個性【ママ】 作:ゴッドマザー
今から数年前、アメリカのニュージャージー州で今世紀最大と言われる個性事件が起きた。
それはたった一人が約5年間。数千人規模の街の人間を全て支配下に置いていたという異例のものだった。
事件の中心となった少女は当時13歳。未成年の為、実名報道は避けられたがゴッドマザーという通り名が代わりに報道されたことで、以後彼女を指す時はそう呼ばれる事が多くなった。
これまで洗脳系の個性と言えば対象は多くても数十人程度。操作する数が増えるほど複雑な命令は出せないと考えられていたが、彼女──ゴッドマザーは個性【ママ】を使い、人々を自身の子供に
ゴッドマザーの子供となった人々は、彼女と同じB型となり蒼い目の色をしていると言うこと以外は外見的特徴に変化はない。ただ物事の優先順位の頂点に彼女の存在があり、彼女の言葉一つで何だって犯す兵隊へと早変わりする。
これが個性学者達の手によって判明した時は大変な騒ぎになったものだが不幸中の幸い、彼女には母親として子供達を愛する想い以外はなかった為、大事に至らずに済んだ。むしろ彼女の子供達だけで構成されていたその街は母に迷惑を掛けないようにと外部からの犯行を除いて軽犯罪の一つも起きなかった仮初めの平和を築いていたほどだ。
それ故、スターアンドストライプによって彼女の個性が解除されたあとは当然のように街の治安は悪化。いや元に戻ったと言うべきか。仮初めの平和を謳歌していた市民達からすればありがた迷惑という話であっただろうが、反対にそれだけ強く大衆の意識をコントロールしてしまう彼女の個性を恐れた人は多かった。
ゴッドマザーは強力な個性に振り回された被害者だ。
だが、そんな彼女を野放しにするわけにはいかないと合衆国の上層部は決議し、人口数十人ほどの片田舎へと彼女は追放されることが決定した。
当然、親族等の付き添いはなく。電波や交通の便も殆ど通っていない。彼女の個性のリスクを考えてか監視が着くことはなかったが、いつでも居場所を把握出来るように彼女の手首にはGPS機能の付いたチップが埋め込まれることとなった。
これにはスターアンドストライプを筆頭としたアメリカのヒーロー達は流石にやり過ぎだと訴えたそうだが、その意見が届くことはなかった。
そして人々の記憶から事件が薄れ始めた頃。
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「よーい子よ、よーい子よ……ねんねし~な~」
ゴッドマザーはAFOの手により日本へと招かれていた。
腕のチップは当たり前のように偽造され、今も片田舎にいることになっている。
そして今は赤ん坊となって、安らかに眠るAFOをあやしていた。
「おい母さん」
「……あら、トムロ。どうしたの?」
「先生と話がしたい。元に戻せ」
まだ日本語の発音は怪しいがヒアリングだけなら完璧である。そんな彼女は死柄木弔からの言葉に一瞬眉を歪め、「貴方が望むことなら…」と名残惜しそうにAFOを手放した。
「グッ!?ゴホッゴホッ!!!」
すると傷一つない赤ん坊は瞬く間に成人男性へと成長し──顔の皮膚が剥がれ、鼻が削げ落ち、目が潰れた。
個性の効果が解かれたことにより、副次的に無かったことになっていた彼の障害が再発したのである。
これには堪らずAFOも苦しそうに喉を抑えるが、慣れた手つきでゴッドマザーがマスクを被せると、数秒して肩を撫でおろし立ち上がった。
「ありがとうママ、いつもすまないね」
「……ごめんなさい。ワタシにはこうすることしか出来ないから」
彼らが出会って以降、生きるだけでも外部からの援助が必要不可欠だったAFOを彼女が不憫に思い、よく赤ん坊にしているのはこの組織内では周知の事実である。
そして度重なる『ママ』からの愛を受け、最早AFOの精神は彼女の呪縛から未来永劫逃れられないレベルにまでなっているが、それを悪いことだとは彼は
「やぁ弔。今回は随分と手酷くやられたようだね」
「あぁ、簡単な仕事だと思って油断した。だがターゲットは殺した。早く次を寄越せ」
死柄木弔……自分の次の器になる予定だった彼を最近後継として本格的に育て始めたことは彼女の影響のせいだとAFOは自覚している。弔が
彼女の個性の支配下にあるせいで、思うように事を運ぶことが出来なくなっている。お兄ちゃんとして弟の世話をすれば彼女が喜ぶからと余計なことをして、色々な計画に支障が出始めていた。昔の自分ならこれを解決するべく即座にゴッドマザーを排除していただろうと頭の片隅に浮かんだが、今は彼女の言いなりでいい。いやむしろ何をして欲しいか積極的に言って欲しいとAFOは本気で思っていた。
「そうか……なら次は個人ではなく組織を相手して貰おうか。その為には先ずは仲間を集めないとね」
「仲間……脳無じゃダメか?」
「あぁ、ダメだね。キミが一人で造り上げるのならともかく、僕たちの力を借りるようなら、それはズルだ」
「……なら黒霧に伝えとく。あと仲間になった奴は母さんの力を使わせて貰うが、構わないな」
「えぇ。トムロが望むなら」
あまり僕の計画の為に兄妹を増やされても面白くないのだが、ママが了解したのなら仕方ない。と納得する。
「じゃあな母さん」
「何だ、もう行くのかい?」
「あぁ、ここにいると……俺まで腐っちまいそうで嫌になる」
折角の
「えぇ。貴方が望むなら」
息苦しかったマスクを脱ぎ捨て、ママの懐に抱かれ、微睡む意識に身を任せる。
『そうだ。彼女の個性と僕のコレクションを幾つか組み合わせれば可能だとは思わないか?ドクター』
『可能といえば可能だろうが……正気か?』
『あぁ、これは僕がママの本当の子供になるまでの物語だ』
時が来れば弔に魔王としての椅子を一時譲り渡し、ママの個性で本当にママの子供へと生まれ変わる。
そうすれば器の問題も解決し、弔が老いればまた自分が魔王として返り咲けばいい。
ママの強力な個性があればこれよりもっと確実な手段はあるが、これ以上に幸せな未来はない。うん、何よりママを悲しませなくて済むなんて、なんて素晴らしいんだと……すっかりマザコンと化した魔王は幸せそうに眠りについた。
「よーい子よ……よーい子よ……ねんねしぃーなぁ…………………………足りないなぁ」
親の心子知らずとはよく言ったものである。