紅魔ノ兄   作:紳爾零士

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旅は道連れ

…日の光の下を歩むのも久方ぶりか。

余の日傘は特注。妹達をも優しく包み込むもの。こうして、定住地を求め、東の地を目指すも、ここの風土はどうやら我らにあっておらぬらしい。

 

「お兄様ぁ。あついぃ…。」

 

と、レミリアが駄々をこねる始末。

…だめだ。汗で濡れた我が天使など見れば男どもが近寄ってきてしまう。何処の馬の骨とも知らぬ輩に余の愛すべき者をやるわけにはいかぬ。

 

「…少し休むか。」

 

背に眠るフランドールと、余の手を握るレミリア。はぐれぬように…だが、これはまた眼福。だが、我が天使達がだんだんと汗の匂いに染まるのは解せぬもの。さっさと、定住地を探さねば。

 

しかし、野宿場が森か。妹らは余の膝で休ませる。周りに気を配れば、草木に紛れて我らを狙う者ありか。くだらぬ。

 

「…出てこい。余は逃げも隠れもせぬ。」

 

「貴方…西洋の妖怪?何しに来たの、こんなところで。」

 

観念したから、或いは天性の阿呆か。

中華服に身を包んだ淑女が我が前に姿を現せる。人間ならば食すところだが、残念なことに彼女は妖怪。微弱ながら、妖力は感じる。逆に向こうは余の力に調伏されたが如く、額からは汗を出し、息が漏れていた。その目の奥を見通すように静かに見定める。

 

「小娘、汝の名を吐け。」

 

「…紅美鈴。…貴方は…。」

 

…その臨戦体勢を崩さぬか。

去勢を張っているわけではない。筋肉質な中にしっかりと女性らしさもある…が、まだ若い。武の達人であるのだが、荒削り。故に残念だ。この森の中でいい人材にあったと思ったが…。

 

「貴方は何者ッ!!」

 

「…声を荒げるな。我が妹達の眠りを妨げるものは許さぬ。」

 

「…くっ。」

 

寝づらい大樹の元を選んだのは不正解か。

…まあいい。

 

「娘——美鈴と言ったか。鳥の羽か、馬の毛皮…或いはふかふかの西洋ベッドなどは持ち歩いておらぬな?余の妹が寝苦しそうだ。貸してくれたら話くらいは聞こう。」

 

「…寝袋ならあるわ。ちょっと来てもらうけど。」

 

「…ふむ。」

 

…ちょっとならば起こすこともなかろう。

指をパチンっと鳴らすと妹達の体が空に浮きだす。あれだ。魔法…などというやつだ。

 

前の住居にたらふく置いてあった魔導書。暇故、読破したがこんな時ぐらいには役に立つな。

 

「ここよ。私が武者修行のために使ってるの。」

 

…案内されたのはえらく古びた古民家だった。苔むした壁や蔦の生えた屋根、住むにはお粗末なものだが、野宿よりかはマシか。しかし、我が妹をこのような場所に寝かせるのは気が引ける…が。雨風を凌げるため、仕方のないことよ。

 

「いかんせん、助かった。」

 

「そんなお金持ってそうなのに、何してるの?」

 

「…隠す必要もあるまい。我ら、拠点を失っていてな。此処らを放浪しているところ。」

 

…見たところ、かなり疑われているな。

無理もない。淑女服に紳士服の男女が家無しとなれば、余だって虚言だと思うだろう。ただし、眉間に皺を寄せるようなものだろうか。

 

「で、貴方、名前は?まさか、私の家まで連れてきて言えないなんて言わないわよね?」

 

敷かれた布団の中にフラン達を寝かせる余に美鈴はそう言ってきた。相当な自信家なのか、ニヤリと笑う中華娘。…嗚呼、我が天使は粗末な布団で寝ても愛くるしい。

 

…で、なんだったか、名前か。

 

「…余は吸血帝ブラド・ツェペシュが子孫。誇り高きスカーレットの長兄…ルディウス。」

 

「貴方、吸血鬼…!?」

 

ようやくか、小娘。

まぁ、布を被っておったからな。血を吸うための歯も、羽も見えておらぬだろうが、妖力でわからぬものか。それに我が天使らの姿を見ても同族と思えぬのは些か頭が弱いのだろうか。

 

「娘、この近くに良い程度の古城はないか?」

 

「あるわけないでしょ。見渡す限り、森森森…武者修行とはいえ、流石に飽きてきたわ。」

 

…ないか。

陽当たりも悪く、我らに最適かと思ったが。

 

「…確かにここは少し生きづらいな。余は気にはせぬが…大事な家族が病に伏してはかなわぬ。」

 

「吸血鬼がそんなに弱いものなの?…ねぇ。一つだけ頼んでもいい。此処の借り賃として。」

 

…なんとも強欲な娘だ。

いや、当然とも言える。我らとて、人の使う金は用していない。それでこの一軒家を使えるならばお安い御用か。

 

「余にできることなら付き合おう。」

 

「貴方と手合わせしたいの。…相当な手練れだから。」

 

「…ほう?」

 

目の前の情景に自然と口元が綻ぶ。

この娘、化けておったか。余を誑かすとは、中々に恐ろしい。かなり強い妖力だ。それにこの娘、殺気を隠しもせぬ。娘の笑みも末恐ろしい。

 

「有り余っておるな。その力、達人の域か。」

 

「もし負けたらなんだってやってやるわ。…武人として確かめたいの。私の限界を。」

 

家から出てしばし歩き、少し開けたところへとやってくる。言わば、森の戦場。周りは木々に遮られ、月光すらも入らない。今宵は…三日月か。

 

相対する美鈴の方を向けば、拳を大きく構え、息を吐く。亜細亜の武人は剣で戦うと聞くが、彼女はステゴロが好みらしい。

 

「ふっ…。余は強いぞ?」

 

「わかってる。…行くわよ?」

 

……来いっ。

そう声が出たかと思えば、次に迫り来るのは余の鼻頭を狙う拳。

 

肥大するように迫るそれを…軽やかに躱す。

 

横にステップし、伸び切ったところを掴み、投げる。

 

「くっ!?」

 

足の踏み場もいかぬ枯葉の海。

 

美鈴はそこに腕をつき、宙を舞い、体勢を整える。

 

「せっかくだっ。少し花を添えようではないかっ!!」

 

そう言い、出すは先ほどの不要な魔法の一つ。銃のように構えた右手の指の先から空気の玉が吐き出される。

 

人の使う鉛玉かのようなそれは美鈴の頬の皮一枚を切る。…反応してくれて助かる。

 

次に仕掛けるは美鈴のこめかみを狙う足刀。

 

美鈴はそれを腕でいなすと、その勢いでカウンターの回し蹴りを打つ。それは我がこめかみを狙う足刀。

 

「ッ!?」

 

「知らぬか。万象の王たる吸血鬼は、我が身を霧にする術を持つ。」

 

霞の如く身体の形状を変え、枝の上に立つ余を見上げる美鈴。しかし、次に美鈴の取った行動は意外。ふうっ…と息を吐くや否や、木の腹をその拳で殴りつけてきた。

 

「発ッ!!」

 

「…なるほど。」

 

揺れる視界、これは地面に落ちるな。

軽やかに降りた余を待っていたのは右頬を射抜かんとする打拳。

 

しかし、それは空を切る。

 

「なにっ!?また、霧に…!?」

 

「…いや、次は単純に避けただけのこと。」

 

背後からの声に娘ははっと息を呑んだ。この距離から躱すことは不可能。ならばと娘は足払いをかけようとするが、余の足は霞になり消えていく。…部分だけ…というのも乙だろう?

 

「何もしなっ…くっ!?」

 

「…手合わせゆえ、加減を。」

 

余の拳が美鈴の腹に入った。…いくら、妖怪といえど手加減なしでは内臓が破裂。…いや、腹がなくなっているだろう。故の手加減。

 

美鈴はというと、地面に膝をつき、ふぅ…ふぅ…と息を吐きながら、伏していた。口からは涎が垂れている。…血じゃない分マシか。

 

「余との力量差はわかっていたはずだ。なぜ、あんな不利な条件を。」

 

「…貴方が強いことはわかってたからね…。貴方と戦ったら私が目指してるものがわかる気がして…!!」

 

と、苦悶の表情を浮かべる美鈴。

…ふむ。なんともまぁ、烏滸がましい女よ。単純な話…この女がいくら強かろうと余には遠く及ばなかった。だが、その精神たるや美しい。

 

諦めたように髪を掻き上げ笑う美鈴。

 

「あぁ、くっそ。完敗だわ。勝てる想像ができないもの。」

 

負けたのに笑うのが武人か。

…そういえば、勝者は敗者になんでも言えると奴が明言したのだったな。

 

「そういえば、汝は余になんでもする…と言ったな。」

 

「ええ。言ったわよ。…でも、変なことしたらぶっ飛ばすからね。」

 

そう言って自身の身体を抱きしめながら、こちらを睨む美鈴。低俗だな。余は伴侶たる者以外にそのような欲情は湧かぬ。人ではないのだから。

 

「安心しろ。慰み物にする気など毛頭ない。だが、汝の卓越された身体能力には興味がある。」

 

「なるほど。私について来いって言うのね。別にそのくらいなら良いわ。世界中の猛者と拳を合わせたいし。」

 

どこまで行っても戦闘狂か。或いは自身の力を広めたいか。どっちにせよ、今の我らの放浪の旅にボディーガードは広く使える。

 

「期待しているぞ。紅美鈴。」

 

「ええ。…ルディウス様。」

 

そう言って筋肉質な腕同士、握手が行われた。




紅美鈴。
落ち着きのない状態ではタメ口です。様はつけますが。幻想入り前ぐらいに少し落ち着き出し、敬語に。タメ口のままでもいいっちゃいい。苦労人。ルディウス兄様が傲慢ですから。では。
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