紅魔ノ兄   作:紳爾零士

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スカーレットの血

…懐かしい天井だ。昔も一度見たことがある。真っ赤な天井、先程までの惨状とは違う。打って変わって穴一つなく、照明がキラキラと輝いていた。

 

「起きたのか。ルディウス。」

 

低い声が耳に聞こえる。

チラリと横に目をやれば、そこに立っていたのは初老の男性だった。いや、髪が銀色のため、一瞬初老に見えたのだろう。

 

男は見覚えがあった。余にとても似ているのだ。だが、雰囲気は似ても似つかない。大きな背もたれの椅子に座り、足を組み、血を啜るその様は今世で形容される吸血鬼の姿以外に言いようがなかった。

 

「お父様。」

 

…口を開いた覚えはない。されど、近くにはこの男以外にはいない。幼い声が耳に届く。紛れもなく、余が出している声であった。…これは夢か。あるいは走馬灯か。どっちにせよ、なんともリアリティーのあるものだ。

 

天蓋ベッドから余は降り、お父様と呼んだ男の元へと駆け寄る。確かに記憶にある父の姿と重なる部分も多かった。

 

「ルディウス。我ら吸血鬼がなぜ吸血鬼と言われるか、知っているか?」

 

男は低く、地鳴りのような声でそう言った。

指で我が頬を撫でる為、くすぐったい。

 

「血を好んで吸うからでは?」

 

「…いかにも。だが、吸血鬼は血以外でも栄養を取ることができるな。」

 

その通りである。

大蒜は生物的に好かんが、その他の食料は人間のように食すことができる。言い得て妙だが、吸血鬼という大それた名前であるにも関わらず、苦手物質の多い人間のような生き物なのだ。

 

「吸血鬼は何故、吸血鬼と言われるか、それは…血を操ることができるからである。」

 

「お父様?そんなことは不可能にございます。血を操るって…。」

 

「はっはっは。…冗談よ。」

 

歯を剥き出しに、豪快に笑う銀髪の男。

直後、男は血の入ったワイングラスを机に置き、余の体を抱き上げる。その大きな膝に余を乗せると筋肉質で大きな手で余の頭を撫でる。

 

「ただ…父やお前には出来ぬ話ではないかもしれん。」

 

「え?」

 

「父はまともに使ったことがないが、先代のスカーレットを名乗る吸血鬼には血を操る力があったそうだ。それ以来、伝書には…スカーレットの男児にのみ、その力が受け継がれる…だとか。父はまさに血吸い鬼なのだが、ルディウスはどうかな。…魔女先生にも天才と認められる汝なら血を操ることも可能なのかもしれぬ。」

 

…夢にしては明晰だ。

触られる感覚も掛けられる声も全てが澄んでいる。そこに初めから顕現しているかのようでなんとも気持ちの悪い。

 

「…汝の母親も面白い力を持っておったが…あれはなんだったろうか。…同じく吸血鬼だが、忘れてしまったよ。…女王狩り。忌まわしきあの日から丁度5年か。」

 

…そう言うと銀髪の男の顔はわかりやすく翳りを浴びた。声のトーンも低く、湿っぽい。元より声は低かったのだが。

 

女王狩り。吸血鬼の血を断つために、女の吸血鬼は早く人間に殺される対象となる。母は…そう言えばフランドールを産み、程なくして死んでしまったか。あまり気持ちのいい記憶ではないため、錠をかけていた。こんな時に思い出すとは。

 

「…ルディ。汝はスカーレット家…そのもの。その血は継承された力は…汝を必ず助けてくれる。故に妹らを頼むぞ?」

 

…埃の被った映像はそこで焼け焦げた。

明晰だったそれにノイズが走り、消滅する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…次に目を覚ましたのは荒廃した紅き館の一室だった。一部屋だけ…いや、無事なのかとも思ったが、天井や壁に大穴が空いている。ベッドもよく見れば天蓋が半分消え去っていた。

 

「…ん?」

 

余の体は…起こすことを躊躇うな…。

フランドールとレミリアが仲良く余の身体に上半身を預け、眠っているからである。健やかな寝息に先程の変な夢も忘れてしまいそうだ。

 

しかし、今思っても妙に形作られた夢だ。声色から顔の輪郭まではっきりと覚えている。消え入ることはなく、話している内容すらも頭の片隅でしっかりと覚えている。

 

…体の部位で消えている部分はないな。右腕も左の指先も完全に完治している。仕方ないが、これでは試すことができない。スカーレットの男児には血を操る力がある…か。文字通りに受け取れば、身体に流れる血を縦横無尽に操る力…なのだろうが、それでは限界値はあるな。

 

「…お…にいさま…?」

 

「おっと。起こしてしまったか。フラン。」

 

先程の戦いとは違い、余の口から出るのは酷く穏やかな声であった。頭に手をやり、撫でてやれば押し止めていた何かが外れたかのようにフランの目から涙が溢れ出る。

 

「ヒグッ…えっぐ…ごめんなさい…ごめんなさいぃ…!!」

 

「…泣くな。何も悪いことはしてないさ。…我らが汝を蔑ろにしすぎただけだ。…強くなったな。フラン。」

 

その声にフランはとにかく泣きじゃくった。

鳴き声に起きたレミリアも大粒の涙を流し、泣いた。幼い天使に抱きつかれた為、天国かと見間違えるが、途中参戦の美鈴がそれを許さなかった。パチュリーは屋敷の復興に手を妬いているらしい。体力が回復すれば見に行ってみるか。

 

「…しかし、万物を破壊する力か。」

 

そう口にするとフランの顔は浮かないものとなる。対処不可能、故にレミリアは一時凌ぎという形で封印を思いついた。しかし、それは姉妹間の綻びを生んだ。得策というにはお粗末すぎたのだ。

 

「破壊できないようにパチュリーの魔力を帯びた扉で閉じ込めた。地下室に。…今思えば、それが私の罪だった。」

 

「…できる最善は尽くしたのだろう。しかし、それは…。」

 

…レミリアはまたも泣きそうになっていた。臭い物に蓋をする。…実に妖怪らしくなく、人間臭い方法だ。だが、その意図はフランには通じていなかった。

 

「フランドールはまだ幼い。…故にその力を持ってして家族や友人を破壊するのは自身の心を破壊する一手である。姉であるレミリアはそれから汝を守ったのだ。許してやってくれ。」

 

「うみゅっ…。」

 

頭を撫でてやれば、フランドールは奇妙な声を上げて此方を見る。その丸い真紅の目には優しげな顔をした余の姿が映っていた。

 

「…わかってた。わかってたよ。…でも、お姉様と一緒にも居たかったから。辛かった。」

 

「ごめんなさい。フラン。…ごめんなさい。」

 

…居たかったという純粋無垢な本心には何も言うべきではない。レミリアはただフランの身体を抱きしめ、譫言のように謝っていた。平謝りではない。フランもそれを了承しているのか、ただ無言で抱きしめるだけである。だが、その目には微かに涙が浮かんでいた。

 

「力の使い方は様子を見て鍛えねばならん。…フランドール、兄と汝はよく似ている。」

 

「お兄様と?」

 

「…そうだ。傷つけるのが嫌だから、鍛え上げる。フラン、汝は今からそれをせねばならん。できるな?」

 

兄の問いにフランはコックリと頷いた。

 

「…さて、一波乱の後は飯か。しかし。」

 

「キッチンはほぼ全壊よ。それにお嬢様方は私の料理には飽き飽きしているわ。」

 

美鈴はため息混じりにそう言い放った。昔聞いたことがあるが、この女は中華しか作れない。幻想郷で何度か口にしたが、あれが毎日でたら味が濃すぎて我々には合わないだろう。

 

「何もないのか。」

 

「何もないわよ。ルディウス様、何か作れるの?」

 

「…自慢じゃないが。」

 

その言葉に抱き合っていたはずの妹らの表情が変わる。レミリアに至っては妹からその手を離し、バンっと余の寝具に手を置く始末。

 

「軽いものだぞ。彼方では野宿をよくしていたゆえ、作っていただけの。」

 

「それでも良いわ。お兄様…。とにかく何か変わったものが食べたいのッ!!」

 

「…ふぬぅ…。」

 

八雲藍と一緒に作っていた頃もあるが、それでもこの純粋無垢の天使に食わせるに値するかどうかはわからぬ。フランに至っては何をワクワクしているか、いかんせんよくわからぬ。…しかし、やるしかないか。

 

「…美鈴。金なら此方で用意する。…荷物運びを手伝え。」

 

「御心のままに。」

 

…胸に手を当て、そう言う美鈴。従者色がより濃くなった気がする。

 

…不本意ながら仕方ない。他でもない妹らの頼みだ。館が復興すればメイドでも雇ってみるか。




ようやく書きたかったところ、結構頑張りたいな。
もうすぐ紅霧異変も始まります。時代が進むというか、なんというか。

ルディウスの強化は止まりません。ただ、万物創造やら模倣やらtheチートというよりかはね。レイマリが主人公ならルディウスはラスボスを意識してる部分が強いので。スペル、能力とか募集したら募集したで自分でわからなくなる事実…。

幻想郷編に入ったら基本は異変ベースで出来るだけオリキャラは控えます。誰も出さないってわけじゃないけどね。では。
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