死徒。
実感の無かった藤丸はその言葉の恐ろしさが分からなかった。
『今すぐそこから逃げるんだ!サーヴァントならともかく君では分が悪すぎる!』
結界の破壊により通信が回復しダヴィンチが叫ぶ。
「ダヴィンチちゃん!死徒って何なの!!」
『簡単に言えば吸血鬼だ!けどカルデアにいるのとは違う他者の魂を喰らって生きる亡者!!そして己の欲のために全てを破壊する殺戮の使者!!』
ヴラド三世やエリザベート・バートリーのような血に惑わされた存在では無い。
人の世を影から襲い楽しむ快楽主義者のようなもの。
「君に心臓を掴まれてから私は堕ちたのさ!まさにぞっこんと言うやつだ!!」
ジェスターは気味が悪いくらい口角の上がった笑みで愛を語る。
だがそんな余裕が一瞬で消えた。
「私の魔力が流れていない?死んだ時にズレた?…違う…誰かと契約したな?」
グルンと首が勢いよく周り藤丸と目が合う。
血のように染まった目が能に焼き付く。
「貴様か。私から奪おうとする不届き者は」
先ほどまでの笑みは消え、感情の失せた顔つきだった。
ジェスターはノーモーションでロビーから飛び上がり2階へ向かった。
「チィ!!」
ドラコーは舌打ちをしながら長い尾から赤い光を放つ。
しかし振り返ることなく空中で風に乗るように避けられロビーの壁を焼き壊すだけだった。
2階へ到着したジェスターは藤丸の前に静かに立つ。
遠くから見ていたよりも恐ろしく殺意が溢れるように出ていた。
「先輩!!」
マシュの声で何とか意識を戻し走り出す。
「まずはその足をえぐり取ってやる」
ジェスターの何気ない行動一つ一つが攻撃になる。
今更逃げたとしても宣言通りの結果になるだろう。
だが第三者によってその結果は無理やり変えられた。
突如、取調室の鉄製の扉が空気に押されるように横からジェスターに飛んできた。
藤丸の足を抉ろうとした手を扉の方へ横に払うと包み紙を破いたように変形し廊下の壁に突き刺さる。
「誰だ。私の邪魔をし…」
次の言葉を放つ前に白い閃光が部屋から飛び出しジェスターにぶつかる。
ロビー側の壁が吹き飛び1階へ落ちていく。
「本当はカッコよく出たかったんだけどマスターのピンチなら仕方ないよね!」
金色のミドルヘアーに赤い瞳と青と白の高貴さを纏ったドレス。
格好は姫と呼べるがどこか子供らしさもある。
「アルク!!」
藤丸が安堵と喜びの混ざった声で名前を呼ぶ。
ムーンキャンサー、アルクェイド・ブリュンスタッド。
本来BBがカルデアに行くために作り出した特例のクラス。
だがアルクはBBとは無縁であり、藤丸との明確な縁が見当たらない。
偶に藤丸自身も夢の中で気付かぬうちに繋いでいた可能性もあるが。
「まさかカジノで遊んでいたら詐欺だと疑われるなんて…」
『もしかして警察署にいた理由って…』
「はい!逮捕されました!!」
ククルカンとアルクはアーキタイプと呼ばれる星の端末。
世界そのものを眺める事は出来ても細かな所までは行き届かない。
だからこそ人の姿となり、人の営みを体験している。
「それにしても今の死徒?こんな所で会えるとは思わなかったわ」
廊下から顔を出すと何事も無かったように下にジェスターがアルクを見ていた。
「まさか複数使役出来るとはな。聖杯でも心臓に埋めているのか」
「私のマスターはお人形さんじゃないわ。ただの人よ」
「人か…ならば君は私に狩られるに相応しい」
クツクツと笑いながらジェスターはそう呟く。
「私は死徒とは言え不死では無い。実際、麗しきアサシンに殺されているのだからな」
何気ない会話なのだが警官たちの殆どは戦う気力を大幅に失っていた。
サーヴァント5騎を伴うマスターならまだしも死徒がマスターとして参加しているのは精神的に大きなダメージになる。
まともに立てているのは藤丸と署長、女秘書含めた数名だけ。
「この中で勝算があるのはあのマスターだけ。君たちは前座にもならん。まぁ歯が立たないのも仕方ない。私は人理を否定する存在なのだからな」
「人理を否定…?」
マシュが人理と言う言葉に反応する。
オーディール・コールの主目的は人理定数をあげる事。
人の歴史から逸脱したならそのレールに戻る努力をする。
ジェスターはその逆の意味になる。
「死徒とは人の理を破壊するために産まれた存在。人を肯定する英霊とは真逆さ」
「…」
アルクは無言で見下ろしていたが赤い目には怒りがこもっていた。
残っていた警官が剣や槍をジェスターに振るうも人差し指で防がれる。
「ここで1つ問題だ。今の君たちに欠けているものがある。何だと思う?」
「…強さか」
署長の回答に首を振って否定する。
「尊さだ」
「…」
「君たちは英霊どころか聖杯すらも信じていない。なのに宝具には頼る。これのどこに尊さがある」
ニタニタと笑いながらロビーにある長椅子を片手で持ち上げ署長へ歩みを進める。
その行為が玩具を持つような感覚だったので藤丸は自分の目を疑ってしまった。
「この場で英霊と共に戦えば勝ち筋は大いにある。まぁ逃げても構わんが英霊共を相手取る前に塵に変えよう。もしかしたら数人くらいなら助かるかもしれんぞ?」
ケタケタと笑いながら更に近づく。
長椅子の射程に入り、いつでも倒せる状態になった。
「マスター。彼を助けなくていいの?」
アルクが目線を変えず聞いてきた。
署長は銃を捨て刀を両手で強く握っていた。
どんな戦力差だろうと立ち向かう姿勢。
それは今の藤丸自身とも似ていた。
「確かに助けたい。けど、助けたらあの人の覚悟が無駄になる」
「そう…貴方ならその選択をすると思ったわ」
安堵したように初めて表情を和らげた。
同時にこの先の結末を知ってるかのようにも捉えられた。
ジェスターは笑いながら長椅子を振り上げる。
戦いの火蓋が切られようとしたその時、静止されたように動きが止まった。
服に染み付く液体からコーヒーだと判断した。
投げた先にいたのはコップを持ち不敵な笑みを向ける神父だった。
「あんまり話すから喉乾いたと思ってな」
「聖杯戦争の監督役か。居ないと聞いて出てきたと聞いたから馳せ参じたのに、結局この街も教会に尻尾を…」
バシャリと首を振ったところを狙って再びコーヒーがかけられる。
「話が長いんだよ。屍」
ため息を吐きながら空の紙コップを簡単に畳み、ゴミ箱へ投げ捨てる。
「俺が映画監督なら速攻でカットするシーンだ」
「ハンザ・セルバンテス…まだいたのか」
名前を呼ばれたハンザは肩を竦めながら答える。
「大変そうだな。署長」
「何が目的だ」
「監督役としてちょっとしたアドバイスをな」
頭からコーヒーを滴らせるジェスターを横目にハンザは淡々と言葉を紡ぐ。
「このレベルの死徒は、聖別された専用の武器を使うか…魔眼等の『特異点』持ち、後は純粋に高レベルの魔術師でない限り対処出来ない」
署長へ向けたアドバイスだが藤丸にもその言葉は当てはまる。
連れてきたサーヴァントには当てはまる力を持つ者はアルクだけ。
それは本人が1番理解してるはずなのにトドメを刺すこと無くただ見てるだけ。
「それで?これはどういうつもりだ?」
頭のコーヒーを拭い黒い染みのついた服を摘み問いかける。
「他に言うとしたら…俺の奢りだ」
「はははは!そうか!奢りと来たか!!」
頭に手を当て堰を切ったように笑い出す。
これまでと通り笑い続け…
「受付で配っている無料のコーヒーだろうがぁッ!!」
表情を反転させ、長椅子を神父に向かって投げつける。
近くにいたマシュが盾を構えハンザを守るよう下半身に力を入れ構える。
「その勇気はありがたいが前失礼する」
「え…?」
気づいたらマシュの前に立っており高速回転する長椅子を避けることなく垂直に蹴り上げた。
藤丸の視界を長細い何かが通過したと思ったのと同時に破砕音が天井から聞こえた。
見上げると長椅子の6割が突き刺さった状態でぶら下がっていた。
「…何?」
人間離れした行動に署長や警官はもちろんサーヴァントとジェスターすらも視線を奪われる。
マシュも目線を逸らしていたが気配が一瞬で消えたのを感じ取った。
全員が意識を戻した時にはジェスターの姿は奥の部屋に消え、神父が拳を作った右手をブラブラとさせていた。
「首を吹き飛ばしたつもりだがやはり頑丈だな」
「どういうつもりだ」
署長の問にハンザはあっさりと答える。
「バトンタッチというやつだ。あいつは俺が倒そう」
「我々に手を貸すのか?」
「監督以前に神父だしな。それに…」
チラリとマシュの方を見る。
目をパチパチして何が起こったのか処理しきれてない様子だった。
「少女の秘密を意図せず解いてしまった謝罪…じゃダメか?」
「…好きにしろ」
タイトルで即バレする参戦サーヴァント。
というか試し書きでもこのカードありましたしムーンキャンサーで呼べるのってアルクしかいなくない?
ジナコはワンチャン…と思ったけど役不足感ありありでした。
やっぱ死徒には死徒だよな!
あと個人的解釈全開なので改めてよろしくお願いします。