プリンセスダイバーズ~GBNお嬢様クラブはこちらですわ!~ 作:二葉ベス
ギャン。
設定はともかくあたしが気に入ったのは、バトルスタイルであった。
ギャンのバトルスタイルはガンダムファンならおなじみだと思うが、機動力をフルに生かした騎士道に通ずるフェンシングだ。
しなやかに相手の攻撃をさばき、確実な一撃で相手をしとめる。
レイピアのようなビームサーベルも、それに準じてのデザインなのだろう。
だからあたしはギャンこそがアメリアさんに一番似合う機体だと思ったのだ。
「にしても渋いとこ突くねぇ! ギャンって言ったら、結構強豪が多いイメージだしな!」
「まぁね。GPD時代のサザキ兄妹とか、GBNだったらテトラさんとか辺りかな。いずれにしても強くてあたしたちには程遠い領域だけど」
「ンなこと言うなよー! 夢は見れるだけいいじゃないか!」
「見れる人が見ればいいんだよ、そういうのは」
あたしはそもそもランク戦に参加できないし。
あー、これ説明するのどうすればいいんだろ。アメリアさんがそっち系に興味示したら、いやだなぁ……。
「こ、これですか……っ?!」
「あー、それですね。この特徴的な単眼ヘッドこそがギャンです」
この十字の傷と真ん中に光るモノアイこそが特徴の騎士。それがギャンだ。
丸っこいデザインだって、まさしく中世の騎士を彷彿とさせる見た目!
流石は初期のモビルスーツ。デザインも最高にクールだなぁ……。
「これ……もしかしてレイピアですか?!」
「そうですそうです、ビームサーベルのレイピア。シールドも相まってかっこいい……」
「サイコーにイカしたフォルム。本当にかっこいいねぇ!」
ガンプラの箱を天高く掲げながら、アメリアさんがキラキラと目を光らせる。
もちろん比喩じゃない。実際にエフェクトに出てるんだからしょうがない。
「これ買います!」
「即決ですか。流石お嬢様」
「それは禁句ですよ」
「ごめんなさい、アメリアさん! ……ふふっ」
「な、なんですか、その含み笑いは!」
「いえ、楽しそうだなぁ、って」
ごめん。流石に今回はわざと口にしました。
というかアメリアさんは対人関係で褒められることが恥ずかしいのか、すぐに真っ赤になるからかわいらしい。
纏う雰囲気は淑女っぽいのに、たまにこのような子供らしい感情を見せてくれるから、ギャップがすごい。
「うぅ……。このようにはしゃいでしまうのはよろしくなかったでしょうか……?」
「いえいえ、そんなことなくて! その方が人間らしいじゃないですか!」
「……そういうものでしょうか?」
「そーいうもんじゃないのかい? あーしはアメリアちゃんのことあんま知らないけどねぃ」
そういえばエマさんにはリアルお嬢様って話もしてなかったっけ。
まぁ、今度バイトで一緒になった時にでもいうか。
「でもギャンのままだとちょっと物足りないかな……」
「そー? 見た感じ初心者だろーから、これでも十分じゃないかい?」
「なまじセンスがいいから、この程度のガンプラならすぐに乗りこなせるかな、と」
「ふーん……」
エマさんの左目がアメリアさんの顔を見つめる。
疑いの目、というよりも興味の視線。あるいは楽しみを見つけた猟犬の品定めか。
当の本人はおびえてるけど。
「ヒメリちゃんがそーいうなら、期待あるねぃ。ガンプラができたらあーしと一戦交えないかい?」
「え、えっ?! で、ですが。エマ様はBランクではなかったでしたか? わたくし如きでは手も足も出ないのでは……」
「ちゃんと手は抜くからさ!」
「……それはそれで複雑な気持ちです」
「じゃあ本気で?」
「むむむ……」
あ、おもちゃを見つけた顔だ。
アメリアさんは本当にいい大人におもちゃにされやすい。
第一あたしが彼女に対してこんな態度だからよくないのかもしれないけれど。
「って言ってもギャンの他にミキシングするガンプラってなんかある?」
「相性とかもあるでしょうし、同じ宇宙世紀シリーズでもいいんだけど……」
問題はこのような騎士系モビルスーツが元々そんなにない。
アナザー系とか漁れば多少は出てくるだろうけど、宇宙世紀で同じようなデザインの機体となるとあまり思いつかないのが現状だった。
「うーん……。なにかないかなぁ……」
「あ、あの……」
地雷系女子と海賊もどきが腕を組んで考えていると、おずおずとアメリアさんが手をあげる。
なんだろう。もしかして何かアイディアがあったり……?
「ミカエリス様は、どうでしょう?」
「ミカエリス……なるほど、あれも確かにいい感じに騎士系だねぇ」
ミカエリス。確かに騎士らしい風貌をしている。
その右腕の大きな武装を除けば、ギャンと組み合わせたときに絶大な相性を見出させると思う。
でもあたしの中では何か違っていた。
シンプルに騎士系で繋げるならこれでいい。
だけどアメリアさんの上達速度とセンスがあれば……。
その時だった。他のお客さんがガンプラの箱を持って買いに行くのをちらりと目に入る。
「こ、これだっ!!」
「ふえっ?!」
「な、なんだい?! そんなにでっかい声を出して?!」
「あ……。すみません……」
他のお客さんや店員さんに謝罪してから、あたしは水星の魔女コーナーへと足を向ける。
いそいそと歩くあたしに駆け足で追っていく2人。
この発想は神がかっている。これならデザインをぐちゃぐちゃにせずに済むはずだ!
水星の魔女コーナーにやってきたあたしは迷わずガンプラの箱を1つ取り出した。
「ベギルベウ……?」
「そう! 水星の魔女PROLOGUEに出てきた魔女狩り部隊の1機! 低レベルのパーメットなら無力化できるという強力な兵装を持っているガンプラです!」
GBNの仕様では、パーメット粒子のみならず、粒子系なら無効にできるという強力なアンチドートという兵装を持っている。
バックパックによる推進力サポート。軽量なベイオネットの武装。そしてアンチドート。
これだけあればギャンの白兵戦をするのに邪魔はしないはずだ。
「ミカエリスを作った会社と同じ系列なので、雰囲気もかなり似てるはずですよ!」
「おぉ……。これは……」
アメリアさんが気に入るかどうかはさておきとして。
これだけの性能と、もう一つあの装備があればアメリアさんのガンプラとしては十分すぎる性能を持つはずだ。
「わたくしは、あまりミキシングというものは分かりませんが、ヒメリ様がギャン様とベギルベウ様を合体させればきっとすごいガンプラになるに違いありません!」
「あたしが、なんだ……」
「もちろん、お手伝いさせていただきます!」
「ふふっ、ならいいか!」
こういう意欲溢れる若者。あたしは好きだぞ。
昔の自分を見ているようで少し胃がキリキリするけど。
というか、この子の年齢いくつなんだろう?
預かる上で気にしてはいなかったけど、学校とか仕事とか、そういう話を一切聞かない。
むしろ女学生が当然通るようなクレープデートも初めての経験だったみたいだった。
さっきも考えたけど、可憐で美しい所作と見た目相応の可愛らしさが合わさっていて、あまりにも歪に見える。
まぁ、難しいことを考えるのはギャンとベギルベウを作る時にしようっと。
「んじゃあ……。あ、そうだ。あとは~……」
残りはいくつか既製のウェポンパーツセットをカゴの中に入れていく。
ふふふ、こういう時の買い物かごってこれから何を作ろうかとわくわくさせてくれるから、嬉しくなっちゃうなぁ。
「いい感じに仕上がりそうじゃないか!」
「まぁ、作るのは多分あたしですけどね」
「頑張ってください、セーンパイ!」
「ちょっ! エマさん?!」
「なんだい?」
この女……っ!
まぁいいや。
レジで子犬のように待っているアメリアさん見て、いろんな疲れが吹き飛びそうだと少しだけ気持ちが晴れるのだった。