プリンセスダイバーズ~GBNお嬢様クラブはこちらですわ!~   作:二葉ベス

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第10話:クレープデートは甘いですわね

「ヒメリ様、あれはなんですか?」

「ん?」

 

 あっという間にチュートリアルミッションをクリアしてしまった才能豊かなご令嬢様。

 ただチュートリアルするだけでは物足りないだろう。実際そんな顔してたし。

 ミッションの他にもGBNにはいろいろあるんだけど、どれをアメリアさんにオススメするか。などと考えていたところだった。

 その本人が指を指したのは出張販売のクレープ屋だった。

 

「あれはトラック販売のクレープ屋だけど……」

「ほぅ! あれが道行く女子高生様方がこぞって購入すると言われる、あのっ!」

 

 あのっ!? って言われるほどの代物なのか。

 たまにスーパーの前とかで売ってることはあるけど、ノリと勢いと、その時の空腹度合いで買ったり買わなかったりするんだよなぁ。

 というか、買い出しに行く時に余計なお菓子を食べるほどの金銭的余裕がない……。ぐぬぬ……。

 アルバイトのお給料は生活費とガンプラで消えていくから仕方ないじゃないか……。

 

「食べに行きましょう! 私気になります!!」

「あはは、行きますかぁ」

 

 こうしてみると本当に最初の出会いが嘘みたいというか、GBNに来てから大分イキイキしている。

 女の子はみんなそうでなくちゃ困る。やっぱり元気が一番とはこのことを差して言うんだろうな。

 

「すみません、チョコバナナクリーム1つ。アメリアさんは?」

「んん~~~、迷います……。始めたばかりでBGが微妙に足りませんし、私もチョコバナナクリームにするか。それともいちごミルクも気になるし……」

「こほん、アメリア様。1ついい考えを授けましょう」

「な、なんと?!」

 

 ふっふっふ、庶民の間で語り継がれる伝説の言葉があるんですよ、アメリア様!

 

「一口だけなら、あたしのを食べていいですよ?」

「一口だけ、なら……っ!!!」

 

 ガガーンッ! と雷が落ちたかのような衝撃にアメリアさんが驚愕する。

 そうだ。JKたちは基本お金がない。好きな味を食べたいけど、迷っている時どうすればいいか。

 答えは一つ。食べ合いっこすればいい。一口ずつ交換する。これこそが人類に与えられた無限の可能性。クレープ歴史の革命である。

 

「で、でも良いのですか? それではヒメリ様が損をする形では……」

「あたしもいちごミルクを食べたかったので、一口ずつってことで!」

「な、なんとっ?!」

 

 お嬢様にはきっとない文化だろう。庶民には庶民の、知恵があるのだから!

 

「そ、それでは……いちごミルククレープをお一つ……」

 

 NPDが注文を承諾し、調理を始める。

 へー、こういうところまでリアルとそっくりにするんだ。データで出せば一発なのに。

 でもワクワクしているお嬢様を見ていたら、なんとなく空気感を出すためにあえて工程を合わせているのだろう。

 美味しいという味覚は雰囲気も合わさって初めて成立すると言われている。

 目の前でクレープ生地を作る様子なんか見れたら、そりゃ美味しそうに見えるよね。

 

「おまち!」

「ありがとうございます!」

 

 おお、ほんのり温かい。焼き立てって感じで、とても美味しそうじゃないか。

 試しに一口、あむ……。

 

「んんっ! チョコとクリームの合わさって……んま……っ!」

「そ、それほど美味しいのですか……っ?!」

「アメリアさんってクレープ初めてだったり?」

「え、えぇ。実は……」

 

 へー、ほーん。ふーん。

 今度リアルでも連れてって行ってあげようか。

 極上のスイーツっていうのはどこにでもあるけど、外に出なくちゃないからね。

 

「で、では……。いただきます……あむ……」

 

 目を閉じて、しっかりと味わうように咀嚼。やがて唸るような声が喉から響いてきた。

 

「お、美味しいです! いちごソースの味とそれから練乳でしょうか? それらを甘めの生地で包み込んで、風味が逃げないように閉じ込めた一品……っ! お、美味しい!」

 

 すごい口が動いた気がするけど、まぁ気のせいだろう。

 あるいはそれほど美味しかったのか。データとは言えGBNでは今まで不可能だった味覚を再現していると聞いたことがある。

 ややリアルとは味が違うだろうけど、それでも。こんなに笑顔でいてくれたら購入した甲斐があったというものだ。

 

「ではお楽しみのチョコバナナクリームを!」

「あ、はい! では遠慮なく……あむ……」

「どうですか?」

「んんっ! 先ほどとは違いチョコのやや苦味ある甘さと、それを引き立てるクリームの甘味。そしてバナナの優しい食感が合わさって、んん~~~!!」

 

 まるでグルメ漫画に出てきそうなほどの語彙力だ。あたしも見習ったほうがいいかな?

 とは言え、満足していただけたようで何よりだ。ま、美味しい思いをするのはあたしもなんだけど。

 

「それではあたくしめも試食を……」

「もぐもぐ……ん?」

 

 あたしも一口もらおうと声をかけたところだった。

 もぐもぐしているアメリアさんだったが、不意に動きが静止する。なんだ。何事か?

 もしかしてなんか変なものでも入っていたのだろうか? いやGBNに限って変なものが入っているなんてことは……。

 

「これ、ひょっとして……」

「アメリアさん?」

「はっ?! い、いえっ?! なんでもありませんよ!!!」

「そんなに大きな声を出さなくても」

「あ、あっ! すみません!」

 

 なんだなんだ。急にテンションがおかしくなってない?

 テンション、っていうか情緒っていうか。

 そんなに頭を何度も下げられても困るんですが……。

 

「ま、まぁいいか。とりあえず! いちごミルク一口くださいな!」

「え、あ……っ!」

「もぐもぐ……んん~んま~」

 

 このほのかないちごの酸味。それを練乳とクリームでミックスしてちょうどいい塩梅になる。

 いちごミルクはこういう刺激感がいいよねぇ……。

 って、あの。アメリアさんの顔がいちごみたいに真っ赤になってるんですけど。どうして?

 

「どうかしました?」

「あっ! いえ! なんでもないです……」

「そ、そうですか……」

 

 なんか釈然としないというか。

 まぁそういう気分の変調があったっていいよね。うんうん。

 なんでそういう事になったのかは、あたしには一切わからないけど。

 

「と! とりあえず今日は休みますね! ありがとうございました!」

「あ、うん」

 

 と言って、彼女はすぐさまGBNからログアウトした。

 うーん。もしかして、あたしが何かしちゃっただろうか?

 やったことなんてクレープを買って、食べ合いっこして……。

 

「あ」

 

 これ、言ってしまえば間接キスみたいなもんじゃん。

 女の子同士以前に、アメリアさんってもしかしてそういう友達同士のじゃれつき、みたいなのにあまり耐性がなかったりするんじゃないだろうか。普通にありえる。

 慣れてない内にあたしがグイグイ行って、嫌がったんじゃ。

 断れないから、とりあえずその場でお茶を濁そうとログアウトした。うーわ、ありえる。

 

「はぁ。参ったなぁ」

 

 こういう人間関係の問題だけは起こしたくなかったのに。よりにもよって自分から引き起こしちゃうだなんて。

 まぁいいか、で済まされる話じゃない。

 アメリアさんにも感情はあるし、それをどうしたかったか、なんてことも考慮すべきだった。

 はぁ……。ログアウトしたら、謝らなきゃ。でも今すぐは、ちょっと。気まずい……。

 

 向こうも間接キスしたように見せて、あたしもされたようなものだし。

 あんな可愛い子とクレープデート。うーん、これって世の男性諸君に殺されかねないのでは?

 でも、まぁ……。

 

「ごちそうさまです」

 

 食べきった後の包み紙をゴミ箱に捨てて、手を合わせる。

 食べたクレープとそれからファースト間接キスのお味に感謝を。

 

「ちょっと暴れたい気分かも」

 

 武器でもレンタルして、ちょっとだけランダムマッチしよっと。

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