個性【ママ】 作:ゴッドマザー
死柄木弔の個性は崩壊だが、それがAFOによって入れ換えられた偽の個性であることを知る人間は少ない。
幼少期に目覚める前の個性因子を奪い、ドクターに作らせた欠陥品の個性を無理やり植え付けたられたのだ。
身体に合わない個性は慢性的な痒みとストレスを与え、それが彼の精神を歪めることになり、そして前の家族を崩壊させる要因となってしまった。
「ばぁぶ」
「トムロの乾燥肌は本当に酷いわね」
赤ん坊になった弔が顔を掻こうとするのでそれを抑える。
そしてパチリ、パチリと伸びた爪を切っていくゴットマザー。
「これ、どうにもならないのかしら?」
「だばぶ(うぅん。僕には分からないねぇ。今度ドクターにでも相談してみようか?)」
彼女はその過去を知らないなりに思い付く限りのことをしてみたが、当たり前な話、症状が改善することはなかった。
そして今は弔の番だからとサポートアイテムの腕の中で転がるAFOはその事についてはぐらかした。
何もかも知っていて、それどころか彼の症状を改善出来る唯一の人物でこそあるが、ママの子供になったと言っても人間性が軟化するわけではないということだ。
弟が死んでしまってはママが悲しんでしまうと器にするのを諦めただけであって、死柄木弔という駒の利用価値は未だ十二分にある。だから秘められた過去も偽の個性についても教えるつもりは更々なく、彼から弔にしてあげることと言えば二代目魔王として機能するように試練を与えて成長を促すぐらいである。
勿論それも、三代目魔王として自身が返り咲くまで椅子を守りと通してもらう為だけの暫定的な地位だ。
「そう?確かにパパはお医者さんだし……何とかしてくれるかしら?」
「だぁぶ(ドクターが父親役かぁ……慣れそうにないね)」
保湿クリームを気持ち良さそうに受け入れる弔を不安そうに見つめるマザー。
「弔……ごめんなさい。だめなママで」
「ばぶぅ」
それを見て、AFOに本来ない筈の罪悪感が疼く。
今すぐにでもママの不安を取り除いてあげたい。その為には何がいるのか。あぁそうだ、志村菜奈の死体から取り出した『浮遊』の個性のストックがまだあった筈だ。あれは弔の祖母にあたるし、恐らく弔と適合する。あれと入れ換えれば弔の症状も改善して、そうすればママも喜んでくれる...…………いや、待て待て。
自分は何を言ってるんだと、思わず頭を抱えた。
まるでヴィランらしくない考えに自分で驚く。
AFOは生まれながらのヴィランであるが、同時に今はゴッドマザーの息子である。
自分を産んだ女を育成という最低限の役目すら果たせなかった不出来な肉袋だと認識している彼にとって、恐らく産まれてはじめて余すことなく注がれたゴッドマザーからの母の寵愛は、失えば瞬時に廃人と化してしまうほど大きなものとなっていて、彼女の憂鬱は無視出来るものではなかったのだ。
理性ではこのままの方が弔は使いやすいと判断しているのに、ママの為に個性を入れ換えるべきだと訴える自分がいた。
絶対にやるべきではない。隠し通せと魔王としての意地で必死にそれを抑えた。
「せめて……そうね。赤ん坊の時なら痒みも少ないでしょうし、もっと時間を」
「だぶゅ!?(それは駄目だ!そこは僕の場所だぞ!!?)」
だがそんな葛藤がバカらしくもママを独り占めするためにあっさり陥落した。
後日、AFOはそれらしい理由を並べ、弔の『崩壊』を取り出し『浮遊』と入れ換える。祖母の個性であることもあってか、とても他人の個性だとは思えないほど馴染むようで、その場で空中浮遊をしてみせた。
「これがあれば…………母さんをもっと楽しませてやれる!」
目を少年のようにキラキラとさせて、何とも親孝行なことを言う弔にAFOは苦笑い。
かなり良くない兆候だった。この世全てに絶望し、破滅的な死生観を持つ死柄木弔。
ゴッドマザーは、今の社会に受け入れられる人間ではないので、それをちゃんと彼が理解しているなら、そのような暴挙には移ることはないだろうが、母のような人間が受け入れられる社会へと作り替えるような革命的な存在……求めていた魔王像とはまた違った成長を見せることになるだろう。
純粋無垢な悪であれば、簡単に転がせた魔王の椅子。その重みが増してしまったようだ。
あぁ何をやってるんだ僕は。なんか最近上手くいってないよな~と項垂れる。
「あら、ここにいたのね」
「ッ!ママ!」
だがそんな憂鬱な気分もママを見ればコロリと反転。
流れるようにオギャったAFOは思考を放棄して、おっぱいにむしゃぶりついた。
「……このゴミめ」
「こらトムロ!お兄ちゃんにそんなこと言ってはいけませんよ!」
今まで一度も人に甘えてこなかった反動だとでも言うのだろうか?
今日もAFOはオギャる。朝昼晩母乳で腹を満たす。
あんまりにもマザーにベッタリなものだから、兄妹達からは嫌われている赤ん坊の魔王。
最近ではそれなりの顔役と相対する時も赤ん坊のままで、マザーの顔色を気にしすぎるあまり計画が頓挫することも多い。
それでもママが幸せならOK!
逃れられない、沼の深層にまで落ちてしまった彼。不幸中の幸い、彼の心は常に愛で満たされていた。