紅魔ノ兄   作:紳爾零士

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天才

「…居なくなったか。」

 

「肉塊になったんじゃない?…ほら、お兄様、強いものっ!!」

 

自身のことではないのに、胸を張って八重歯を見せて笑うレミリア。…なんともまぁ、愛くるしい。わしゃわしゃと頭を撫でれば、むふーっと満足げに声を上げる。…フランに見られたらまた喧嘩になる。

 

「行こうか。」

 

「うんっ。」

 

小さな手を握り、ノーレッジの家へと歩く。

…赤い館。目に悪いんじゃないかと思うくらい赤い館だ。この周辺では珍しい…かなり金銭面には不自由していないことが見える。

 

…雑木林に身を隠しているからまだ目立たない。

 

ノブに手をかける。

 

「…っ。」

 

…手に違和感が走った。

手が熱い。一瞬、煮えたぎった鉄の椀を素手で触ったような感覚だ。皮膚が引っ付いて離れないような痛み。だが、実際に焼けているわけではない。

 

「どうしたの?」

 

「…ふむ。不用心ではないか。」

 

身の内を明かす必要がある。

心配そうにこちらを見るレミリアにフッと笑いかけ、再度扉を見る。

 

「スカーレット家、正当な嫡男。ルディウス・スカーレット。」

 

『…あの子たちの仲間ね。』

 

気だるげな声が脳裏に響く。

その瞬間、扉が勢いよく開け放たれ、暴風が我らを襲う。飛んでいきそうなレミリアの身体をギュッと自身に近づける。

 

「…お前は。」

 

「入って。誰が見てるかわからない。」

 

ジトっとした目が我らを睨む。

紫色の髪をたなびかせ、パジャマのような服装をした少女に我らは応接間に案内された。そこには既にお茶をもらっているフランドールと美鈴の姿があった。

 

「どうぞ。」

 

「この部屋は大丈夫なのか。傍受されたり…。」

 

「大丈夫。防音魔法が掛かってるし、外からじゃこの部屋は見えない。」

 

…ふむ。淡々と答える様子に安心感を覚える。

この少女が奴らの味方でなければだが。当分は大丈夫だろう。

 

言葉に甘え、腰をかける。

赤い雑談イスは牛皮と羊毛で出来ているのだろう。肌触りは割といい。

 

「お茶よ。どうぞ。」

 

「頂きます。……アチッ。」

 

レミリアは湯気立つ紅茶を飲み、舌を火傷していた。猫舌なので仕方ない。余も一口もらう。…ダージリンか。

 

「ふむ。」

 

美鈴は中国茶。フランはミルクティー、レミリアは恐らくストレートの余と同じもの。それぞれの好みによって出す茶を変えているのか。睡眠薬の類も我らは耐性がある。…まぁ、そんなくだらぬものが入っていたら匂いでわかるが。

 

「…で、母君は何処だ。“パチュリー・ノーレッジ”。」

 

…そう。この少女とも付き合いは浅くない。

幼少の時だが、一度だけ会った試しがある。我が父と母が死に、余が正式なスカーレット家を継いだとき、挨拶に来た。スカーレット家とノーレッジ家は故に立場は違えど仲は良好なのだ。

 

しかし、少女…パチュリーは少し沈んだ顔をしていた。この表情から察することはできる。

 

「…死んだわ。いえ、殺された…が正解ね。」

 

「…ほう。」

 

「これを聞いてちょうだい。」

 

少女が出したのは黒い円盤。そこには魔力が満ちており、恐らくは事件の全貌がそこに刻まれている。少女はそれを挿入する。…先端に針のついた奇妙な箱に。これは、魔道具か?

 

「文字盤には魔法で傷がつけられている。それを爪で弾いて音を出すの。…取り敢えず聞いて。」

 

…ボタンを押せば、ギーという音と共に円盤が回転し出す。ザー…ザー…という雑音と共に、爆音が響き渡る。

 

『なんで…貴方がッ!!』

 

『長く実子に恵まれなかった先生。貴女の裏切りのせいですよ。あの娘がいなければ俺が天才だった。紛れもない。…貴女の紡いだ最高の魔法は…俺が引き継ぎます。』

 

…男女の言い争う声が響いた後、けたたましい爆音が響く。

片方は間違いない。パチュリーの母だ。そして、もう片方は聞いた覚えがある。つい最近に。

 

パチュリーはため息を吐くと、円盤を取ろうとする。

しかし、円盤から響く音は…続いていた。

 

『…パチュリー…ごめんね…。怒鳴ったりなんかして…。』

 

その直後、パチュリーはその円盤を取り上げた。

 

「この前に私は家を飛び出してたわ。…危ない魔法に手を出そうとしたの。もう大丈夫だって。でも止められた。それで母親と言い争いになったわ。その時言ったの。『お母さんなんか死んじゃえばいい』って。…こんなことになるなら、言わなかった。」

 

…最後の言葉だけは震えているように聞こえた。

レミリアとフランがお互いを見る。…それは自分たちにも起こり得たことだからである。

 

「…大丈夫よ。パチュリー。」

 

重々しい空気の中、口を開いたのは我が妹レミリア・スカーレット。

 

「何が大丈夫なのよ。…もう、お母さんはこの世にいない。私は何のために生きればいいのッ!!家族はもういない…!!一緒に笑ってくれる人もご飯を食べてくれる人もいないのッ!!」

 

…ごく当たり前のことを幸せと思うのは失ってからである。仕事が無くなれば、仕事があった毎日を憂い、金がなくなれば金があった毎日を望む。涙を浮かべ、感情を吐き出すパチュリーにはそれが母親だった。

 

だから、レミリアは言う。

 

「私たちがその役割をしてあげる。」

 

「はぁ!?何の利益があって…そんな…。」

 

「利益とかそんなんじゃない。…一歩間違えれば私たちだってそうなってたかもしれない。だから、貴女を助けたいの。そのクソどもを倒して、貴女のお母さんの仇を取ればいいんでしょっ!!簡単よっ!!」

 

…拳を握り、此方を満面の笑みで見るレミリア。その向こうには余とフランドール。…元々、小さいとはいえフランも強者。自らを入れて、我らも使うつもりとは末恐ろしい。

 

「…そんな仇とかそんなんじゃ…。」

 

「でも、ひとりぼっちじゃなくなるわよっ。…ね?」

 

そう言ってレミリアはパチュリーの手を握る。

長い期間独りだったのだろう。パチュリーはその手をしみじみと握っていた。

 

「…ッ!!」

 

直後、扉がとんでもない勢いで我らに飛んでくる。外からの刺客。それを蹴り飛ばし、前を見れば、白煙をかき分け、光を放つ火の玉。

 

「消えろッ!!邪魔者どもッ!!」

 

「…手応えがないと思っていた。」

 

おそらく、この部屋全土を包み込む炎の球。

 

放っているのは先ほどの赤髪の男。そして…その向こうにはかなりの人数がいる。…人か。

 

ここでダーインスレイヴを出すには少し狭すぎる。…ならば手頃なのは。

 

「燃え尽きろッ!!」

 

放たれる炎の凶弾。

余はそれを…上着を脱ぎ捨て翻す。炎の球は容易く霧散。しかし、余の服も使い物になるまいな。一張羅だったのだが。裾が焼けてしまった。

 

「ぐっ!?またか、テメッ…!?」

 

次の瞬間、赤髪の男の頬が薄く裂ける。

…切られたのだ。余の放った…紙飛行機に。

 

「なっ!?」

 

「せっかくの書物をボロにしたのだ。…クズを消すぐらいには役に立ってもらおう。で?…汝は何者だ。」

 

男の驚いた顔たるや。

世界一の名画にも勝るにも劣らないもの。…だが、返答次第においてはそこらの幼児の落書きの方が価値がある。

 

「…応えよ。何故、嘘をついた?」

 

「嘘…?…くくくっ。嘘だってっ!?そんな魔法で雑に付けられた傷が何の価値を生み出すってんだッ!!」

 

「…今確信がついた。」

 

次の瞬間、余は奴の腕を掴み、そのまま…関節を逆方向へとへし折る。ボギリ…という、人の関節からは鳴ってはいけない鈍い音が辺りに響く。

 

「グガァッ!?」

 

「…安心しろ。なぶり殺しにする為に…力は抜いてある。応えよ。…汝は何がしたい。何が気に食わない?」

 

…地鳴りよりも低い声が響き渡る。

男は右腕を押さえたまま、ニヤリと笑う。その顔は絶望と笑いに満ちた顔。狂っている狂気の目をしていた。

 

「俺は…俺は天才なんだぁ…!!師匠も…俺を認めていた…!!なのに…なのに…この小娘はッ!!生まれてそのまま天才と認められたッ!!…俺は努力したのにだ…。俺は努力したんだッ!!」

 

次の瞬間、男は右腕を自ら切り落とすと、余から距離を取る。男は右手を魔法で空中の水を操り形成。自身の垂れた血液が混じり、真っ赤な腕が出来上がっていた。

 

「ハッハッハッ…!!ハーハッハッハッ!!外は晴天ッ!!運命な俺に向いている。この…フューザル様になァッ!!」

 

「…ほう。…ならば。汝の出番だ。パチュリー。」

 

「ハァッ!?」

 

次の瞬間、男…フューザルと名乗ったか。奴の顔が驚愕の色に変わる。空が紅い霧に包まれたからだ。平然と館から出てくる余を見て、フューザルの顔が憎しみに…怒りに変わる。

 

その直後、眼前に広がる炎の球。

 

「発ッ!!」

 

しかし、それはカンフーマスターの蹴りによってかき消される。

 

「アッツッ!!…ってアンタねぇ…!!」

 

「ふふっ。しっかり使えるではないか。ほら、まだまだ居るぞ。」

 

「キィィィ…!!最初から、フューザル(アイツ)以外見てないわけね…。わかったわ。私が他を倒してあげる。だから、少しは感謝しなさいよッ!!」

 

そう言って美鈴は魔法使い軍団に突っ込んでいった。まぁ、アイツなら負けやしないだろう。レミリア、フランはパチュリーの護衛。パチュリーがやられれば余の負けが決定してしまう。

 

「チッ!!あの女を殺せば…俺の勝ちだろうがッ!!」

 

そう言ってフューザルが放つのは…火の玉。

 

それが余ではなく、パチュリーの方へと飛んでいく。しかし、それを見逃す余ではない。

 

「『死を呼ぶ剣(ダーインスレイヴ)』」

 

自身の影から剣を呼び出し、そっとその火の玉に刃を添える。そうすれば、火の玉は飛んでいく勢いを使って勝手に真っ二つに裂けるというわけだ。

 

「チッ!!」

 

ゆっくりと歩きながら、じりじりと距離を詰める。

 

「汝の夢は醜悪極まれり。人の家族を愚弄し、殺戮。嗚呼、くだらん。」

 

笑いながらそう言ってやる。

目の前から炎の球が飛んでくるものの、それはダーインスレイヴの鯖となる。

 

「クソがッ!!」

 

「余の友を絶望に追いやったそのツケは…魂で償え。」

 

目の前まで地面を蹴り、近づく。

直後、ダーインスレイヴを右腕一本で振るい落とす。が、直前でテレポート。…そのぐらいの脳みそはあったか。

 

空を切った刃が砂埃と共に地面を叩き割る。ゆっくりとダーインスレイヴをあげれば、カチャカチャという金属音が響き渡った。

 

「俺は…努力したんだ…!!俺は天才なんだよッ!!」

 

「…だから、なんだ?」

 

「は?」

 

…さっきから努力、努力とほざくが…。

 

「結局は負け犬の遠吠えではないか。良いか。努力とは、天才になる為にするのではないッ!!天才を超えるためにするのだ。…天才とは値。それを越えねば意味がない。汝は汝自身で汝の限界を決めつけた。…それ故の、嫉妬故の醜い殺意に…あの娘の母は消されたのだ。その行動を起こした時点で…汝の負けだ。」

 

「うるせぇぇぇぇッ!!」

 

…ほう。これは。

余だけでなく、この館ごと飲み込まんとする炎の大玉。余はダーインスレイヴの剣先を天空へと掲げる。

 

「汝はパチュリー・ノーレッジを超えられぬ。嫉妬は憧れ。それでは越えることは不可能。」

 

そう言って、炎の大玉を余はただ単純に切り裂いた。その空気の刃が、天空に上がったフューザルの体を斜めがけに切り裂き、血飛沫の雨を降らせた。




紳士服の赤いジャケットを脱ぐと、中は黒いノースリーブ。紳士服の上ではわからないほど、筋骨隆々。

暫くは幻想入り前が続きます。兄上の能力もどこかで。では。
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