紅魔ノ兄   作:紳爾零士

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日常…日常?
あ、ちょっとグロ注意です。今更です〜。独自解釈マシマシです。お気をつけを。


銀髪の少女

幻想郷と違うのは暖かみを感じないビル街ということだ。

 

人通りが多くともビル街は活気よりも寂しさを覚えさせるところである。昼過ぎから降り続く集中的な豪雨のせいで、傘をささねばならぬ始末。いっそのこと、空を焼き尽くしてしまおうかとも考えた。雨が降ると酷く頭が軋むのだ。

 

「野菜、肉、魚等々…1ヶ月分は買い込んだ。」

 

「そうね。」

 

…久しぶりの母国…というのも乙なものだ。ただあの煩わしい声が聞こえないとこうも見る世界が変わるのかとは思うが。…ん?

 

「取り敢えず手当たり次第……どうしたの?」

 

美鈴が怪訝そうな顔をするのは当たり前だ。隣の余の足がなぜか止まったのだから。…だが、勿論、何もなく立ち止まったわけではない。吸血鬼というのは元来、匂い…特に血の匂いに敏感なのだ。餌を求める立派な生物的行動である。が、その匂いの元である。

 

路地裏、ビルとビルに挟まれ、野犬や虫が跋扈する影の世界からの血の匂い。普通に考えれば野犬だが、微かに耳には啜り泣く声が聞こえる。

 

「…ちょっ!?ルディウス様っ!?」

 

美鈴の静止の声も聞かず、その路地の裏へ足を踏み入れる。ゴミ臭く、埃臭い。館に帰ったら洗濯に風呂だな。…そもそもその機構が直っているかはわからないが。

 

「…匂いの正体は…汝か。」

 

…雨で薄れることなく、次第に血の匂いは濃くなっていく。濃厚かつ濃密だったその匂いの正体は野犬ではない。血に汚れ、泥に汚れ、ビル街から隠れるようにゴミ箱の側で三角座りをしている…少女だった。

 

「…おじさん、誰?」

 

…掠れるような声でそう言う少女。小首を傾げ、見る顔にも殴られた傷があった。首は見るに一度は強く締められており、指の跡がくっきりと残っている。…血の匂いは足か。まともな状態ではなく、自分の服を破ったのだろうか、布でぐるぐる巻きにされ、そこから血が流れている。不衛生なこんな場所にいては傷に触るだろう。

 

「おじさん…と来たか。…汝、家は。」

 

「…ない。追い出された。」

 

…見た目は4、5歳か。少女は涙痕を残しながらも、無表情で受け答えをする。時が止まったかのような印象を受けた。周りの時が止まり、雨の音も聞こえぬような…。

 

「…追い出されたか。名は。」

 

「…わかんない。…お母さんはおいとか…お前とか…そんな風にしか言わなかったから。」

 

「そうか。」

 

人間ならば哀れに思い、涙でも流しただろう。だが、余の胸に去来するのは虚無。この少女はここでのたれ死ぬのだろうと言う考えでしかない。

 

そんな時だった。何かが我らに向かって吠えてきたのだ。…己が立場を弁えぬ野犬。それが雨の中ずぶ濡れとなり、此方へ牙を向く。我らがいた方とは逆。ビルの背後に隠れていたのだろう。

 

「…死ぬぞ。汝。」

 

「…そう。…じゃあ。」

 

次の瞬間、目の前から少女が消えた。比喩ではない。本当に消えたのだ。

 

…少しの興味で野犬の方を振り向く。するとそこには先程の無様な少女が血まみれで立っていた。手にはどこから取り出したのか、食器のナイフとフォーク。野犬は少女の下で目をつぶされ、腹を切られ…自身の血と臓物が作り出した海へと沈んでいた。次第に雨によってそれは流されるだろう。

 

…しかし、なんだ。

違和感だ。そう、単純なる違和感。…この少女は何をした。

 

「…今日のご飯、ゲットした。」

 

「…汝、いつもこんなものを?」

 

「…うん。…今日は特別。いつもは廃棄の生ごみだよ?」

 

…はにかみながらそう言う少女。皮肉なのは人間の形をしながらこの子は余よりも妖怪らしい生活をしていると言う点である。

 

「あ、…あげないよ?」

 

「要らぬわ。」

 

愛おしそうに犬の屍を抱きしめ、頬を膨らます少女。これが、犬の屍ではなかったらどれほど良かったのか。霊夢でもそんなことはしない。…だが、余の直感が告げる。この娘、何かある。

 

「…腹は空かぬのか?」

 

「…ちょっぴり。でも、これ食べたら元気になるよ。」

 

これ…と指す犬の屍もまともなもの食べていないだろう、骨と皮だけだ。…だからこそ、この少女でも倒せた。

 

「ちょ、ちょっと、ルディウス様。…急に駆け出して…って何この子。」

 

追いついた美鈴。手には買い物袋を8つほど抱え、更に傘まで持っているため遅れたのだろう。

 

「汝、先ほど一体何をした。」

 

「…時間を止めた。だって、煩いんだもん。」

 

…そんなことが…いや可能か。

超常的な力は余も多く見、相対した。…更には余は吸血鬼である。時間が止まってもなんら不思議ではない。だが、この少女は使える。余が育て上げれば紅魔館の良き戦略となる。断じて、霊夢と重なったわけではない。

 

「…汝、余と共に参れ。」

 

「「え?」」

 

娘と美鈴の声が重なる。

 

「アンタ馬鹿なのッ!?この子、人間よっ!?こんな小さな子を食べるつもり?」

 

「食用ではない。こんな小娘にそんな価値はない。育て上げ、戦力とする。ならぬ場合はその時に食す。」

 

…生物的にという意味合いだ。

人間の血肉は久しく食してないが、流石にこの女は今は臭い肉の味しかしないだろう。それほどにボロボロなのである。

 

「…でも、お母さん…心配する…。」

 

「いつから居る。ここに。」

 

「…一週間ぐらい。」

 

…よくもまぁ、そんな生活で小さなこの子が生きていたものだ。手も骨が浮き出すほどには細いと言うのに。

 

「だったら、その程度の存在なのだ。母にとっての汝など。」

 

「…え?」

 

「一週間迎えに来ぬのだろう?…その程度なのだ。だからこそ、汝を余は求めている。どちらに着くかは明白だと思っているが?」

 

少女は少し考える。

まだ幼い彼女にとって母親に捨てられたという実感がまるで湧かないのだろう。差し出された手を取るのは考えてからでも遅くないが、このような雨の中、更にはロンドンは今日も寒い。…風邪を引くどころか、野垂れ死だ。

 

故にそのか細い命火を絶やすことなく、燃やし続けるなら…彼女は余に着いてくるしかない。

 

「…温かい飯を用意しよう。ふかふかの羽毛のベッドに眠り、暖かな風呂へと入れ。」

 

「…そんな贅沢していいの…?」

 

…純真無垢なその瞳はこれほどまでになくキラキラしていた。美鈴と顔を見合わせ、言葉に詰まる。これを贅沢と言うか。どんな生活をしていたのか、容易には判断できないが、良いものではなかろう。

 

「あぁ。おいで。」

 

…その手を潰さぬように握り、連れて行く。先ずは…風呂だな。

 

「美鈴。着いたら風呂に入れてやれ。」

 

「…御心のままに。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女を館に招き入れるとすぐさま美鈴と共に風呂へ行かせた。元々、帰ってきたら風呂に入るつもりだったのだ。運がいいことこの上ない。

 

…そんなことを思いながらもキッチンへ立つ。一家の主人だが、何もせぬのは御門違いである。適当に買ってきたものをコンソメで煮込む。それだけで温かい食事が完成する。彼方では食べれなかったバゲットも切ってバターを塗ってある。…基本はこれで良いだろう。

 

「いい匂い〜!!」

 

「つまみ食いはするなよ。フランドール。」

 

隣のフランは口の際から涎を垂らし、目を輝かせながら待っている。このように寒い日に食べる温野菜の煮込みは最高以外の言葉が見つからないだろう。向こうでは味噌汁だったのだが、これも悪くはない。

 

「姉を起こしてきてくれたまえ。」

 

「はぁい!!もう、お姉様ったら寝坊助ね。」

 

レミリアは先の一件で疲れたのか、眠ってしまったらしい。フランは鼻歌混じりでスキップをしながら、上へと進んで行った。

 

「…ルディウス様。」

 

「早いじゃないか。美鈴。」

 

10分、15分前だからそうでもないのかもしれない。八雲紫が長風呂だった為、時間感覚が狂っているのかもしれない。髪を伸ばし、いつもの中華服を見に纏う美鈴の横には同じく髪を伸ばした銀髪の少女が立っていた。先ほどまでの煤汚れ、泥汚れなどは皆無である。

 

「…あんなの、初めて。」

 

「汝、風呂にも入ったことないのか?」

 

「…お家にいた時は冷たいシャワーだったの。ガス代が勿体無いからって。お母さんたちはホカホカだった。お風呂って…いいね。ポカポカする。…ありがとう。おじさん。」

 

儚げに…ではなく、天真爛漫に微笑む少女。絹のような銀髪は電灯に照らされ、美しく光る。美鈴は言葉を失っていた。この女はどこか人間っぽい。

 

「…そうか。良かったな。」

 

「…なに?おじさん。」

 

柔らかい。絹のような…と言ったがまさに言葉の通りの柔らかさであった。少女は此方を不思議そうに眺める。自然と口元が綻ぶのを感じる。

 

「いいや何も。そろそろ飯だ。座って待ってろ。」

 

「…うん。」

 

少女を美鈴に預け、火の番に戻った。コトコトと音を立てる鍋からはコンソメのいい匂いが腹時計を刺激してきていた。




勘のいい人はわかると思う。
これを書きたかったんや。
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