紅魔ノ兄   作:紳爾零士

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人間との暮らし(後半)

金色の肌が器で跳ね、天井の光に照らされ輝く。

カラメルをかけ、チェリーとホイップクリームを乗せる。その上から溶けたチョコレートをかけて、スカーレット家、禁断のプディングの完成である。

 

「召し上がれ。」

 

「…わぁぁ…!!」

 

この時間、妹らは寝ている。

余は幻想郷での暮らしのせいで朝も夜も起きていることが殆どである。睡眠はもはや取らなくてもいいが、3時間ほど眠らせてもらうことが多い。まぁ、だからスイーツは咲夜のものしか作らなくていいため、楽である。無論、余の分も作るが。

 

感嘆の声を漏らし、目を輝かせる咲夜。甘いものが好きなのか、スイーツを見るとその口元から涎を垂らす。はしたないが、そこの教えはおいおいでいいだろう。一口、スプーンに掬い、口の中へと入れる。…我ながら絶品だ。甘すぎず、かと言ってしつこくない。

 

後で姉妹が食べたいと言っても作れる。アフターケアは大丈夫だ。

 

「美味いか。」

 

「うんっ!!こんな甘いの初めてっ!!」

 

…時に人間は妖怪よりも残酷である。

笑顔の咲夜はその口をプリンで汚していた。はしたないが、初めてのものに居ても立っても居られないのだろう。ハンカチーフで拭い取り、頭を撫でる。

 

「淑女たるもの、もう少し礼儀というものを覚えた方がいいな。」

 

「しゅく…じょ?」

 

「なんでもない。」

 

…教えるものは多いが、拾ってしまったもの仕方ない。我ながら甘くなったと思う今日この頃である。なんだかんだ、人間に興味が湧いている。寿命が少ないからか、人間という種族はあらゆる手段を用いて、その人生に陰影を入れる。影が濃くなれば濃厚になった人生を啜る。味が濃くなればその人生は満ち足りているだろう。それを彼らは悔いなき人生と呼ぶ。

 

我々にはない考えだ。無限にも近い命の中、誰かを愛し誰かを慈しむなど。その興味本位で咲夜を拾ってみたのだろう。これは咲夜という媒体を扱った研究だ。

 

撫でる手の柔らかな感触にはなんの感情もない。目を閉じて気持ちよさそうにしているが、その喉笛は隙だらけである。…手をかけて少し力を入れれば容易く折れてしまうだろう。

 

「…なぁに?」

 

「…なんでもない。」

 

不思議そうに見つめる咲夜を他所に、プリンに舌鼓を打つ。咲夜の乱れた口を拭きながら口から出るのはため息。

 

「私…幸せ。毎日、温かいご飯食べて、お風呂に入れて、お布団で眠れるの。…夢みたい。」

 

「急になんだ。」

 

「…おじさん、ありがとう。」

 

…咲夜は頭を撫でる余の右手をギュッと握ると自身の小さな胸に寄せ、抱く。この胸も貫こうと思えば容易いだろう。我々には殺すのが簡単すぎるほどその命火はか細く弱い。

 

「…おじさんではない。」

 

「え?」

 

「余はルディウス・スカーレット。汝の主人である。…いつまでもおじさんと呼ぶな。」

 

…見栄を張りたいのか、従者がおじさんと此方を呼ぶ歯痒さか。そろそろ言葉を教えた方が良いと考えた。幼い時からの情操教育が実を結ぶはずだ。

 

「るでぃ…うす…?」

 

「ルディウス『様』」

 

「ルディウス…ルディウスっ!!」

 

今度は呼び捨てか。

幼子を躾けるのは面倒この上ない。笑顔で呼び捨てをする咲夜に、そう思った。人間が阿呆なのか、とりわけこの子が阿呆なのか。こういう点は茨木華扇に聞いておけばよかったと思う。

 

「ルディウス様…もうそれでいい。」

 

「ルディウスっ!!」

 

…諦めるのが吉だ。歳を取れば取るほど脳が成長して覚えやすくなるだろう。敬称敬語はその時に教えればいいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルディウス様。耳に入れたいことが。」

 

…本を読んでいると私室へ美鈴が入ってきた。布団はクマのぬいぐるみを抱いて眠る咲夜に占拠され、いるところが無くなった余は読書に励んでいるところであった。

 

「…なんだ。」

 

「街で不可解な動きがあったの。吸血鬼討伐ギルド…知ってる?」

 

「…耳に入れたことは。」

 

面倒なものがここ近年で増えたものだ。咲夜を拾ったあの日。吸血鬼だとバレていれば街中で大乱闘が起きていた。魔眼の力で集団催眠を掛けたが、それももう無に帰しているだろう。

 

…余1人ならそんなことはどうでもいいのだが、住み心地のいい館と咲夜のことがある。出来るだけ鳴りを潜めていたが…。

 

「そのギルドマスターがある情報を手にしたの。ほら。」

 

「…ほう?」

 

思わず口角が上がる。

渡された髪に書いてある顔はまさしく今我が布団で眠る十六夜咲夜のものであった。

 

「咲夜ちゃんの元母親が探し回ってるらしいわ。ギルドマスターはその事を前々から気にしていたこの屋敷の吸血鬼が犯人だと判断した。今は人員確保に動いているらしいけれど。」

 

その見当は当たっている。だが、母親が探しているというのはどうもきな臭い。元々、捨て置いたのか、逃げざるを得ない状況を作り出したのか。どちらにせよ、母親にとって咲夜がどういう存在だったのかは想像し得る。

 

「つまりは人間どもはこのスカーレットを相手に取ると。」

 

「そういうこと。…でも、流石に考えてるわね。まだ動く気配はないわ。」

 

「…当たり前だ。」

 

すぐに攻めてくるなどただの不敬よ。

時間をおいて、何年になるかはわからないが襲ってくるはずだ。先ず、夜はない。眠気のある早朝、あるいは朝日によってこの身を焦がす昼間に襲ってくるはず。

 

「どちらにせよ、我らが追い払うのが決定事項だが。」

 

「ただ咲夜ちゃんや妹様のことがある。」

 

…美鈴のやつ、筋肉だけの阿呆だと思ったが意外と頭が切れるようだ。そう、人間どもは何をしてこようが構わん。1番の恐怖はそこで破壊の暴走が始まる事だ。我々ならあの日と同じように戦えるが、咲夜は別である。守りながらの戦闘は誰であろうとキツイものがあるだろう。

 

「万全は期した方がいいな。」

 

特記事項はフランの能力である。

武器としてみれば我が妹は最強だ。触れずして破壊することができる。無論、右腕を封じたり、切り落としたりすればその御技は終末を告げる。余のようにフランの右腕の筋肉や妖力の匂いが揺れるのがわかれば、簡単に下すことは可能だ。

 

そして、咲夜だ。戦力としてはまだ霞ほどにもなっていないこの子をつかうのは酷だ。殺されに行くようなもの。

 

「…アンタ、変わったわね。昔は人間なんて蹴散らしてたでしょう?」

 

「汝が見ていたのはパチュリー・ノーレッジの時の…あれだろう?…余に歯向かい、その意味を知らぬ阿呆には相当の天罰を与える。それだけだ。」

 

「…そう。」

 

…あのパチュリーも輪廻の時を逸脱したらしい。魔法使いになり不老不死になろうとは…ただの阿呆だ。今はいい。だが、死にたくても死ねず、周りの人間が、知人が朽ちていく。…そんな未来が待っているとは考えぬものか。

 

「…不老不死か。」

 

「なに?興味あるの。…アンタがそんなんになったら誰が止められるのよ。」

 

今でこそこの圧倒的な回復量で不死じみているが、当然不死ではない。要は初めて見る初見殺しには対処できない。血一つ残らぬ木っ端微塵となれば、この身は朽ちてしまうだろう。

 

「…くだらん。死があるから戦闘を楽しくさせる。…終わりなき戦闘はただの殺戮、蹂躙だ。そればかりでは飽きてしまう。」

 

無敵、最強、完璧。

余を表す言葉は数多あるが、全て好かぬ。この世には余を満足させるほど強者が満ち足りている。余はいつまでも挑戦する者でいたいのだ。血を流し、肉を分たれ、骨を折られる。…それでいい。回復はするが、それこそ戦闘。それこそ命をかけていると心から感じられる。

 

「どこ行くの?」

 

立ち上がり、部屋から出ると美鈴がそう言った。

 

「…鍛えてくる。」

 

まだこの身体には力が眠っている。…それを試してみたいのだ。

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