紅魔ノ兄   作:紳爾零士

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力の違い

「…何の価値のねえ男をよォ…守っても…無慈悲なモンだぜェ…?」

 

その言葉と共に黒刃が袈裟に落ちてくる。

 

半身引き、それを躱わすと同時、背後のナイフを二本投げる。

 

大嶽丸はそれを首を傾げ、避けると此方へと距離を潰す。

 

「…力の差のわからぬ者よ。去ね。」

 

「…すぅ〜…久々だぜぇ〜ッ…!!こんなに…心踊んのは…よぉ〜…!!」

 

飛んでくる横薙ぎの斬撃は胸を逸らして、回避。

 

その後隙に体勢を整え、左拳をねじ込む。

 

大嶽丸は物怖じせず、首を傾げるも頬から耳の前までがざっくり切れた。

 

「…こっちの攻撃はァ…当たらねェ…気づきゃあ…こっちばかりがァ…ボロボロになっていくゥ…。テメェは…どんだけ強えんだァ…?」

 

その言葉とは裏腹に奴から笑みは消えず。

はっきり言って不気味と言っていい。ただそれだけだ。

 

「…『Dáinsleif(ダーインスレイヴ)(ツヴァイ)』」

 

多数のナイフは下へと落ち、影に溶けて上へと伸びる。手に集約して同じく漆黒の二刀のサーベルへと成る。

 

「いいィ…のかい…?飛び道具…無くなっちまうじゃァ…ねぇの…。」

 

「必要ない。貴様とやり合うのには。」

 

「…すぅ〜…舐めてんねェ…。まぁ…お言葉にはァ…甘えといてやるよォ…。」

 

再び太刀の黒刃が横薙ぎに飛ぶ。

 

だが、余の二刀は防御と攻撃の剣。右剣でそれを弾くと同時、左剣を横薙ぎを撃つ。

 

大嶽丸は半身引き、避けるも胸に薄く切り傷を作っていた。それをなぞって、ニヤリと笑う。

 

「…妙だなァ…。アンタとやってるとよォ…身体から力が抜けちまう…。なんかやってんのかァ…?」

 

「ふん。…力の差に怯え、余計な妄想を掻き立てる。弱者のすることだ。」

 

「…人を小馬鹿にするのもォ…いい加減にしやがれェ…!!」

 

地面を蹴り、此方へと距離を詰める大嶽丸。

 

振り上げられた妖刀は袈裟に落ちる。

 

それを下から勝ち上げると甲高い音と共に太刀は上へと飛び、火花を垂らす。

 

「とんでもねぇ…なァ…!!」

 

「…。」

 

頸動脈を断ち切る。…この戦いに意味はない。一瞬でケリをつけよう…と思っていた。

 

「おいおいィ…急ぎすぎだァ…!!」

 

「…ほう。」

 

刃が右手の指によって止まる。

掴まれた。と同時、奴の手が発火。炎は刃を伝い、我が右腕を燃やさんと迫り来る。

 

「…いいのかいィ…このまま…燃え尽きるぜェ…?」

 

…その言葉の通り、音を立てながら右腕を包み込む炎。灼熱感と肉が焼ける香りがする。距離をとって睨み合う。…確かに痛みは感じる。

 

「その炎はァ…俺が死ぬまで消えねェ…。最終的には燃え尽きるだけだぜェ?」

 

「…だったら簡単な話だ。汝を消せば良いのだろう?」

 

…ようやく大嶽丸から薄ら笑みが消えた。

目の前にいるのは右腕が燃えてもなお眉一つ動かさない狂人。しかし、ゆっくりと着実に肩まで炎が登っているのは考慮点ではあるだろう。

 

「『Dáinsleif(ダーインスレイヴ)(ドライ)』」

 

炎を纏った右剣と左剣は下へと落ち、影に溶ける。そのままトライデントと化す。

 

「…槍ィ…?」

 

「…時期尚早と言う勿れ、汝とのやり合いはもう飽き飽きなのだ。」

 

トライデントを前に突き出す。

持ち手を軸に回転するその刺突は大嶽丸の左脚を穿ち抜いた。

 

「…ッ!?」

 

「…本来ならば、このような茶番にはあまり時間はかけぬ。…足掻いてみせよ。貴様の全てを以て。」

 

「ぐっ…。いいィ…趣味じゃあねぇかァ…。右脚だけの…相手に…やれることはやれってかァ…?…笑わせる…。妖術も…妖刀もォ…持った俺がァ…負けるかァ…!!」

 

…それでも大した精神力だ。妖刀の鞘を杖にして、立ちあがる大嶽丸。妖刀を捨て、放つのは森を焼き払わんと目の前を覆う赤々とした炎。

 

それを横へと跳んで避ける。…背後の林は間に合わなかったか。

 

「…ちょうど…いいィ…!!このまま…集落ごと焼き消してやる…!!」

 

「…させるわけがない。」

 

「そう来るよなぁッ!!」

 

…炎を封じるため、肩を抉らんと槍を横薙ぎに振るう。しかし、それを大嶽丸は転がることで回避。

 

無様だが、得策。槍は空を切った。

 

「…この世の中はァ…腐ってるゥ…。鬼は…妖怪の山のてっぺんだ…!!なのに…人間に舐められたばかりで…終われるかァ…!!何が…博麗の巫女だァ…!!ここで舐められて割を食うのは…俺たち…若い奴らだろうが…!!」

 

その言葉と共に余に火球が飛ばされる。

 

それを槍で掻き消すと次に飛んできたのは刀だった。…唯一の武器をここで手放すか。だが、驚きはない。がむしゃらになっているだけだろうと槍で弾く。

 

するとすぐさま火球が飛んできた。

 

「…鬱陶しい。」

 

ここまで来ると多芸も楽しくはない。火球を横一閃で掻き消し、前へと出る。…ほう?

 

「どうした?顔色が悪いぞ?」

 

自然と笑みが出る。

 

余裕そうに笑っているも奴の顔は真っ青で滝のように汗が出ていた。息も絶え絶えである。放っておいても死ぬだろう。

 

「…これくらい…問題は…。」

 

「…若い奴らが割を食う…か。…なら、お前たちの次の世代はどうなる?」

 

「…あ?」

 

真の戦闘者とはその心すらも叩き割る。

 

「全軍率いて博麗の巫女とやらと全面戦争をしても良い。しかし、次の世代は貴様らよりも酷ぞ?」

 

その言葉に思考を巡らさせているからか、炎を打ってこない。近づき、首に槍先をつける。奴の首を薄く切り、血がたらりと垂れる。

 

「…んなこと…俺が知って…。」

 

「だろうな。どんな殊勝な者も結局は他人の為、世のために争うと言いつつ、自らに返ってくるのを期待する。大半がそうだ。その後の未来など過去など考える者は少ない。…鬼子母神は考えた。山が潰える未来を憂い、考慮した。それが良いことか悪いことか余が問う必要はないが、いかんせん貴様は浅知恵すぎたのだ。」

 

「…なん…だと…。」

 

勝てる目論見もその殊勝な思想すらも破壊され、大嶽丸に残るのは絶望のみ。膝から崩れ落ち、息を切らすその様は惨め以外の何物でもない。

 

「…俺は…間違っていたのか…?」

 

「…たかが他人の一言で揺らぐような真理なら間違っていたのだろう。…だが、それを許す慈悲など余は持ち得ていないのだ。」

 

…次の瞬間、大嶽丸が見た景色は首のなくなった自身の体だった。余の目から見れば、血飛沫を上げる首なしの体とゴロンと転がる頭部…と言ったことか。初撃で死んでいればここまで悲惨なことはなかったろう。

 

妖怪は元来死なない。

恐れられる限り、その身体は何度も再生する。だが、ダーインスレイヴは…魂を傷つける刃。人間も妖怪も…神ですらも生まれた者は全て例外無く抹消できる。

 

…奴の身体だったものは炎に包まれ、そのまま上へと登っていく。右腕の炎もなくなった。少し黒くなっているな。肌が若干焦げている。が、問題はない。

 

さてと、集落に戻るか。星熊勇儀に報告せねば…。

 

「…すま…ない…。ありがとう…。」

 

…門に戻った余に射命丸文に抱えられた鬼童が掠れた声でそう言った。

 

「感謝される筋合いはない。余はしたいことをしただけのこと。」

 

ヒーローやら救世主やらそんな言葉は余には必要ない。ただ余は面白いと思った方向に舵を切るだけだ。

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