個性【ママ】   作:ゴッドマザー

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個性【ママ】

昔から赤ちゃんが好きだった。

ふにふにしてて、丸っこくて、嗅ぐとミルクの匂いがして。だからこの個性『ママ』が目覚めた時は本当に嬉しかった、けど……どうやらこの個性は普通じゃなかったみたい。

 

良識あるお父さんとお母さんは私にこんな個性を人に使ってはいけませんと叱った。

 

当時5歳だった私には理解出来なかったけど、今なら分かる。私の個性の発動条件は触れるだけ。相手への同意は必要なく赤ん坊になっている間は記憶がない。そして──恐らくお父さん達はその事を知らなかったけど、私の個性は第一段階ならともかく、第二段階へと一歩踏み出してしまえば半永久的な洗脳の個性へ早変わりした。

扇動系のヴィラン向きと言ってていい。もししかるべき所にバレたら国の機関で軟禁……なんてことは流石にないだろうが、もしもの事を考えて定期的なカウンセリングぐらいは受けさせられてたかもしれない。

それか私の個性に対応出来るヒーローの活動地域内へと移り住むように強く指導されていたのだろう。

 

けど、弟も妹もいなかった私はある日辛抱たまらず、パパとママを赤ちゃんにしてしまった。

 

「ママ……」

 

当然悪意などあるわけがない。私は二人を実の両親であることも忘れて溺愛した。

するとどうだろう。胸がポカポカと温かくなって何だが胸が張ったような息苦しさを感じたと思えば母乳が垂れていたのだ。

赤ん坊にするだけなら良かったが、丁度お腹が空いていたのかママとパパはその母乳で喉を潤し、そして元の姿に戻ると『ママ』の私には逆らえなくなっていた。

 

つまり個性『ママ』の第二段階はそういうことだ。

対象を赤ん坊にして、そして自らの血(母乳は血液から出来ているらしい)を分け与えることで半強制的に母と子の契りを結ぶ。

外見的な特徴としては目の色が私と同じ蒼色になるぐらいだが、対象が赤ん坊の頃に私がどれだけ愛情を注いだかで個性解除後の好感度が前後する。

母乳を飲ませても愛していなければ、そこまで良い関係は築けない。極悪なヴィランなら命までは奪わないといった感じだ。けど、それこそ本物の母親のように接すればスターアンドストライプのような完全無欠のヒーローが私の怪我に激昂して、街ごとヴィランをとっちめてしまう。

 

 

その凶悪な個性に目覚めてまもない多感な時期に、親という最大のストッパーを失ってしまった私はすごく調子に乗った。

祖母や祖父にまでその個性を働かせ、アカデミーに通うようになると同級生のみならず清掃のおばさんにまで赤子化し、兎に角可愛がった。

 

それだけ派手に動いていたのにも関わらずヒーロー達の介入が遅れたのは、私に個性を悪用する気持ちなんて一ミリもなかったからと、変化するのが瞳の色ぐらいだったからであろう。何せここはヒーローの本場アメリカ。蒼色の目をした人間なんて珍しくもない。

 

彼らが動く時なんて、時たま現れるまだ私の子供ではないヴィランに私が襲われて「よくもママを!」と憤る時だけだ。目の色が変わっているから洗脳されていて、私の言葉一つで暴動が起きるかもしれないなんて、先ず考え難い話だ。

 

中等部に上がる頃には私の子供達は百人を越え、ようやく事態の異変に気づいたヒーロー達が動いたが、それすらも私は自分の子供とした。

 

そしてやがて一つの街すらも残らず愛した後、件のアメリカ合衆国におけるNo.1ヒーロースターアンドストライプによって、私の子供達への契りは強制的に解除された。

 

元凶の私はもちろん罪に問われたが、生まれ育った環境やこれだけ大規模に拡大して、特に何か大犯罪でも起こすつもりはなかった事が証明されると、情状酌量の余地があるとして辺境の施設へと移されるに留まった。

 

子供達と離ればなれになるのには少し抵抗があったが、私はどうにも赤ん坊になっているor赤ん坊になったことがある相手ではないと愛せない体質のようで、血の繋がりの途絶えた彼らとの別れは驚くほどスムーズに済んだ。

 

 

そして新天地ではどんな可愛らしい子と出会えるのかと、そんなお花畑な妄想を護送中のバスしていたのだが、いきなり黒い渦のような物に吸い込まれた。

 

「ここは?」

 

「可哀想に……辛かっただろう?キミはあれほど多くの愛を注いできたというのに、社会はキミから親が子を愛するという当然の権利すら奪って暗い牢獄に閉じ込めようとしている」

 

そして、渦の外に出ると仮面を着けた紳士が私を出迎えるように両手を広げていた。

 

「貴方は……」

 

「僕はAll for Oneと呼ばれている。キミのように理不尽な社会に振り回された被害者であり、同じような思いをした人々の味方さ」

 

これまで会ったどの子達よりも邪悪なオーラを放つ彼。

直感的にヴィランだと私は勘づいたが、握手でもしたいのか彼が手を伸ばすものだから、その手を取った。

 

「……キミとはこれから長い付き合いになるだろう。よろしく、ゴッドマザー」

 

「ええ、よろしく()()()()()()

 

 

「え?」

 

彼にとって失策だったのは「触れる=個性を発動させる」と条件反射で動くぐらい彼女の頭がガチでイカれていたことを読めなかったことであろうか。

 

──あぁ、やっぱり赤ちゃんは可愛いなぁ

 

気付いた時には抱き上げられていた。

精神まで一瞬で持っていかれなかったのは彼の生きた年月があまりに濃密で長期であったからであろうが、急速な意識の眩暈化と感じる飢えにはいかに彼とて抗いがたかった。

 

──ほらお飲みなさい。

 

赤ん坊になった自分の頭より大きいんじゃないかという豊満な胸が口元へと迫る。

 

「……失敗した」と内心呟いて、彼の精神は完全に退行した。

 

 

それは、魔王が(ママ)に屈した瞬間であった。

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