今回はあの子が登場します。では本編。
何百年経ったのか
修行などというつまらぬ期間はとうに過ぎた。
先ずは色々と変化があったため、ここに記す。
1つ目、八雲紫のスキマとやらは余にも可能であった。だが、近所と近所の縫い合わせのみであり、八雲紫のように遠出にはならない。いわゆる、簡易版スキマといったところだろうか。空間を切除し、別空間へ喰らいつき、そこの空間も切除する。…言葉では容易いが何を言っているのかわからんだろう。こればっかりは己の感覚のみの立証以外は不可能である。
二つ目、妖怪の力が弱くなった。
余はそこまで実感することはなかったが、八雲紫曰く『外で妖怪が畏怖から忘却の対象になったため』とのこと。伝承が残っている吸血鬼や鬼、天狗など以外は全盛期よりそこまでとのこと。それでも流石は八雲紫。時折、余を殺そうと襲ってくるものの、大抵返り討ちにあっている。
三つ目は鬼童の変化である。
奴も能力の顕現に成功した。『聚める』程度の能力らしい。程度というのは八雲紫の命名であり、殺し合い以外の能力は全て程度という言葉を用いるとのこと。面倒この上ない。此方はわかっていて力を制御しなくてはいけないのだ。
さて、この聚めるだが、蓄えると似たようなもので奴は体の中に熱気を内包することができるらしく、八雲藍相手に燃える拳で殴りつける様が見えた。…弱点は据え置きだが。
「行くわよッ!!主人様ッ!!廃線『ぶらり廃駅下車の旅』ッ!!」
…その技はよくわかる。
スキマを巨大な電車を呼び出す技である。…迫るそれは直前まで引きつけ、上へと飛べば一直線。当たる気がしない。
「それは弾幕に入るのか?…魔邪『インバーテッドクロス』」
「ちょっ!?それ、辛いのよッ!?」
放つは弾幕でできた逆十字。ランダムな数、不規則な速度でばら撒きながら、逆十字が余を中心に回転する。
口ではなんとも言っているが、避けられているではないか。
「獄中『1000年魔境の通り路』」
「うえっ!?キャァァァッ!?」
あえなく爆散。
大きな弾幕は円を描きながら徐々に増えていく。1000個になった所でその速度は天狗でも感知することは不可能だろうが火力は低い。八雲紫の場合は、50個あたりから死にかけていたが。
「うぐぅぅぅ…悔しいッ!!」
「意気揚々と迫ってきてこれか。…全く阿呆め。」
…とはいえ、弾幕戦よりもやはり肉弾戦が合うな。あまりと言っては何だが、加減が難しい。遊びとして破綻しては意味がない。それは殺戮だ。
「…そろそろ博麗霊夢の躾の時間じゃないのか。」
「うげっ!?もうそんな時間っ!?…こ、こほん。それでは参りましょう?主人様。」
何事もなく立ち上がると此方へ手を伸ばし笑う八雲紫。何事もなく扇で口元を隠す様は上品だが、余に対してはそれは通じないだろう。
「…全く。」
…呆れた声が口から出る。結局、何年もこんな付き合いを続けている。
八雲紫によって博麗霊夢…現代の博麗の巫女様を鍛えるということを続けているのだ。人間が妖怪に躾けられるとはどういうことなのだろうか。前に聞いたところによると八雲紫にとっては博麗の巫女を育てることも幻想郷の秩序の維持につながるのだからと諭された。
スキマが明ければそこにあるのは例の博麗神社である。
「あっ!!」
そこには縁側に腰をかける少女と女の姿があった。背丈の小さな黒髪の少女は余を見るなり、その小さな脚で此方へと駆けてくる。此奴に悪感情はない。
胸に飛び込んでくる無邪気の塊を抱きしめてやる。とても軽くだが。
「お兄ちゃんっ!!こんにちはっ!!」
「あぁ。余の妹分としてしっかりと修行に励んでおったか?」
こっくりと頷く黒髪の少女こそ博麗の巫女、博麗霊夢である。…歳は確か、4、5歳だったか。本当に小さい。レミリアやフランドールにも似ている。
お兄ちゃんとご満悦な顔で呼んでいるが、別に余の趣味ではない。最初は危うく『主人様』と呼びかけたのを八雲紫と桃色仙人…そこの縁側で座り、茶を嗜んでいる鬼の元四天王、茨木華扇の粋な計らい…?により、お兄ちゃんまで何とか漕ぎ着けた。
流石に博麗の巫女を何かしらの従者にさせるのは幻想郷がそれこそ許さんのだろう。勿論原因はそこのスキマ妖怪だ。
「相変わらず懐いているのね。霊夢。」
「うんっ!!霊夢、お兄ちゃんのこと大好きっ!!」
…フランドールやレミリアと話す用に蓄えていた英雄譚を随分と希釈、誇張して話してやるとすぐに釘付けになった。博麗の巫女として育てられたのだ。子どもの娯楽よりも修行をさせられた。それが、彼女にとっては大きなストレスだった。だからこそ、余の話はいい発散になったのだろう。
…ここまで懐かれるとは流石に思わなかったが。
「茨木華扇。悪いな。」
「いえ、ストレス溜めすぎると修行に身が入らないからね。貴方の存在はこの子にとっては救済だから。少しくらいならいいわ。」
「ふっ…助かる。」
「ねぇっ!!抱っこしてっ!!」
…小さな巫女様はとても図々しい。余は従者でも父親でもないにも関わらず、こう言ってくる始末だ。だが、そのキラキラとした眼差しに罪はない。純粋無垢ゆえタチが悪いとはこういうことだ。最も妹らに重ねているのかもしれんが。
「仕方あるまい。」
「わーいっ!!」
お姫様は花の生えた馬へと騎乗。ハグはもうしているため、小さなその身体を抱き上げるとそのまま腕を足の下へと回し、座席を作る。軽い軽い。羽の如き軽さとよく言うが、一重に博麗霊夢が飯を食べていないとか、そういうのではなく余の力が強すぎるのである。
後ろで八雲紫がヒヤヒヤしているが、落とすわけがない。落ちたら境内に頭から入って脳漿を散らす…まだは行かぬが、泣き叫ぶだろう。親を失ったこの子をそんな目には合わせたくはない。
「で?修行の出来は?」
八雲紫のその言葉に茨木華扇が何やら話している。
その話に余も入れるが、幼き巫女の世話は誰がするといった具合である。
「お兄ちゃん、あれ見せて?あれっ。」
「…あれとな。」
…小さな巫女の黒い眼は真珠のようにキラキラと輝いていた。あれか。
少し前に弾幕を見せるという体で八雲紫と模擬戦をしたことがある。その際に見せた魔法がお気に召したようだ。
早く早くと急かす小さな巫女様はぴょんぴょんと跳ねてしまいそうだった。
博麗霊夢を縁側の隅に降ろし、立ち上がる。少しでも出力を間違えればこの博麗神社は木炭になるだろう。
「余の妹分よ。その目に焼き付けておくがいい。吸血鬼の魔法をな。」
「うんっ!!早く早く〜!!」
指先から肘下まで炎を纏う。その火球を上へと放り上げるように放てばその炎はバサバサと大きな鳥と化して宙を舞う。長い尾羽は七色に輝き、キラキラとした光を落としながらゆらゆらと揺らし、青空へかける。
東洋の伝承の鳳凰をモチーフにしたものだが、これが博麗霊夢のお気に入りだ。
「わぁぁぁ!!綺麗綺麗っ!!」
きゃっきゃっと縁側で足をぶらぶらと動かし、喜んでいた。何とも子供らしい。ご機嫌なのか、手をぱんぱんと叩いている。
「…弾けよ。」
…そして、空中で爆ぜる。巻き起こるのは黒煙ではなく、七色の爆発。少し前の夏祭りで博麗霊夢と八雲紫と見たあの花火とやらを参考にしたものだ。弾幕の応用なのだが…朝でも見えるように少し色彩を濃くしている。
「わぁぁぁぁっ!!」
「…ふふ。兄にできぬことはない。」
…なんというか、久方ぶりだ。このように持ち上げられるのは。口角が自然と上がる。
「…主人様は中々子どもが好きなようね。」
…この女の笑みさえなければもう少し余韻に浸れていたのだが。
「悪いか。妹らのことを考えておった…それだけだ。」
もう200年以上顔を見ていないことになるが…よもや、兄の顔を忘れてはおらぬだろうな。そろそろ会いにいく必要がありそうだ。
「ねぇー。」
「ん?」
「今年も行くんでしょ?夏祭り。」
…この巫女様は末恐ろしい。余の服をその小さな手で握り、上目で此方を見るその様。大人にねだるということをこの歳で覚えさせた余たちも悪いには悪いが、それでも魔性の女になら得るだろう。
「…あぁ。今年も行こうか。」
「ほんとっ!?やったぁぁぁ!!」
…どうせ、一夏などすぐ来る。
1日くらい修行を忘れ、この幼き巫女に使うのは容易いだろう。両手をあげて、飛び跳ねる巫女に自然と頬が綻ぶ。
「…さて、そろそろ飯だな。余が手によりをかけよう。」
「手伝うわ。主人様。」
…八雲紫には火を使わせないようにしよう。せっかくのランチを黒焦げにされてもたまらぬからな。
「大丈夫なの?紫。」
「大丈夫よ。霊夢。…それと紫『お姉ちゃん』よ。」
「紫っ!!」
無邪気な笑みと叫びに落胆する八雲紫をよそに余は台所へと立つ。紅魔の主人である余の調理…お見せしよう。
無邪気なキャラがツンデレになるのはよくあること。
ゆかりんは苦労人。ではでは。