翌日。
スノーフィールドの街は、昨日の喧騒が嘘のようなほど穏やかな朝を迎えていた。
だが、それは上辺だけの話。
外側の世界では別の喧騒が広がっていた。
ノウムカルデア 管制室
藤丸との通信断絶が続く中、突如現れた強大な魔力の渦への対策に追われていた。
初期段階では伯爵が用意したUーオルガマリーのエレメントと推察されたが、自走の上特異点へ侵食・同化していくのを観測し変更。
ストームボーダーは現在、渦と平行して飛行し観測を続けていた。
「あの渦の表層は超大型ハリケーンと変わりないけど、内側には莫大の魔力が渦巻いてる。恐らく外部から攻撃しても即座に対処されるだろうね」
「つまり、我々はあれが特異点に飲まれていくのを指をくわえて見てろというのか!?」
ゴルドルフ所長の焦りに対し、ダヴィンチが虚しく首を縦に振る。
「レイルルーフを放つ案も出たけど人類に対しての脅威度が計り知れない。それにこちらから仕掛けて事態が悪化するのも避けたいしね」
「何もしないのは賛成だが、正体は知っておきたいところだ。特異点と関係あるとは思うが解決後も残るなら先手を打てるようには対処すべきだ」
「それならご心配なく。トリスメギストスIIの演算では特異点の消滅がなされれば消えますので」
議論を続けている中、突如ドアが開いた。
前触れもない出来事に全員の視線が一点へ向けられる中、あるサーヴァントが慌てながら入ってくる。
「おや、君は…「さっさと私をあの渦へ飛ばしなさい!」」
ダヴィンチの投げかけを打ち切りながら要望を告げる。
あまりにも唐突な申し立てにゴルドルフは面食らっていた。
「何故そう焦る!?お前はあれの正体を知っているのか!」
「何よ、見て分からないの?一部とはいえ何度も戦ったのだから覚えてるのかと思ってたわ」
「ちょっと待って。君と関わりがあるなんて言ったら……」
「そうよ。あれはーーーー」
サーヴァントが告げた正体にゴルドルフは立ちくらみカドックは唖然とした。
そして、その名は全てが終わった後藤丸に伝えられることになる。
ゆめのなか
全てを捨て孤独を選んだ繰岡椿は深い深い暗闇の中膝をかかえていた。
自らの夢のために無関係の人の命を危険に晒してしまった事実を受け止めるほど少女の心は強くなかった。
ーーーーごめんなさい。
ーーーーごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……
誰にも届かない謝罪を吐き続ける椿をサーヴァント、ペイルライダーが無言でその身を優しく包む。
この暗黒で少女の形を保てるのは霊器の全てをもって守っているから。
しかし、サーヴァントの存在基盤はマスターの少女の魂にあるため、少女の意識が微睡みに消えてしまえば令呪の繋がりすら消え失せ、消滅してしまう。
それを阻止するようにペイルライダーは霊器を削っていた。
己が消滅することに恐怖は無い。
元よりそのような感情は持ち合わせていなかった。
それでも、聖杯に呼ばれたサーヴァントのサガか、椿を守るというプログラムだけは残っていた。
このまま虚無の海を漂い、数日後にはサーヴァントと椿の意識は消える。
そうなる筈だったのだがーーー
周囲に点々と小さな光が瞬き始める。
弱々しく手元を照らすにも足りないほどの光。
そんな光が椿達を包み込むと浮遊感が無くなった。
これは椿の意思で行ったことでは無いとペイルライダーは察知した。
何故ならーーーー。
「こんな所に訪れる者が現れるなんて思わなかったわ」
目の前に人型の光が現れたからだ。
銀河を内包しているかのように青白く、この空間には合わないような姿であった。
ペイルライダーは即座に人型になり警戒を強める。
「分かっているとは思うけど、貴方と私の相性は最悪よ。過程と結果でやり合っても効率悪いもの」
そう言われ繭の形に戻るも警戒は怠らない。
一度甘い言葉に惑わされ害虫を招いてしまったのだから。
「とはいえ
納得するように呟くと人型は光を増しながら、1つの細長い檻を作る。
それは罪人を拘束するためにも見えるが、人型からは依然敵意も悪意も感じない。
「ここは宙の坩堝、魂の終着点の一つであり永遠の安息地。彼女がいるなら貴方がここに来ることは無いわ」
檻はエレベーターのようにゆっくりと降下していく。
正確には沈んでいると言った方が正しいだろう。
「生きたいのなら前を向きなさい。夢を見たいのなら進みなさい。その果てにもし運良く私の元に来れた時、彼女に代わり祝福してあげるのだわ」
小さな光も消え暗闇の世界に戻った。
椿は未だ籠ったままだだが、呼吸がやや浅くなったのを感じた。
まるで揺りかごで静かに眠る幼子のように。
安ホテル
藤丸たちは一度セイバー陣営と別れ次なる対策に追われていた。
お互い追われる身であり、一箇所に集まり続けるのは敵の思う壺とセイバーが判断したからだ。
そし議題の中心はフラットの死体から現れた存在、ティア・エスカルドス。
魔力消費を抑えるため霊体化中のククルカンの勘によればサーヴァントでは無いが性質は『フォーリナー』クラスに近しいとの事。
「神霊と張り合えるほどの魔力生成量と緻密ながらも大胆な燃費。何のためにこれほどの存在を隠したのでしょう…」
「決まってるじゃない、根源に至るためよ。魔術師って口揃えて同じこと言うでしょ」
「えぇ。きっと彼は『器』で、あの姿は『結果』なのでしょう」
「どこが結果なの?」
「演算による到達…は近代的すぎるし。うーん…こういうのは管轄外だから分からないのよねぇ…」
アルクがペンを空中に飛ばしながら悩む。
彼女は藤丸達とは真逆の世界から来たイレギュラー。
アーキタイプ・アースとしての召喚に伴い、引き込まれたifの意識。
故に会話の途中に時々世界観のズレがある。
「だが今の課題はあの渦だろう」
「そうだな。奴は話が通じる可能性はあるが、あれはどうしようもなかろう」
西から迫る魔力の流れはサーヴァント達の意識を嫌でも向けさせるほど濃厚だった。
それだけ放つ側も相当の魔力保有量だという結論にも繋がる。
「よっと……おや、君たち休憩かい?」
ブランカに乗ったオベロンが窓から入ってきた。
マークされているのは確実なため、バレにくいオベロンに頼み街の情報を集めてもらっている。
「ありがとう、オベロン。帰ったらメロンは多めに用意しとくよ」
「わぁ、それは嬉しいね。僕も
オベロンは満面の笑みを藤丸に向ける。
彼の本心を知った上、藤丸も微笑み返す。
「さて共有だけど今日・明日は大きな事は起こらない。時を待つ者、状況を待つ者それぞれって感じ」
「戦力は大方見計らった。あとは隙を付くだけと言いたいのか」
「かもね。それでも危険視しているのは共通意識だけど」
それぞれの陣営が均衡の崩壊を待っているようだ。
ここでやるべきは…
「それなら英気を養わないと。今からご飯作ってきます!」
「あってはいるがそれは後でもよかろ…待て、何故余の腕を掴む?えぇい!1人で行かぬか!!」
「オーナーへの恩返しのために私も行きましょう。厨房に立たれているサーヴァントの皆さん程とは言えませんがそれなりの料理なら出来ますから」
事態が動くのを待つのはカルデアも同じ。
今は藤丸の体力回復に務めるしかない。
この静かな世界だからこそ、気を休める以外何も無いのだから。
スノーフィールド地下施設 デュマの工房
警察署の地下には各施設へ迅速に動けるよう通路が整備されていた。
その先に進んだ場所にある、地下20メートルにデュマの工房がある。
その中央には険しい顔をしたオーランド署長と秘書のヴェラが会議用の机の前に座っていた。
部屋の主であるデュマは奥で何やらしているらしく姿は見えない。
「クリスタル・ヒルのレストラン行ったことあるか?あそこのフライはブイヨンの上澄み油使ってて美味かったぞ」
「……もはや、君の無断外出をとやかく言わん。だが、『客人』を招くことに関しては許されないぞ」
そうこの空間には署長すら知らない人物がおり、鋭い目付きで様子を見ていた。
「もしかしてお腹痛いのかな?胃薬持ってくれば良かったかなぁ…」
「なんでそうなるんだよ…明らかに怒ってるだろ…」
食器を運びながらヒソヒソと話すウエイターのような服装の少女が二人。
オレンジ色の短髪と緑色のツインテールではあるが、顔立ちからアジア系と見てわかる。
「そうカリカリするなよ兄弟。俺の趣味に無理やり付き合わさせちまってるだけだ。悪いな2人とも。昨日から色々あって腹の虫がおさまらないらしい」
「いえいえ!こちらこそ押しかける感じになっただけなので!」
「怪しい人と意気投合して成り行きで来ちゃったんだけなんだど…」
「………名前を聞かせてもらおうか」
表情を変えることなくオーランドは二人へ問いかける。
「あ、そうでした!私、安曇……じゃなくて日比乃ひびきです!そして、こちらの可愛い子が…」
「桂木千鍵だ…です。てか、この状況で緊張しないな!?」
そう言い残し二人はお辞儀を急ぎして、奥へ姿を消した。
敵意の無い歳相応の何気ない会話。
信頼するには足りないものの、デュマに巻き込まれたのは納得出来る。
「てなわけで、出来たぜ」
やっと姿を現したデュマの手には大皿があった。
食欲を唆る臭いを放つ皿に署長は眉間に皺を顰めながら見ていた。
すると、不思議な事に、大皿が置かれた瞬間質素な会議用の机が歴史あるレストランのような豪華な机に早変わりした。
「ちかちゃん見た見た!?瞬きしたらぱーって変わっちゃった!!」
「横で見てたわ。しかし凄いな…あの人」
「なぁに、大したことしてないさ。単に
分かったような分からないような面持ちの二人だが、自らの仕事を思い出し料理の乗った皿を置いていく。
皿の上には、見ただけで満足するような見事に飾り付けられた料理が載っていた。
パイ生地やソース、精密に切られた野菜とムースが合わさり宮廷の庭のように飾られている。
相当な時間がかかったと思えるほどの出来なら『食べるのが勿体ない』と考える。
しかし、そこから漂う芳醇な香りは『直ぐに食べたい』と脳を刺激するほどだった。
「……君が作ったのか」
「大半はな。余った武器を調理道具に変えたが、俺の時代のやり方だとあまりにも時間が足りない。そこで偶々会った二人にちょいとアドバイスを貰ったって訳」
「アドバイスだなんて大袈裟ですよ!私たちは機械の使い方を教えただけですから!!」
「あとは味見と皿洗いだけで済んだから楽だったけど」
「……そうか。君が宝具の作成よりも食に重きを置くとは。臭いを遮断したのはバレたくなかったからか」
「それもあるが、いいキジ肉が街に並んでたってだけさ」
悪びれず言うデュマに、何度目かのため息を漏らす署長。
いつもこんな感じなんだろな、と千鍵は思ったが自分達も似たようなもんだと思い口にするのはやめた。
胃腸が休まない日なんて無いのはよく分かるから。
「……驚きました。召喚したての頃はハンバーガーを注文しておられたので、このような料理を作られるとは…」
「サーヴァントとは言えせっかくの機会と思ってな。安いも高いも一通りこの世界の様式に合わせて貰ったがどれも面白かったぜ?文句は無い訳じゃないが、俺の時代遅れなだけかもしれねえから今回は
話し終わると、二人をを座らせデュマがそれぞれの皿に取り分ける。
そして食事する姿は驚くほど上品で、貴族かと思えるほどだった。
署長とヴィラは突然の流れに顔を合わせ、ひびきと千鍵は唖然としながら作法の一つ一つを目に焼き付けていた。
世界の命運が決められつつあるこの戦況で、食べている暇などないという正論を署長は口に出すことは無かった。
デュマがなんの考え無しにこのような場を設ける事などない上、堅物のオーランドの腹を一瞬にして空腹感を与えるほどの『食の魅力』に満ちた一品であったのだ。
事の結論を言えば、オーランド達がこれまで経験してきた食事の中で、頂点を取るであろう味わいだった。
今回も来ました幕間物語。
数話は続くと思いますのでご了承ください。
今回は色んなサーヴァント達との掛け合いを中心にしてみました。
よくよく考えると因縁あったり、あえて別の方を出したり。
FGO世界だからこそ起こせるコラボ。
雑談タイム
アビーちゃんサンタ!?
クトゥルフ組連続配布はあちぃ!
でもCMが不穏!
シトナイのキレ顔とロウヒのぐしゃぐしゃ顔。
最後のシルエットはどうせロウヒの再臨だろうなと勝手に予想。
そしてエルメロイ兄妹の関節破壊ジャンプ。
おいたわしや……