プリンセスダイバーズ~GBNお嬢様クラブはこちらですわ!~ 作:二葉ベス
第1話:午前5時の徹夜
嘘つきと呼ばれた日のことを、あたしはまだ心の深くで覚えている。刻まれている。
確かに私が悪かったと思う。9割、いや。これを使ったなら10割悪いのはあたしの方だ。
でも。だけど。しょうがなかったのよ。あのときは、それが正解だと思っていたんだから。
「……ん、んぅ。寝てた?」
波の音が聞こえる。ザザーン。ザザーンと。仮想の波が浜に打ち上がる音がして、まだ動いていない頭をなんとか回転させてみる。
確か、新作のエネルギードリンクを意気揚々と買って、ガンプラを飛ばしていつもの浜辺に来て、それから……。
「あぁ、寝落ちか」
単純な話だ。このGBNでも寝落ちしてしまうぐらいには疲れていたってこと。
精神的に? 肉体的に? わかんない。多分どっちもかもしれない。
ガンプラバトル・ネクサス・オンライン。通称GBNと略されるその革新的なゲームが始まったのはいつ頃からだろう。まぁ数年経ってもまだ現役のオンラインゲームとして運営しているのだから大したものだ。
あたし、
しかも自分のガンプラを持ち込むちょっとしたヘビィユーザー。
このゲームは自分で作ったガンプラをゲーム内に投射。1/144スケールが1/1スケールに生まれ変わり、自分でそのガンプラに乗れてしまう、という夢のゲームだったりする。
ガンダムという作品に触れているあたしに取ってしてみれば、あまりにも恐ろしく完成度の高いゲームで、ハマるのは当然のことだったと思う。
マルチプレイ、というかギルドみたいなのを組むことができるVRMMOゲームみたいなものだが、まぁー、幾星霜あって今は惰性のようにソロプレイを続けている。
「チュー……。んーこのマンゴー味、最近飲んだことあるけど、なんだったっけ?」
エネドリの缶口にストローを突き刺してから、吸い出す。
これこそ地雷系女子。って感じよね。見た目からそうしているんだから、あたしも変なやつだと思われるかもしれない。
でもいいの。あたしには1人が似合っているから。たまにミッションをして、人と関わることなく、ただゆっくり時間を過ごして……。
「ふあぁ……。流石に寝よっかな」
目の前の世界ではおよそ夕暮れ時。太陽が沈みかけているタイミングだ。
っていうのはすべてゲーム内。現実時間での時計はもう午前5時を超えてしまっていた。要するに徹夜である。
朝のうちに寝ちゃうのなら、ゴミ捨て行かなきゃ。あーでも面倒くさいけど。うーん、でもでも……。
「はぁ。ログアウト」
メニューウィンドウを引っ張ってきて、そのままログアウトを押下する。
目に見える景色が収縮していき、ただの灰色のガラスへと変更される。
あたしはゴーグルを取り外して、凝り固まった身体をほぐすようにその場で伸びをした。
「んん~~っ! はぁっ! ねむ。ふあぁ……ねむっ」
まぁ一人暮らしでアルバイト生活なんだからそんなもんだよね。
とりあえずゴミ捨てだけ行って、数時間寝て、バイトかな。はー、面倒くさ。
面倒くさがりながらもゴミ袋をまとめて、早朝のドアを開ける。
入ってくるのは新鮮な空気と、少し湿気が混じった生暖かさ。夏だなぁ。早朝だからまだ涼しいけど、昼間になったら嫌だなぁ……。
などと考えながら、あたしは留め金もしないサンダルをパタパタと音を立てて歩く。
これが終わったら寝よう。そう思ってダラダラ歩く。
早朝の様子は人っ子一人いない。
だから清楚で綺麗で、美しくて。
だから場違いかと思ってしまう。
公園に女性2人がベンチに座っていることに。
片方は横になり、もう片方は膝枕を少女にしてあげている……。見た目からメイドさん?
待って。横になってる子もなんかすごく清楚っぽいっていうか。え、何?!
金髪の、すごく、お嬢様って感じなんだけど。
遠巻きにでも見惚れてしまう姿だった。まるで妖精のように静かに眠る少女。
ゴミを捨てに来ただけなのに、今のこの瞬間だけは異世界ファンタジーに足を踏み入れてしまったかのような非日常はこちらを向いた。メイドさんの方があたしを認識してしまったのだ!
「…………」
無言で訴えてくる。何だったらこっちに来いって手招きされてる。
うぅ、なにそれ怖いんですけど! GBN内ではそれなりに有名なヒメリさんですが、現実世界ではただのフリーターの一般モブ女子なんだぞ!? そ、そんなの……断れるわけないじゃないですか……。
観念したようにあたしはそのまま恐る恐る公園の内部に入る。
相変わらずサンダルがパカパカ言う。
そして目の前にはメイドさんと、およそご主人さまと呼ばれるような女の子が1人。
な、何この状況。午前5時に、どんな状況?
「あの……」
「なんでしょう?」
「呼び出されておいてアレですけど、なにか御用が……?」
「お嬢様をあなたのお家に居候させてくださいませんか?」
お嬢様を? あたしの家に。
あたしの家にこの金髪レディを?!
「はぁ?!!!!」
午前5時23分。盛大な声で眠気も何もかも吹っ飛んでいった。
カラスは、その声で飛び立って行ってしまった。
お久しぶりの方はこんにちは。
初めましての方もこんにちは。
ガンダムビルドダイバーズで百合します。お楽しみに