紅魔ノ兄   作:紳爾零士

3 / 88
魔法使いの友人

「お兄様〜。だっこー。」

 

「お兄様〜、おんぶー。」

 

…父様、母様。天国とはこのことを言うのか。

我が天使達が、余の周りにしがみつき、甘えてくれるとは…。あぁ、手がもう2本あれば。2人ともの要望を叶えられると言うのに…。

 

「貴方、表情全く変えないけど嬉しいってことはわかるわ…。本当に妹様方を好きなのね。」

 

「何を言う。好きだとかそんな他愛無い言葉で表現できるレベルでは無い。コイツらは我が宝よ。この世にたった2人の余の妹。血を分けたこの世の理想。金で買えぬ何物にも変え難い家族()。」

 

「はいはい。惚気はそこまで。」

 

…なんだ。妹達ならもう少し聞いてくれるのに。そんな顔をするぐらい良くない話だったか?まぁいい。

 

「ねぇ?お兄様。今日はどこへ行くの?」

 

我が背のレミリアがそう声をかけてくる。フランは美鈴に預けてある。無論、時間で交代。差異があっては可哀想だ。

 

「…そうだな。我が友人の元よ。」

 

「友人?」

 

詳しくは父の時代の友人。

余の魔法の師たるフィンネルが死に、今はその娘たるローズが長として一人娘と家で暮らしていると聞いた。その場所は古びた酒屋街であり、魔法使いにはうってつけなんだとか。

 

「あぁ。…ノーレッジの家だよ。」

 

「ノーレッジ!?…魔法使いの名家じゃない。亜細亜までその名前は通ってるわよっ!?一体に何しに…!?」

 

「我らの目的は棲家を手に入れること。ノーレッジなら、その周り…確かあそこは欧羅巴だ。その周りに明るいと思ってな。盛況な裏にある古民魔人村。それが古びた酒屋街だ。人も魔法使いも仲良く暮らしていると聞いたが、我らのように名声と無意味な正義感で平穏を消す者もいる。…用心しなければな。」

 

…古き昔。

我が父上にノーレッジの祖父が訪ねてきたのは、魔女狩りなる古い風習のせいだった。

 

魔女の血肉を神に捧げる。故に魔女を狩る。…それは黒魔術の方法だったのではないかと思う。どちらにせよ、一度それは退いた。我が父は本当に強かった。

 

「ねぇ、お姉様ぁ〜。もう交代でいいでしょう?私もお兄様に抱っこしてもらいたい〜。」

 

「まだ30分もたってないじゃないっ。まだ私の時間よっ。」

 

…考えに耽ってるとそんな言い争いに耳を取られる。この2人はまた…。

 

「なによっ!!お姉さまは私よりおっきいんだからッ!!お兄様を渡してくれてもいいじゃないッ!!」

 

「だめよっ。ちゃんと決めたじゃない。決めた約束は守るっ。」

 

「お姉様だって守ってくれたことないのにッ!!」

 

ぐるると喉を鳴らして睨む2人。それでも精神的にレミリアの方が成長しているからか、相手にしていない様子。両者とも我儘ではあるが。…分身するか。いや、匂いでバレるからなぁ…。どうしたものか。

 

「何よッ!!いつもアンタが破るんでしょッ!!」

 

「違うもんッ!!フランは悪くないもんッ!!お姉様がいつもお兄様を独占するんじゃないッ!!」

 

「あら。お兄様はアンタより私の方が好きなんじゃないかしら?ねぇー。お兄様。」

 

…と、我が背に顔を埋めるレミリア。

それに対し、目を潤ませて歯を食いしばるフラン。

 

「お姉様だって本当は我儘で、お兄様、うんざりしてるかもしれないよ?」

 

「あら、それは貴女でしょ?」

 

「はぁッ!?お姉さまなんか、ただ我慢してるだけなのにッ!!大人ぶっちゃってッ!!」

 

「なッ!?」

 

ほお…。

レミリアの顔が怒りとは違う紅に変わった。なるほど。そうなのか。…自身の背から降りるレミリアに少し頬が緩む。

 

「アンタねぇッ!!それは言わないお約束でしょッ!!」

 

「いつもそうッ!!…お姉さまはフランの欲しいものを全部奪うのッ!!」

 

…いつもの口喧嘩。おそらく、レミリアの方はそう思っていただろう。フランは涙をポロポロと流しながら、美鈴の袖を掴んで泣いている。…2人ともまだ子どもだ。衝突しあい、仲直りをする。…子どものその瞬間を人は成長と呼ぶ。

 

「お姉様なんか…お姉様なんか…死んじゃえばいいんだッ!!」

 

「な、なによッ!!私も…アンタなんか生まれなきゃ…!!」

 

レミリア、フランドール

 

…傍観するつもりだった。

いつもはなんだかんだ言って仲直りしている。犠牲として部屋が壊れるが。だが、これはダメだ。

 

「「お、お兄様…。」」

 

妹達が萎縮している。

美鈴は静観だ。これは家族の問題であり、彼女が入る隙はないと考えたのだろう。

 

「…フランよ。汝は今、死ねばいいと言ったな。実の姉に。」

 

「う…うんっ。」

 

「レミリアよ。…汝は今、実の妹に生まれねばよかったと嘆いたな。」

 

「…は、はい。」

 

レミリアが敬語になっている。

ひどく怯えているのを感じた。アレがここまで怯えるのは珍しい。なにせ、余にも軽口を叩いてくる始末だ。本当…強く育った。だが。

 

「良いか。…生きとし生けるものは、手に入れたものには厳しく、失ったものは憂う。生きているうち、あるうちはそれが消えてなくなるところを想像できぬ故、平気で消えてしまえと言える。だが、いざ無くなったら困るのは己だ。」

 

…父上と母上がいなくなった時、余の当たり前は無くなった。我が天使達を守るために修羅になると決めるしかなかった。…その大変さを彼女らは知らなくてもいい。

 

暗い顔の2人を静かに抱きしめる。

 

「…言葉は言霊。一度口から出れば、汝らの心すらも瓦解する。軽率にその言葉を吐いて良いのは…決して許せない敵にのみ。…泣きを見るのは汝らだぞ。」

 

「…お、お兄様…ごめ…。」

 

「フラン、謝る相手は余ではない。」

 

優しくそう言うとフランはレミリアの方を向いた。その目には涙をこさえていたが、泣かなかった。ギャーギャーと喚くいつもの末っ子は居ない。堪えて、恨み言を紡がないよう、涙がこぼれぬよう、姉と真摯に向き合っていた。

 

「…ごめんなさい。お姉様。」

 

「…うん。私もごめんね。フラン。」

 

そう言って、彼女らは我が腕の中で静かに抱き合った。喧嘩するほど仲がいいというのはよく言ったもので…すぐに仲直りできるところが2人のいいところである。

 

「…うむ。では、行こうか。」

 

「「うんっ。」」

 

…再出発。フランは余の右手、レミリアは左手を握りながら、舗装のない荒道を進む。日光を遮断しながらこの人数で歩くとなると獣道を進むしかないのである。

 

「…見えた。アレか。」

 

荒廃した酒場街。

生い茂る木々が無くなった崖から、それが見えた。人気の感じない幽霊街(ゴーストタウン)。盛況な欧羅巴の国々の中にひっそりと佇むが、そこに我が友が居る。

 

「行くか。」

 

「……え?」

 

…飛べぬ美鈴の腰を片腕で抱く。2人は飛べるから今日は我慢だ。羽を広げ、曇天の下をくぐる。日差しが強くないうちは肌がピリピリと痛む程度。…魔法でなんとかなるが、自分にしかかけられぬのが玉に瑕か。

 

ギャーギャーと喚く美鈴は置いておいて、地面に辿り着く。この程度の高所で怖がっていたら困る。

 

「…ハァ…ハァ…説明…必要でしょうが…。」

 

「あの高さ、飛び降りるにも滑り落ちるにもきついだろう。迂回するにも我が妹達が疲れたなどと言っては敵わん。」

 

「…私、ついてきたの間違いだったかも…。」

 

汗だくの美鈴を妹達が飛び、心配する。普段なら昼過ぎに飛ばしやしないが、今日は曇天。余より肌の弱い妹らも消えては無くならないだろう。

 

「さてと。」

 

ノーレッジには何も言っていない。

普段はコウモリ便で手紙を出すのだが、今回は無しである。道中、一名増えたしな。…まぁ、向かうことにするか。

 

「…何者だ。」

 

…前言撤回。

歩み始めた途端、余の背から突き刺すような視線を感じる。こちらに杖を向ける様はまさに魔法使い。…まるで銃口でも突きつけられている感覚だ。

 

驚く3人をよそに、余は冷静に背後を向かない。

 

「…ここの住人か?余はノーレッジに会いに来た。」

 

「なるほどね。裏切りの魔女にか。」

 

…裏切り?

どういうことだと背後を向けば、男はフードに身を包んでいた。突きつけられた杖の向く先は我が心臓。…要らぬことをすれば、死ぬと言ったところか。

 

「ノーレッジ家はこの魔法使いの街に魔女狩りを呼び込んだ。魔法も使わぬただの人間だったよ。…俺の家族も殺された。だから、今度は…アイツらを殺してやるのさ。」

 

…尋常じゃない殺気。

向けられたその目は奥の奥まで真っ黒だった。しかし、おかしな話だ。ノーレッジは度がつくほどの人嫌いだった。寧ろ、クソみたいな人に付き合うくらいなら平穏を…というパターンのやつだったはず。

 

「旅人さん。…頼むから逃げてくれ。無関係なヒトまで殺したくはない。」

 

そう言うと男の周りからワラワラと人々が現れ始める。頭巾を被った老婆、装束を着た少年…などなど。男はフードをあげ真っ赤な髪を露わにする。

 

「…どうするの!?…ここ、逃げる?」

 

美鈴がそう言葉を吐いた。

…その目は真っ直ぐ目の前の魔法使いの軍勢を睨んでいる。不味いのは…この曇天を晴らされれば、我々が一網打尽になること。…不利か。

 

「殺すですって?…私たちは誇り高き吸血鬼一族。アンタらみたいな、魔法使いなんかに殺されやしないわッ!!」

 

…そう啖呵を切るは我が妹…レミリア・スカーレット。その手にはまだ大きな紫色のグングニルが握られていた。…嗚呼、なんとも強くなったものだ。

 

「…美鈴。フランを連れ、あの家へと走れ。」

 

「え?」

 

「…ノーレッジに事の顛末を聞くのだ。そうしなければ、此方が侵略したことになる。」

 

その言葉を聞いて、美鈴は頷く。

フランの小さな身体を抱きしめ、そのままノーレッジ家へと走って行った。その様子を見た赤毛の男はニヤリと笑う。

 

「いいの?…吸血鬼ってことは今、この雲が晴れたらきついんでしょ?」

 

…痛いところをつく。

無論、その通りである。余もレミリアもそのリスクは考えている。日暮れまで数刻の間、我らはここで戦い続けなければならない。この曇天の下で。

 

…だが、考えがないわけではない。

 

「…汝らがいかに優秀か。それを知った覚えはないが、余の横には余の愛する妹が立っている。それを…日の光が怖いからと兄がおめおめと逃げては帰れぬよ。」

 

「へぇ。…じゃあ、2人まとめて終わりだな。」

 

そう言って男は杖を天へと掲げた。

 

直後、その男に向かってグングニルが斜めがけに落ちてくる。

 

「うぉっと!?」

 

上空。レミリア・スカーレットがニヤリと笑う。

地面を貫いたグングニルによって起こった砂塵に、男は一度距離を取る。

 

「お兄様ッ!!」

 

「安心せよ。殺しはせぬ。…真実を知らぬうちはな。」

 

そう言い、我が右手に握るは…鎖に繋がれた黒き巨剣。その大きさは刃だけでもレミリア2人分以上の広さを誇る。…言ったら乙女を単位に使うなと怒られてしまうな。

 

「…『死を呼ぶ刀(ダーインスレイヴ)』」

 

そのまま余はただ片手でそれを横一閃。

空を切り、雲をたなびかせるその一撃は魔法使いどもの放った攻撃を散り散りにし、腹にぶち当たり、その意識を刈った。




ダーインスレイヴ
…兄上の愛剣。見た目はBLE○CHの斬○。柄の部分に鎖が垂れている。血を啜り、形状を変える。兄上は片手で扱えるが、その重さは美鈴でも持てるかどうか。フラン、レミリアには持てない。レーヴァテインや、グングニルと同じ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。