始まりはカランコロンと何かが転がる音だった。
本来なら微かに届く程度の音だが、今はハッキリと聞こえる。
狙撃によって排出された薬莢が屋上から地面へ落下した、それだけの事。
そこでやっと終わったのだと『僕』は理解した。
ここまで至るまで永い長い時を待っていた。
『在る』という事実そのものを目的として産まれた『僕』がやっと表舞台へ上がれる。
だからこそ理解している。
この果てに成すべき事を。
エスカルドス家によって与えられた、最大にして最後の目的を。
生まれてきた意味を。
己の生まれた理に従い、『僕』を再起動する。
『僕』は改めて課せられた使命を演算する。
困難な道か容易な道かどうかなど些細なことだ。
どちらにせよ成し遂げるべきなのは変わりないし意味もない。
在り続ける。在り続ける。
真実のヒトとして、ただ、星の中に在り続けるだけでいい。
ああ、約束するよ、フラット。
君の分まで『僕』はこの世界に在り続けるよ。
たとえ、この閉じられた世界を生贄にーーーー
ちっぽけな星を白紙にする事になってもね。
交差点
「あ、ああ………いや………イヤだ………」
目の前で起こった惨劇の結果、頭を吹き飛ばされた青年の死骸から目を逸らしながら頭を抱え、膝を着く。
「ーーーーーーーっ!!」
現実を否定するかのような絶叫をあげるアヤカ。
(まただ…また私は、
焦燥と恐怖、そして諦念の入り交じった感情の中で防衛機能のように達観した感情が現れ出す。
(あの人が撃たれたのはなんで?)
(あの人は私を知ってて、私はあの人のことを知らない)
(私がマスターだから?)
(だから殺されたとしたら…)
「……!!」
状況を即座に理解したアヤカは己の身体に凶弾が届く前に逃げようと顔を上げ立ち上がろうとした。
だが、思考と真逆に神経は目の前で起こった出来事を処理しきれておらず、足に力を込めようと脳から命令を下しても背骨の震えに掻き乱されてた。
そんな彼女はーーー気づいた時には身体が宙に浮いていた。
「え……?」
セイバーが助けてくれたと思ったが、抱えられているものから明確な『悪』を感じていた。
エドモンは近場の建物に窓ガラスを割りながら勢いよく運び込むと、死角になるようなところで2人をゆっくりと床に降ろした。
腰がまだ震えているアヤカはペタリとその場に座り込んでしまった。
「ここなら狙われることは無いだろう」
「ありがとう。助かったよ」
「………」
「いきなり連れてきちゃってごめん。あのままだと君も危険だと思って」
優しく右手を差し伸べる藤丸を見てハッとした。
「その手……まさか、マスター!?」
震えが一瞬で止み、慌てるように立ち上がり後方へ下がる。
「大丈夫、何もしないよ。もし君に何かしようとするならとっくにしてるし。まぁ俺にそんな力は無いけどね」
相手が魔術師であるなら魔術を使わなくとも魔力の流れは出来ているのは感じられる。
藤丸からは魔力の流れどころか魔力すらも感じ取れない。
「魔術師じゃない…?貴方は一体…」
問いかけようとした時、アヤカがよく知る気配が同じフロアから突如した。
「アヤカ!無事か!!」
「セイバー!!」
甲冑に身を包んだセイバーがアヤカに駆け寄る。
藤丸とエドモンは少し距離を離し2人の空間を作る。
「飛ばされたのが意外と遠くてな。護衛をつけていたが先手を打たれてしまった」
「大丈夫。私は何ともないから」
セイバーは藤丸へ身体を向けると、頭を深々と下げる。
「我がマスターを助けていただき感謝する。王であるなら褒美の品を授けるのが道理だが、このとおり手ぶらでな。貸しにしてくれると助かる」
「貸しだなんてそんな気にしないで。俺は俺のすべきことをしただけだよ」
「その心意気有難く受け止める。ああ、確認だがアンタらはこの場で殺り合う気は無いと受け止めていいな?」
セイバーからの問いに藤丸はハッキリと頷いた。
「よし、まずは移動しよう。ここにいたら危険だ」
「それはどういう意味だ」
「文字通りの意味さ。実際、
「え……狙撃?始末?」
セイバーの言葉に対し疑問しか浮かばないアヤカ。
「あの交差点を囲むように射手が居たらしい。狙いはマスターのみ。何もしてなきゃあっという間に殺されていたな」
「狙撃されたことはあの死体を見れば容易に分かる。だが、始末したことに関しては理解出来ぬな」
ジャックが全魔力を費やして復讐に向かい討ち倒したとしても、狙撃手の元へ正確にそれも短時間で攻撃するなど不可能な程衰弱していた。
同じように手を組んでいたと思われる警官隊も、即座に報復する手立ては無い。
「俺たち以外の第三者が殺ったってこと?」
藤丸の問いかけに対し、セイバーは難しい顔をして、割れた窓ガラスの先を見る。
「?どうしたの?」
「いや……俺も不思議なんだが…。ロクスレイ、俺の宝具の1人からの話だと、撃たれた青年が起き上がったと」
「……え?じゃあ始末したのはあの子?」
宝具の1人という単語が消えるほどの内容に一同は驚きを隠せていなかった。
「それって蘇生して全員殺したってこと?」
「確証は無いが彼が英霊ではないと仮定した上での推測はたつ」
セイバーはそう言うと、手の指を一つづつ折りながら説明をする。
「ひとつ、あれが幻術か人形だった。これが真だとしたら直ぐに起き上がらせる意味が無い。ふたつ、今言った蘇生に近しいことをした。神代の魔術があるなら可能だが生き返ったとしてもそれは形だけ同じの別の何かだ。正直有り得そうだが……今は保留だ。みっつ、高位の吸血鬼や精霊種、星の内海からきた幻想種や星の彼方からやってきた降臨者みたいなイレギュラーだが違うのはアンタがよく分かってるだろ?」
藤丸へ目線を向けるセイバー。
何か感づくものがあるのか経験論なのかは分からない。
「うん。今言ったのがそうならこの一帯は更地になってるよ」
「そ、そんなにヤバい存在なの?」
藤丸が大きく頷くと、セイバーも思うところがあるのか複雑な表情を浮かべていた。
「俺から確実に言えるのはソレは敵か味方か分からないってことだ。アンタらは好きにすればいいがアヤカはどうする?連戦しろと言われれば行ってくるが精神が疲弊してる以上撤退を勧めるが」
「俺もその考えだったよ。今こうして何も無いのは生かされてるんだと思う」
「生かされている?なんで?」
アヤカの素朴な疑問を歴戦のマスターはこう答える。
「何時でも殺せるから」
とあるビルの屋上
カルデア組は藤丸のパスを元に向かっていた。
「現れる位置が遠いですね」
「全く、人騒がせなマスターだ」
「ほんとそうよね。ホテルにいると思ったらこれだもの」
ホテルで気配を感じたものの、霧のように消え去ってしまいこの探索方法に収まった。
カルデアとの通信も不安定になり使い物にはならない。
それぞれの足で摩天楼を飛ぶ姿は一種のアートにも思える。
「これはマスターのせいでは無いと思います!」
「ははもそう思う。見つけられたらギュッと抱きしめる」
「いいですね!私もしてみます!」
「貴様がやるとマスターの肋が粉微塵になる」
「なんですって!?私だって加減くらいーーーーー!!」
元気に反論しようとしたククルカンの言葉が止まる。
あまりにも不自然な止まり方だった為屋上へ一度着地する。
「ククルカンさん、どうしました?」
「まさか舌でも噛んだ等とほざくでは無いぞ」
ドラコーの嫌味が聞こえていないのか、ククルカンはある一点を見ていた。
その先にあったのはかつてアルケイデスと戦闘した大通りに建つ病院。
大きな被害もなく窓からは電気の光が漏れていた。
「……なんであなた達が……そう、なのですね。分かりました。ありがとうございます」
独り言を呟き目を深く閉じる。
そこにはいつものおちゃらけたククルカンではなく、1つの世界の王としての姿だった。
「という事で用事が出来たので一旦離れます!」
「待て待て待て。何を言っている?」
「今、何を聞いたのよ?」
「いやぁ…野暮用というやつでして…」
ドラコーとアルクの発言に対しククルカンはハッキリと答えない。
重要な情報なら開示すべきであり、状況によっては藤丸の危機にも繋がるかもしれない。
「ククルカンさん。構いませんよ」
そんな中マシュはただ1人背中を押した。
「マシュさん…」
「今からする事が何なのか分かりません。でも、先輩なら遅かれ早かれ行かせると思います。それに私も行くべきだと感じていますので」
目を丸くしたククルカンだったが、口元を軽く緩ませる。
「分かりました!困り事を感じたら彗星の如く戻りますので!」
そう言いククルカンは夜空へ飛びだって行った。
「いいのですか?」
「はい。これで良かったんだと思います」
「毎度振り回されて余は変に疲れる。アーキタイプとやらはあんななのか?」
「遠くから見ていた物に実際に触れられる機会があるんだもの。はしゃぐのは誰だってそうでしょ」
「でも暴れすぎは良くない」
「それは分かってますよ。あと、
一同の表情に緊張が戻る。
何故ならこれから向かう先から嫌な気配があるからだ。
デミサーヴァントであるマシュですら感じ取れる程の異物。
(先輩、どうか無事でいてください!)
再び屋上から飛び降り1秒でも早く着くよう魔力を回す。
何か恐ろしいことが起こる前に。
スノーフィールド北部 大渓谷
「大丈夫か?マスター」
ライダーの霊器を得て現界したヒッポリュテが相手を気遣うような口調で問う。
マスターと呼ばれた彼女は体力の消耗を抑えるため、ヒッポリュテの馬に乗っている。
「ええ。こちらもうかうかしていられないわね」
背後には渓谷の隙間に作られた異空間とも言えるような魔術工房。
外から見ても分からないのはもちろん、魔術を通して見るとしても高レベルなものが必要になる。
「まさか
「このような魔術工房を設置出来ただけでも良かったと思うべきだ」
「そうね。手ぶらで来て即敗退なんてざま見せれないわ」
女性は混沌渦巻くスノーフィールドを見ながらそう呟く。
「そろそろ行くのか?」
後ろから1人の男性が傾斜を登りながら話しかけてきた。
女性の服装が気品あるのに対し、男性の服は市販でよく見る在り来りなものだった。
「行くのか、じゃなくてまた魔力使ってたでしょ!!」
「いざとなって練れなかったら護衛の意味がないだろ?」
「ほんっとどこまでも真面目なんだから!」
「真面目でいいだろ別に!!」
夜空の下2人が言い争う姿に口出しはしなかった。
決して仲が悪いという話で収まるはずが無いのは理解していたからだ。
同時に己の人生、霊器全てを持って確信していた。
自分は、この聖杯戦争において最良のマスターに選ばれたと。
何をやっているのか『僕』ですらよく分かっていない。
目の前で
どこまで潰れれば意識が切れるのかってのは少し気になってた。
………うん、これは違うな。
復讐だと言われればそうだと言えるけど、全てが全てじゃない。
何か行動を起こした時に理由を問われてもそれらしい解答しか出来ないのと同じ。
この世界だってそうだ。
何で真っ白な世界にこんな街がぽつんと産まれたのか。
何で2018年で止まった時が何で動き出したのか。
なんで『俺』は呼ばれたのか。
戻ればこんな街で死ななくて良かったのか………
いけない、自分で自分を惑わすところだった。
今更戻ったところでこの結末は必然的に訪れる。
時間を戻すなんて芸当は『魂の物質化』よりも遠い先の話だ。
仮にその魔法使いが現れたとしても席はとっくに無くなっている。
僕がこうして表に出た以上成すべきことは決まっている。
人間の悪意が『僕』から『俺』ーーーフラット・エスカルドスを奪ったというのなら。
これは、僕が生きる行動を脅かす脅威だ。
だから僕は反撃をする。
生き続けるために。
生き延びるために。
ただ1人理解してくれた…理解ある友のために。
建物の合間を縫うように動くセイバーとエドモン。
フラットの死体がどう動くか分からないため、斜線を切りながら移動していた。
しかしーーーー。
「狙っているな」
「ああ。狙いは俺たちだってことだ!」
「それってかなりマズいんじゃ!?」
移動する前のセイバーの話が本当ならこの一帯を消し飛ばすつもりで仕留めに来ていることになる。
「皆がこっちに向かってるけどっ…!」
「巻き込まれたら元のこともないな」
簡易召喚という手も有り得たが、全体攻撃だとしたら防げる範囲も限られる。
「まぁ手はないってことは無いが」
セイバーがほんの少しニヤける。
アヤカは期待する目でセイバーを見つめる。
「同盟って意味を理解してたらだろうけどな」
スノーフィールド クリスタル・ヒル屋上
『それ』は人の動きのように静かに降り立った。
フォルムは人間のような形をしているが腰の大半や膝、肘が欠損していた。
欠損箇所を中心に崩壊が始まっていたがそれに抵抗するかのように無理やり人の体を保とうと虚無の影が抑え込む。
そして顔立ちはフラットよりも幼く無邪気な瞳はそこに無く、儚み、憐れみ、怨嗟がこもった寂しい感情が込められていた。
その視線はセイバーとエドモンが抱えている『異物達』に向けられた。
同時に、その瞼の奥にある眼球を通して、繋がった特殊な魔術回路を通して全てを捉えた。
『アヤカ・サジョウ』の本質、内で渦巻く凄まじい魔力の塊を。
そこにいるだけで周囲へ影響を与えるほどの強大なエネルギーを内包している。
それが人間社会にとっては『害』になることは目に見えていた。
横で並走する藤丸へ回路を開く。
「……魔力が無い?」
フラットも見えていたはずの光景に違和感を持つ。
着ている礼装と令呪から魔力を感じ取れたが本人からは一切放たれていない。
「外部からの供給か、本来のマスターがいるのか……けど邪魔なのは変わらないな」
考察を切り右手を前に突き出し魔力を込め始める。
地面と右手に影のような魔法陣が展開され、加速器のように回り始める。
魔力の消費量は既に並の魔術師であるなら気絶するほどだったが、上空に更に二つ魔法陣を形成し線で繋ぐ。
大規模な魔法陣を複数形成する方法は分からなくとも、何のために使うのかはすぐに解ることとなった。
街の大気に満ちる魔力と聖杯から常に注がれている土地の龍脈をホテルを伝わって少年の周りに集約していた。
その全てを手のひらの先へ集束し1つの弾を作る。
魔術によって作られた弾はレールガンのように加速をし、音速を越える速さまで引き伸ばされる。
少年は鋭く目を細めセイバーとエドモンに狙いを定め解放するーーーーー。
「やぁ」
刹那、全ての緊張を霧散させるような、穏やかな声が響き渡る。
少年は動きを止めたあと、凝縮した魔力を体内へ循環させるように上手く流し込みながら、ゆっくりと振り返る。
いつの間にか背後に立っていた存在が、変わらず穏やかな声で告げる。
「はじめまして、かな」
森が、海が、街がーーー世界そのものがそこにあった。
特異な『眼』を持つからこそ深く理解してしまった。
気配を感じなかったのはスキルの恩恵ではなく世界と同化しているからだ。
そんな高次の存在に対し青年は疑いの眼を向けたまま口を開く。
「……英霊か?人理の守護者が僕を消しに来たのか?」
「僕はただ、マスターと共に大地を歩むサーヴァントだよ。それに、今の君は産まれたばかりだ。
「……なら、何をしに来た」
フラットを通して見てきた敵の中で最大限の警戒をすべきと理解しており、その一挙手一投足を見逃さない。
すると、その英霊ーーー緑色の髪を風になびかせる中性的な面持ちの『それ』は、穏やかに微笑みながら答える。
「君が今、殺そうとした子がいるだろう?」
敵意の無い笑みのまま、エルキドゥは草木を撫でる風のように魔力を周囲に湧き上がらせる。
「あの子達とは同盟を結んでいるんだ。もう1人の子は始めて見るけど彼女のマスターなら護るべきだと判断したんだ」
「……あの子か。あれを人扱いするのか」
「ああ。彼女は人だよ。君が人であるようにね」
なんの躊躇いもなく放たれた言葉に、少年は不快そうに顔を歪め奥歯を強く噛む。
「ちょうど良かった……僕も確かめたかったんだ」
少年がそう呟いた瞬間、己の周りを循環させていた魔力を巧みに操り、エルキドゥを取り囲むように展開する。
「……『俺』無しの自分が何処まで世界を食い破れるかってさ」
やって来ました謎の少年T!
お前そのなりでフォーリナーじゃないんかい!ってツッコミ入れたくなりましたが、外宇宙とも繋がってないし宙から来たわけでも無いと思い納得はしてました。
そしてアヤカと初接触の藤丸。
作中一のやべぇ奴とコラボしたら基本ヤバい判定同士が会ったら案外普通に話しちゃうのかなって。
あと今話の中に何か聞き覚えのあるような単語を少し入れてみました。
もしかしたら繋がるかもしれないし、引用だけかもしれないですけど。
最後に悲しいお知らせです。
エルメロイ教室メンバーはほぼ不参加にしました。
カルデア組を多くしたのにエルメロイ組まで混ぜたら収集つかないって!
それにあっちの小説未履修(アニメは視聴済み)だからキャラの雰囲気分かんない!
とはいえゼロにするのは寂しいので、あの2人を混ぜてみました。
拙い文章だから誰?ってなりますがお楽しみに。