紅魔ノ兄   作:紳爾零士

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触らぬ神に祟りなし

「…もし、博麗の巫女と対峙したらすぐさま逃げるのよ。わかった?」

 

「くどい。」

 

玄武の沢から山を下る余に言い聞かせるように文が問う。くだらぬ問答とはまさにこのことで、もう両手で数えられる範疇は超えたぐらいには聞き飽きた。

 

「人間の中にも話せる奴は居るだろう。人里へと出れば何かしらの動きはあるはずだ。利用できるものは利用する。」

 

「あのねぇ。…アンタは知らないかもしれないけれど、博麗の巫女は最強の人間。人里に危害が及ぶならそれこそ修羅にすらなるわ。いくらアンタでも無事では済まない。」

 

…この山だけで判断するのは早計だが、妖怪は博麗の巫女をえらく危険視している。交戦的な鬼ですら博麗の巫女との争いは避けるほどだ。文の真っ青な顔はそれを表しているのだろう。

 

「…争いはせぬさ。阿呆が居なければ。」

 

無論、争っても負けはせぬ。

生きている限り、できることがある限りそれは負けではない。最後に勝つものこそが勝ちであり、それ以外は挑戦なのだ。

 

「…もうすぐ人里が見えてくる。」

 

思い立ったが吉日。…だが、そこまで遠くはなかった。旅立ってから9日と11時間…と言ったところか。見えてきたのは煉瓦造りの街並みではなく、木造の集落…直近では鬼の里でも見たあれに近い。周囲は木の柵で覆われ、いくつか…規模的には大きい屋敷も見える。

 

あれがこの里の地主のものか。

 

大きな門の周りには門番らしき者が二人。東西南北の四方にそれがあり、上から見ると町民と共に陰陽師らしきものや刀を差したものたちもいくつか見える。

 

…ん?

 

「…なに?あれ?」

 

「そっちに何が見えてんっすかぁ!!」

 

…木の下の鬼童がうるさい。

しかし、隣の文の顔を見るなり、彼女の目もその違和感をとらえたようだ。小さな影がちょこちょこと歩いてきている。しかも、人里からだ。妖力の匂いも感じない。推定…ここから人里全体はその匂いでわかるが、人間には妖力がないため、無臭だ。人間とやり合うには他のものを感じ取る必要があるのだが…。

 

「…あそこに妖怪が集まるな。」

 

「そうね。あれじゃあただの的。いい餌よ。」

 

小さな布を被った…影。

やはり、そこへと大量の匂いが集まってくる。光を目指す羽虫かの如く。…あそこで子どもが死のうが関係ないが…。

 

「あの子どもを使えば人里に恩を売れるか?」

 

「…え?」

 

「人間が住む集落を妖怪の棲家近くに作ったのだ。中には妖怪の入れぬよう細工がしてあるだろう。…よって、あの子どもを懐柔すれば人里に入れる可能性を大きく上げることになる。」

 

「…ほんと、ずる賢いっていうかなんていうか。」

 

…呆れた風にそう言う文の言葉を後ろに、飛び立つ。途中、鬼童の首根っこを掴み回収する。

 

「ちょっ!?えっ!?」

 

「…もがくな。汝の好きな正義という奴だ。鬼なら鬼らしく、その拳で主張してみろ。」

 

そのまま人里の前の子どものところへぶん投げる。振り落とされた衝撃で、鬼童の着地と同時に地面に砂煙が立つ。

 

「ひっ!?なに!?」

 

「オラァッ!!」

 

目の前から迫り来る畜生の妖怪へ鬼童は拳を振るう。

 

犬の形をしたそれは子どもの頭を食い破ろうと迫り来るものの、拳によって顎は千切れ、頭は破裂。鮮血だけが地面に飛び散った。

 

「…結構いるなッ!!」

 

「…誰…ですか…?」

 

うずくまる子供を背に鬼童が構える。一歩外を出ればそこは妖怪の棲家。その数は鬼童一人で捌き切れるものではないだろう。

 

「オラァッ!!ダァッ!!」

 

…しかし、善戦はしている。

腕は噛まれながらも、その歯は筋肉まで穿つことはなく、刺さっているという状態しか残していない。腕を振るわれ、凡夫は同族の身体を破壊し、首を鬼童の剛腕に残し、残りは血沼へと化した。

 

「こんなもん、痛くも痒くもねえッ!!殺してやるからかかってこいッ!!」

 

相手が人語を介さぬ畜生妖怪でなければその咆哮も聞いたろう。しかし、鬼童がやっているのはただの狩り。…それで傷を負うのもどうかと思うが。

 

「…そろそろ行ってやるか。」

 

大嶽丸との時に見れなかった奴本来の実力が見れただけ泳がした甲斐がある。

 

文と共に子供を守るよう三方で囲む。

 

「もう大丈夫よ。」

 

「貴方たちは…。」

 

…子どもというものは男が扱うよりも女が扱う方が安心するものだ。レミリアたちがまだ赤子の頃は余よりも侍女に懐いていた。故にそこは文に頼むとして…。

 

「…ふん。」

 

あろうことか、余にも涎を垂らす畜生妖怪が迫り来る。吠えながら歯を剥き出しにするあたり、脳には食らうという考えしかないのだろう。

 

しかし、関係ない。

 

下から腹を蹴り上げてやれば、妖怪の体は上空で爆散。血雨を降らし、肉塊は消滅する。

 

「取るに足らない雑魚どもが。汝ら如きで余の腹を満たせると思うなよ。」

 

人語を理解せぬとは哀れな。

理解できれば、余との力の差もわかるだろうに。

 

犬に猿…鳥までも現れるがそれぞれが余のことを見るのも烏滸がましい雑魚だ。

 

猿は道具を使う脳はあるのか、大きな木の棒を振り上げる。…振り上げただけでそれが振り下げられることはない。

 

目にも留まらぬ速さで猿の首を掴む。鋭利な爪が食い込む。鈍い音と共に絶命。好機と見た背後の猿どもに肉塊とかしたそれを投げる。

 

投擲の勢いが強かったからか、当たった猿どもは爆散していた。

 

血雨が隠れ蓑となり、鳥どもは分かりやすく取り乱す。隊列を組む脳もなければ、此方を避けて子供を狙う脳もない。

 

「…はっ。」

 

右の人差し指と中指に炎を纏わせ、上空へと飛ばす。上空に大きく広がる火球が敵だと思った鳥どもは突っ込んでいき…炎が弾けた後に残ったのは灰の雨だった。

 

面倒な上空からの攻撃には意識を向かせずに済む。

 

「流石っすッ!!ダンナぁッ!!」

 

…まぁ、ほぼは殴る蹴る以外の力を持たぬ鬼童のためであるが。このアドバンテージを活かせぬほどの相手だ。準備運動には決してならない。

 

猿が爪を立てて、こちらへと迫ってくる。

 

その数、5匹ほど。ようやく徒党を組むことを覚えたようだが…遅すぎる。大きく胸元があけば、そこに蹴りが入る。

 

弾けた血が目を開けて此方へと迫り来る猿どもの瞳を直撃する。

 

あとは簡単だ。顔面を殴り壊し、正気を奪う。奴らが最後に見たのは同族の血で真っ赤に染まった視界のみだ。

 

「恐らくだが、ここ最近、此奴らは飯を食らっていない。」

 

「…え?」

 

「どんなに愚かな生き物でも死ぬことは嫌がる。…雑魚なら尚更、一人死ねば尻尾を巻いて逃げ帰る。だが、ここで逃げれば飢えて死ぬ。名を持たぬ雑妖は少し強いだけの畜生。…飢えて死ぬのは普通のことだ。だからこそ、此奴らはその子どもを狙っている。興味はないがな。」

 

…結局は我らも同じ存在であり、違いは名があるかどうかの妖怪だが。妖怪という種族が恐れられるだけでこんな雑魚どもも生まれ落ちるとはなんとも面倒なことだ。

 

手を払い、息を吐く。

血や砂煙の汚れを払い、前を見る。

 

「…飽きた。そろそろ終わらせるか。」

 

獣ならば両手に纏う炎を見て、嫌い恐れるものだが…此奴らは餌…もとい、この子どもにしか目がいっていない。食に脳が支配された悲しき畜生どもだ。

 

「…灰燼となり、消え失せろ。」

 

…手を叩く。

すると瞬く間に目の前の畜生どもは火柱に包まれた。ただ手を叩いただけで炎が前へと飛び、広がったのである。

 

燃料があれば尚更燃え上がる。…朝の陽の光よりも明るい真っ赤な光が当たりを埋め尽くした。

 

「…此方は終わった。」

 

あとは鬼童の遊戯でも見ていようか。

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