プリンセスダイバーズ~GBNお嬢様クラブはこちらですわ!~   作:二葉ベス

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第15話:わたくしはとても楽しいですわ

 エマさんとアメリアさんとは、3人で軽く話をしてから解散した。

 エマさん、もといカヤバさんは「今度はもっとアメリアちゃんの事教えて下さいね!」とは言っていたが……。

 実際、あたしが知っていることなんて、桜芽財閥のお嬢様だ、という話と何故か家出してきたという突拍子もない話題しかない。

 

 そう、本当に。本当にアメリアさんのことを何も知らないのだ。年齢も学校でさえ。

 だから思うことはある。いったい何故家出したのか、とか。両親はどう思っているんだ、とか。

 でもそれは彼女にとっては踏み込まれたくないラインであって、喋ってしまったらあたしも何かしらのなにかに巻き込まれてしまうのかもしれない。

 それは、確かに嫌かも。でもこうして純粋にGBNを楽しんでいるアメリアさんを見ていたら、次第にそんな気持ちも薄れてくる。

 

 力になってあげたい。もちろん可能な範囲でだけど、何があったのか知りたい。

 でも何も知らないんだったら、意味がない、か。

 

「本当に届きましたね」

「GBNの専門配達員ですからね」

 

 GBNで買ったギャンとベギルベウがあたしの家に届く。

 時刻は夕方を過ぎて、部屋が暗くなってきたところだった。

 今日のバイトは休み。だからたくさんアメリアさんと話ができる。

 後回しにしていたことを聞くチャンスではないだろうか?

 

「本当に、開けてよろしいのですか?」

「もちろん。ガンプラの楽しみの約5割がここに集結してると言ってもいいです」

「おぉ~っ!」

 

 ガンプラの蓋を開ければ、そこにあるのは透明な袋に密封されたプラモデルのランナーの数々。

 まさにご開帳言うべきか。ちょっと縁起良く言っただけかな。

 はしゃぐ姿に、なんだか昔の自分を重ねてしまう。GBNを始めたての時はあたしもこんな感じだった。

 

「作ってもいいですか?!」

「うん。もちろんです」

 

 早速袋をハサミで切ってから、必要なランナーを並べていく。

 あたしもベギルベウの制作を開始しよう。

 

 パチ、パチ。

 カチ、コチ……。

 

 時計の音とニッパーでランナーを切り取る音だけが部屋の中に響き渡る。

 何かを作っている時、人は大抵言葉を口にしないものだ。

 こういう空間を共有するのは初めてだったけど、意外と悪くないのかもしれない。

 身元不明、ではないけど、正体不明のアメリアさんと一緒に作るガンプラは少し、楽しかった。

 

「ここはどうすればよいのでしょうか?」

「んあぁ、ここは……」

 

 ときどき挟まる会話もなんだか一緒にガンプラを作る友達みたいで。

 みたいじゃない。友達、だけど……。やっぱり、知らないことが多すぎる。

 好きな食べ物も知らない。好きな言葉も知らない。これが好き、あれが嫌。もしくは苦手。

 そんなものを仕分けなく、ただ1つの『興味』という形で突き通している感覚。

 

 自我がないわけではない。

 あの日、最初に見たあの目に比べたら、今の方が輝いて見えるほどだ。

 だから今なら。アメリアさんのことをもっと知ってもいいのかな。

 

「……ア、アメリアさん?」

「はい、なんでしょうか?」

 

 ふわりと金色のスターレイルが庶民の家に花を咲かせる。

 シャンプーの匂いも最近は慣れてきた。けれどやはりひとつひとつの可愛らしい所作に今も少しときめきを感じる。

 なんだろうこの感じは。

 いや。今は些末な問題だ。

 

「あの、以前から聞きたかったんですけど……」

「はい」

「……何歳、なんですか?」

 

 少し、空気が固まった気がした。

 アメリアさんの表情が少し曇ったというか、やや静かになったというか。

 こういう空気だけは、やたら察するのが上手くなった。嫌なことに。

 

 でも彼女はやがて目を閉じると、気合を入れるかのように『ふんす』と小さく息を吐き出た。

 

「16歳です。これでも、まだ高校1年生なんです!」

「え、若……」

 

 思わず口に出してしまった。

 おいおいおいおい、そんな未成年を家に軟禁してもよかったのか、ナツメさんよぉ!

 という恨みは置いておいて。実際年齢を明かしてみればしっくり来るものだった。

 

 幼く見えるが、年齢以上の品格を感じる。大人と子どものバランスが不安定な時期。

 家のことでなにかあったら、家出したくもなるよね。そんな年頃だ。

 

「ヒメリ様こそ、おいくつなのですか?」

「え、それあたしに聞きます?」

「聞きます! わたくしだって、前から気になっていたのですよ」

 

 意外というわけでもない。

 アメリアさんなら確かに相手のことを聞きたくなる気持ちもわかる。

 でもなー。ギリギリアラサーだからなー、あたし。言いたくない。

 

「時にアメリアさん。女性に年齢を尋ねるのはマナー違反という話を聞いたことがあるかと思いますが……」

「存じております。それは殿方が無作法に尋ねるのがマナー違反なだけで、最初に聞いてきたのもそちらですよ」

「…………参りました」

 

 8歳下に論破されてしまった。

 人は正論で殴られると、しょんぼりするんだぞ。

 

「24歳です。成人して4年も経ったのにアルバイトでごめんなさい」

「あ、謝らないでください! アルバイトだって、立派なお仕事ですから!」

 

 あぁ、なんて光の住人なんだ……っ!

 親に言ったら『あんた正社員で働きなさいよ!』なんて言われるのに。

 この時期正社員で登用してくれるところなんてないですよーだ。バカ親!

 

「それに合点がいきました! 大人の色気を感じさせるのはそこが理由だったんですね!」

「色気? そんなの出てました?」

「まぁ……あはは」

 

 なんか誤魔化してないこの子?

 まぁ、褒められて気分はいいし、これぐらいで追求は勘弁しておこう。

 そっか。16歳か。学校に行かなきゃダメですよとか、こんな家で引きこもってたらダメですとか。

 そういうのを言うのは一旦止そう。

 

 感情豊かで多感な時期は人類皆等しく存在する。そんな時に休憩する場所がないなんて、それこそダメじゃないか。

 問題が自然と蒸発するまでは、このままいつも通りでいよう。

 少なくとも、あたしは大して問題視してないし。

 

 ……ちょっとだけ、アメリアさんとの同居生活が楽しくなってきたし。

 

「じゃあそのノリで聞きますけど、好きな食べ物は?」

「食べ物……。そうですねぇ、ヒメリ様が作ってくださったものなら!」

「あたし、あんまり作ってなくないですか?!」

「休みの日に作ってくださる簡単チャーハンとか好きですよ?」

「あれ、料理でいいのかな……?」

 

 休みの日のチャーハンって、あれ買ってきた素と卵をぶち込んで作ってるだけなんだけど。

 お嬢様の感覚は、たまによく分からない。

 

「ふふっ、いいのです。わたくしのために作ってくださってるのですから!」

「あたしのご飯のためにも作ってますけどね」

「それでも嬉しいです。いつもありがとうございます」

 

 こういう素直なところも、感覚がややズレているのか。それともあたしが擦れてしまっただけなのか。

 恥ずかしいからちょっとやめてほしいなぁ……。

 

「本当に、ありがとうございます」

「ん。もう大丈夫ですから」

「ふふっ。ヒメリ様はいつもお優しいですね」

 

 そうかな。そうなのか?

 あたしは当然だからそうしているだけで、分からないけど……。

 

「そうかな?」

「はい。心地いい距離感です」

「……そうですね」

 

 心地いい距離感。それはまさしくそうかもしれない。

 お互いに優しく接し合えている内は、間違いなく。

 そうでなくても、今後起こる問題も手を差し伸べられるなら、差し伸べたい。

 それが親しい隣人のすることだと思うし。

 

「足ができました!」

「それを胴体に合体させてみてください」

「……おお! こうして完成に一歩前進したと考えたらワクワクしますね!」

「ですね!」

 

 しばらくは、こんな関係が続くと、いいな。

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