個性【ママ】 作:ゴッドマザー
そこは小さな宝箱。
悪い大人たちの玉手箱。
お人形、ぬいぐるみ、ふかふかのベッド。
女の子が大好きなものでいっぱい。
「エリ、時間だ」
だけど宝は全部、大人達のもの。
お人形もぬいぐるみも宝箱の中身を売り捌いて、適当に宛がわれた物でした。
ちぎって、ひねって、ぐちゅぐちゅとかき混ぜられて、今日も彼女は泣き叫びます。
何故かって?
宝箱の中身を増やす為です。
彼女は特別でした。この個性社会において破格の力を持つ選ばれし者でした。
彼女の血肉は個性を強化し、破壊することが出来ます。
彼女の血肉は他者の細胞を若返らすことも出来ます。
ヒーローになれば、さぞ活躍しただろう。なんて範疇では収まりません。彼女の個性ならば新興宗教の教祖となり国家を牛耳ることも出来たでしょう。
けれどこれだけ凄い力を悪い大人達が見逃すわけもなく、幼い彼女は捕まって、搾取される毎日を送っています。
いったいいつまでこの地獄は続くのだろうか?
「永遠だ。親父が死んでも俺が死んでもお前はうちの組が有る限り永遠に使い続けてやる」
逃げることも、拒絶することも出来ません。
彼女の心はもう限界。諦めて意識を手放してしまいましょうか。
「な、誰だお前ッ──ばぶっ!」
「赤ん坊になった!?ヤバいッ──おぎゃあ!」
「若!若ぁ!!!──びぇぇぇぇ!!!」
…………え?
男の悲鳴が聞こえたかと思えば、赤ん坊の鳴き声に変わる。そんな奇妙な現象が目の前で起こる。
ひとり、ふたり、さんにん、彼女をいじめていた大人達が次々と黒い手に引っ張られて消えていきます。
何かが……いる?
彼女は暴れても抜け出せないように研究室のような場所で拘束されていましたが、スポットライトの当たらない暗闇の奥で何かとてつもないが起こっているのは理解出来ました。
「い、いったい何が起きてるんだ!」
最後に残った大人は怯えて銃を取り出しました。
「もーいーかい」
「ヒイッ!」
伸びてくる黒い手に発砲する。黒い手は力を失ったように地面に落ちました。
「もーいーかい」
バンッ!
また黒い手が伸びて、撃ち落としました。
「もーいーかい」
「何なんだクソっ!」
どうやらこの黒い手は幽霊でも化け物でもない機械の腕らしい。
捕まったらヤバいが、撃ち落とせることに大人は少しばかりの冷静さを取り戻して、「もーいーかい」間延びした女の声に耳を傾けることにしました。
「どこの鉄砲玉だ!うちの組に手を出してどうなるか分かってるのか!?」
「もーいーかい」
「おい糞!聞いてやがるのか!」
「もーいーかい」
「全部撃ち落として、てめぇの顔面、すりおろしてやる!」
「もーいーかい」
バンッ!バンッ!バンッ!
どうにも実体の掴めない女と機械の腕。弾数が減っていくごとに大人の余裕はなくなっていくようでした。
「もーいーかい」
「クソッ!クソッ!クソッ!」
どうやら今ので最後の弾だったようです。銃を投げ捨ててパイプ椅子を盾のように構えた大人。彼はエリの横にある怪しげな機械をカタカタと操作し出しました。
「こうなったらここを爆破してでも、逃げ」
「おい、待て待て!早まるな!」
「そんなことしたら若に殺されるぞ!」
そんな時です。黒い手に引っ張られた大人達が戻ってきました。
「は?お前らなんで無事で?」
「何でってお前が全部撃ち落としてくれたからだろ?」
「赤ん坊にされた時はどうなるかと思ったが助かったぜ」
「……倒した、のか?」
そう言えば先ほどから声が聞こえません。もしかしたら武器がなくなって逃げたのかもと考えて、彼はぐったりと地面に体を預けました。
「は、はは!お前ら俺に感謝しろよな!」
「「もーいーよ!」」
その手足を
「は、何の真似だよ?」
「悪い。母さんの為なんだ!」
「こうでもしないと母さんが怪我しちまうかもしれねぇじゃないか」
ひたり、ひたり
暗闇の中からこちらへと歩み寄るような音がする。
「お前ら!やめろ!離せ!離せよ!」
まるで、いつもの自分を見ているようでした。
彼女がどれだけ泣き叫んでも、ちぎるのをやめない大人はみっともなく暴れて泣き叫んで、理解の出来ない恐怖からおしっこを漏らしてしまいました。
ひたり、ひたり
暗闇の中から人が、女の人が現れた。
「ひぃっ!!」
まるでお母さんみたいだと、彼女は雰囲気だけで判断して他人ごとのように思うが、どうやら大人には外見的特徴を判断する余裕は残っていないようでジタバタと暴れます。
「な、なぁ!何をするつもりなんだ?洗脳?造り変えるのか?い、良い個性だな!き、強化したくないか!?そうだ!俺を助けてくれたら薬を融通しても」
「もーいーかい?」
「や、やめろ!やめて!やめて!嫌だ!嫌だぁぁぁぁぁ!!!!!──ばぶっ」
その人は近づいて、触れるとなんと赤ん坊になってしまった。
「びぇぇぇぇ!!!」
「ほーらよしよし。お腹が空いてるのね……」
そして慣れた手つきで誘導されて、おっぱいを飲んでいる。
そこには先ほどまでの怯えた様子はなく、心の底から安心しきっているような表情だった。
ぐぅぅぅぅぅ
「あら?」
そう言えば、今日は朝から何も口にしていない。
彼女のお腹が鳴ると、女も気づいたようでこちらと目が会う。
いったい自分はどうなってしまうのか。
彼女には分からない。分からないが、女のおっぱいを美味しそうに飲んでいる赤ん坊を見て、自分もあぁなりたいと思った。
「うちの子になる?」
「なりたい」