プリンセスダイバーズ~GBNお嬢様クラブはこちらですわ!~ 作:二葉ベス
「なるほど。フォース戦で傭兵として私を採用しよう、ということですね」
あたしにはとにかく強い仲間が必要だ。
過去に因縁があったとしても。アメリアさんのためなら。
大切な、あの子のためならば。そんなプライドはゴミ箱にでも捨ててやる。
「3つ、お受けできない理由があります」
「ミレイナさん……?」
「そちらの状況も理解しています。一人間として、私もお力添えをしたかった」
彼女は、とにかく生真面目だ。そして頑固。
これだと決めたことはまっすぐ取り組むし、自分の考えたことは決して曲げない。
そんな彼女が断るだなんて思ってなかった。誰かの大切な人が奪われる状況を良しとしないと。心の中ではそう思っていたのかも知れない。
「なら、どうして……?」
「1つ。聞けばアメリアさんは元はと言えば桜芽財閥の方。一度家に帰り、親御さんと交渉するのが最もだと考えています」
「それは……」
「同時に父親が強引な方であることも、存じています。交渉がチカラによってねじ伏せられることも」
分かっている。と口では言っている。
けれどその答えの数々はどれも否定的なものだ。
妙。何かが引っかかる。ミレイナさんはもしかして、何かを知っているのでは?
「2つ。これが最もお受けできない理由です」
「さっきから矛盾することばかり言う答えでもあるんですか?」
「はい。桜芽財閥側のフラッグとして、私が選出されました」
「はぁ?!」
つまり、何か。あたしは相手の大将を今、傭兵として誘おうとしていたってこと?
なるほど。だからある程度の事情を知っているわけだ。
思わず頭を抱えた。459位。その順位は伊達じゃない。
あたしでさえ、ブレイクデカールというニトロユニットを装備しなくちゃ到達し得なかった次元だ。
文字通り、格が違う。
「すみません。これは上から喋らないでほしい、と言われていたことだったので……」
「はぁ……。分かりました。あたしもこれ以上とやかく言いません。でも、口止めされていたのにどうしてそれを……?」
正直、昔からミレイナさんの考えていることがわからない。
この前だってそうだ。ヴァルガで再会したときはあたしも動転していたが、よくよく考えれば挨拶をしただけ。たったそれだけのことだった。
それでもあたしの過去を吐き出して消えていった。あたしにとっては恥じるべき黒歴史なのに。
「それが3つ目の理由です。本当のあなたと戦いたかった。たったそれだけです」
「……はぁ?」
なにを、言っているの?
明らかに格下のあたしに、ミレイナさんは何を期待している……?
「正直に申し上げます。私はこの戦いを打算的に考えています。あなたとの一騎打ちに利用するための」
「待って待って待って。なんでそういう話になるんですか?! そもそも、あたしはミレイナさんと比べたら……。強くもなんとも……」
自分を卑下するのは得意だ。ことGBNの、ガンプラバトルのこととなればなおさら。
けれど彼女は明確に首を横に振った。
「あなたは強い。紛れもなく。今でも」
「ミレイナさん。あんたは誤解してますよ。それはブレイクデカールで誇張した強さ。本物なんて、大したことはないですから」
「……本当に、そうでしょうか?」
そういうと彼女は近くの座れる場所に腰掛ける。
交渉は完全に決裂した。だから今から行われるのはただの雑談と言ったところだろう。
昔のよしみで、なのか。せめてもの償いなのか。
でもあたしもミレイナさんを。彼女をちゃんと知りたいと思った。
よく分からないままは、なんとなく嫌な気分がした。
誘われるようにあたしは彼女の隣りに座った。
「459位。地獄姫と呼ばれていたあなたのことを、私は尊敬していたんです。堅実で、冷静で。無謀な相手には硬く防御を紡ぎ、一瞬の隙を逆転の勝利に変える。それは当時ブレイクデカールを使っていなかったあなたがよく戦術として組み込んでいた粘り強さの秘訣でした」
昔の戦い方なんて、よく覚えているものだ。
確かに昇格戦の途中まではしっかりとした地に足のついた戦い方をしていた。
周りからはつまらないなどとも言われていたけれど、それでも順調に順位を上げて。それから……。
「あなたはマスダイバーとなった。ある時を境に、大胆な戦い方で相手を圧倒するチカラに物を言わせた暴力的な戦いに変わっていました。私はその時からブレイクデカールを使っていたんじゃないかと、感じていました」
「もしかして、マスダイバーとして通報したのは……」
地獄姫としての防衛戦の最中。
急に画面がブラックアウトし、GBN人生が幕降りたときだ。
後から知った話だったが、一般ダイバーの通報によりあたしはゲームサイドから強制ログアウトさせられたのだと。
「はい、私です」
「……そう、ですか」
返す言葉もなかった。
要するに、見苦しい戦いを見るのは飽き飽きだと、そう言いたかったのだろう。
しかし、彼女の次の言葉はそれとはまったく真逆の答えだった。
「私は、ヒメリさんの本当の強さを見たかったから通報したんだと思います」
「本当の、強さ……?」
「順位が高い、低い。そんなのはどうでもよかった。私はただ、あの芸術の域にまで達していたヒメリさんの戦いをいつまでも見ていたかったのです」
「だから、通報したんですか?」
「はい。見ていて、辛そうに見えたので……」
は、はは……。あたしは存外、分かりやすい人間なのかも知れない。
見ていて辛そうだったから通報して、正気を取り戻そうとした。
間違ってない。全然間違ってはいないけど……。
「ミレイナさん」
「はい、なんでしょうか?」
「あんた、不器用すぎませんか?」
「残念ながら、よく言われます」
昔から変に付きまとわれるだけの鬱陶しい少女だと思っていたんだけど……。
まさかそんなところまで性根が不器用だなんて、分かるわけないじゃん。
「私も後悔したんです。あれ以降顔を見せず、引退してしまったのだと思って自分を憎みました」
「それは、ごめん。フレンド全員切ってたから」
「いえ、いいんです。こうしてまた再会して、ちゃんと言いたいことも言えましたから」
不器用で、不器用すぎて。ただまっすぐに、愚直に。
だから誤解していたのだろう。だから苦手意識があったんだと思う。
けれど、今のあたしには、何となく今回このような選択をしたのかが分かった。
「私もアメリアさんの件には同情しています。先方からの使命がなければ、このお話で味方につくことも考えていました」
「でもミレイナさんにとって都合がいい状況ができてしまったんですね」
「すみません。でもランカーとして、1人のダイバーとして。私はあなたに挑戦したかったんです」
それが「本当のあなた」ですか。
はぁ、こんな時に私情を持ち出して、味方になりたかったのに敵に回って。
その答えがあたしと戦いたかった、だってね。みんなあたしのことを過大評価しすぎなんだ。
取るに足らないちっぽけな元マスダイバーで。
周りより少し実力があるだけ。それでも一生懸命やってきて、這い上がってきて……。
アメリアさんと、ミレイナさんと。エマさんやコロンさんと出会えて。
――あたしはどこまでも、嘘つき姫だ……。
「何か、言いましたか?」
「ううん。その挑戦、受けて立つって話。でも条件はある。これは戦うために重要な情報」
「口止めされていたのは私がフラッグ機だということ。他は特に言われていませんので大丈夫ですよ」
「……打算的ってのは本当みたいですね」
「書面ではなく、口約束ですから。知りたいのはこちら側の兵力と数、ですよね?」
戦いに愚直。ふふっ、こうして改めて話してみれば、好意的に映るのが不思議だ。
どこまでも。どこまでも、あたしと戦いたかっただけ、か。
本当に不器用で生真面目な人だ。その割にはちゃんと頭が回る。
あたしが一番欲しい物をしっかり用意してくる辺り、ちゃっかりしてるよ、ホント。