紅魔ノ兄   作:紳爾零士

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人間との暮らし(前編)

あれから、すでに3日が経った。

紅魔館の修復はまだ時間がかかっているが、順風満帆といった様子ではある。今は地下室に魔法結界を張り、弾幕ごっこと称し、能力を使わせる事で慣れさせている。咲夜に関してだが…。

 

「えいっ!!」

 

「…ふん。」

 

…拳じゃダメだ。動体視力を封印したとしても簡単に受け止めてしまう。

軽く此方を殴りつけるようにし、此方は一切手を出していないが、それでも咲夜は能力を解いてからの攻撃が遅いように感じる。勿論、慣れていないや、我ら妖怪とは違うのだからという話ならお門違いだ。…天は二分を与えずか。

 

「咲夜。…格闘は不得手か。」

 

「…ずっと能力と武器探して戦ってたから。」

 

…しょぼくれた顔で此方を見る。

獣退治の時はフォークや近くに落ちていた小枝、石で撲殺していたらしい。その話を聞いてこの女には可能性を感じていた。生きるためならなんだってする。その純粋無垢な顔にすら張り付くのは人を殺せるという言わば狂気だ。覚悟がなければ、その意味を知らなければ殺せない。妖怪にとっては人殺しは日常茶飯事だ。それが出来ねば価値はない。

 

「…家事はどうだ。能力は使えるだろう。」

 

先ずは簡単な掃除からやってもらった。

能力を使えば、半日かかるところを1、2時間で出来る。…まぁ、まだ幼い為、残されてはいるが。料理はまだ余や美鈴の担当である。咲夜は見ているだけ。流石にシンクに身長が足らぬのは見過ごせない。

 

「うん。…でも…。」

 

「ならば良い。最初はどんな英雄も天才も何もできぬ子鹿だ。気に病むのではない。」

 

しょぼくれた顔は似合わぬ。

人間は短命である。故に人間はその命火の中でできることを探す。咲夜はまだ若い。その力が今はその身に合わないと感じつつも、いずれは順応するだろう。

 

「ゆっくりと慣れていけばいいのだ。汝は有限たる時間を無限にする力を持っているのだから。」

 

「んふっ…。」

 

…動物は飼ったことがないが、ペットがいればこんなものだろう。頭を傾げ、痒いのか、娘は口を緩ませ、小さく声を上げる。会った当初は表情の読めぬ人形のようなそれだったが、小さくはあろうと気に入ってくれているようだ。

 

「…徐々に慣れていけ。」

 

「…おじさんは、どんな力を持っているの?」

 

…“おじさん”か。

言葉遣いは教えねばなるまいが、まだ良いだろう。余計な善感情はこの女が食料となった時に心を溶かしかねない。無論、その血肉に興味など微塵もないが。

 

「…さぁな。この力はまだ余を主人と認めていないみたいだ。」

 

ありとあらゆるものを喰らう程度の能力。幻想郷の中での真名はそれとして、実際、身体に口が無数にあったりだとか…そういうものではない。仮説となるが、ただ名前を得ているだけでやれることは沢山ある。

 

一つ目は空間の切除。

空間そのものを川とすると流れる水を塞き止めれば浮かぶ船や魚もそれ以上は進めない。攻撃も同じく、空間から次の空間に移り変わるが、その繋ぎ目を切る事で攻撃を己に来ることを否定するもの。面白くないので弾幕ごっこでは使わないが。

 

2つ目は吸収。

相手や周りの魔力、妖力、霊力をその名の通り吸収する。

 

「…膨大な魔力量は生きた時間に値する。それが例外なのは人間と魔法使いのみだ。前者は極端に少なく、後者は極端に多い。」

 

…それを例外なく吸収するのだから、余の魔力量は無限だ。どれだけ強い魔法を使おうとも、使い方さえわかっていればあとは人が周りにいるかどうか。0から1を吸収することは不可能だが、その場合は地面にあるだろう魔法的財産…所謂、魔法使いが魔法を作る際に使う材料だとかそういうものだが、そこから吸収すればいいだけのこと。

 

「…私にはある?」

 

「いや、匂いがしない。」

 

余の嗅覚は極端に低いものには刺さらない。

咲夜の魔力は微々たるものだ。鍛えればなんとでもなるが何年かかるかはわからない。故に出すのは霊力弾。…それか、妖怪と探しているうちに妖力がその身に少しずつ染み込んでいくだろう。

 

「あるとしても微々たるものだ。魔法を使うのは…得策ではないだろう。」

 

「…そっか。」

 

…わかりやすく凹むな。この女は。

あったとしても美鈴のように扱うことができぬものもいる。あれは無意識に自身の身体に防護魔法をかけているが、攻撃に転ずることはない。

 

「そうだな。汝は何か、武器を持つがいい。」

 

「え?」

 

「汝の能力は速さを相手に求めぬもの。理解できる前に何か、剣でも斧でも鎌でもいい。何か突き立てればいい。…単純明快だ。」

 

…何がいいか。

華奢な体に斧は乙だが、振るえるとは思えん。重量に体を持ってかれて、腕が千切れるのが目に見える。ならば、剣…いや、剣聖にでもなればいいが、剣の攻撃は容易に見切られる。時間停止とも相性は悪い。銃や弓の方がまだ…そうか。

 

「…投げナイフだ。」

 

投擲ならば鍛えればなんとでもなる。

金創生魔法で作り出すのは金のナイフ。慣れるまではこれでいい。材料は無限に出せるのだから。

 

「的を用意してやる故、暫し待て。」

 

土創造魔法で土手を形成する。

土山だ。それが彼女の的となる。しかし、それはかなり離れている。手練れでなければ地面に落ちて終わりだ。

 

「アレに向かって投げろ。適当でいい。最初はな。」

 

「…うん。えい。」

 

…結果、投げたナイフは空で跳ね、地面に落ちる。カランという虚無の音が地下室に響く。…やはり、予想通りだ。

 

「…最初はこんなものだ。大層なことは考えなくていい。技を作る前に基礎だ。わかったな。」

 

「…うん。」

 

不要な回転がナイフにかかっているな。

慣れないうちはもう少し近めに投げさせるか。

 

「格闘もナイフも今度教えてやる。今日は休め。疲れたろう。」

 

あまり長くさせ続けるのは酷だ。

それに余も自身の力を高めねばなるまい。守るものが増えたというのはそういう事だ。

 

「…ん。わかった。…おじさんの修行を見せて。」

 

「…いいが、死ぬなよ。」

 

その言葉とともにやってきたのは紅美鈴であった。美鈴は咲夜の方を見ると歯を見せてニカッと笑う。

 

「大丈夫。…このおじさん、多分本気じゃやらないよ。」

 

「汝も言うか。」

 

…まぁ、紅魔館を壊してはならぬ。咲夜の護衛は美鈴に任せるか。

さて、問題は何からするかだ。

 

余がやりたいのは父上の言っていた血の力の使い道である。古くの記憶のもののため、そこまで本気でできるとは考えていない。ちょうど的はあるからな。…咲夜の金のナイフを広い、そのまま手の甲に突き刺す。無論、甲は裂け、ポタポタと血が垂れる。

 

咲夜は卒倒するかと思ったが、まぁ、野犬を殺せるような奴だ。血ぐらい見慣れているだろう。

 

「…で、血を操る。」

 

…垂れるだけか。

能力とはイメージの世界だ。弾幕もそうだ。想像を創造する…なんて化け物も居そうだが興味はない。思考を操ればいいだけの話である。伝達組織を麻痺させるか、脳を破壊すればその存在は取るに足らない。

 

まだまだ、覚醒は遅いな。

 

「あっ、ちょっ!?咲夜ちゃんっ!?」

 

「…ん?」

 

…美鈴の声に反応してみれば、咲夜が此方へとトタトタと走ってくるではないか。いつ発現してもおかしくないゆえ、見ておけと言ったが…。

 

「…おい。」

 

「痛い痛いのとんでけ〜。」

 

…なんだそれは。

まじないか何かなのか、咲夜は余の手の甲に手をかざすと気怠げな声でそう言った。そんなことをしなくても余の痛覚はすでに死んでいるが…。

 

「…痛いの、治った?」

 

「…あぁ。」

 

血のついていない方の手で咲夜の頭を撫でる。母親を憎まず、愛されると信じている。…とてもこの子は純粋だ。

 

「…今日のお菓子は何がいい。」

 

「プリン。」

 

…少しだけ奮発してやるか。

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