コールズマン特殊矯正センター
「中央区は物理的破壊、その他の魔術加工したカメラは使用不能ですか…至急オーランド署長に連絡し通常の監視カメラの映像を回すよう伝えてください」
ファルデウスは暗くなったモニターの前で部下に指示を出していた。
フラットの暗殺に向かわせた隊どころか、近くで他マスターの尾行にあたっていた部下も繋がらない。
そしてその中にーーーー。
「……シグマからの応答は無しですか。ここまで待ってないとするなら戦闘不能となったと考えるのが妥当…いや、奴はフランチェスカの手駒。意図的に切った可能性も捨てきれない」
繰岡椿の世界に飲まれたのを最後にカメラはもちろん通信も途絶えていた。
幾つもの憶測が出てくるため、最終的な判断はフランチェスカの連絡が来るまで保留とした。
「『将軍』からの直接の連絡も無し。…私の手で最後までコントロールしたい所でしたが。全く、このザマでは
そんな愚痴にも似た言葉を溢すと、別室にいたアルドラが戻ってきてファルデウスに書類を手渡した。
「解析班から情報が届きました」
「ご苦労さまです。これを待っていました」
肩を竦めながら、書類に目を通す。
それはただの報告書ではなく完全な『チートツール』。
予め街全体に張っていた術式により、英霊とマスターの魔力敵繋がりを感知し大まかな場所を特定するシステムの解析結果である。
戦闘スタイルによって有益差は変わるが街に潜む戦法を取るものからすれば大打撃となる。
当然、アサシンのマスターであるファルデウスが使えばこちらへ報復される前にマスター全員の暗殺が可能で、十分に勝ちを狙える情報だった。
だが、そのデータを見たファルデウスが目を細める。
「なるほど、これまでの報告でそうかもしれないとは思っていましたが」
予想していたとばかりの反応に、事前にデータを確認していたアルドラが淡々とした表情のまま疑問を投げかける。
「
どのような英霊であれ、一般的な魔術師に比べれば内包する魔力量は頭1つ違うのでデータが取れれば直ぐにわかる。
だが、英霊から発せられる高密度の魔力が至る所で観測され把握しているマスターの数の倍はいると示されていた。
「これまでの聖杯戦争と異なるアプローチをした結果、想定以上の『はぐれの』サーヴァントが発生した。としか言えませんね」
次の報告書を見た途端、ファルデウスは口元を歪める。
そこにはどのクラスの英霊が居るのかを示す内容だった筈だった。
藤丸とサーヴァントの写真が添付されていたが、どれも『不明』の文字のみ。
天草とエドモンを除いて。
「『ルーラー』と『アヴェンジャー』ですか。エクストラクラスが一個人に肩入れしていたとは。ますます厄介な相手だ」
「本来ルーラーは中立の立場。この聖杯戦争はルーラーを招く条件は揃っていても最初から彼に味方するのはおかしいのでは?」
ルーラーは聖杯戦争が特殊な形式で結果が未知数の場合、もしくは世界の歪みが発生する場合に召喚される。
そうしたのはフランチェスカのわがままではあるが、藤丸に仕えるのは目論見とは外れる。
「では大聖杯を呼び水とせず枠外の存在、エクストラクラスのサーヴァントを呼び出したとしたら?」
「……まさか、彼は聖杯を埋め込んだホムンクルス?」
疑問に疑問をぶつけられたファルデウスはやや苦笑いを浮かべる。
「いえ、その手の名門が予備を出していてもあそこまで人間味は無いですよ。今は
(エクストラクラスのみを使役する。基本的に被りは発生しない上、観測されていなければクラスがバレないのはメリットでしかない。しかし、クラスの幅がこうまで広いとは)
聖杯の持つ可能性にやや驚きながらもある程度の予測が立てられた。
だが予測が出来たところで解決とは至らない。
実際フラットの暗殺は成功したものの、事態は更に悪化した。
それに藤丸を倒す切り札と思われたアサシンも否定的であるため手の打ちようが無い。
「どうやら
深く腰を下ろし一呼吸置く。
今のファルデウスには何も出来ず、宙で行われている出来事も感知する程度しか把握していない。
こうして非力なマスターは己の計画の破綻を実感しながら報告を待っていた。
同時刻 スノーフィールド郊外 廃屋内
スノーフィールド郊外に建てられた古いホテル。
魔術師達が目をつける前から存在していたが、聖杯戦争開始に伴い、ファルデウスの部下達が仮拠点として使っていた。
人払いの結界が常時張られており、街の若者達が肝試しで入らないように出入り口を封鎖している。
だがこの拠点を使っていた部下は既にこの世に居ない。
このまま人目につかず朽ちていく定めかと思われた。
しかし、現在はその封印が破かれ日光の届かない部屋に二つの人影が立っていた。
「ちょいと間が悪いなぁ。愛人からストーカーされるのは悪くないが心の準備ってのがある。直ぐに終わらせるから我慢してくれねぇか?」
そう口にしたのは、全身に夕日のような赤げをなびかせる巨軀の人狼だった。
「長く待たせるつもりは無いさ。脳が命令を出して身体が反応するまでのほんのわずかな時間。要は瞬きさえしてくれればお互い幸せになるってもんだ」
彼はジェスターの持つ素顔の一つであり、主にスピードと肉弾戦に特化した姿だ。
だがフラットによる魔術の後遺症が取り切れておらず、全力が思うように振るえない。
そのため目の前のサーヴァント、アサシンと正面から戦えば敗北は確実だった。
「……」
一方のアサシンはジェスターの言葉を聞いてすらいない。
死徒として倒すのではなく穢れを払うただ一心。
そして研ぎ澄まされた彼女の心が、弱りきった相手の霊格を確実に潰すべく己の宝具を展開した。
「ーーー
魔力を纏った赤い手がアサシンの背から現れ真っ直ぐ伸びていく。
同じ宝具で存在核を一つ失っているジェスターは再度選択を迫られていた。
再び存在核を捨てる覚悟もあれば、令呪を切り止める手もあった。
だが、藤丸との仮契約を済ましているアサシンに自分の令呪が通用するのかという疑問が判断をにぶらせる。
一瞬の迷いを捨て、ジェスターは断腸の思いで選択した。
アサシンの前で、赤毛の人狼は己の胸に爪を突き立て、なんの躊躇もなく心臓をえぐり出す。
「!?」
その結果、選択を迫られたのはアサシンになった。
手に握られた心臓を呪殺するか、廃棄されると切り捨て新たに出る心臓に狙いを定めるか。
ジェスターのカラクリを把握していたが、思考するよりも本能が先に決断を下す。
心臓を右手の手刀で切り、次に現れる心臓に宝具を叩き込むという殲滅の道。
だが、ジェスターはアサシンが力技を選ぶと読んでいた。
故に消えゆく定めである人狼は笑う。
胸に刻まれた弾倉型の心臓が回転し、憎しみと愛情の入り交じった不気味な笑みのまま次なる姿へ変化する。
それは人間の形をした鉄塊。
あるいはゴーレムの一種なのか。
共通しているのは胸の弾倉と笑みだけだった。
次の瞬間、アサシンは見る。
抉られた人狼の心臓に刻まれた魔術紋が紫色に光出したのを。
(これは、贄ーーー!!)
気づいた時には遅かった。
心臓がえぐり出された時点で術式は発動していた故、アサシンの不注意というよりジェスターの覚悟が勝った形である。
1秒後、廃ホテルの一部が派手な爆発と共に光に包まれる。
数分後。
「クク……弾倉を2つ切り捨てるのは心苦しいが……ひとまずの別れだ。麗し愛しいアサシン」
スノーフィールドの市街地に、ジェスターは警察署に訪れた姿で立っていた。
人狼の心臓に刻まれた自爆術式を近距離で起動させ、ゴーレムの姿を盾に耐え、あの場から逃げた。
アサシンから逃げ切れるかが不安要素ではあったが、攻撃系宝具を展開していたからか、切り替えの隙があったようだ。
(それにしても想像よりも簡単に逃げきれたな…火力は高かったとはいえ加減はしたはずだが深手を負ったか?ーーーああ、だとしたら問題だ。俺以外の誰かに殺されてしまうかもしれない)
アサシンの身を案じるジェスターだが、自分自身の姿も万全とは言えない状態である。
ハンザに刻まれた聖別済み榴弾砲の傷跡が癒えておらず、顔の一部には火傷のような傷跡が出来ていた。
「さて、これからどうすべきか……小僧の術式で弾倉は使い物にならん…」
足を引きずりながら闇の中へ消えようと一歩を踏み出す。
身体を支えるために手をつけたレンガの一部が石垣に変化している。
ジェスターはその違和感に気づかない。
一歩、壁に不気味なツタが蠢くが、ジェスターはまだ気づかない。
更に一歩、アニメ風にデフォルメされたかぼちゃ色の蜘蛛が頭上でハート型の巣を作るも気づかない。
更に一歩。
足元のアスファルトが砂利に変わっている。
そこでジェスターは違和感に気づき、顔を上げる。
「………は?」
思わず惚けた声をあげてしまった。
まだ先のあった路地裏の面影はなく、道の先には丘に聳える西洋の城があった。
それには、見覚えがあった。
直接出向いたことは無かったが、自らの祖にならって人類の歴史や文化を嗜んだ身として知識を持ち得ていた。
かつて、吸血城主と渾名された女性が虐殺を行った城ーーーーチェイテ城。
しかも遺構ではなく建てられた当時の姿でジェスターを見下ろしていた。
ただ一つ違うのは
「なんだ、これは…いや、まさか」
ジェスターは自分の置かれた状況を即座に理解する。
繰岡椿の夢の世界で発生した異常現象、『菓子の雨』。
あの現象を起こせる術者ならば、このレベルの幻術も容易く行えるだろう。
つまり、自分は今、他者が作りだした幻術世界に囚われている。
(万全ならば、この程度の幻術など即座に否定出来るものを…!!)
歯噛みするジェスターを嘲笑うように、城とピラミッドを色鮮やかなスポットライトが点灯しながら照らす。
「さぁて、理不尽タイムの開始だよ!強制参加はご愛嬌!イラッとしても発散しちゃダメだよ?」
「テステス、マイクテス〜!スノーフィールド限定のハロウィンラジオ、スロヴァキアからエジプト、果てには日本まで届けちゃうよ!君は魔女、勇者、ロボット。どれになりたいかな?今ならその夢叶えちゃうよ!……ねぇ、ラジオってほんとにあってる?しかも日本にこれ届けてメリットある?」
ジェスターの右耳に飛び込んできた少女の声に響き、左耳から聞こえる少年の声が響く。
突然の出来事に対しジェスターは、吸血鬼にも関わらず目眩を催していた。
そんな彼に左右の声はより一層楽しそうに語りかけてくる。
「やっと捕まえられたよ!楽しいパレードへようこそ!乗り放題、食べ放題のフリーパスは持たせたよね?ゆっくりする分には構わないけどお帰りは出来ません!やったね、ジェスター君!」
(ーーーーっ!?)
自分が名指しで呼ばた事に危機感を覚えるジェスターに、少年の声が大袈裟な調子で言う。
「高位の吸血種を幻術に落とすのって結構大変なんだよねー。薔薇の魔眼があるなら行けるけど手持ちには無くてね。最悪宝具使わないとダメかなーって思ったけど今の君なら余裕だったよ!ありがとう、君を弱らせてくれたどこかの誰か!感謝の印に僕たちのどっちかが恋人になってあげてもいいくらいだね!」
「それ罰ゲームじゃない?」
「ジワジワと弄ばれながら破滅したがる人かもしれないし…あ、でも僕はこう見えて一途だからさ。破滅したいと思うなら最後まで付き合っちゃうよ。ぶっちゃけ死因がそれだしね!ジルの場合は恋人というより親友だけど」
自分の左右の耳が聞きたくもない戯言の言い合いで満たされている状況に悲鳴を上げたくなったが、ジェスターが歯を食いしばりながら小声で呻く。
「貴様ら、何が目的だ………?何故このような城の幻覚を俺に見せる?」
すると首を傾げる様子が見えてくるような声で少女が話す。
「え?あれれ、気に入らなかった?おっかしいなぁ〜…君って昔ヴァン=フェムの所にいた
ドロテア。
その名を呼ばれより強く歯軋りをするジェスターを無視し、少年の声が少女に話しかける。
「ほら、やっぱりインパクトが足りないんだよ。ピラミッドを反対にするなんて冒涜的だけど更にやらないと。そうだね……アレクサンドリア図書館とか、キャメロット城を乗せるとか…」
「……?何言ってるの?
「……???ごめん、自分でも何言ってるか分からないんだよ?でも、そんな気がして堪らないんだよ」
「もしかして英霊になったなら頭がどうにかなっちゃうのか?それはそれで楽しそうでいいけど!」
「巫山戯るなら相手を選べ、星に住み着く羽虫の残骸共が!貴様、貴様らなど星に捨てられたーーーー」
「アサシンの女の子」
「!!」
少女の発した言葉に、ジェスターの怒りがスゥと静まる。
愛しのアサシンに関わる情報なら心を乱して聞くことは出来ない。
「わあ、急に落ち着くのほんっと気持ち悪いけど、だからこそ応援したくなっちゃうね!安心して、吸血鬼の化け物君。私たちは君の恋路を応援したいだけなんだ」
「そうそう。キューピットにはなれないけど少なくとも味方だからね!」
(馬鹿なことを、何を根拠にーーーー)
そう思いかけたジェスターだが、ふとあることに気付く。
自分はいつどから幻術にかかり不可思議な世界に囚われたのか。
「あ、気づいた?気づいちゃった?」
「あのね、君をこの世界に取り込んだのは爆発した瞬間。つまり、
「……ッ!」
(見くびっていた…!この幻術、まさか神代に近き程起源が古いというのか…!?)
数段階警戒をあげるジェスター。
声の主は温情では無く脅しのためにこの世界に捕らえたのだ。
最悪の場合、先程の捨て身が白紙にされ今度こそアサシンに仕留められてしまう。
「まぁまぁ、そう警戒しないで。君の報われない恋を応援したいのは事実だし。その代わり一つやって欲しいことがあるんだよ!」
そんな彼に対し、少女の声はゆるい調子で言葉を紡ぐ。
「ここから、西の森にね。厄介な工房…いや、世界の理を捻じ曲げながら神殿と霊地を作ろうとしてる怖いこわーい神様がいるの!」
楽しそうに踊っていたぬいぐるみ達が突如、内側から一斉に弾け飛ぶ。
中から出るのは綿でも飴でもなく血と肉塊。
それらが意志を持ったかのように動き、1つのピンク色の人型を作り上げる。
次の瞬間、青白い光に塗り替えられ、人型は1人の少女に変化した。
恭しく礼をすると、手に持った傘をくるくると回しながら言った。
「本当はセイバー君に頼もうとしたんだけど勇者が化け物倒すってワンパターン過ぎるよね。だからさ……潰してきてくれないかな。
「…………何を、言っている……?」
時間稼ぎをしながらもこの空間から脱出する手を頭の中で考えているが、それを上回る速度で周囲の魔力環境が組み替えられていく。
それすらも幻術がしれないが確証は無かった。
「とは言ってもタイミングが大切でね…明後日まで身を隠してくれるかな?そうしたら、壊すにはいい頃合いだと思うし」
「……?」
「そのくらい近づけたら、行けるんだよね」
フランチェスカが西の空を見ながら言う。
「そうだね〜。あんまり近づけ過ぎると聖杯そのものを破壊されちゃうし」
いつの間にか姿を現した少年もまた西の空を見つめる。
ジェスターも薄々感じていた。
この聖杯戦争とは絡まぬはずの強大な魔力の塊が、結界越しでも分かるくらいゆっくりとこの街へ向かってきている。
そんなジェスターを余所に、少年少女ーーー二人のプレラーティは遥か西から迫る魔力の塊に対し、邪悪と無邪気を混ぜたような笑みを見せながら同時に呟く。
「「聖杯に混ぜちゃいたいよね……
気になる単語を初っ端から出しちゃいました。
どういうこと?となりますがそれで問題ないです。
紐は解きますがそれは先の話になりますけど。
そしてジェスターとプレラーティズの会合をFGOアレンジしました。
チェイテが出たらやらないと行けないっしょ!
姫路城は盛りすぎと考えリストラしました、許せおっきー。
雑談タイム
まもなく年末。
奏章で盛り上がっていたらあっという間でしたね。
さて、大晦日と言えばFate特番。
Fake1話公開!?やったぜ狂い咲きィ!!
この小説と繋がる所まで進むなら最高!
映像化されるだけでもネタにはなるので万々歳。
どうなるのかオラワクワクすっぞ!