「…ダンナ。アンタとやり合うのは久しぶりっすね。」
筋骨隆々…赤い長髪を携えた二角の鬼は此方を睨みつける。場所は白玉楼の見事な和風庭園。なお、今回の観覧車には…。
「お兄ちゃんっ!!頑張れ〜!!」
…何故かいる
庭園は余と八雲紫による完全的な結界空間と化している。故に白玉楼が壊れることはない。
「…少し試してみたいものもあるが、博麗霊夢の手前、カッコ悪いところは見せられぬ。…故に覚悟せよ。鬼童ッ!!」
「はいッ!!」
そう言うと鬼童は自身の拳に力を入れる。真っ赤に燃える鬼童の拳…比喩ではない。奴は熱気を溜め、自身の拳を発火させることができる。聚める程度の能力の持ち主である奴はこうして能力を消化させた。
「鬼拳『紅蓮百烈拳』ッ!!」
そう言うと鬼童は宙に向かってインファイトの如く拳の連打を披露する。
それは真っ赤な炎の弾丸と化し、周りに浮遊しながらも静止。その数は打てば打つほど多くなる。
「発ッ!!」
その言葉と共に弾幕は此方を撃ち落とさんと向かってくる。勿論、普通の弾幕よりも速度はある方だろう。目はいい方なので向かってくるものは大体見える。
「チッ!!当たんねえかッ!!」
「よそ見をするな。」
弾幕が全て晴れると同時、空中を蹴り、その反動で飛ぶことで懐へと容易く入る。
そうなれば奴がやってくるのは勿論、殴打。真っ赤に染まる右拳を当たる直前で首を傾げ、避ける。
「ッ!?」
拳には拳だ。
固めた右拳は鬼童の腹へと捩じ込まれ、そのまま吹き飛ばされる。
結界は大の妖怪のぶつかり程度では壊れない。壁にぶつかった鈍い音がするが、鬼童は何事もなかったかのように立ち上がる。…鉄骨の如き筋肉が奴のダメージを少なくしているのだ。しかし、口から血を吐くあたり、内臓に少しダメージが入ったのだろう。
「イッテェ。流石っすね。ダンナ…。」
「灼熱『スカーレット・アンタレス』」
右手を包む赤い炎は余の頭上で混ざり、大きな炎弾と化す。
球体は弾けると共に周りに真っ赤な小弾幕を撒き散らしながら、鬼童へと向かっていく。
鬼童は臆することなく、それを円を作るように走り避けていく。大きな玉は追尾弾。散弾を撒き散らし、相手を追い詰める。
「ぐぬぉぉッ!!」
「避けねば火だるまだぞ?…くくっ。」
…燃費は考えなくていい。結局、余の力は白玉楼と幻想郷の一部から供給されている。喰らうとは吸収の意味も含んでいる。それが無尽蔵の力を作っている。
…まぁ、少しずつではあるが。もう少し範囲が広げられるようになれば幻想郷中から集められるだろうか。
「ぐぅっ…はぁ…はぁ…なっ!?」
「遅いッ!!」
弾幕が晴れれば次は格闘術の追撃。
逃げ疲れた鬼童は手でガードするのが精一杯。交差された腕ごと蹴り飛ばす。
「ぐおっ!?」
地面を滑りながらも鬼童は拳を固める。…すぐやられぬようになったのは評価するに値しよう。
「俺は弾幕苦手なんだよッ!!ヌォォォォッ!!」
…前言撤回。赤鬼は何も策を用意せず、地面を蹴ってドスドスと此方へと走って迫ってくる。
振り上げられた拳はやはり大振り。
「汝は変わらぬな。」
「どうもッ!!」
拳は鼻を穿ち抜くように撃たれるが、殴られる直前に霧となる。
「わっ!?お兄ちゃん、消えちゃった。」
「よく見てて。霊夢。あれが化け物の戦い方よ。」
…幼子に見せて良いものか。
嬉々として言う八雲紫に一言言っておきたいが、博麗霊夢が楽しそうなのでやめておく。
「ぐっ!!近づかさせないっすよッ!!炎舞『赤鬼大暴れ』ッ!!」
…そう言うと鬼童は右拳を地面へと打ちつける。凄まじい轟音と共に砂利が上へと吹き飛ぶと同時、周りから出るのは炎の防御策。…学んではいるが、小細工にはならんな。
「それは中に入られては困らぬか?」
「ぐっ!?」
耳元で囁いてやると手刀を胸を薙ぐ。横一文字に傷がつく鬼童だが、真正面ということもあり、そのまま左拳を構える。迫り来る拳は霧になって避けると次に見るのは奴の背中だ。
「チッ!!そう来ると思ってましたよッ!!」
「…なるほど。」
見据えていたのか、奴が放つのは我が顎を穿ち抜かん上段回し蹴り。
だが、それは己の目の前で何か壁に阻まれたかのように静止する。
「なっ!?」
「…空間侵食。…予備動作なしでやってみたが可能か。」
そのままその足を掴むと宙へ鬼童ごと持っていく。男一人持てぬほど落ちぶれてはおらん。
「ぐっ!?うわぁぁぁッ!?」
「…落ちろ。」
そのまま地面へと放り投げる。
爆音と共に砂煙が結界内を舞う。白煙の中から姿を現した鬼童はその手に熱を溜めていた。頭から突っ込んだのに額から血を流す程度とは…頑丈だな。人のことは言えんが。
「鬼炎『鉄拳砲』ッ!!ハァァァァッ!!」
空へ左拳を打ち込む鬼童。その拳から出るのは八雲紫や風見幽香御用達のレーザー砲だった。
直線的なため、横に避ければ容易く避けられるが…真っ赤なレーザーを正面から破壊するのも一興か。
「炎帝『Crimson Deffert』」
放つのは同じく真っ赤な火炎玉。右腕を覆う炎を指先に溜め、弾き放つ技。真っ赤なレーザーに真っ向から立ち向かう。目には目を。火力には火力を。…こんなのは常識だ。火力に頼るような脳筋は簡単に打ち砕ける。自身が火力で上回ればいいのだから。
「ヌォォォォッ!!」
鬼童の雄叫びと同時、レーザー砲の流れが増す。衝突するそれは風を起こし、砂利を吹き飛ばす。庭師からのお墨付きだが、あまり汚すのも如何なものかと思う。
「…ほう?」
…これだけでいいと思ったが、早計だったようだ。火炎玉の中央。より真っ赤な火炎弾がさらに真っ赤に染まる。それは火炎玉の赤ではない。恐らくはアイツのレーザー砲のものである。…穿ち抜こうとしているか。
「極炎帝『Crimson salamander』」
銃のように手を形作り、その先の魔法陣から放つのは真っ赤に燃える炎のレーザー砲。それが火炎玉を穿ち抜いた鬼童のレーザーとかち合う。
「わぁっ!!わぁっ!!すごい、すごいっ!!」
…この派手な弾幕ごっこに博麗の幼巫女様はご満悦の様子。目をキラキラと輝せ、此方を見ている。手を叩いて喜ぶ様は博麗の巫女とはいえ、他の子どもと他愛無い。…他の子どもをあまり知らぬが。
「うぐっ…クソッ…!?」
「力量の差は理解しているだろう。博麗霊夢の手前、無様な真似は出来ん。此処で終わりだ。」
…やがて、鬼童のレーザー砲はどんどんと勢いを無くしていく。押し切られているのだ。我がレーザー砲に。火力は段違いである。
「…ハッ。」
「ぐぁぁぁぁッ!?」
けたたましい轟音と共に黒煙が結界内を覆う。突風と共に此方へ黒煙が飛んでくる。空間侵食の影響で目の前で黒煙が二股に分かれる。…晴れればそこにはボロボロになった鬼童が大の字で倒れていた。
「は…はは…やっぱ…勝てねえや…。」
「…ふん。当たり前だ。余に勝つには己が弱点を理解せよ。」
指を弾けば、周りの結界が弾け飛ぶ。余の霊力も無限ではない。故に霊力保護で身体を強化するには少し心許ない。手刀は元より刀剣の刃のようだが…霊力で強化した時、確かに火力は増すが…霊力の維持が不安定に感じる。この結界もなければ、鬼童とやり合うのに大技を使う必要もなかったように思える。
「わぁぁぁっ!!お兄ちゃん、勝っちゃったっ!!すごいっ!!」
戦いが終わり、待ち受けるのは幼巫女からの抱擁だった。太陽のように明るい笑みを浮かべる彼女の頭を少々荒っぽく撫でる。…人間にあの子たちと同じようにしては首がなくなってしまうため、力は抜いているが。
「当たり前だ。…余は負けぬよ。」
「霊夢、もし貴方が博麗の巫女としてしっかり修行積んだらその男と戦わなきゃいけないのよ。勝てるかしら。」
八雲紫はなぜか唐突に、博麗霊夢の顔を見てそう言った。博麗霊夢に合わせるように姿勢を低くして。博麗霊夢は余の顔を見て考え込むように少し黙ったあと…。
「…勝つよ。私、強くなるもん。」
そう言って不敵に笑った。
「…そうか。楽しみに待っている。」
わしゃわしゃと撫でられる頭に目を細める博麗霊夢。今回は気分がいい故、この人間の不敬にも少しは寛大な心で許してやろう。
「藍。私も霊夢、主人様は一度博麗神社に戻るわ。貴方はここの片付けを鬼童くんとしておいてちょうだい。」
「…承知しました。」
八雲紫はスキマを作る。
…博麗霊夢は自身の特等席…即ち、余の腕の上に座り、抱かれる。スキマを通ればそこにあるのは木々が風で揺れる博麗神社だった。
「…お兄ちゃん。」
「ん?」
「お腹すいたっ!!」
…着くや否や、腕の中の博麗霊夢はお腹をさすりながら、元気にそう言い放つ。そういえば、ランチはまだだったな。だが、博麗神社には材料はあったろうか。買っておかねばなるまい。
「おかえりなさい。」
考え込む余と博麗霊夢の帰還を祝うのは茨木華扇であった。博麗霊夢は元気な声で「ただいま」と返す。
「浮かない顔してどうされました?」
「…この小さなお姫様が昼飯を所望でな。だが、昨日はそこまで食材はなかったように思うのだが。」
「そ、そうですね…。」
余の言葉に茨木華扇も考え込む。
昨日の飯だって残り物を適当に炒めただけである。米はあったが…それだけでは育ち盛りの巫女の腹を満たすのは不可能だろう。それに…単純に哀れだ。
「…仕方ない。余が人里へ連れて行こう。食材も買い込んでおく。」
「え!?お兄ちゃんとお出かけっ!!行くっ!!」
その提案に博麗霊夢は目を輝かせて乗ってきた。
「でも、お金は…。」
「大丈夫だ。金ならいくらでもある。」
…金魔法は攻撃に使わないため、炎と共に得意にしてきたものだ。何もないところから金塊を作り出す。本物と変わらない、更に外へと出さないことで使っている。外の財政が破壊されてしまうからな。容易く。
「じゃ、じゃあ、お願いします。」
「あい、わかった。」
「やったぁぁぁ!!」
茨木華扇は頭を下げ、博麗霊夢は両手をあげて喜んでいた。…人里に住む妖怪も多々いる。余が出ても悪くはないだろう。
「向かおうか。」
「うんっ!!」
八雲紫にもその節を言い、階段を下がる。
…小さな巫女様との人里デートに向けて。