推しの生命が儚すぎる by亡霊系転生者   作:はたけのなすび

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お久しぶりです。

創作意欲が減って、二次創作していました。
ぼちぼち再開していきます。

評価、感想、誤字報告、ありがとうございました。

では。


42話

 

 

小蒼(シャオツァン)、きみは馬車だ」

「やっ!」

「……一人で乗るわけじゃない。マーニとソルと、蒼姐(ツァンジェ)が一緒だ」

「やーあ!雨亭(ユウティン)もぉ!」

「おれは護衛だ。師匠と一緒に、きみたちを護る仕事がある」

「うー……」

「うん。あとでな」

 

 まだ幼さの残る少年は、そう言って幼い少女の頭を撫でた。

 そのまま少女を軽々抱き上げ、幌が着いた馬車の荷台に彼女を乗せる。先に中に乗った金の髪の少年と目を合わせ、頷き合ってから黒髪の少年は────雨亭はこちらへ駆けて来た。

 

「師匠、すみません。お待たせしました」

「ああ」

 

 この少年から師匠と呼ばれることにも、もう随分と慣れたものだと臨淵(りんえん)は頷く。

 初めて会った頃はどう扱っていいか測りかねるほど細く脆く、護ってやらねばならなかった少年が、今度は幼い少女に自分が護ると約束している。

 澄んだ翠瞳と光を通さない黒瞳を持つ少年を見下ろせば、あたたかい嬉しさと棘のような痛みを伴う寂しさを同時に感じ、臨淵はふと頬を緩める。

 最初はただ、憐れみから手を伸ばしただけの子どもであった。

 とうに死んでいるだろう鬼火を姉と呼び親しみ、護っている様を見てこの子は生きなければならない、生きていてほしいと感じたのだ。

 思えばそれは、いつかの自分が欲していた感情だったかもしれない。いつか誰かに、そう言われてみたかった言葉を何も知らない少年に向けただけかもしれない。

が、今となってはどちらでもよかった。

 あのときの決断がこうして誰かと旅ができる毎日に繋がっているのだから、間違いではなかったと思うのだ。

 

「師匠、どうかしましたか?」

「いや、何でもない。行こうか」

「はい」

 

 ソルとマーニが料理人として豊葦原に根を下ろせるようになるため、引き受けた護衛の仕事は隊商との旅に変化していた。

 両水屋という商家が率いる一団は、主に布を扱う商売人たちが集まって一つの隊を組んでいる。

 中から小程度の商人たちが金を出し合って商隊となり、護衛を雇って盗賊を避けて旅をするのだ。

 両水屋は商隊の中では最も大きな商家で、自然まとめ役となっていた。物言いには横柄なところが若干目についたが、頭は切れるため頼りにはされているらしい。

 護衛の雇用の差配も彼が受け持っており、臨淵と雨亭以外にも護衛はいた。

 若いどころか幼い雨亭が護衛の一員となることに難色を示す者はいたが、両水屋がこの子どもも相応に動けると言い切り押し切った形になる。

 

 加えて、駅で絡んできたあの護衛にはこの隊商の者たちは手を焼かされていたらしく、それを正面から退けたと聞いた他の護衛や隊商の面々は、雨亭と臨淵への態度を軟化させた。

 

岳任(がくじん)は腕の良い護衛だったんだが……趣味が賭博じゃなぁ」

「あたしらも両水屋の旦那も生命を救われたことがあったもんで、何度も忠告してたんだよ。なのに聞きゃしなかったからねぇ」

「あんたらに鼻っ柱を折られて、やり直してくれるのを祈るよ」

 

 共にこの仕事について長いという男女はそう言い、臨淵の影に半ば隠れるように立つ雨亭に微笑ましいものを見る目を向けた。

 

「坊主、岳任とやり合ったときは堂々としてたってのに、随分縮こまってんなぁ。得意な得物は何だい?」

「……縄鏢、です」

「ん?……あー、暗器か。珍しいモン使うんだな。兄貴の槍は教わってないのかい?」

「あ、と、おれの、て、天命宝器がこれなので」

「天命!そいつぁすげぇ!」

 

 どうやら、臨淵と雨亭を兄弟と勘違いしているらしい男の護衛の前で、雨亭は小さく見えた。

 己や蒼姐の敵に対しては、魔教の魔人だろうが刺客だろうが一歩も引かずに相対する雨亭だが、悪意も敵意もなく普通に接せる人間との距離感は、まだ掴みかねていた。

 深読みせずとも済む好意を向けられることに、慣れていないのだろう。

 なまじ敵意を感じ取れる龍の眼があるが故に、何気ない会話に戸惑っているようにも見えた。

 相手の言葉が真か偽りかを感じ取れるばかりに、一時周囲すべてを信じられなくなった臨淵にも、雨亭の戸惑いが理解できた。

 望まず得た力は、使いこなせなければ宿主を食いつぶす呪いに転じる。

 

「……俺は何度かこう言った隊商の護衛の経験があるが、この子はこれが始めてだ。が、少なくとも、魔教の下位武人を退けられる力はある」

「そうかい。兄ィさんは護衛としてどれぐらいだい?」

「十年ほどだ。豊葦原では初めてだが、メヘラスとジャジラ、塵扶を旅していた。ずっと、護衛か傭兵をしていた」

 

 背中を預けて戦う相手には、なるべく真実を伝えるべきだと思っている。

 今回はそれが上手く働いたようで、二人の護衛はすっきりとした顔で笑った。

 

「わかったよ。途中までになるが、あんたらを受け入れる。が、お前の弟の分の馬はないよ?岳任が使っていた馬一頭しか余りがないのさ」

「この子と俺が交代で使うつもりだ。俺は風に乗れるし、この子は塵扶の魔教の山で生きていた。脚腰はしっかりしている。遅れは取らない」

 

 魔教と聞いてぎょっと目を見開く二人に、雨亭が望んでそこにいたのではなく孤児で攫われたからだと付け加えると納得したように頷いた。

 

「あんな恐ろしいところからよく生きて出られたなぁ、坊主。兄さんが生きててよかったな」

「はいっ!」

 

 一転、子どもらしい笑顔を浮かべて大きく返事をした雨亭に男が相好を崩す。

 それを横目に、白髪交じりの黒髪の女がため息をついた。

 

「腕は確かだけど、あんたはどうなんだい?」

「ん?」

「弟なんだろう。そいつが危うくなったとき、あんたは護衛の仕事を全うできるのかい?できないなら、背中は預けられないよ」

 

 臨淵は素っ気なく肩をすくめ、曇りない目で女に応えた。

 

「心得ている。もし一人になっても、この子は生き延びられる。それだけのことは教えたつもりだ。隊商の馬車には、この子が護りたい者たちも加わっている。何が何でも生き延びるし、護るだろう」

「……わかったよ。あんたらは左翼を護ってもらおうか。岳任が担当していたところだよ」

「わかった」

「わかりました」

 

 即座に返答した塵扶の二人に、豊葦原の男女は頷きで返す。

 二手に分かれ、言葉通り左翼に回った雨亭を臨淵の衿を摘まんで軽々と馬の背に乗せた。

 

「あの、師匠……」

「交代だ。先にお前が乗れ」

「……はい」

 

 塵扶にいた頃に馬に乗る訓練もさせておいてよかったと思いつつ、肩に槍を乗せて臨淵は歩く。

 鞍のついた馬の背に乗った少年は、街道に気を配りつつも馬車に目を向けていた。

 ソルやマーニ、蒼姐を肩に乗せた小蒼が乗った馬車だ。

 

「小蒼が気になるか?」

「う……はい。すみません、護衛ちゃんとします」

「咎めたわけではない。お前の視線の配り方に特に問題はない。ただ集中し過ぎては疲れるからな」

「わかりました」

 

 幌がかかった馬車の中がどうなっているかは見えないが、今は蒼姐も小蒼にくっついているため賑やかではあるだろう。

 見ようによっては体を乗っ取った側と乗っ取られた側なのに、蒼姐は小蒼に優しく、小蒼も魂だけの少女を姉と呼んで慕っている。

 ただ、彼女らは微笑ましいだけの姉妹とは言えない。

 二人とも何者かの手によって歪な形でこの世に生まれ落ちた存在である上、龍神に関わりがあるからだ。恐らくだが、狙う者はいるだろう。

 その龍神に詳しいだろう塵扶の仙人も、一応旅にはついて来ている。

 干渉してくる気配はないが、鑑賞はしているのか雨亭の懐に収まったままの珠は仄かに光っていた。

 

「雨亭、その宝珠は荷物にしまわなかったのか?」

 

 塵扶の仙、夜雷と繋がっている宝珠である。

 見た目は美しい宝石を人の見えるところに出しているのは、用心深い少年らしくなかった。

 雨亭は首を縮めた。

 

「あ、ごめんなさい。この珠、夜雷様が何かして、おれたち以外の人には見えなくなっているらしいんです」

「何?」

「認識そがい、って仰ってました。それで、外に出しておいたほうが夜雷様も景色がよく見えて楽しいみたいだから」

 

 つまり雨亭は、遠い世界にいる仙人にもこちらの様子がよく伝わるように敢えて外に出していたらしい。

 それでいいのか塵扶の守護仙と思わないでもないが、契約であの世界から出られず戦いに明け暮れている夜雷にとっては、貴重な気晴らしなのかもしれない。

 とすると、千年生きるとされる仙も案外俗っぽい。

 

「……ん?雨亭、お前は夜雷とよく話すのか?」

「はい。夜雷様は、時々文字を送ってくれるので」

 

 その気になったら珠の表面に文字を浮かび上がらせてくる夜雷は、どうやらその機能で雨亭と文通もどきもしていたらしい。

 珠に認識疎外の術がかかっているとわかったのも、その会話からだとか。

 

「おれ、まだあんまり字が読めないんですけど、夜雷様はわかりやすい文字で書いてくれるので楽しくて。……最初は難しすぎて読めなかったんですけど、蒼姐が古語で喋らないでくださいって言ってくれてから、読みやすくなって」

「……」

「龍神様のこととも、最近ちょっと教えてくれたりするんです。優しくて大きくて、夜雷様はずっと一緒にいたかったって言ってました。……おれにとっての師匠、みたいな神様だったって」

 

 後半、ぼそぼそと気恥ずかし気に言った雨亭に臨淵は薄くほほ笑みを返した。

 案外に俗っぽさを残す少年仙人と、世間に揉まれて尚素直さを留めた弟子の交流は微笑ましいと思う。

 夜雷は、臨淵の何倍も長く生きている存在なのにそう思うのだ。

 

「そうか」

「あと、小蒼のこともちょっと送ってきました。龍神様との縁はあるが、今は神と分かたれたひとつの生命なのだから気にすることではないと。ただ、できるなら自由に過ごさせてやってほしいと」

「……」

「夜雷様はほんとに、龍神を蘇らせたいとは考えてない方なんですね」

 

 龍神が斃れてから、乱世に落ちたと言われるのが塵扶である。

 長い人間たちの争いの世を見ることとなる者が多いからこそ、何柱かの仙は神の復活を願ってその亡骸の欠片を集めているそうだが、夜雷はそちらに加担してはいない。

 だからと言って、別に夜雷は人間に対して極めて冷淡だから乱世をどうでもよいと思っているのでもないのだ。

 少年や少女の旅を覗き見て一喜一憂しているくらいなのだから。

 

「では、夜雷も楽しめるような旅を続けるとするか。ソルとマーニの護衛をやり遂げて、夜雷の使いを済ませたら、そのあとは蒼姐の体を見繕いたいな」

「おれもです。だけど、蒼姐を召喚して小蒼を閉じ込めてたやつらに邪魔されないようにしないと」

「そうだな。確実に、ただの人間ではないだろう。雨亭、お前もその瞳を持つ以上狙われる理由は十分にある」

 

 なだらかな丘が続く道を踏みしめながら、臨淵は馬上の少年を見上げる。

 翠の瞳はきらきらと露に濡れた若草のように光っていた。

 

「……肝に銘じます」

「うん。そうだな」

 

 ほぼ反射的に頭を撫でようとして、弟子が馬上にいるのを思い出した師匠は何食わぬ顔で上げかけた腕を降ろして前を向く。

 遠目に、今日の宿になるだろう宿場町が見えていた。

 

 




そりゃ自分を認知してくれた推しと個チャできるツール持ってたら使いたくなりますよね。わかりませんけどわかります。
でも成長期の子どもの睡眠時間削るのは許しませんから!と時々鬼火少女にガチャ切り対応されている仙人がいます。
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