プリンセスダイバーズ~GBNお嬢様クラブはこちらですわ!~ 作:二葉ベス
「では私はこれで」
「うん。ナツメさん、ありがとうございます」
「いえ。お嬢様のためですから」
一通りの掃除と、いつの間にか用意されたダブルベッドからは目をそらしながら、あたしも午前5時にやってきた不審者を見送る。もう二度とくるな。
「いいですか。お嬢様に何かあったときには……っ!」
「分かってます! 分かってますからー!!」
全く。一般モブ女子にそんなことを吹き込まないでほしいところだ。
ただでさえ人のプレッシャーには弱いっていうのに。
「お嬢様も、何かあったときはなりふり構わず私を呼んでください。特に夜など」
「大丈夫です。護身術は心がけていますので!」
大丈夫じゃないだろ。主にあたしの方が。
まぁ財閥のご令嬢をどうこうしようって考えるほど、あたしはそんなに行動派でもなければ、度胸もない。
だから今からこのご令嬢と2人きりになることがいかに不安か。恐らくこのメイドの女は知らないだろう。ふざけるなの一言を言ってもきっと華麗にスルーされるから、何も言わないけれども。
「それでは」
ガチャリとドアを閉められれば、隣のアメリアお嬢様のみ。とてつもなく気まずい。
なんというか。部屋の中に異物が1つあるようなもの。それがとても眩しいので目を向けずにはいられない。はぁ、眩しいって卑怯だなぁ。
「……あの。お名前は何と仰るんですか?」
「あぁ、言ってなかったっけ。シロガネ・ヒメリです」
「ヒメリ様、ですね。では早速GBNに参りましょう!」
「あ、はい」
興味津々の箱入り娘。なんとも恐ろしい。
GBNにそんなに興味があるのか、それともVRゲームがそれほどまでに珍しく見えたのか。
どちらにせよ、面倒くさいこと極まりないなぁ。断れないのが難点だから、普通に付き合うんだけどさ。
「ダイバーギアをそこにセットして……」
「はい! このミカエリス様は?!」
「ダイバーギアの上に立たせて。準備ができたら教えて」
さて、あたしもいつものガンプラを持ってこなきゃ。っていうか早朝まで起動してたから、そのままだった。
ガンダムデュナメスが基盤となり、コマンドガンダム要素を組み込んだガンダムアンタレス。アメリアお嬢様に見せるべきか見せないべきか。
うーん、どうせはしゃぐだろうけど、こことあっちどちらが楽かと言ったら……。向こう側だなぁ。
「準備できました!」
「じゃあゴーグルのモニターを下げて、グリップを握って」
「はい!」
さて、あたしも向こうに行く準備をしなくちゃ。
今は新人を案内するだけ。だからあたし自身がなんと言われようと構わない。
ま、アレから2年経ってるわけだし、知ってる人もいないか。
《GPEX SYSTEM START UP──》
いつものように視界を閉じれば、ふんわりと浮く気持ち。
こういうのを幽体離脱の感覚と同じなのだろうかと、少し疑問に思ってしまう。
でもこんな経験はいつものことだし。アメリアお嬢様には多分刺激的なんだとは思うけどね。
それから電子の肉体が形成され、意識がGBNの楽園へと落ちてきた。
「ん、んん~! はぁ! メインエントランスは久々だなぁ」
いつもは海辺を転々としながら、外部で発生するミッションを総ナメにしていくだけ。
でもまぁ、ここにいるとあんまり気分が良くないから、早くアメリアお嬢様来ないかなぁ。
と、ぼんやり考えていれば、すぐにそこに現れた。
とびっきりきらびやかなロングのゴールドヘア。
そこはリアルと変わりないのだが、真っ赤なドレスに真っ赤なヒール。
元々ハーフっぽい顔立ちだったのもあって、顔がいいのは知っていたけれど、これは……。
「あなたがヒメリ様ですね? お初にお目にかかります、アメリアです」
「あ、はい。どうも」
恥ずかしながら、年下に少し見惚れてしまった。
お姫様、という言葉がここまでしっくり来ることがあるだろうか。
少なくともあたしが出会ってきたダイバーの中でこんなにもドレスが似合っている子はいなかった。
所作が、雰囲気が、立ち振るまいが、桜芽アメリアが培ってきたものがここに表れているみたいで、とても美しい……。
「ヒメリ様?」
「あ、あぁっ! な、なんですか、アメリアお嬢様」
「そのお嬢様、というのをやめていただけますか? ここはGBNなのですから」
「あ、えーっと……。アメリア、さんがそういうのであれば……」
GBNだからってあたしたちの関係性は一般モブときらめくお嬢様以外のほかでもないと思うのだけど……。
家出するぐらいだから、きっと自分の家に生きにくさを感じていて、それでナツメさんというメイドと一緒にあたしの家に居候を決めたんだろうけど。
だからってやっぱり変わらないよなぁ、関係性って。
「ヒメリ様のご衣装、もしや今流行りの地雷系女子、というものですか?!」
「あぁ、いや。多分……」
「とてもお可愛らしいです! 桃色と黒がメインのフリルのワンピースがキュートで……っ! 若者のファッションとはまさしくこのことなのですね!」
「アメリア、さんの方が若いと思いますけど……」
やっぱり箱入り娘。このぐらい普通だろうに。
まぁ? GBNでは多少盛ってるから可愛いと言われるのはそれほど悪い気持ちではないのだけど。
GBNではかわいいは作れる。養殖ものはこうやって盛ることしかできないけど、自分の理想のかわいいを作れるのだ。我ながら理想的すぎて褒め言葉を直接受け取ることはできなかったが。
いや、だって天然の美少女が目の前にいるんだもの。GBNのアバターで補正が掛かっていようがいまいが、その雰囲気というものは電子の体を通して出てくるものだ。世の男どもの目線がアメリア、さんに向いているのは分かっているから。
「ヒメリ様! わたくし、早速どこかへ行ってみたいです! オススメの場所はありますか?!」
「オススメの場所、ねぇ……」
それだったらいくつかあるけど、まずはガンプラでの移動を教えた方がいい気もするが。
いや、それはアメリア、さんのご要望を無視することになる。それはちょっと、あのメイドさんに怒られそうな気がするし。うーむ……。
「お嬢さんたち! 俺たちがいいところ知ってるぜ!」
「あら、そうなんですか?」
「あぁ、このウィンドウのボタンからひとっ飛びさ」
「ハードコアディメンジョン:ヴァルガ? 難しいところなのでしょうか?」
教えるんだったら、翌日でもいいか。
今はGBNの素敵な景色を堪能してもらって、それで……。
「あぁ、だが難しいところだからこそいい景色があると思わないか?!」
「それもそうですね。ヒメリ様、こちらに行きましょう!」
「え?」
アメリア、さんが考えているあたしをよそに、謎のウィンドウを押下する。
あれ、なんかこれ。聞き覚えがある。
ウィンドウを見る。行く先を確認して、ゾッとした。
その瞬間。理不尽にも格納庫を経由せず、バトルエリアに出現する2機のMS。
場所を把握して、完全に理解した。
「初心者狩りだこれぇーーーーーー!!!!」
「んん?」
目の前ではてなを浮かべているミカエリスをよそに、無数のミサイルやビーム群が襲いかかってきた。