紅魔ノ兄   作:紳爾零士

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鬼の拳

その号令と共に現れたのは幾重にも重なる札の雨。

 

紙の札というにその霊力に満ち足りた札は刃物のように、地面へと突き刺さる。

 

余と文は飛んで避ける。

 

鬼童はその霊力によって飛ぶ札を拳で壊しながら突き進んでいた。

 

「ダンナァッ!!この銀蘭とやらッ!!俺が殺しますッ!!」

 

決意を胸に。

拳を固め、前へと鬼童は走る。…まぁ、余程のことがなければ天と地がひっくり返ったとしても鬼童が負けることはないだろう。

 

「…ならば、余は。」

 

目の前の雑多の前に地面を蹴って近づく。

 

人間如きが理解できる速度ではない。野盗どもは手にナイフを持ち、斬りかかろうとするが…。

 

「遅すぎる。」

 

「ぐえっ!?」「ごひゅっ!?」

 

…まずは二人。

喉笛に人差し指を入れ、ネジ切ってやる。硬い喉仏が半分で切れ、噴水のように首から血飛沫をあげ、その場に倒れる。

 

「…弱いものには興味はない。」

 

「くそっ!!こうなればっ!!ハッ!!」

 

陰陽師の一人が札を飛ばす。

霊力の纏った札は矢のようにこちらへと飛んでくるが…そんなものはどうでもいい。名のある陰陽師なら岩をも穿つ札となりうるだろう。

 

だが、これも…当たってはやれぬな。

 

身体を霧と化し、それを避ける。

 

「なっ!?どこに…ガッ!?」

 

「…後ろだ。愚者め。」

 

カランと落ちるのは陰陽師の頭。

手刀だけで首を刎ねられるとは…やつも思いもしなかっただろうな。

 

…これでも余はまだ生易しい方だ。もっと酷いのはやはり文だろう。

 

文は天狗。空中戦を得手として、その速さは妖怪であれば見えるものも一定数いるとして、下等な人間如きが目で追うのも不可能。まさに線が走った…なんて理解できる方がおかしいだろう。

 

つまり、文とやり合うということは理解できぬまま死んでいくということだ。

 

「くそ、何処へッ!?」

 

「森の中に隠れたッ!!辺りを探せッ!!」

 

…5、6人が森の中で喚き散らしている。時刻は宵闇。折角の森であるにも関わらず、そのように喚き散らしては…自身の場所を教えているようなものである。

 

その証拠に能ある鷹はひっそりと…木の枝に止まり、その様子を見ていた。

 

直後、枝を蹴り、文は翼をはためかせる。

空中へと投げ出したその身は神速と言わんばかりの速さで音もなく男達に忍び寄る。そのまま持っていた扇子を広げ、男達の首へと当てがう。

 

速さとは強さ。故に紙であろうと皮であろうと、先が鋭利ならばナイフと同等か、それ以上の切れ味を得る。

 

『…ッ!?』

 

男達は声も出せぬまま、首筋から赤い噴水を作り出し、地面へと倒れた。その身体は回収されることはない。森の中で動物や妖怪が少しずつ分解していくことだろう。

 

「…チッ!!先ずは稗田だ!!あの非力な奴を狙えッ!!」

 

…勝てない弱者がやることは見え透いている。

案の定、奴らは後ろで傍観している稗田阿夢をターゲットと据えた。半分近くまで減った中でも野盗が息巻いている。

 

ナイフを持ち、稗田阿夢へと近づくのは7人程度。集団を作り、逃げられないように稗田阿夢を囲む。…唯一、攻撃の手段を持たない彼女は逃げ惑うしか方法はない。

 

だが、それは逆にチャンスということだ。

 

「…ふん。」

 

陰陽師が残っているが、どうでも良い。

地面を蹴って稗田阿夢の方へといく。残ったものは風見幽香の手で屠られるだろう。

 

「待てッ!!逃が…ッ!?」

 

その言葉が遺言となり、背後へと虹色の光線が走っていった。風見幽香のレーザーである。

 

…人間なんてこんなものだ。些細なことで呆気なく死ぬ。…だが、稗田阿夢は役に立つ。殺させてはいけない。

 

「死ねッ!!」

 

その手に持たれた凶刃が稗田阿夢を捕えようと袈裟に落ちる。…肉を食むであろうその狂刃は甲高い金属音と共にその進行を止める。

 

「は、花の妖怪様ッ!?」

 

傘を使い、その刃を跳ね上がると風見幽香は男の頭部を傘の先で貫いた。鼻骨を粉砕し、後頭部から傘の先が出る。血飛沫が奥の地面へ波紋のように広がった。

 

「アンタらの汚い息を花に吸わせるなんて…酷い話ね。反吐が出るわ。」

 

「き、聞いてた話と違うぞッ!?花の妖怪は…あの吸血鬼とやり合って体力がねえんじゃッ!?」

 

「…あんなので体力が無くなるなんて…。」

 

その直後、目の前へ傘を突き出す風見幽香。

先端から出たレーザー砲は野盗、陰陽師を飲み込み、消し炭と化す。そこにはもう人の形をした人は誰もいなかった。

 

…ものの数分の出来事である。

残りは銀蘭を残すのみ。

 

下卑た笑みを浮かべ、ナイフを互いにカキンカキンと擦り合わせ、火花を散らす。

 

「…鬼の首とは箔がつきますねぇ。」

 

「俺たちを狙ったのが運の尽きだってこと、思い知らせてやらぁッ!!」

 

そう言って地面を蹴る鬼童。

爆発音のようなものが響き渡り、地面に小さな窪みができる。

 

前へと左拳を伸ばす鬼童。銀蘭はそれを避けようと横に飛ぶ。

 

が、鬼のパワーは相当なもの。

風圧だけで銀蘭の頬は横にざっくりと切れ、鮮血が流れ出る。

 

「ぐぬっ…!!なかなか…!!」

 

当たっていたら骨も散る剛拳。

 

人間如きがそれに怯まず、笑うのは中々に気合いがあると見える。鬼童は再び地面を蹴ると前へと突き進む。その姿、まさに猪突猛進。…しかし、銀蘭はその場に留まり、懐へと手を入れる。

 

…黒鉄色の何かが見えた。そのままそれを前へと飛ばす銀蘭。

 

鬼童はそれを避けられない。

 

「ぐぅぅッ!?」

 

腕に刺さったそれは紡錘形の何かであった。鬼の肉を裂くほどのもの…そこには妖力とは違う変わった匂いが纏わりついていた。何か特別な力で強化されているのだろう。

 

「くふふっ!!妖怪如きが人間様を舐めるなよッ!!ブァカァッ!!」

 

「…このぐらい屁でもねえ。」

 

鬼童は腕に刺さった紡錘形の何か…暗器か?あれは。それを引き抜くと地面に捨て、再び特攻を仕掛ける。

 

「芸がありませんなぁッ!!」

 

再び銀蘭は懐へと手を入れる。

…持っていたのは導火線の伸びる黒鉄の球であった。そこへ…火をつける銀蘭。

 

笑いながらもそれを前へと投げる。

 

「中に入ってるのはこの場所じゃ珍しい火薬だよッ!!然るお方がくれたんだッ!!これで焼け死んじまいなぁッ!!」

 

「ぐっ!?」

 

爆音と共に火炎が広がる。

余の炎よりも小規模ではあるものの、突き進んだ鬼を焼き取り込むには十分すぎる代物だった。

 

「これで一人……なにっ!?」

 

銀蘭は目を文字通り丸くする。

呆気に取られるとはまさにこのことである。のびのびと生きてきただけの人間が、こんな特攻を予期しているはずがない。

 

身体から炎を上げながら、前へと突き進んでくる鬼童に銀蘭は精神力で負けたのだ。

 

「ウォォォォッ!!」

 

「ぐぼぇぇぇッ!?」

 

銀蘭は鬼童の拳をモロにくらい、腹から胸と足に両断され、地面へと落ちる。粗挽き肉となったそれを見て血の雨を浴びながら鬼童は息を吐いた。

 

「勝ち…ハァ…ましたよ…。」

 

…人間如きに勝って何が嬉しいのか。

肩で息をしている鬼童を見て、微かにそう思う。やはり奴は弱い。だが、その精神力はずば抜けている。体が燃えてもなお、目の前の敵を撃墜しようとするその信念は天晴れである。

 

「…しかし、誰がこんな襲撃を。さるお方…とは?」

 

「…確かめねばならぬ。」

 

自身にとって一番唾棄すべき状況。回避すべき状況とは何か。それは博麗の巫女の介入である。この襲撃にその巫女様とやらが関わっているとするならば、この状況は面倒以外の何物でもない。

 

「確かめるとは?」

 

「稗田阿夢よ。案内せよ。…博麗の巫女の場所へ。」

 

「アンタ正気ッ!?」

 

…そう声を荒げるのは文だった。

 

「博麗の巫女に会えば、交戦になるかもしれない。この状況を見て彼女が動かないわけがないわッ!!人殺しをしたのは事実なのッ!!だから、退治されちゃうわよッ!!」

 

「…怖いか?」

 

言い分はもっともだ。

博麗の巫女には元より会うつもりだったが、今ではない。人殺しが保安官に会いに行くようなもの。それを文は咎めている。

 

「…怖くなんか…。」

 

「安心しろ。…余がいる。余が負けたことなど一度もない。それに…人間の証人がいるだろう?」

 

ない胸を張り、笑う稗田阿夢をよそに文の顔を見る。

 

「…アンタがいくら強くても…阿夢が居たとしても…。」

 

「…天狗は臆病だな。」

 

「悪い!?アンタほど私は…。」

 

…この女はそろそろ潮時かもしれぬ。

十分役に立った。それにこのようにズルズルと後退りされても面倒なことこの上ない。

 

「…文。汝には感謝しているのだがな。」

 

「…。」

 

「どうしても…着いて来れぬのなら山へと帰るがいい。しかし、汝は住む場所を追われる身。この先はどちらも地獄。同じ地獄ならば余と一緒にいた方が英断だろう?」

 

その言葉を聞いて、文はため息をついた。

 

「…やっぱアンタは屑だわ。」

 

そう言うと文は余たちの前を歩く。

風が…静かに吹き付け、彼女の髪をたなびかせる。

 

「…私も変わらなきゃいけない。」

 

そう言うと文は隠し持っていたのだろう、小刀を懐から出し、自身の髪を持つと…半分ほどの長さで切り捨てた。髪は風になってどこかへと飛んでいってしまう。

 

「これで決心がついたわ。しょうがないから、最後までついて行ってあげる。…死ぬのは怖いけど、どうせ死ぬなら生きた証を刻んでからね。」

 

「…あぁ。」

 

…正直、戦力が欠けるのは不味かったところである。

何があってもこの先、戦わなければならないのだ。時間は前後するが、先ずは…博麗の巫女の元へと向かおうか。

 

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