紅魔ノ兄   作:紳爾零士

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まさかの…。


人と悪魔

「〜〜♪」

 

…鼻歌歌うご機嫌な巫女と共に空を飛ぶ。上空から見る木々は酷く小さく、生き物などよくわからない。目がいい為、見えないわけではないのだが。

 

「そろそろ見えてくる。降りようか。」

 

「うんっ!!」

 

なんというか、子どもというのは本当に無邪気だ。無垢な笑顔は心の奥をぽかぽかと温める。

 

…門番のいる人里西門。

 

「止まれ。」

 

…当然ながら妖怪である余は止められる。交差する槍、そんなもので止められると思われれば侵害だが、此奴らとしてはそれが任務なのだから仕方ない。

 

「…この娘が腹を空かせているのだ。危害は加えぬ。汝ら弱きものを痛みつけるのは我が威厳を損なうのでな。」

 

「…貴様、その少女はどこで…。」

 

「次代の博麗の巫女だが?」

 

…その言葉に門番たちの口が開く。塞がらないその口をよそに此方を小首を傾げて見る博麗霊夢の手を握り、人が跋扈する人里へと入っていく。微かに香るのは炭火焼きの香りか、或いは団子の醤油か。

 

「お腹すいたぁ〜。」

 

「…うむ。確かに。」

 

より空きっ腹を攻撃してくる。

妖怪たる余は極論、腹に何も入れずにでも生きはしてられるが、例えそれでも腹を空かせるという機能はこの身体には備わっているようで。微かに身体に空腹感を感じる。

 

「何が食べたい。」

 

「え?ん〜。なんか高いのっ!!」

 

「…高いの?」

 

…この歳で守銭奴か。

幼巫女には今は通じないだろうが、実質『なんでもいい』と言われているのと同義だ。それに人里という庶民の溜まり場には財布に優しい飯しかない。かと言ってこの歳で我慢させるのもそれはそれはなんとなく居た堪れない気持ちになる。

 

「高くなくてもいいよ!!」

 

「…。」

 

…これで『なんでもいい』の条件が揃った。

その幼気な笑みにはその意味が通じていないだろうが、考える方は頭を悩ませる。そんな実質くだらなく、ある意味重要なことに思い悩んでいるその目に映った看板。

 

「…定食屋か。うむ。ここで良いか?」

 

「うんっ!!」

 

…やはり、4、5歳の少女に金銭感覚など揃っていないな。

 

引き戸を開けると元気な声が此方を迎える。歩いて少し二人がけの机へ行くと微かに香る大蒜の匂いに身体の奥が熱くなる。苦手意識があるだけだが、この異臭には少し耐え難いものがある。

 

「…何が食べたい?」

 

「え?ん〜。これっ!!」

 

…そう言って博麗霊夢が指を指すのは川魚の炭火焼き定食だ。…見えているメニューの中でも比較的安価である。

 

「余もそれにしよう。」

 

川魚の炭火焼き定食を頼んで少し。

待ち時間は最大のスパイスなどというが、ただ座っているだけというのもつまらぬな。周りの稀有な目も多少は気にならなくなったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

塩辛い魚の炭火焼きに舌鼓を打ち、少し歩いたのち。幼巫女は餡蜜を所望した。その程度ならいつでも奢ってやれる。

 

甘味屋の外の椅子に座り、博麗霊夢と共に餡蜜に舌鼓を打つ。甘味はあまり食べないが、自然な甘さのその餡蜜は美味である。博麗霊夢も普段食べぬ甘味に目を輝かせて、ご満悦で食している。

 

昔の遺恨もあるのだが、人間と接してみて心境は変わった…のだろうか。やはり弱者には変わりないが、ここにきて人間に襲われることなく人間と暮らしている。…馬鹿馬鹿しい話だ。

 

「美味いか?」

 

「うんっ!!」

 

その笑顔に絆されているのかもしれない。勿論、レミリアやフランドールと重ねているには変わりないが。こういう生き方も悪くないかもしれない。

 

「そうか。」

 

ほのかに口角が上がるのを感じながら、その頭を優しく撫でる。博麗霊夢は言葉にならない満足げな鳴き声をあげている。残り一口を名残惜しそうに放り込むその姿に僅かに笑みが溢れる。そのぐらいならいくらでも買ってあげようと

 

「美味しかった!!」

 

「…そうか。」

 

屈託のない笑顔で此方を見る博麗霊夢。

庇護欲か、或いは…。どっちみち、弱者を強者が守るのは当然の道理である。

 

「…さて、食材を買い込むか。」

 

いくつかの食材を買い込み、帰路に着く…はずだった。…ただ、信用して目を離してしまった。博麗霊夢なら大丈夫だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつも持っている鞄は革で出来ているもので、空間侵食の力で倍にも3倍にも。入るものを選ばせないということである。

 

野菜に魚、肉までも買い漁り、そろそろ戻ろうかという時だった。博麗霊夢がモジモジとし出した為、聞くとトイレへ行きたいという。人里に設置されている民間の厠は解放された場所にあり、女子トイレまで同行する必要はないと考えていた。

 

「…で、いくら待っても霊夢が帰ってこなかったと。」

 

「…あぁ。」

 

…迂闊という言葉以外生まれてこない。

実に1時間。腹でも下したのかと考えたが、八雲紫を呼び調べさせた。…博麗霊夢の姿がその厠から忽然と姿を消していた。

 

「…貴方ほどの妖怪が。してやられたわね。」

 

心なしか、八雲紫が此方を見る目も冷たい。

厠には一枚の紙が用意されていた。拭くようのものではない。…達筆な何かを書かれたものである。

 

『偉大なる吸血鬼殿。

過去の遺恨をここで晴らそう。我々、天狗一同。貴君に主君を討たれたその日から恨みを忘れたことはない。故に幼児を拉致した。取り返したくばあの日と同じ戦いをここでいたそう。…前と同じ轍は踏まぬゆえ。』

 

「…恐怖は植え付けたはずだが。」

 

…天狗の知り合い…文に確認を取ったところ、この手紙は確かに上層分の所謂、大天狗からのものらしい。

 

「…兎も角、この問題には私の方で対処するわ。主人様は…。」

 

「…必要ない。」

 

「…見殺しにする気?次代の博麗の巫女なのよ?」

 

…そう、そこだ。

よくもまぁ、博麗の巫女を誘拐するなんて暴挙に出たものである。知らぬか、或いは知っていてか。後者なら幻想郷中を敵に回すことになる。

…冷たい殺意に感じるのは自分自身への怒り。

 

「この件は余一人で十分だ。」

 

…雑魚どもが。

目に物を見せてやる。

 

「えっ!?ちょっ!?」

 

…この身体はその瞬間、空へと飛び立っていた。博麗霊夢に合わせていたから速度は抑えていたが、本来ならば射命丸文にも負けずとも劣らない速度を出せる。見えるのは妖怪の山。

 

先制攻撃なら容易いが、山丸ごと消してしまいかねない。山に着地するとそこに居たのは狼のような姿をした天狗たちだった。

 

「何者だッ!!」

 

…やはり、情報統制は出来てないらしい。その粗末さは昔と大差ない。

 

「…汝らの上に招待状をもらってな。…奪われた者を返してもらいにきたぞ。」

 

「ッ!?」

 

放つのは明確な殺意。

無論、この駄犬どもが関与していない可能性は大いにある。だが、興味はない。奴らも博麗霊夢を攫った“天狗”なのだから。

 

駄犬どもの顔は驚愕に変わる。

目はいい。その額が汗ばんでいるのがよくわかる。

 

「…天魔を過去に殺し、その罪を精算したのだが…不味かったようだな。根絶やしだ。もう天狗という種族はこの世にいらぬ。」

 

「ぐっ!?構えろッ!!」

 

…意外にも。心の奥底は冷静だ。

怒りで目の前が真っ赤になる…なんでありきたりなことはない。相手の刀がよく見えるほどには視界はクリアだ。

 

30人ほどの小隊か。…だが、隙だらけだ。刀を握るその姿はいいが、振り終わりの隙を考えていない。

 

「雷帝『雷将の剣(エレクトロ・エスパーダ)』」

 

…炎は凝縮し、高音となれば電撃…プラズマを起こすことができる。それを拡大解釈すれば雷のようなもの。それを帯びた妖力弾は余の上空で二本の剣と化す。

 

「…突き抜けよ。」

 

「ぐっ!?」

 

咄嗟に天狗どもは盾を構える。が、その盾すら防御不可能。雷をガードするなど一介の天狗には不可能だ。すり抜けた骨すら焼き尽くす超高温を喰らい、天狗たちはジュッ…という音を立てて、その場に焼き屑となった。

 

「…さて。」

 

「侵入者だッ!!拘束しろッ!!」

 

…続いて出てくるのは羽の生えた烏天狗だ。

駄犬天狗と共に来ているが、声が聞こえる時点でこちらの勝ちは確定している。

 

「放てッ!!」

 

「…なんだこれは。」

 

呆れてものも言えん。

目の前から放たれるのは妖力も何も帯びていない矢。無論、所狭しと放たれるわけもなく、その間を縫って避けていく。

 

「ぐっ!?クソッ!!クソォォッ!!」

 

気づけば隣に敵がいる…なんて恐怖以外の何者でもない。

 

「なっ!?ガッ…!!」

 

駄犬天狗二人の腹を貫手で貫き上げる。ぐしゃりという音と共に手に伝わる温かさ。手を引き抜けば、そのまま温度を失った肉は下へと落ちる。

 

即座に近くの天狗の首を手刀で刎ねる。言葉もなく、首は下へと落ちる。

 

…あぁ、そうか。一人ぐらいは残しておかねばな。

 

「ぐっ!?クソッ!!役に立たない白狼天狗どもがッ!!」

 

「…。」

 

空から矢をポツポツと放っていた貴様らの方が役に立たぬと思うが。…空へと飛び立った余を迎え撃つのも矢。しかし、目の良い余には焦りと怒りからのただの豆鉄砲にしか見えない。

 

皮一つ切らさず、天狗たちの懐へ入る頃にはもう、決着はついていた。

 

「ガッ…ハッ…!!」

 

…空を飛ぶ天狗はいない。地に落ちた鴉は1人、あとは天へと…いや、獄門へと入っていたろう。空から落ちる肉塊の雨をよそに、1人の天狗の首に首輪をかける。

 

「…貴様らの攫った巫女装束の少女…何処にいる。答えねば息は無くなるぞ。」

 

「…殺せ…貴様に言う話などな…ガァァァッ!!」

 

…左の人差し指。あらぬ方向を向くそれに天狗は絶叫する。痛ぶるのはあまり好きではない。此方の威厳に関わるからだ。だが、今回だけは別。如何に雑なやり方でも…吐かせねばいけない。

 

「…早く言え。言わねばその手、使い物にならなくなる。」

 

「ぐぅ…外道…ガァァァッ!?」

 

…左の中指。

苦悶に浮かぶ表情は当然の報いと言えよう。

 

「…外道などという常人が使うような言葉は貴様らには合わん。単純だ。話せ。貴様らに拒否権はない。」

 

…魔眼を使えば容易いのだろうが、それでは此奴らに恐怖心を打ち込むことができない。使うとしても回りくどいがある程度痛めつけてから。

 

「ふっ…くふふっ…!!」

 

「…何を笑っている?」

 

「いや、なに…。お前らの吠え面を考えると…このぐらいの拷問…気持ちいいくらいだ…!!」

 

…不敵な笑みを浮かべる天狗に対して、余が出した声は絶対零度の如く冷たかった。…続いて、右の人差し指。

 

「…あぐっ!?…いくらでも…折ればいい…!!…どうせ、そんなことをしていれば手遅れになる…!!」

 

「…手遅れか。」

 

「…へへ…巫女の純潔なんて…あの方の前にはただの…あっ…。」

 

…もういい。

もう、喋るなと言わんばかりに目に熱い感覚が伝わる。魔眼は3つの能力を保有するが、そのうちの一つが魅了、そして、二つ目が洗脳である。似たような能力だが、二つ目は確実に意識まで従順にさせる。脳まで焼け切れるかもしれんがな。

 

天狗の目はハイライトを失い、言葉を失っていた。

 

「…その少女はどこにいる。」

 

「…天狗…烏天狗庁舎の…地下牢獄。」

 

「…ご苦労。」

 

…その場から立ち去る。

何もせぬのは癪に触る為、近くの木に先ほどの天狗を貼り付けにしておいた。周りの白狼天狗の残った剣を手首に、足首に突き刺し、翼は仲間の天狗の持ち物で。ぴくぴくと動く体からは血が滴り落ちるその様は下の者には十分な報復だ。

 

「…待っていろ。霊夢。」

 

…必死で羽を動かせる。如何様な壁も…今の余には取るに足らん。




兄上は容赦なし。
消す、殺すといえば殺します。そうなればあの人は…。では。
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