震わせた次の瞬間、世界が再び裏返った。




オベロンが参戦した理由がこの下りをやりたかったからなんですよね。
大嘘つきを放つなら椿しかいなかったなと。
ちゃんとクロスオーバーらしい展開が出来たと自己満に浸ってます。
オベロンの口調難しいのを除いて。

雑談タイム
Fake9巻の感想の前に一言。
前回のコメントで発売されているのを知った大馬鹿者でした。
一条の柱さん、情報ほんっっとうにありがとうございます!!
本編もネタバレ地雷しかないので一言。
10巻で本当に終わる?

まほよコラボ終わりましたね…
青子をお迎え出来たので満足ッス。
未履修の領域でしたけど最後の最後にらっきょコラボになったのはビビりました。
社長ナイスゥ!
そして始まるイベント復刻祭。
リリムハーロットきたぁぁぁぁ!!!
ガチャ引きたいからという低脳な理由だったけど悔いは無い!
待ってろ、ドラコー!
自分の小説を触媒に引き当ててやるッ!!
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