…ギャラリーは息を飲む。この部屋に満ちる我らの殺気に当てられ、声も出ないのだろう。方や漆黒の如く光る太刀、もう方や紅色の日の光の如く反射する刃。
…風は今、余に吹いている。文字通り。
「…なんでもしてきていいです。ですが、出来るだけ玄天に慣れましょう。天狗を代表して私が相手をします。」
…直後だった。視界から天魔の姿が消えた。
残影すらそこに置かず、懐へと入る天魔。小柄な彼女が袈裟に余を捕える。
玄天の刃を使い、落ちてくる黒刃を受け止める。火花によってお互いの目の色が見えるように。
金切り音がまだ耳に残るほどの一瞬、天魔の懐へ蹴りを入れる。
「ぐっ!?」
天魔は苦悶に一瞬、表情を変えるも即座に背後に飛んだからか手応えがまるでない。
「これです!!これを望んでましたッ!!」
「…いい趣味だ。」
新しい玩具でも与えられた子どものように声を上げて笑うその姿は紛れもない戦闘狂。天魔は壁を下駄の履いた脚で蹴ると物凄い衝撃と共に風を纏いながら此方へと攻めてくる。
閃光のような速度の刺突。光より早いものはこの世にない。音を置き去りにしたそれを首を捻って避ける。…流石はと言うべきか。頬に一閃、傷がつく。
即座に背後からの斬撃に切り換える天魔。着地した地面を蹴り、此方へと突っ込んできながら刃を横に薙ぐ。
近接戦は得意分野だ。…刃が届く直前、霧となって回避する。
背後から実体化し、刺突を打ち込む。
「そこです!!」
しかし、玄天が届くよりも先に天魔の刀が余の脇腹を薙ぐ。…反応速度もピカイチか。
「玄天、風を巻き起こせ。」
その声に応えるが如く、室内を突風が吹き荒れる。余に追い風となっているそれは少しだが、空を飛ぶ天魔の身体の平衡感覚をなくす。バランスを取ろうと一時着地する天魔。
…しかし、それは隙となる。地面を蹴り、突風の中、天魔へと近づく。
「ふんッ!!」
選んだのは横薙ぎ一閃。天魔はコンマ1秒遅れながらも太刀を縦にし、防ぎにかかる。
「くっ!!」
甲高い音と共に火花が散る。
しかし、火花に隠れ…鮮血も散っていた。天魔の頬…目の下が少々切れたようだ。
即座に霧となる。
虚となった余の実態を防ぐのは不可能に近いだろう。大ぶりにはなるが、背後から袈裟に刀を振り落とす。
「ハッ!!」
…しかし、天魔はあらかじめ申し合わせたように振り向きながら、横薙ぎに太刀を払った。
「…!!」
胸が裂け、鮮血が舞う。玄天を振り落とすも天魔は瞬間的にその場から消え、その一撃を回避する。
背後に匂いが転移した。
「ハァッ!!」
縦に振り落とされる斬撃を霧となって回避する。空を切った刃をその目に焼き付け、次に出るのは背後…ではなく、前面。そのまま玄天を袈裟に落とす。
「させませんッ!!」
小柄な天魔はそれを後ろに飛んで回避。その後、奴の刃は拡大したかのように顔面に迫り来る。
「…。」
あえて霧にならず、首を傾げ、回避。無論、無傷でいられるわけもなく、頬から耳にかけて灼熱感が走る。…この女、見えているか。
「…まさか、霧化を攻略する者が現れるとはな。」
…ここまでどんな強者でもこれを攻略できた者はいない。風見幽香ですら、出てから対応し、レーザーを撃ち込むのが精一杯。あくまでそれは此方に見えており、なんとでも応用はできる。
だが、この女の攻撃はまるで出る場所がわかってるかのように正確でこの女の刃がある場所に余が現れているかのようにも思えた。そんな無様は晒さないが、現に胸に大きな一撃をもらっている。
「見えているのと同時、貴方が霧化を使うと実体化した際に妖力を集めるんです。つまり、妖力の強い場所を攻撃すればいいだけのこと。ですが、それに気が行けば、貴方から一撃もらうことになる。…これは私にしかできない荒技でしょう。貴方よりもスピードに慣れている相手にしか。」
…なるほど。荒技だが、効果的だ。
「…ならば、試してみるか。」
「何を…!?」
「緋弾『スカーレット・エゴイスタ』」
その声に応えるが如く、余の周りに波紋のように広がる赤色の弾幕達。部屋中を埋め尽くすように余を中心に回転するそれは大弾に付随する中弾と小弾が余に近づく全てを迎撃する。
「くっ!?」
「ならば近づけさせねば良い。」
弾幕は思惑通り、天魔との距離を著しく離す。無論、避けられないわけではない。この弾幕自体の耐久は脆く、あの赤鬼の打撃ですら破壊されてしまうほど。つまりは恐れず相殺しながら突っ込めばいい。
「…いや、いけますッ!!」
天魔は弾速の遅い大弾の間を縫うように前へと突き進む。大弾は弾速が遅い分、破壊力は抜群である。…それも弱点の一つだ。あまり強い技とは言えんな。…だが。
「吹き荒べッ!!玄天ッ!!」
その声と共に余の髪を巻き上げながら突風が吹き荒れる。天魔にはとてつもない速度の向かい風。
「なっ!?」
天魔の身体はバランスを崩す。
右重心がぶれ、それを直そうと必死である。
「きゃっ!?」
そうなればスカーレット・エゴイスタが火を吹く。大弾に次ぐ、中弾、小弾は弾速が速く、小さい。故に風に注意のいった天魔は避けることが叶わず、そのまま弾幕に被弾。黒煙を上げ、烏は地へと落ちる。
「…余を翻弄したスピードだけは褒めるに値しよう。」
「…勝った…つもりですか…!!」
…これは驚いた。
確かに肌を焦がし、純白の着物の彼方此方に穴を作り、額からは血をたらりと流している負傷者。だが、気迫と妖力の勢いは止まることを知らず、その顔は笑っていた。
「…私は嬉しいんです。天魔になってからこうして遊べる相手は少なかった。居なかったに等しい。でも…でも…貴方が居てくれて私は退屈しなくなったんです…。まだまだ勝負はここからです…!!」
あどけない顔に見えるものの、その笑顔の後ろには狂気が見え隠れしていた。翡翠色の目が片方の瞳孔を見開き、片方の瞳孔が小さくなる。口元から垂れ流す血を天魔は袖で拭いとる。
そして…壁を蹴り、天魔が此方に向かってくる。
「…!?」
…スピードは変わらない。眼を離せば目の前に天魔がワープしていたところだ。頭上から振り落とされる黒刃。
金属音と共にそれは刃を上にした玄天に受け止められた。…しかし。
「……ほう…!!」
ギリギリという音と共に玄天が押され始める。…細く痩せている腕だと思ったが、筋力はやはり鬼子母神にも匹敵する。
「負けません…ッ!!負けるのは…嫌いですッ!!」
…直後、玄天は押され、余の右肩から左脇腹にかけて一閃が走る。口の中に鉄臭さが広がり、鮮血が宙を舞う。天魔は我が血を被りながらも、その笑みを絶やさない。
一時、霧になって離脱。
距離を離して再度構える。…少々切られすぎたか。だが、このぐらいしなければ面白くない。縦薙ぎの裂傷は内臓まで至っている。そのせいで口の中が鉄臭くて敵わない。
「…くっ…くくくくっ…!!」
「何を…!?」
…愉快だ。胸の痛み、灼熱感。対応できぬほどの速度。余もこれほどの相手を待っていたのかもしれん。力の星熊勇儀、凶暴性の風見幽香、速度の天魔。…余を成長させてくれること感謝この上ない。故に…。
「面白いのだ。この戦いがこの上なくな。…さぁ、まだまだ行くぞ。ようやく目が覚めてきた。」
…そして、地面を蹴る。
天魔に向かって放つのは右膝である。
「そんなものッ!!」
見え見えのその一撃を天魔は左に飛び、悠に避けてみせる。だが、膝蹴りはただ上げただけ。本命の一撃である左の掌底を天魔の顔面にねじ込む。
「ごぶっ!?」
天魔はそのまま後ろへと吹き飛んでいく。
だが、この一撃の代償は安くない。浅くはあるものの、左腕に僅かに刻まれた横一閃。勿論、骨までは至ってない。
「はぁ…はぁ…!!」
白煙を撒き散らした壁から天魔が立ち上がる。鼻からは蛇口を捻ったかのように血が吹き出していた。鼻の下を腕で拭い取り、地面を蹴って此方へ飛んで来る。
「ハァァァッ!!」
速度が一時的にではあるものの上がった。神速の如く速さで迫り、眼前で落ちてくるのは唐竹割り。当たれば悠に真っ二つ。
受け止めようにも霧になろうとも間に合わない。迫り来る一刀に余は左腕を差し出す。
…次は骨ごといかれた。切断された左手と腕を入れた分、胸に走った縦の切り傷は浅かった。ボトリという音と共に左手が床へと落ちる。遅れて左腕を灼熱感が襲うが、意にも返さない。
「フンッ!!」
巻き上げられた血を目眩しにして、天魔へ袈裟を落とす。
「当たらないッ!!」
天魔はそれを再び左に避け、外してみせた。今度こそは左腕が無くなっているため追撃がないと踏んだのだろう。だが、それは余の前では御法度だ。
「…!!」
左手がぐちょぐちょと水音を立てて急速に再生する。骨と共に血肉がそれを覆い、完全に再生した左手は天魔の首を狙った。
「あぐっ!?」
再生に時間がかかると踏んだ天魔にその一撃は聞いた。彼方此方と投げる天魔の首を捕まえる我が左手。速度で引きちぎられないうちに床へと急接近する。
天魔を下にしてそのまま床へ激突。
真っ平らな木の床は突き抜け、地面に大穴を開けた。
「ごぶぁっ!?」
砂塵と共に手を離す。背中からまともにいった天魔は口から血液を吐き出す。ちなみに掴んでいた左手の指もいくつか潰れてしまっている。このぐらいはすぐ回復するが…。
床が窪地になったため、ギャラリーのほとんどは壁際でぶるぶると震えていた。その窪地の中央では…左手から血を流すも右手一本で太刀を持つ血塗れの天魔の姿があった。
「…はぁ…はぁ…!!とんでもない…再生力ですね…。」
「そうだな。」
…これが無ければそうそうに勝負は決していただろう。ただし、体力はもうそこまでない。再生も無限ではない。体力を著しく消耗するのだ。腕一本ともなるとかなりの量である。見えてはいないだろうが、額から汗が吹き出している。…少し疲れてきたな。
対して、天魔は満身創痍である。口や額からは血を流し、身体には火傷に爆傷多数。左腕は骨もいっているだろう。…だが、彼女は諦めなかった。
「…最高速で終わらせます。その頸を切ってッ!!」
「…もはや殺し合いじゃないか。だが…もう終いだ。」
半球に窪んだ地面を天魔は踏み、そのまま横薙ぎで首を狙ってくる。
「これで終わりですッ!!ハァァァッ!!」
鬼気迫る顔で、口からは血を吐きながらこちらへ向かってくる天魔。だが、それは当たらない。霧になったからだ。
「それは無駄だとッ!!」
天魔は自身の背後に刀を向ける。
彼女の見立て通り、そこに余は現れた。横一閃の銀線が切り裂かんとばかりに此方に走る。余は再び左腕を上げる。…空間に血液が舞う。
「くだらん。余は兄ぞ。…この土壇場でも負けてはやらない。」
「なっ!?」
…天魔の顔は驚愕に染まっていた。
先程は切り落とせた左腕。しかし、今度は…刃を肉が掴んで離さないのだ。赤い血は流し、腕の半分ほどに食い込むものの、刃の一進一退も許さないほど食っていた。
そうなれば天魔はカウンターを勿論、警戒する。太刀を離し、後ろに飛ぶが…この部屋に逃げ場はない。
「玄天よッ!!妖力の嵐を巻き起こせッ!!」
またもや己を中心に捲き上がる塵旋風。それは天魔を追従し、周りの瓦礫を巻き上げていく。そして…。
「キャァァァッ!!」
それは天魔の身体を今度こそ捕らえた。風の檻に天魔は動けない。そのまま右手で玄天を握り締め、塵旋風の中へと踏み入っていく。
「…終わりだ。」
玄天を持ち替え、峰を下にして振り落とす。
「あぐっ!?」
それは天魔の身体を袈裟に捉え、そのまま天魔を叩き落とした。…今度こそ天魔が上がってくる気配はない。
…地面に降りると周りの稀有な目が此方を向く。再びではあるものの天魔を下したのだ。当たり前であろう。だが…疲れたな。玄天を鞘に納め、左手の太刀を引き抜く。傷はすぐに回復するが、それによって地面に腰が降りてしまう。…立てぬほどに体力を失っていたとは。回復魔法はあまり得意ではない。今度練習してみるか…。
「きゃぁぁぁ!!お兄ちゃんっ!!」
「…ん?」
窪みに腰を下ろした余の耳に聞こえた声はまさかのものであった。タッタッタッという音と共に突っ込んで来る小さな影。痛みはないが、それを受け止める体力はない。ポスンという音と共にその声の主は此方にキラキラとした眼を向けていた。
「すごいすごいっ!!天狗の王様に勝っちゃった!!」
純真無垢な霊夢の笑顔に…張り詰めていた糸が切れた気がする。霊夢の頭を一撫ですると余の身体は大の字になって倒れた。
「…あぁ。勝ったよ。」
余の視界には此方を不思議そうに見つめる霊夢しか映っていない。天井なんて見えなかった。周りからは天魔が負けたことに対する焦りや余に対する恐怖の声が聞こえてくる。
「お布団で寝ないと風邪ひくよ?」
小首を傾げる霊夢に自然と笑みが溢れる。
…戦い疲れ、飛びつかれた身体だが、もう一押しぐらいはいいだろう。
「わわっ!?」
霊夢の身体を抱き上げ、空間を削る。一度行った場所なら転移魔法で覚えられると知り、少し練習した。簡易スキマがより便利になり、目の前に見えているのは少し懐かしくもある博麗神社の姿。
「…帰るぞ。霊夢。」
「うんっ!!」
太陽のように明るい笑みを見た余は天狗たちに声もかけずにそのスキマを潜って行った。
ロリ霊夢が可愛すぎてかなり書いてますがもう少しで終わりの予定です。そろそろお兄様には帰ってもらいます。紅魔館に。
こっからお兄様をどう強化していこうかしら…なんて考えながら。リクエスト…リクエスト募集もどこかでしたいなぁ…。そこまで書かないといけないからまだまだだけど。
紅魔館に帰ってからはあの人がついに登場です。その人関連とフランちゃん関連の話を終わらせたらお兄様の設定も書きたいね。では。