紅魔ノ兄   作:紳爾零士

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プライド

「ルディッ!!アンタしっかりしなさいよッ!!」

 

…喧しい。

体温を著しく失う頭に響くのは文の甲高い声だった。微かに見えるその顔は目の前の現状に怒っているようにも見えた。

 

「…あ…や…。」

 

掠れた声が聞こえる。

喉が…というよりも、腹の中が痛い。胸は赤い円が広がり、鉄の匂いが鼻を刺す。…待て。稗田阿夢は。

 

「ひぇ…だ…。」

 

「阿夢!?阿夢なら、私の背中ッ!!」

 

…確かに。

首に手を回し、背に乗っている。心配そうな顔を此方へ向けて。

 

此奴らは阿呆だ。散々、余に無碍にされ、傷ついた余を放っておけばいいのに助けてしまっている。…この後に余から何か搾り取る気かもしれないが、それでも放っておけばいい。傷などすぐに回復するのだから。

 

「…ぐっ…。」

 

「動かないでッ!!」

 

…そう言えば鬼童の奴の姿が見えん。

 

「きどう…の奴は…。」

 

「殿を勤めてくれてる。多分すぐに来るわッ!!」

 

身体はまだ満足には動かせない。

声は出るようにはなった。…が、鬼童の奴、アレの正体に気づいているのか。アレは妖刀。…しかも、此方の力を著しく削ぐ力。故に一度でも切られれば身体は木偶になる。

 

「…あれは…ただの…妖刀じゃない…。」

 

「…わかってる。鬼童だってアンタが負けたのをただの慢心だって思ってないわ。私たちは鬼童を見えるところでアンタを回復させるだけ。…このまま負けっぱなしは癪でしょう?」

 

「…わかってるじゃ…ないか…。」

 

負けることは嫌いではない。自分の弱さを強さに変えることができるからだ。…だが、負けっぱなしは癪だ。

 

…すぐに体調を整えてみせる。

 

「居たッ!!鬼童ッ!!」

 

「…陰陽師達に囲まれてますッ!!」

 

…傷は癒えてきた。やはり、あの刃に触れた瞬間だけ回復力が著しく落ちるようだ。…完膚なきまでに負けはしたが、学びはあった。鬼童には悪いが、今行けばまた一撃喰らってもおかしくはない。

 

「…もういい。離せ。」

 

「え?」

 

文の隣に座る。

…無論、完全回復まで戦況を見届ける。

 

鬼童の奴だが、既にもうボロボロだった。

 

腹や肩に火傷、だが、幻雲は奴を相手にも見ていない。

 

「はぁ…はぁ…クソがッ!!」

 

「我々、陰陽師にそのような荒っぽい打撃が効くと思うな。」

 

…鬼童の拳は大ぶり。陰陽師達は容易く避けていく。

 

幻雲には当たってはいるが効いていない。やはり奴は霊力でガードをしている。

 

避けられれば隙はいくらでもできる。鬼童の腹へ陰陽師が何かを打つ。…霊力を玉のように固めたものか。いや、違うか。匂いが違う。

 

「うぐぅっ!?」

 

…腹に突き刺さり、爆発を起こす。

そのまま鬼童は木をいくつか薙ぎ倒し、地面に大の字で寝転がった。

 

「鬼童様…!!」

 

「…。」

 

…爆傷火傷の正体はあれか。

あれはなんだ。光の球。…それを容易くあの陰陽師達は作り出す。

 

「…おそらく、私にあっけなくやられたあの吸血鬼が彼らの頭なのでしょう。しかし、ご安心を。あの吸血鬼は私に殺されかけ、尻尾を巻いて逃げました。これこそが神の力。私の力ですっ!!」

 

周りの陰陽師が称賛の声を上げる。

まるでスポットライトを浴びるかのよう。月は奴を讃えるためにその姿を現す。

 

月さえ出れば回復力は著しく向上する。…鬼童の奴が殺される前に余が出よう…ん?

 

鬼童の姿がない。

 

「…五月蝿えなぁ。」

 

「何者だッ!!幻雲様の……ッ!?」

 

陰陽師の二人がその声に意を返す。…しかし、直後、其奴らの首を何者かが握る。

 

「ゲブッ!?」

 

「ガバッ!?」

 

直後、二人は何故か顔面から激突し、潰れた。血飛沫を上げるその首は真っ赤な剛腕が握っていた。

 

「なっ!?」

 

「…ダンナはテメェから逃げたんじゃねえよ、クソ野郎。」

 

そこに居たのはまさに赤鬼。

自身の血と返り血を浴び、真っ赤になった鬼童だった。怒っているのか、その額には青筋が見える。

 

「俺たち鬼はダンナに惚れたッ!!俺はあの人を侮辱するテメェを絶対に許さないッ!!幻雲、テメェみたいな外道はここで潰すッ!!」

 

「なんの話でしょうか。」

 

啖呵を切った直後、鬼童の周りを七色の光が染める。アイツは新生の阿呆だ。だが、嫌悪すべき阿呆ではない。

 

「…あぁ。名が決まった。」

 

口角が自然と上がる。手をひたすらに上がる灼熱感が喜んでいるのを感じさせる。炎だ。魔力で構成した炎が余の右手を包み込む。

 

枝を蹴り、鬼童の前へと飛ぶ。

 

「魂すらも焼け焦げ、燃やし尽くす炎。『Crimson Deffert』」

 

指を地面と並行に空中で滑らせる。指で空を横薙ぎで切るように。すると炎は地面から上空へ上がり、光弾から我らを守るかのような炎の壁が立ち上がった。

 

「…へへ。ダンナ…。」

 

「鬼童よ。よく頑張った。あとは任せよ。」

 

翼を広げ、前を向く。

 

目の前には火の壁。それがだんだんと勢いを無くし、目の前の奴と目が合う。奴はなおも柔和な笑みを浮かべていた。

 

「おや、尻尾を巻いて逃げたかと思いましたが?」

 

「…余は不思議で堪らないんだよ。幻雲。」

 

周りの人間が余へ辛辣な言葉を吐く。

だが、それも結局はなんの意味も持たない言葉だ。どうせ死ぬのだし、水に流しておこう。

 

「…妖刀とは本来、人を斬り、その魂を喰らうことで出来上がる呪物。なぜ、貴様が持っている?」

 

その言葉を聞いてもなお、幻雲の顔は笑みから戻らない。

 

直後、余に対しても光弾が飛んでくる。…仮に『弾幕』と名をつけてみるが、弾幕は逃げ道を無くすように四方八方を塞ぐ。

 

…おさらいと行こうか。

 

霊力で周りを取り囲むように。薄い幕を張るようなイメージを作る。技とはイメージ。できればなんだって作れる。それに名前があるだけなのだ。

 

直後、光弾は余にたどり着くことなく黒煙と化す。…結界だ。八雲藍、八雲紫から学んだこれは不細工だが、実用性がある。

 

そして、黒煙は何もわからぬものには目眩しにしかならない。結界をきり、地面を蹴る。

 

その速度は人間の目に見えるわけがない。近づく陰陽師の首、頸動脈に爪を立てる。

 

横一文字に切り裂かれ、そのまま血は雨と化す。

 

幻雲以外の陰陽師はそのまま死屍累々と化した。

 

黒煙が晴れ、月光が余を照らす。

 

「…悪魔め。」

 

「吸血鬼だ。二度と間違えるな。」

 

幻雲の細い目が開かれる。この男がもはや、外道だろうが聖人だろうがどうでもいい。余を殺しかけ、余に敗北をさせた。…それで殺すだけの価値ができた。

 

「…神堕剣。これは私の栄華そのもの。火をつけた妖怪。彼はその命を賭して、私に生きる意味をくれた。そのためには博麗の巫女も妖怪も目障りなのです。」

 

…周りの目が無くなって、幻雲の顔が悪い笑みになる。聖人が怪物となったその瞬間、地面を蹴り、此方へと袈裟に落としてくる。

 

「歳の割にヤンチャな男だ。」

 

「貴方は一度この剣に負けたッ!!貴方は私に勝てるわけがないのですッ!!」

 

後ろに跳び、その切先を避ける。

余の目はいい。この男が何をするか、見た後でも動ける。

 

瞳孔は見開かれ、瞳は小さくなるその顔。狂気的なその顔は邪悪そのもの。されど、それを余が責めるわけはない。

 

何せ、余は吸血鬼なのだから。妖怪なのだから。どこまで行っても…な。

 

「…ぐぅっ!!何故当たらんッ!!私は…お前にッ!!」

 

「くだらん。勝った負けたなどという事柄で全てを決めつけるな。…負けても学べばいいのだ。学ばぬゆえに負けを悔しがる。…負けは勝ちへの一歩であると考えれぬ浅知恵故の手法よ。」

 

腕を蹴れば神堕剣などすぐに落ちる。

 

骨まで当たることはない。霊力でガードしているのだろう。鎧を纏っているような感覚だ。

 

「ぐぅっ!?」

 

「…貴様の小さな栄華はこれで終幕と行こう。」

 

そう言って奴に向けるのは銃のように形作った右の人差し指。奴は何やら呪文を呟いているが、間に合わん。

 

「『Crimson Deffert』」

 

「グゥッ!?」

 

生きたまま焼かれる感覚はさぞ辛いだろう。

指から出た火炎放射は幻雲の心臓を貫き、そしてその身体を焼き尽くす。火の手が上がり、余の鼻を貫くのは肉が焦げる臭いと耳に残る嫌な叫び。老男の皺だらけの肉と皮は火によって焼け焦げていく。

 

「無様な最期だ。」

 

「ぐぬぁぁぁぁぁ…!?あついぃぃ…あついぃ…!?私は…私はぁ…!?不老不死にぃぃぃ…!?」

 

その言葉と共に奴は灰となった。

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