紅魔ノ兄   作:紳爾零士

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違和感と革命

「俺を弟子にしてくださいッ!!」

 

…目覚めのアラームには大層心地が悪い。

古民家の一つを余と射命丸文で借り、夜を越したが、目が覚めれば布団の横にあの鬼童なる若い鬼と星熊勇儀が座っていた。

 

「…藪から棒になんだ。そもそも、汝のことを余は知らぬ。何者だ。」

 

「俺は鬼童(きどう)と申します。鬼の中でもまだまだひよっこ。でも、貴方と姐さんの喧嘩を見て痺れました。どうか弟子にしてくださいッ!!お願いしますッ!!」

 

淡い紺色の髪が畳にバサリと被さる。

…土下座…だったか。しかし、興味のそそらん話だ。

 

「興味はない。」

 

「そんなッ!!少しくらい考えてくださいよ。」

 

「…若人。人に物を頼む態度から学べ。第一、害虫を相手にするほど余は暇ではない。」

 

「私からも頼むよ。」

 

…何故、星熊勇儀までもいるのかわからない。

昨日の激戦によって、星熊勇儀は包帯だらけである。だが、もはや全快なのではと思わせるほど、元気だ。

 

「…断る。汝と余はそのような仲ではない。…それにその男は弱すぎる。余と喧嘩などすれば即刻死ぬぞ。」

 

「…まぁ、それもそうだね。気合いはあるんだけど…。」

 

ボサボサとした赤髪の短髪。顔つきもまだ幼いし、筋肉もどこか薄い。目だけは闘志に満ちたいい目をしているが、妖力は余や星熊勇儀は愚か、射命丸文にも達していない。本当に鬼なのかと理解し難いぐらいだ。

 

「余は戦争をしに来てるわけではない。…弱者の面倒など暇つぶしにもなりやしない。」

 

「…ぐっ。だったら、俺とも一本…「汝はなんの話を聞いていたのか。死にたいのならもう少し死に方を選べ。」…ッ!!」

 

…少し睨んでやっただけで萎縮する。若気の至りというものだろう。怒りが恐怖へとすり替わった。

 

「…勿論、鬼童の相手をして欲しいから来ただけじゃないんだ。…アンタとやり合ってから傷がなかなか治らないんだよ。何か…知ってるかい?」

 

そう言うとシュルシュルと腕の包帯を取る星熊勇儀。大木のような筋肉質なその剛腕に痛々しく残る裂傷は真っ赤に染まり、骨が少し見えていた。

 

「…知らん。余はまだ余の力について本当の意味で理解していないようだ。」

 

…記憶が正しければここ最近、確かにおかしい部分はあった。ダーインスレイヴを手にしたその時から、選ばれたその時からダーインスレイヴの力なのではないかと考えていた。だが、ダーインスレイヴは天魔の時にしか使っていない。

 

日の光の克服、八雲紫の出した亀裂の破壊、そして今回の星熊勇儀の言っている『なかなか回復しない傷』…。

 

「…射命丸文。聡明な汝のことだ。何か気になったことでもないのか。」

 

「一つだけ。…アンタに睨まれた時、身体からスッと何かが抜けるような感触を感じたの。まるで力でも吸われてる感覚ね。」

 

その顔からは冗談には聞こえない。心底、深刻そうな顔である。気にはなるのが、こちらにはその気が一切ないことと感じられないことだ。何かしらの予備動作…および、吸収している感覚というものも感じるだろうが…。

 

「…奴に聞いてみる必要があるか。」

 

「奴?」

 

余の言葉に射命丸文が反応する。

再び余に姿を見せるとは思わぬが、その頂上的な力が妹らに牙を剥かん保証はない。何事もまずはレミリアたちのために考えねば。その為にはまたあの胡散臭い賢者の首を掴まねばならぬ。

 

「…幻想郷の賢者、八雲紫。奴の首根っこを掴み、余の力について吐かせる。それしかあるまい。」

 

「は?…アンタね。八雲紫といえば幻想郷の中でも指折りの…「奴とはここにたどり着いた時に対峙した。」…はぁ!?」

 

射命丸文も流石の星熊勇儀もその言葉に驚愕を隠せていなかった。

 

「アイツは余に能力はないと虚言を吐いた。その後、理解していないとも。つまりは奴は余の力の一端を知っている。…ならば、捕まえて吐かすまで。」

 

…土産話でもと思っていたが、これは想像以上の冒険譚を飾れそうだ。レミリアもフランもまだまだ子ども。想像力豊かな彼女らにはいい教養になる。

 

「…とにかく、汝に構っていられるような時間はない。他をあたれ。」

 

「そんな…最短で強くならなきゃいけないってのに…。」

 

最短で強くならなきゃいけない…か。そんないい話があれば世界中は猛者だらけだろう。…と軽口を叩くほど鬼童の顔は冗談には見えなかった。だが、興味はない。

 

「クソッ!!」

 

そう叫ぶと鬼童は余の前から走り去っていった。…少しは余力を持った方がいい大人に成長するもんだ。

 

「…あーあ。…まぁ、鬼童以外の若いもんは全部革命派に吸われちまったからねぇ。」

 

「なに?そのご大層な名前。」

 

そこから何かを嗅ぎつけたのか、射命丸文が言葉を紡ぐ。陽気な星熊勇儀の顔から笑みが消え、眉間に皺が寄る。

 

「…元はこの鬼の集落の若い鬼衆だったんだ。ほら、私らの試合を見てたあの野次馬。あれよりもずっと若くて力のあるね。私や鬼子母神様は相手にもならないけど、ある一件で若い鬼たちが反旗を翻したんだ。」

 

「…()()()()?」

 

「…鬼が人に殺されたんだ。しかも騙し討ちでね。…それで若い鬼は憤慨してね。でも、鬼子母神様は表立ってそれを問題にはしたくない。人間を消せば八雲紫…いや。博麗の巫女が動き出す。そうなれば起こるのは切って切られの殺戮劇。山の実質的な長である鬼子母神様はそれで山から妖怪が無くなる危険性を感じ取った。だからこそ、問題にしなかった。」

 

要はその対応が気に食わなかった若い衆が攻め立ててきているという何ともわかりやすい話だ。そんな話は何処の国でもあった。こんな小さな村でも…ということだ。

 

「鬼子母神と山の四天王を殺し、実質的な自分がトップとなる。そうして、山の妖怪を人里にけしかける。…なんて無理な話を考えるバカがいてねぇ。それが革命派だかなんだかいって、血気盛んな若い衆を率いてるんだよ。普通なら私や他の山の四天王…それか鬼子母神様が相手にするんだけどね。…鬼子母神様は老齢、私は見ての通りの怪我だ。鬼の体は丈夫だけどそれは向こうも一緒。それに…人を食うことで妖怪は強くなる。それはアンタらも知ってるだろう?」

 

実際は妖怪が人間を襲い、恐れられるのが狙いだ。そうすればその妖怪は化けるほどに強くなる。記憶に色濃く残ることでその存在を肯定する。否定されれば待つのは消滅。忘れられることでどんどん貧弱になっていく。鬼子母神も表立って動かない慎重な性格、その姿を人間が考えることは難しい。だからこそ、だんだんと老いて脆弱になっていく。

 

「…それでも能力を持っていないアイツらが私に勝つ方法はなかった。今日まではね。」

 

「…そんなに苦戦する相手なのか。傷を負った程度で。」

 

「さっきも言っただろ?この傷は普通の傷とは違うんだ。…今でも身体中に痺れるくらいの痛みが走ってるよ。それにアイツらのボスは普通じゃない。拳で一切戦おうとしない腰抜けの馬鹿野郎だよ。…名前を大嶽丸。」

 

その直後だった。

鬼の集落の外から大きな怒号と爆音が聞こえる。

 

「…まさか、来たのか!?」

 

「その大嶽丸とやらか。」

 

…いくつかの集団の妖力…その中心により濃く色づく重なっている大きな妖力の塊がある。

 

「…どうやら面白いことになっているようだ。」

 

「行くの?」

 

「行かなきゃいけないッ!!私はッ!!…ぐっ!?」

 

…星熊勇儀ほどの強者も流石に焦っている。だが、その腹に爆弾を抱えた星熊勇儀は走ることすらままならないようだ。革命派にしては有力なこの女が倒れたことは一世一代の大勝負を意味する。

 

「…何処へ行くんだッ!!ルディウスッ!!」

 

「そう声を荒げるな。…汝らの戦争には関わらぬ。ただ珍しいものは目で捕えておかないとな。」

 

星熊勇儀の怒号が背後から聞こえる。

興味もないことには身を投じない。だが、ここにいる以上余に対しても牙を向いてくる。逃げるわけではない。…ただ見届けてやろうとは思う。

 

「…早く行かねば奴が死ぬ。来い。」

 

射命丸文を連れ、集落の外へと赴いた。


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