紅魔ノ兄   作:紳爾零士

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利害の一致

パチパチと燃える音。

そこらの枝木を組み、燃やすは射命丸文。

 

「…って!?なんでアンタはなにもやらないのよッ!!」

 

「簡単な話。疲れたからだ。」

 

あの天魔とやらとの戦いで…ではない。陽光を克服するのに時間をかけすぎた。要はその時の疲労だ。慣れぬことをするものではない。

 

「…山が騒がしいな。」

 

「当たり前でしょ。…どこの誰かもわからないただ来ただけの妖怪に敗れ死んだのはこの山の絶対的王者…天魔。鬼子母神と双璧を成す怪物があっさりと負け死んだ。そうなれば、天狗たちの中で天魔を決めなくちゃならない。それで騒がしいのよ。」

 

…下された器は大変大きかったようだ。

しかし、気にはなることがある。天魔ともあろう者ならば己が相手が敵わぬならば、下す判断は冷静だと心得るのだが。余の絶対的な力の前でその判断すら出来なかったのなら話は別だが。

 

「あの小物には天魔という器は大きすぎた。」

 

「あの人は先代の亡き後に先代の血筋を絶やしたくない高齢の天狗たちによって選ばれたのよ。ことの実際は階級の裏でやりたい放題してただけ。まぁ、力だけは本物だったけれど。」

 

「余には遠く及ばん。」

 

…実際、月光差し込む夜間であればあれほど苦戦せずには済んだのだ。陽光さえなければ…と言いたいところだが、その憎し陽光のお陰で克服まで至ったのだからどっちとも言えない。結果論と言われればそこまでだが。

 

「…生き残る種というものは常に革命を起こしている。伝統なんぞに縛られてばかりでは何処かで綻びが起こる。天魔主流という部分は変わらんだろうが、天狗の自由を縛り付ける部分は無くなっていくだろう。」

 

「アンタ、それを見越して?」

 

「まさか。」

 

驚いたような顔の射命丸文に鼻で笑って返す。

無論、そんなことまで頭が回ったわけでも、してやる義理もない。なんなら今、射命丸文を連れているのは…。

 

「…汝を連れているのも天狗たちにとって汝が重要な存在であると判断し、人質として連れているのみ。余はヒーローでもなんでもない。奴が余を愚弄する故に消しただけのこと。」

 

「…アンタって子どもみたいね。」

 

「なんだと?」

 

「あれもやらない、これもやらない。でも、馬鹿にされたらすぐ怒る。…なんか、子どもみたい。」

 

笑いながらそう言う娘に小首を傾げる。

頭にあるのは疑問符だ。親からの寵愛など覚えていない余が子ども扱いされるなど…それこそうん百年ぶりだ。もう覚えてすらいない。皆、恐怖する。そこを歩けば妖怪だろうが人間だろうが…恐怖する。

 

くすくすと笑いながらそう言う射命丸文には不思議な感覚を覚えた。馬鹿にされているのに嫌悪しない。

 

「…汝、いつ殺されてもおかしくない立場なんだぞ。」

 

「前言撤回。全然、化け物だったわ。」

 

そう。余に相応しいのは子どもよりも化け物という冠言葉。それでいい。

 

「…いかに頑張ろうと生物として吸血鬼と天狗は差が激しいだろう。お前と余も天と地ほどの差だ。」

 

「アンタの減らず口は無くなりやしないわね。ええ。そうよ。能力を持っていて一線級に出ていてもあんなの見せられちゃ、勝てるビジョンなんて見えやしない。アンタなら鬼にも勝てる。」

 

…偉く端正な顔がこちらを向く。

妹らには遠く及ばないが、この女も美術品級に綺麗である。…そのぐらいの感想だ。

 

「…余も吸血“鬼”ぞ。」

 

「鬼は剛力の怪異。力の神、鬼子母神をトップに置いてこの辺りを根城にしてる。最近は…人間達の奇行に頭をやられててね。天魔様…元天魔様も危惧してた。…だから、アンタとはまた違う。」

 

「力だろうが知だろうが余に勝る者は片手の数も居ないだろう。」

 

呆れたふうに息を吐く射命丸文を他所に、水を一口。

 

「アンタは謙遜を覚えなさいよ。」

 

「余は余だ。」

 

「…そういえば聞きたかったんだけど。なんで私を連れてきたわけ?アンタなら道なりに歩いて何処へ行ってもどうにかなるでしょ。」

 

長い黒髪を束ねながらそう聞いて来る射命丸文。天狗の装束なのか、黒いスカートからは白い脚が見える。

 

「なんでと聞かれてもな。土地勘の無い旅は年を跨ぐ。最短で行くのにはそこに詳しい者を捕まえるまでだ。」

 

…放浪はそれこそ時間感覚を失う。妖怪の時間は無限に近い。放浪すれば時代が変わるのも稀では無い。…父からの良き教えだ。時間は有限、無駄にするなと。後悔しない生き方を探せと。無限の命を持つ余達には生き方を考えるという脳がない。父があった人間達からの想いを託され、吸収している…らしい。

 

生まれや種族を隠し、宮廷詩人だった父は人間というものを理解しようとした。…殺したのは人間だったが。

 

「…余は生き方を見つけたい。妹らと平穏無事に生き、彼女らの成長をこの目で見たい。その為に仇なすものはすべて…兄たる余が消す。だからこそ、その未来の為の時間は最小限でなければならないのだ。」

 

「そ。…ところでさ。アンタのよく言う“妹”ってなんなのよ。」

 

「…なんだと言われてもな。余にとってはこの命や金にも勝る大切な者。同じ父君母君を持つまさに天使。」

 

こうしてこの東方の地に足を運んだのも、妹らに土産話を持っていきたいからというのと、余の力を知らしめ妹らに仇なす者を減らす為。

 

「へぇ。…私には家族なんていないから考えられないわ。天狗には縦の繋がりはあれど横のつながりはない。」

 

「それも汝の探究心…というやつか。」

 

「さぁね。…前も言ったけど、この世界を見てみたいのは確か。その為ならアンタの道案内でもなんでもやってやるわ。ようやく羽が伸ばせるし。」

 

…伸びをする射命丸文。

その姿は今にも飛び立たんとばかりの鳥のよう。まさに自由を目の前にして目を輝かせる。…利害の一致というものだ。

 

「ありがとう。アンタのおかげで夢が叶えられるわ。」

 

「…なるようになっただけのこと。…この先は何がある。」

 

夜道こそが我が道。

黄昏も終わり、木々が生い茂る山道は薄明かりすらもなく、まさに漆黒に染まっていた。

 

「…こっちには鬼の集落があるわ。…迂回するのが吉よ。」

 

「鬼…か。先ほど言っていたあれだな。」

 

血のせいか、或いは月光に興奮しているのか、随分と興味が湧いてきた。立ち上がる余に射命丸文が見せたのは青ざめた表情。

 

「ついでだ。その鬼とやらに挨拶をしておこう。」

 

「ちょっ、ちょっと!?アンタバカでしょ!?さっきの話は一対一の場合よ!?天狗とは比にならないのよッ!?」

 

「余は負けぬよ。…兄は負けぬのだ。」

 

「…あぁッ!!もうっ!!わかったわよ。…その代わりちゃんと守りなさいよね。アンタのせいで家にも帰れないんだからッ!!」

 

…道案内が消えればこちらが困る。

頷けば射命丸文は立ち上がり、そのまま前へと歩き出した。

 

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