プリンセスダイバーズ~GBNお嬢様クラブはこちらですわ!~   作:二葉ベス

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第33話:わたくしたちは、同じですのね

 いつもの海辺でぼんやりとエナジードリンクを飲みながら、思考にふける。

 アメリアさんの親、桜芽財閥はいったい何を考えているんだろうか?

 家出したのは本当に数ヶ月も前のこと。それまでナツメさんが抑えていたとはいえ、そんなに家出した自分の娘を放置するなんてことがあるのだろうか?

 

 頭の中に薄っすらと、ネグレクト、というワードがよぎる。

 話によればロザリーという姉が次期当主候補であること。つまり長女の育成にチカラを入れていたのであれば、妹であるアメリアさんは最初から政略結婚のための体の良い駒だったことになる。

 

 確かに、家出もするかもしれない。

 自分が大切にされているのか分からない状態を十数年も続けて、見知らぬ相手との結婚をさせられると言われて。

 アメリアさんはどんな気持ちで、こんな待遇を受け入れていたのだろうか。

 考えれば考えるほど、同情という感情が浮かび上がってしまう。

 

「嫌だよなぁ……。こんなの」

 

 自分の人生に、生まれた意味があったのだろうか。

 そう考えて自分探しの旅に出る人がいる。子どもから大人にかけて、そんなものは摩耗して……。

 それで好きな人、物を見つけ、それに意味を見出していく。

 

 アメリアさんはそれを最初から奪われているものだ。

 考える意味などなく、最初から敷かれたレールの上を走るだけ。

 親の、言うことを聞くだけ。

 

 あたしに、いったい何ができるだろうか?

 

「あ……」

「ん? あ……。アメリアさん」

「あはは、はい」

 

 そんな立ちはだかる問題を抱えている本人が不意に声をかけてきた。

 前回はフレンドの居場所を探して見つけたと言っていたが、あのあとその機能はオフにしたはずだ。

 それでは今回はどうして……?

 

「あ! ち、違います! 今回は、その……。考え事をしたくてここに……」

「……あぁ。そっか、アメリアさんも気に入ったんですね、ここ」

「はい。……隣、いいですか?」

 

 もちろん。拒む理由などない。

 手でその場を叩いて誘導する。

 

 ゆったりと、引いて押して。

 波の音が騒がしくなく、ただ静かにあたしたちを見守っていた。

 何から話せばいいだろう。

 

 あたしのこと。

 

 アメリアさんのこと。

 

 2人とも隠し事を抱えたまま、偽りの絆を結んでいる。

 普通の関係ならそれでいいのかもしれない。でも、あたしは……。

 あたしは、アメリアさんとどう在りたいんだろうか?

 

 沈黙が波の音を響かせる。

 静かに。だけど、見守っている。

 どうすればいいか。じっくり、考えてほしいと言っているみたいに。

 

「…………」

「…………」

 

 気まずい。

 けれどいつかは話さなきゃいけない。

 今までも楽しかった。あたしにとって偶然だった出会いだったけども。

 それでも、1人だったあたしがGBNに戻ってこれて、妹みたいに大切に思えて。

 

 だからこれからも。いつまでも一緒にいたい。

 そのためには自分の腹を、過去を……。

 

「すぅ……はぁ……。アメリアさん!」

「は、はい!!」

 

 大丈夫。大丈夫じゃないけど。

 だからってもう、逃げたくない。

 

「アメリアさんには、あたしのやらかした過去を知ってほしいです」

「……っ?! それって」

「嘘つき姫の話です。どうしてみんながそういうのか。あたしのことを、恨んでいるのか」

 

 どんなに勝ち進んでも、どれだけ撃墜しても。

 上は果てしなく遠く、天井は、空は……。あたしの翼ではもうそれ以上飛べそうになかった。

 プレッシャーに押しつぶされたあたしは、ブレイクデカールに手を染めた。

 もっと勝てるように、周りの期待を受け止めて空に飛べるように。

 

「結果は個人ランキングの昇格戦。防衛しようとしたところで、ガンプラが暴走。そのままチートバレして謹慎期間とランキング戦への永久追放処分になった、って感じ」

「それは……」

「うん、あたしが全部悪いんです。期待に答えられなかった、強くなることから、逃げたから……」

 

 やっていることはその辺の初心者狩りと同じだ。

 強くなって弱い者をいじめる。昇格戦においても、そんなもんだ。

 

「……ヒメリ様」

「ごめんなさい、隠してて。でも……」

 

 あたしは……。

 

「嫌われたくなかったんです。アメリアさんに、あたしが元マスダイバーだって。卑怯者だって思われたくなくて……」

 

 スッキリしたわけではない。ただ自分の泥を吐き出しただけ。

 なんだったら、あたしは許してほしいのかもしれない。

 我ながら、年下相手に恥ずかしい真似をしている。本当に、嫌な女だ。

 

 沈黙が、つらい。

 薄い膜がずっと続くような時間。

 息苦しくて、吐き出した息が跳ね返って身体にまとわりついて。

 だけど、でも……! 耐えなきゃいけない。これは自分に課さなければいけない業だ。

 

 1つ。アメリアさんが深呼吸をする。

 決意を明らかにするみたいに。何かを伝えようと、その準備を。

 

「……ヒメリ様は、わたくしと似ているのですね」

「え?」

「わたくしも……。期待に答えられなかった側なので」

 

 それはあたしが想定していたよりも複雑で、少女が背負うには重い重い足かせだった。

 

「ヒメリ様がどこまで知っているかは存じ上げませんが、わたくしは桜芽財閥に生まれ、当主になるべくあらゆる教育を受けてきました」

 

 知識を頭に入れ、所作を身体に叩き込み、財閥の当主となるべく周りの期待を一身に背負って……。

 

「でも姉のロザリー様は、何事もわたくしの上を行く文字通り天才のような方でした」

 

 周りの期待が失望に変わり、それでも頑張って、頑張って頑張って頑張って……。

 次期当主を決める会議、選ばれたのはロザリーの方だった。

 

「わたくしはその時点で用済みになって、政略結婚の道具となる予定でした」

「それで、家出を?」

「……お恥ずかしい話です。わたくしは、怖かった。知らない人の結婚相手となって、抱かれる将来が。生まれた意味なんて最初からなかったみたいで」

 

 およそ考えうる、最悪の運命。

 自由なんてものは本当に何もなかった。生きている意味さえも、なにも……。

 そんな絶望の中でナツメさんと家を出て、あたしと出会って。

 

「だからヒメリ様と同じです。逃げたのです、自分の過去から。定めから」

 

 あたしは勘違いしていたのかもしれない。

 お嬢様だから、ご令嬢だから自分の思いのまま人生を謳歌できるものだと。

 アメリアさんは、あたしが考えている以上に孤独だった。窮屈で、定められていて。

 だからあんなに楽しそうにしていたんだ。自由が嬉しくて、初めてが楽しくて。

 

「うん、同じだ」

「だからわたくしにはヒメリ様を責められません。それに過去がどうであれ、今のヒメリ様しか知りません。優しくて、少しトゲがあってもちょっと心地よくて。これが本当のお姉さんなのかなって」

 

 夕陽が優しく彼女の顔を照らしてくれる。

 赤く染まっていて、恥ずかしそうにはにかむ柔らかい笑み。

 あたしの話を聞いて、自分の過去を教えて、それでも笑ってくれる彼女に少しだけキュッと胸を締め付けられる感覚がした。

 

 妹みたいに見ていたこの子が、アメリアさんがあたしよりも強く見えた。

 その笑顔が、次の瞬間には消えてなくなりそうな危うさが、より強く実感する。

 守りたい。そばにいたい。あたしの中で、アメリアさんの存在がどんどん大きくなって。

 

 手放したくないわけじゃない。ただ、幸せであってほしい。

 人として、自由に笑って、喜んで。愛を知ってほしいと。

 

 あたしも、覚悟を決めた。

 

「アメリアさん、あたしは絶対アメリアさんを守ります。何があっても」

「それは……。ヒメリ様を巻き込むわけには……」

「これはあたしのワガママです。アメリアさんと一緒にGBNを遊びたいっていう口実。あたしがアメリアさんを巻き込むんです!」

「……ふふっ! 強引ですね」

 

 あたしの中で、アメリアさんが強く輝いている。

 だからこれはあたしのワガママだ。守りたい。一緒にいたい。

 心の中にある感情をまだ整理できないけれど、これだけは確かな決意だ。

 

 戦う。桜芽財閥と。アメリアさんを守るために。

 

「よし! それならこれ!」

「……? これはヒメリ様がいつも飲んでいる……」

「エナドリの新味! 乾杯ってことで!」

「はい!」

 

 ぷしゅ、っと炭酸の弾ける音が気持ちよく響く。

 缶をコツっと当てて、2人で過去を共有した。

 

 自分が卑怯者だったとしても、プレッシャーが辛くても。

 お互いに、2人で一緒に遊べるように。

 

「「乾杯!」」

 

 2人だけの秘密を胸に秘めながら、あたしは決意した。

 もっと欲張りに、貪欲に。大切なこの子を守るために!

 

「まず……」

「あはは、ちょっとこれは……」

 

 今日の新味はまずかったけど、まぁこれなら思い出しやすいかな。あはは……。

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