プリンセスダイバーズ~GBNお嬢様クラブはこちらですわ!~ 作:二葉ベス
過去っていうのは寂しがり屋だからすぐに付きまとってくるものだ。
それがどんなものであろうとも、いつかは報いを受ける。
「ヒ、ヒメリ様、この方はいったい……?」
「現ランカーで、確か個人ランク459位の猛者。ミレイナさんです」
『ご紹介いただきありがとうございます』
お辞儀と言わんばかりに左手を胸の前に持ってくると、軽くお辞儀をする。
そしてそんな戯言なんてどうでもいいだろうと言わんばかりに、右手に持ったバエルソードの剣身を長くした、ロングナイトソードをあたしに向けた。
『一時期はやめたと思っていましたが、まさかこんなところで再会するとは思っても見ませんでした』
「あたしもですよ。もっとも、これっぽっちも会いたくなかったですけど」
右手に持っていたヘビーマシンガンは不意の一撃でおそらく使い物にはならないだろう。
ビームマシンガンを持ち替えて、ヘビーマシンガンは地面に捨てた。
銃口を向けても、相手のミレイナさん――ナイトブラウドは全く微動だにしない。
『私は会いたかったですよ? かつての地獄姫がどんな様子なのか』
「そのあだ名、やめてくれるとありがたいんですけど」
『嘘つき姫よりはマシだと思いませんか?』
そして何より。ミレイナさんは本当に何を考えているかわからない。
自分の本心を言っているように見えるが、その裏側。本心でいったいなにを考えているんだか。
周りを見ろ周りを! アメリアさんもエマさんも困惑してるでしょうが!
「まぁ。マシですけど……。はぁ、今日は引いてくれると助かるんですが」
『え、なんでですか?』
「2人が初対面のあなたに対して警戒心を持っているの、忘れないでほしいんですが」
エマさんは、なんというか微妙そうな声でうんと頷く。
アメリアさんはどちらかと言うと警戒心よりも敵視の方が近いのかも。なんでぇ……。
『まぁ確かに。私も嬉しくなっちゃってついはしゃいじゃいましたが、そうですよね。あなたにもようやく友だちが出来たのですから』
「友だち?!」
「プッ!!」
おい、後輩さんさぁ。今笑わなかったか?
「友だち……。そう、わたくしとヒメリ様はお友だちです! ですのでその剣先は収めてください!」
「え、あーしは?!」
『私も遊んでただけですから、そちらも矛先を収めていただければ嬉しいです』
「…………」
ベギャンベウのレイピアが懐に収まる。
それを見てか、ナイトブラウドのロングナイトソードもシールドの内側へと収納された。
『またいつか会えることを願ってます、ヒメリさん』
「あたしは会いたくないですけど」
『本当に素敵な人ですね。では失礼いたします』
軽く話して満足したのか、彼女はヴァルガの外周エリア3へと飛び立っていった。
はぁ……。本当に胃がキリキリする。だから前の知り合いには会いたくなかったのに……。
怪訝そうにこちらを覗く2人のガンプラもあるし、戦意も完全に失ってしまった。ここらが潮時かな。
軽く合図をしてから、あたしたち3人はヴァルガからエリアアウトすることになった。
◇
「それで! あの方とはいったいどういうお知り合いなのですか?!」
「はいはい、アメリアちゃん。そんなに急かさない。それよりあーしのこと、友だちだと思ってなかったりは……?」
「当然お友だちです! あれは、その……。便宜上そう言わざるを得なかったと言いますか……。本当にすみません!」
「あぁーあぁー! 違う! 違うの! あーしも悪かったっていうか……。ホントごめん!」
当然のように、というかそういう流れにもなるか。
と言わんばかりにカフェテリアに場所を移すと、目の前で2人がイチャコラ始めてしまった。
昔のことを根掘り葉掘りされるよりはマシだけども。これはこれで面倒くさいなぁ。
「というよりそうではありません! あ、お友だちなのは当然のことなのですが、それよりもあの騎士の方とはいったいどういうご関係で……?」
まぁ。そういう質問来ますよねぇ。
言いたくないと突っぱねるのは簡単だけど、アメリアさんがそれされて嫌な気持ちになったら嫌だしなぁ……。うーん、どう言ったもんか……。
「うーんまぁ……。昔の知り合いですよ。今は疎遠になりましたが」
「あ……。そうでしたか、すみません。変なことを聞いてしまって」
「いいですよ。アメリアさんも気になっているでしょうし。そんなことよりもこのカフェテリアでは――」
エマさんがブラウザ開いて調べ事してるから、いつかはバレると思ってたけど。
アメリアさんにはバラさないでくれると嬉しいなぁ。
なんとなく。そうなんとなくなんだけど。彼女にはちょっと。嫌われたくないし。
リアルもネットもぼっちのあたしにしては、変な話だけども。
◇
「ん~! ナポリタン、美味でした……っ!」
「そうなんですよ、カフェと言えばナポリタン。ナポリタンと言えば和風スパゲッティの王道。食べたことがないなんてカフェの損ですよ」
「それでは、今度はヒメリ様がぜひ作ってください! 材料はナツメに持ってこさせますので!」
「いやいやいやいや、それじゃナツメさんに殺され……」
「ん?」
「なんでもないです、作ります」
何かとナツメさんをちらつかせるのは本当にやめてほしいと思うこの頃。
アメリアさんが彼女のことを気に入っているのは分かるけど、ナツメさんはあたしのことを何か害虫としか見てないんじゃないだろうか。
まぁ出会い方が出会い方なわけで。警戒しないのは無理があるか。
「それではわたくしはここでログアウトさせていただきますね。本日はありがとうございました!」
「うーい! あーしのこと友だちって言ってくれて嬉しかったよ!」
「はい、わたくしもです!」
そんな軽い会話をポンポンと弾ませながら、アメリアさんはログアウトした。
さて。あたしもさっさとログアウト。もとい逃げる準備を……。
「先輩は逃しませんよ?」
「ですよねー」
まぁ逃げようと思えば逃げれるけど、今度はバイト先で本当に逃げ切れなくなりそうだからこの辺が潮時ってことでいいか。
NPDのカフェ店員にカフェオレを注文。エマさんも続いてアイスティーを注文した。
ここからは二回戦目って感じだ。
「嘘つき姫のこと、掲示板で調べました」
「まぁ、出てくるよね」
嘘つき姫。
それはあたしの忌み名、みたいなものだ。
人には人の数だけ過去がある。あたしは特別それが黒歴史なだけ。
「元ランカーで、個人ランキング459位の強者。それがヒメリさんでいいんですよね?」
「うん、間違いないですよ」
「じゃあ、この……。その……」
「いいよ別に。元マスダイバー、って話をしても」
あたしの戦績は大したことはない。
459位だってかつての最高ランクであり、同時にマスダイバーとして活動してた時の最高位だ。
その時に付いていたあだ名が数字をなぞって地獄姫。嘘がバレたから嘘つき姫。そんなところ。
「GBNにとっても終わったことだし、あたしにとってももうどうでもいいことだし。まさか昔の知り合いと出会うとは思ってなかったけど」
「このこと、アメリアちゃんは……」
「知らないですよ。教えるつもりもサラサラないですし」
「……っ。そう、ですよね」
かつてランカーだからって、今は挑戦権を剥奪されている。
関係ないんだ、もう。だから教えても意味がない。教えたところで、役にも立たないだろう。
「それにあたし、アメリアさんにあんまり嫌われたくないですし。あ、もちろんエマさんもですよ?」
「……ちょっと。考えさせてください」
「うん。待ってる」
顔を伏せたまま。エマさんはそのまま雑踏の中へと消えていった。
あーあ。張り詰めていた息を吐き出すように、あたしは椅子にもたれかかってため息を吹き出す。
人間関係って、本当に面倒くさいなぁ。1つの失敗でこんなに悩まされるんだから。
「こんなことだったら、ブレイクデカールなんて使わなきゃよかったのに……」
やめようと考えたことはあったけど。それじゃあ過去の自分は、止まらなかったんだもんなぁ。
「はぁ。めんどくさ」
二度目のため息は誰に向けてか。
GBNは今日も動き続けている。