紅魔ノ兄   作:紳爾零士

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ありとあらゆるものを喰らう能力

「はい。あ、ある…チッ!!…主人様。ご飯になります。」

 

…八雲藍の出す飯にももう慣れた。

この鋭利な怒りの睨みにも。全く客人にもその態度なのかと窺わせる。最後の言葉は無機質で、機械なのかと疑わせる。

 

さて、散々文句は言っているが、そもそも、『主人様』という言葉であっても自分で言わせている…というよりも、奴らが脳で弾き出した言葉を喋っている。つまりはコイツは主人だと認識すれば、主人としか言えなくなる。…回りくどいが奴らの頭の中で従属=主人という等式が成り立っているのだろう。

 

「…八雲紫は。」

 

「まだ寝ていらっしゃいます。貴方のことを主人様と呼ばざるを得ないこの状況に酷く疲れているようで。」

 

「…。」

 

暗にお前のせいだと言っている。

…別に八雲紫の心が疲れ切ろうが、構いはせぬが。

 

「疲れているのはこっちだ。毎朝起こしてやるのは誰だと思っている。」

 

「私たちにこのような真似をしたのです。タダでご飯が出て、お風呂やお洗濯までしてもらい、修行までもつけてもらうことを心から感謝して欲しいものですね。それと死んでください。」

 

「…ダンナ、嫌われてますね…。」

 

ありがとう、さようならのような言葉の次に八雲藍が放つのが死ねである。奴らにとっては仇に心まで好き勝手されているようだが、あの寝坊助を起こす身にもなってもらいたい。…鬼童の苦笑いは少しも気にはならないが。

 

「…冷めぬうちに起こしてこよう。」

 

「そうしてください。貴方のような下賤にご飯を出すだけで虫唾が走るというのに。」

 

…主人の寝室へ通すのは良いのか。という流れを数ヶ月はしている気がする。時間の流れとは残酷だ。人間にとっては数ヶ月でも、我々にとっては数日のような遅さ。

 

半不老不死である余にとってはもっと長い。100年でようやく人間の1年ほどであろう。だから、歳など忘れてしまうのだ。

 

「…さて。」

 

木で作られた廊下は踏むことによってギリィッ…という音を奏でる。少し進めば、木と紙でできた引き戸…確か、障子扉というのだったか。それが見えてくる。八雲紫の寝室である。

 

マヨイガと呼ばれるこの家にはいくつかの部屋があるが、初来訪の際に感じたのはなんとも庶民的だというありきたりな感想である。

 

ガラガラという音と共に見えてくるのは…ほとんど下着姿で布団の中に眠る金髪の女…そして、散らかった部屋である。

 

「…ハァ…。」

 

昨日、片付けさせたばかりのはずだが?

全く世話の焼ける。

 

「…ふん。」

 

「キャァァァっ!?」

 

…だからこそ、寝込みには魔力を込めた雷撃がよく合う。得意な方ではない為、体を痺れさせるだけだが…それでも十分だ。

 

「…もっと優しく起こしてよぉ〜…主人様ぁ…。」

 

「こういう時だけ媚びるな。飯が冷める。」

 

「…このクズっ!!…はぁ。着替えよ。」

 

…こっちは挨拶の次にクズという言葉が出てくる。まぁ、だからなんだということだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「弾幕には妖力弾、魔力弾、霊力弾があるわ。」

 

朝飯を食べた後は惰眠を貪る八雲紫を寝かせない為、修行に明け暮れる。この数ヶ月で大体は強くなれたと思う。

 

「幻雲達が出したのはそれね。貴方も想像力次第では出来ないことはないわ。主人様。」

 

「…汝は普通に言うのだな。八雲藍はかなり抵抗するが。」

 

「無駄だもの。貴方の下劣な趣味に付き合うしかないでしょう?」

 

…趣味を疑われてるが、別にこんな女達に媚び諂われても興味はない。そういうもので興奮するのは人間ぐらいだろう。長寿の妖怪ほど種の存続に無関心である。

 

半ば閉じた目で此方を見る八雲紫に対してはため息しか出ない。

 

「弾幕か。」

 

「いずれ、幻想郷では人間や妖怪の強さの隔たりをなくすつもりよ。殺し合いはそれぞれの種にとってメリットを生まない。ならば、弾幕で勝敗を決した方が良いでしょう?どうなるかは私にもわからないけれど。」

 

「…ふむ。」

 

確かに。

幻想郷を存続させるためには人と人ならざる者の殺し合いを止めねばならぬ。が、そんなルールに縛られないものだっている。いないはずが無い。だからこその対抗手段がこれなのだろう。

 

「死ぬほど痛いけど殺されはしない。でも、おイタをする妖怪を攻める手段は必要なの。だからこそのこれ。」

 

「…聞いてる話、遊びじゃないか。」

 

「そうね。殺し合いごっこ遊び。…主人様はすぐに殺しそうだけれど。」

 

「気に食わなければな。…と。こんなものか。」

 

手の上で右回りの円を描く4つの玉。

 

「そ。それを陣形を組むみたいに空を埋め尽くすの。形も速度も変幻自在。貴方の頭次第ね。」

 

「それは実戦次第だな。」

 

…割と息を吸うように出せる。父上より余はそこまで妖力は高くないと聞いたことがある。遠い記憶ゆえあまり覚えてない。膨大な時間の中で何か一つ覚えておけと言われたらかなり厳しいだろう。それもかなり幼い時だ。

 

「…後は貴方の能力かしら。」

 

「ん?」

 

「ありとあらゆるものを喰らう能力。…それをそのまま使えば貴方に勝てる相手なんてこの幻想郷には居るかどうかわからない。皆んなの能力を無意識下でナーフすることはできるとして、貴方には出来ない。」

 

…この女、しれっと恐ろしいことを言ったな。

 

「どうするつもりだ。」

 

「非常時以外の能力の本気の出し方を忘れさせるの。意識下を弄ればおそらく簡単。だけど、貴方にはそれを通じない。まさに無意識下でバリアを張っているような状態なのよ。わかる?」

 

ニヤケ顔がやけに鼻につく。

現在主導権を自分が握っているからだろう。元々の嗜虐心が奴を生き生きとさせている。…面倒だ。

 

「どういう状況だ。」

 

「うふふ。待ってましたぁ。主人様?…あなたはね。無意識に相手と自分の間に壁を察しているの。壁というより溝ね。空間を削り取って有耶無耶にしている。似たような能力の歪みだから、あまり言いたくはないのだけど、それによって本来のポテンシャルの攻撃を相手に打てなくさせてあるのよ。

 

ほら、川は途中で大きな穴を掘ればそこへと水は流れ出る。でも、残った溝には穴の大きさ次第で全く水を流さない状況が作れるでしょう?だから面倒なのよ。貴方は。」

 

得意げに話をするが、それは手の内と技の応用を此方に教えているが同義。この女に対してのメリットはないが、それを考えさせていないのは余なのでそれは置いておく。

 

「空間自体を喰らい削るということか。」

 

「そういうこと。…空間自体を流れとした時にそれそのものを削っているから、その空間にあるものは遮られるの。次に行く空間を失うからね。だから、その場で滞留するか、消滅する。…無意識だけど確実にその力は貴方を昇華させていくわ。そしてもう一つは貴方も意識したことがあるはず。」

 

削り取る…か。

 

「…相手の回復が著しく低下しているのは。」

 

「そう。主人様はまさに妖怪にも人間にも天敵と言わざるを得ないわ。戦えば戦うほど、此方の力が削がれ、貴方が回復する。…まぁ、流石に相手の能力を食べるなんてことできないとは思うけど。」

 

食べてどうする。

消したり、模倣したりするのか?そんなこと出来てたまるか。能力なんてものは戦闘を楽しくさせる武器のようなもの。それ以外のものは求めておらぬ。楽しくあっても此方が無双しては面白くない。

 

「同じ条件下でやらねば面白くないだろう。」

 

「貴方のそういうところは尊敬に値するわ。やってることは屑だけど。…で、後は私にも少しわからないわ。でも、貴方の力は強すぎる。」

 

…首を傾げる八雲紫は差し置いて…。

空間を切除するとなれば、戻るまでにはどれほどの時間がかかるのだろうか。空間を食い破り、空間と空間を繋げればこの女のように擬似的なスキマを作ることも可能なのか?…しかし、繋げる力など余にはない。

 

「…鍛えねばな。」

 

ここは研鑽を重ねるしかあるまい。




・ありとあらゆるものを喰らう能力(紅魔郷時点は程度がつく)
空間切除…弾幕勝負では被ダメージ軽減、殺し合いではダメージ無効というよりも攻撃が当たらない。(元ネタは文ストの芥川)
貫通…霊力、妖力、魔力などでの守りを無効化する。食い破るイメージ。

他は出てからで。かなりのチート。

少し時間を進めます。第一章はここまで次回から第二章へ移ります。ようやくあのキャラが書けるぜぇ。では。
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