夢想煉獄都市スノーフィールド   作:薫製

8 / 31
災いは静かに

工業地区

ギルガメッシュとの交戦を終えた翌朝、バズディロットの工房に客人たちが訪れていた。

本人たちにとっては招かれざる客ではあったが。

階段をファッションモデルのように降りてくるのは純白の肌と白銀の髪をなびかせている女性。

誰もが目を引くような姿だが魔術師ならその存在は何であるかは直ぐに分かる。

人造人間。別の名はホムンクルス。

短命ではあるが魔術回路を人為的に増設し強力な魔術を使用出来る魔術師の贋作。

ルーマニアにホムンクルスの生成をする家系があるが目の前にいるのは別格の存在。

第1次聖杯戦争から参加している御三家の1柱、聖杯の器を作るアインツベルンのホムンクルスだからだ。

その後ろには身体を小さくちぢこませながら歩く女の魔術師がいた。

一瞬意識を向けるも警戒すべきではないと判断した。

 

「ここに何の用だ」

 

感情が抜け落ちた表情のバズディロットに対しホムンクルスの女は楽しそうな表情を浮かべ言葉を口にする。

 

「あら、貴方そんな泥まみれになって…もう半分人間やめてるのね。ならもう…そこの歪んだ英霊と一緒に殺しても構わないわよね?」

 

 

ゆめのなか

 

「そぅら!」

 

オベロンの掛け声と共に白いマントから白い蛾が飛び出した。

椿は両手ですくうように蛾を受け止める。

 

「可愛い〜…!」

 

モフモフとした身体が手の中でちょこちょこ動く。

その度に擽ったさもあったがそれ以上に可愛く見えた。

 

「虫が好きなのかい?」

 

「うーん…分からないけど可愛い子は好きだよ!」

 

「そうなんだ〜。その子も君の手が心地よいと思ってるね」

 

にこやかにオベロンは笑う。

その笑みは陽の光と同じくらい明るかった。

 

「みんなどこかに行ってたのかな?」

 

少し顔を上げ街の方を見る。

今まで人っ子一人いなかったが車や人がちらほら見受けられるようになった。

 

「もちろんさ。誰だって最後は我が家に帰るんだからね」

 

「だよね!安心したよ〜」

 

木の影がその言葉を聞き強く揺れる。

オベロンはその反応を確認し自分への敵対心の無さを把握する。

だがその把握も意味をなさなくなる。

 

「ねえねえ。僕もその虫に触ってもいいかな?」

 

突然声をかけられ椿は慌てて声の方に顔を上げる。

するとそこには、初めて見る少年が立っていた。

ほぼ同い年か少し上かの差異で、小さな子供には変わりない外見。

 

「ええと、うん。いいよ!あっ、妖精さんのだからだめかな?」

 

1度了承したものの戸惑いながら椿はオベロンに確認した。

 

「もちろんいいとも。彼も()()()()()()()()()()

 

表情筋だけ動かし笑う。

椿は気づかなかったが2人を喰らわんとするほど影が膨張していた。

それもオベロンの返答を聞き、敵意の無い回答をした途端空気を取られた風船のように萎み元の大きさに戻った。

 

(良かった。僕を椿ちゃんの味方だと思ってくれたんだね。システム系のサーヴァントは狂化よりもたちが悪い)

 

(こいつ。無害なら毒でも取り込むのか。後先考え無いとはいえ無茶苦茶だろ)

 

安堵と呆れ。

顔には見せないものの2人の中には異なる感情が湧き出ていた。

ただ、オベロンの方が少し上手ではあったが。

 

「ジェスター」

 

「え?」

 

椿の手を包みながら近い距離で無邪気な笑みを見せる。

 

「僕の名前は、ジェスター・カルトゥーレだよ。よろしくね!」

 

安ホテル

街のネオンの輝きをブルーシート越しに見る。

しばらく修理は出来ないらしいがここに長い間いることは無い。

これまで踏破してきた特異点や異聞帯も1ヶ月以内に終わらせてきた。

しかも聖杯戦争となれば更に短くなる。

何もせずともサーヴァント同士の戦いが始まるからだ。

ただカルデアが表舞台に立てばの話。

過剰戦力とも言える藤丸は他のマスターからすればイレギュラーそのもの。

この特異点を作った要因を探し排除するのが目的なら自ら囮になるのが最適。

とは言え警察署のような規模では済まない。

 

『藤丸。起きてるか』

 

「起きてるよ」

 

カルデアにいるカドックから無線が入る。

 

『クリプター…いや、元マスターとして少し話したくてな』

 

「そんなかしこまる関係じゃないよ。本音はサクッと話す方がいいし」

 

『俺とお前は友達じゃないんだが。まぁいい、本題に移ろう。この特異点をどう見ている』

 

問いかけに対し思考を始める。

街に変化はなく、普通の生活が繰り返されている。

またマスターとサーヴァントが複数おり聖杯戦争の基礎ルールには則って行われているように見える。

 

「…普通すぎる。エクストラクラスは召喚されていても俺が入れる理由にはならない」

 

『そうだ。今の状態ならルーラーしか連れて行けないと言われた方が納得する』

 

「俺も聖杯戦争の参加者として想定してたり?」

 

『大いにある。クリプターのようにカルデアの存在を考慮し動いている場合も捨てきれない』

 

「まだクリプターが…」

 

『それは無い。異星の神と契約したのはAチームだけ。しかもキリシュタリアの手引きあって出来た奇跡だ。1人例外はいるが…』

 

使徒に蘇生の力があるのかと考えたがキリが無い。

それに蘇らせた所でこの特異点を作る理由にならない。

 

『とにかく今は様子を見て…!!』

 

カドックが話している途中に無線から警報が鳴り響く。

 

『何だ!?』

 

『どいたどいた!!藤丸君聞いてくれ!工場地帯から神霊クラスの反応が現れた!1つはアルケイデスだけどもう1つある!』

 

ダ・ヴィンチがカドックの席を強引に退かし報告する。

神霊がまた召喚された。

ギルガメッシュ、アルケイデス、そして新たなサーヴァント。

大聖杯の力があるとはいえ、魔術王の聖杯そのものに近い魔力量。

 

「どんな状況!?」

 

『あー…マズイ。神霊の魔力が増大してる…!このままだと工場地帯が消える!!』

 

秘匿もへったくれもない争いが再びおころうとしている。

そもそも神霊を召喚した時点でルールなど無いようなもの。

彼らにとってルールとは己自身なのだから。

 

「ここからだと間に合わないっ!!」

 

「降臨者!行けるだろ!」

 

「確かに行けますけど…どう止めるんですか!?」

 

「困ったなら食べてしまえばいいのですよ」

 

「ここからでも魔力感じるんだから辿って判断したら?」

 

「…不味そうなのでやめます」

 

「こんな時に好き嫌いする奴がいるか!!」

 

「なら獣の貴方が行ってください!」

 

「おふたり共喧嘩はやめてください!!」

 

『待って!!反応が…消えた…?』

 

ダ・ヴィンチちゃんの声で一気に思考が冷める。

 

「固有結界…とも違う。世界の偽装?そんな事出来るのあのお爺さんくらいしか知らないけど」

 

アルクは状況を理解しきれたのか呟いている。

 

『魔力減少…一体何が起こったんだ…』

 

「少し時間置いて向かった方が良いかもしれませんね」

 

「私も賛成。別のサーヴァントの介入があったのは間違いない。けどその攻撃で消滅したとも思えない」

 

「あのヘラクレスがそうくたばるわけがなかろうしな」

 

不貞腐れたククルカン以外のメンバーで行くことにした。

それに、もし何かあればすぐ飛んできてくれると信じている。

 

朝日が上り街が目覚めようとする頃。

藤丸たちは争いがあったとされる工場近くにいた。

食肉工場の割には高すぎる壁が周りを囲み、拒んでいるように感じた。

 

「おどろおどろしいですけど見た目は変わってないですね」

 

「…2人とも」

 

「えぇ、分かってます」

 

「ウム…幻術だな。前と同じものか」

 

ギルガメッシュ王と対峙した時に見せられた幻術。

それがこの工場に張られている。

 

「あの時の幻術が私たちにもかかってるのですか?」

 

「いえ。私たちにでは無くこの工場にかけられています。こちらを」

 

天草は壁に剣を何本か刺し円形の魔法陣を展開する。

そこには壁の向こう側が窓のように見えた。

煙突はへし折れ、パイプラインもぐちゃぐちゃに破壊された工場。

顔を上げ何度も見比べても真逆の光景が広がっていた。

 

「派手にやったのだな。あのアルケイデスとやらも本腰をあげたな」

 

「ここまで壊されてるとは思わなかったわ」

 

「変です。神霊は神の力を持った存在。それがこの程度なのでしょうか?」

 

これまで見てきた神霊たちは災害レベルの力を持っていた。

時には世界そのものをリセットさせるような技を容易く行うサーヴァントもいるにしては規模が小さい。

 

「ちなみにこの魔術も単なる壁抜けでは無く対幻術も込めています」

 

「それじゃ…この光景も幻術?」

 

「はい。このかけ具合からすると幻術を極めた者でしょう」

 

「花の魔術師…は無いわね。あれは見てるだけでしょうし」

 

マーリンの幻術は夢か現実か判断するのが難しいほど完璧だった。

それは人のみならず厄災にも通じる夢。

こうして立っているのは現実だしサーヴァントを認識出来る。

 

「あの時もそうだったが五感まで騙す術だ。この程度容易いだろう」

 

「テクスチャの書き換え…」

 

「とにかく厄介な相手なのは確実です。この聖杯戦争はこれまでのように一筋縄では行きません」

 

天草は優しくもキツく進言する。

それは藤丸も強く感じていた。

トラオムのようなサーヴァントのみ集められた特異点では無く街そのものを呼び起こした世界。

何が起こるか分からないからこそ油断出来ない。

 

「分かってる。そのためにも仲間を集めよう」

 

残るクラスはアヴェンジャー、アルターエゴ、プリテンダー。

アヴェンジャーとプリテンダーの2人は性格にやや難ありだから仕方ないけどアルターエゴが来ないのは少し違和感がある。

合流よりも優先すべき事があるのかもしれない。

今強く感じているパスはアルターエゴから発せられるものに違いない。

 

「はい。ですが先輩。昨日から寝れてませんよね」

 

マシュがジロリと睨むように視線を向ける。

戦闘が夜に起こるというのもあって警戒していた。

その結果昼夜逆転の生活が出来上がった。

 

「まぁ…うん…」

 

「今日は夜まで休みましょう。こうしているうちに体力が無くなってしまった意味がありません」

 

ずいずいと言葉を切りながら迫ってきた。

藤丸の気を心配してくれるのは嬉しいが圧が強すぎるのも悩み物。

 

「睡眠は大切よね。サーヴァントになってもその有難みはよく分かるわ」

 

「どんな動物だろうと寝てる時は最大の警戒をするがな」

 

「そこは私たちが引き受けましょう」

 

悩んでいる間に本日の任務が増えてしまった。

こうなれば受け入れるしかない。

軽くため息をつきホテルへ戻った。

 

 

 

「あれ…」

 

『どうした。まさか気づかれたのか?』

 

「いえいえ!そっちは問題ないです!ただ…」

 

『ただ?』

 

「あの人…凄い繋がり持ってます。過去どころか未来とも」

 

『サーヴァントを複数使役しているのか』

 

「凄い…ハハッ!本当に友達になってる!!」

 

『それを友達と言えるのかね?』

 

「当たり前です!彼は魔術師ではありませんから!」

 

『何?』

 

「次会えたら絶対話しかけましょう!きっと仲良くなれますよ!!」

 

後に彼のサーヴァントは知ることになる。

その出会いは星が生まれるような衝撃を与えるような奇跡を産むと。




Fate作品はどれも視点変更がコロコロします。
それを如何にストレス無く切り替えるかが実に難しいです…
成田先生の書式を踏襲してますがそれでも大変。
奈須きのこの化け物具合を改めて感じた…

さて本編の話です。
ガチな戦いって以外と少ないんですよ。
やるの!やらないの!どっちなんだい!!って展開多くて。
でも少しづつ情報がバレて行くと。
それでも対策難しい英霊なんですけどね!!
特にアルケイデス!

最後に小話。
コメントはちゃんと読んでいますしリクも質問箱も見てます。
ただFake本編を読んでいない方もいると思うのであまり反応しずらいんですよ。
あとコメントが構想にガッツリ被って「oh...それやろうとしてるぅ…」となる事が多いので…
無視ではありませんのでご了承ください。
感想・リクはウェルカムですし質問も答えられる範囲で答えますのでドシドシお願いします!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。