プリンセスダイバーズ~GBNお嬢様クラブはこちらですわ!~ 作:二葉ベス
メイドのナツメさんはせっせと仕事をしている。
何の仕事か、ってあたしの部屋を掃除する仕事だよ。
別に従者を扱き使って掃除をさせているわけではない。ただ、なんというかその……。
「どうかいたしましたか?」
「あー、いえ。なんでも……」
目の前にいる超絶美少女でありながら、恐らく箱入り娘であろう一財閥のご令嬢の家出先がここだから掃除しているだけだ。
はぁ、つら。ゴーグルを持ってワクワクしている姿を見るだけで、もう胃が痛いというか、プレッシャーでどうにかなってしまいそうだ。
きっとハマーン様のプレッシャーもこういう痛みとかそういうものを引き出しているに違いない。
あたしは宇宙世紀は軽くつまむ程度にしか知らないから、冗談はあまり多く言わないでおく。
さて、これから何をしようか、といえばGBNへの登録準備だ。
すでにダイバーギアへの登録は済ませているらしいので、後はアバターをどうするか決めるだけ。
ガンプラがどうこうは、正直まだ考えなくてもいいと思うし。
などと考えながら、ちらりとプレッシャーを感じる方に顔を向ける。
うっ。こっちをずっと見つめてる。しかも上目遣いで。何か粗相してないか怖い。
「あの、ガンプラというのはどうすれば?」
「それはー、えーと……」
「用意してください、お嬢様のご指示ですよ」
なんであたしが見ず知らずの他人のためにガンプラを選ばなければならないのか。
まぁいいけど。あたしは掃除中のナツメさんをよそに、重い腰を上げて戸棚を開ける。
そこには昔は飾っていたけれど、今は場所がなくてしまわれているガンプラたちが潜んでいた。
これでも趣味はガンプラ作りで、GBNのモブ女。このぐらいは普通にありますよ。
「はい、どうぞ。お姫様」
「……お姫様?」
「なんでもないです。こちらからガンプラを適当に取って行ってください」
堅苦しいのって、ホンットに苦手なんだよね。GBNトップ層の陽キャみたいな空気感も息苦しくて苦手だったし。
「うぅん……。その、あまり堅苦しいのは困ります。これから一緒に暮らすのですから、あなたの考える接し方でお願いします!」
苦手。確かに苦手ではあるが、それはそれで粗相があったらあたしの首が切られてしまう気がして……。うぅ、ナツメさんの目線も怖い。
嫌だよ。首チョンパにされてしまうのは。
「えっと、あの……。あはは……」
情けないことは掃除の音でかき消される。
なんというか、それでも二十歳超えてるのかってぐらい、気の抜けた曖昧な返事で、きっと桜芽さんも困ったことだろう。
良くも悪くも、あたしには周りからの期待なんてものは必要ない。あって損しかないし、なくて安心するものならば、あたしは後者を選ぶ。どうしようもなく面倒くさいから。
「え、っと……。すみません」
「いいですよ。あはは……」
年下に謝らせてどうするんだ、あたしは……。
それからガンプラを選び始めた桜芽さんであったが、なんとも芳しくない声を上げながら、次々と左の確認済みのエリアに置いていく。
宇宙世紀系はなし。最近のSEED系でもOO系でもなし。
お姫様に鉄血系なんてないと思うし、まさかのW系とか? X系も捨てがたいけれど、あの辺ってあんまりプラモ化されてないんだよなぁ。
ガサガサと漁っていくうちに、どうやら1つ目ぼしいガンプラを見つけたらしい。
「このガンプラは?」
「ガンダム水星の魔女に出てくるミカエリスというMSですね。乗ってるやつは畜生みたいなやつですが、その性能は本物です」
「なるほどぉ……。あっ! 右腕取れちゃいました!」
「あ、えっとそれは元々有線で動かせるような設計がされてましてですねぇ……」
なんかめんどくさ。どうしてよりにもよってミカエリス選んじゃったんだこの人。
水星の魔女系列ならそれこそエアリアルとか、ダリルバルデとか……。うーん、どれもメカニカル臭いか。
言われてみれば騎士みたいな顔してるし、意外なことにそこで琴線に触れたのかもしれない。
「っ! これにしてみます!」
「あっはい……」
テンション上がってキラキラと目を輝かせているところ申し訳ないけど、まだログインできないですからね。アバター作れてないでしょ、お姫様。
「よ、よしっ! 頑張ってアバターを作ってみます!」
「は、はいっ!」
どんなアバターなんだろうとかは気になるけど、とりあえず一旦区切りがついたのであれば、寝てもいいかな、あたし。
エネドリにストローを差してチューチュー吸っていたら、ちょっと目が覚めてきてしまって、寝付けそうにもないのだけど。
とりあえず。打ち首にはなりたくないし、今日のバイトは休んで桜芽さんにGBNを案内するとしよう。
午前8時。あたしはバイト先に休みの連絡を入れるのであった。
年下に怯えがちの24歳アルバイター