私の名前は十六夜咲夜。
まだ漢字じゃ自分の名前は書けないから、美鈴ってお姉さんに教えてもらっている途中なの。…拾ってくれた人…ルディウスって人?…いや、妖怪。そう、妖怪について一日、張り付いてみたいと思う。…なんか、色々知れたら嬉しいし、ついでに私の一日についても記録する。
「…まず、従者ならば炊事はできて当然だ。」
朝ごはん。ルディウスは夜の王?なのに朝から起きる。なんなら、寝てないんじゃないかってぐらい起きてることがほとんどだ。そのせいで目が真っ赤になったんじゃないかって言ったら半笑いで頭を撫でられた。
「ナイフを使うなら刃物の扱いには慣れておかなきゃ行けない。少しの傷なら余が治してやる。やってみろ。」
そう言ってルディウスは玉ねぎと包丁をまな板に置く。…ちょっとキッチンは私にとっては大きいので、ルディウスが即席で作ってくれた足場に乗って切ってみる。…玉ねぎは目が痛くなるから嫌い。ルディウスのご飯に入ってるのは好きなんだけどなぁ。
大きく切ると大きすぎって言われて薄く薄く切るとなくなっちゃう。わけわかんない。でも、ルディウスは怒りもしない。いつも笑ってもないけど、怒ってもない。所謂、無表情ってやつかな。戦いの時のあの笑顔は怖くて嫌い。歯を剥き出しにして…悪魔みたい。でも、いつもの顔は好き。ぼーっと見てるといつも頭を撫でてくれる。人間より、優しい悪魔な気がする。
ルディウスと一緒に作ったビーフシチューは美味しいってレミリアちゃんとフランちゃんが言ってくれた。なんだか、嬉しい。お母さんと一緒にいた時は一緒にご飯を食べたことなんてなかったから。ルディウスとみんなと食べるのがなんだか新鮮だ。
朝ご飯を食べたら次はお掃除。
お掃除はいつもさせられてたから得意。…でも、お屋敷が広すぎて難しい。廊下だけでも一回、端っこから端っこまで行くのに足がすり減っちゃいそうになる。大体はルディウスは玄天って真っ黒な刀を抜いて風でゴミを集めるとかいうずるいことをして、終わらせてる。ルディウス曰く、「能力は何を得るかにあらず、どう使うかだ」らしい。何言ってるかわからないって言ったらなぜか撫でられた。
次はお裁縫。
ルディウスの服は一際、ボロボロなのが多い。腕が千切れても腹を切られてもルディウスは問題ないって言ってたからそのせいだ。いつも縫い目ガタガタになっちゃう。それをルディウスに言ったら。
「確かにスカーレット家の人間たるもの、完璧を目指すべきである。しかし、穴が開かなければいいのだから、何度でも失敗しろ。そして、学べ。学ぶ機会は無駄にするな。良いものを作る者は常に学び続けている。…だから、励め。」
…って、長い足を組んで言われた。ルディウスはすごい。私のクマちゃん…ルディウスと一緒のお布団で寝るときに抱いてるクマちゃんもルディウスが作ったものだ。私よりもちょっとおっきい程度のクマちゃんを作れるなんてルディウスは手先が器用だ。
朝ごはんとお給仕の練習が終われば、次は戦いの練習だ。地下室に行って美鈴お姉さんからパンチとかキックとかを習って、ルディウスから能力の使い方を学ぶ。初めて時間を止めた時はお母さんからはバケモノって言われた。お母さんが食べたいって言ってたりんごを持ってきただけなのに。お店の人は無くなったってひどく騒いでた。軽蔑されたような目と元々、ひどい言葉を使われてたからそこでついにお母さんは私を追い出した。
ルディウスの話に戻る。
ルディウスは能力はどう使うかだって言ってた。指をパチンって鳴らしたらルディウスも皆んなも動かなくなる。そこでルディウスの周りにナイフを投げるの。またパチンって鳴らしたら時が動き出す。それでナイフが思い出したようにルディウスに飛んでくの。
でもルディウスはそれを避けてみせる。あんまり近すぎると自分の体を犠牲にするのも躊躇わない。今日の訓練は耳が半分切れちゃったらしい。でも、私たち、人間とルディウスは別の種族だから、すぐに回復する。ぐちょぐちょって音を立てながら、骨から再生していくのはあんまり慣れない。夜中におトイレ行けなくなっちゃう。
ルディウス曰く、ルディウスは動体視力ってのがとっても高いらしい。天狗って速い種族の動きも目で追えるって言ってたけど…天狗って何?
足の痛みもだんだんと無くなってきた。
最初の頃は血みどろで痛かったけど、美鈴お姉ちゃんが回復してくれたり、介抱してくれたりしてくれて…なんか、お姉ちゃんというよりお母さんみたいだった。
ルディウスは私に弱点を教えてくれた。
時間停止中は動けても時間停止が解けると油断するって。時間停止は無敵じゃない。相手が時間停止に勘づいたら終わりだって言われたけど、よくわかんなかった。疲れたって言ったらルディウスはいつも何かを作ってくれる。すっごく美味しく感じるけど、美鈴お姉ちゃんは普通だっていう。なんでかな、温かいだけですっごく美味しいと思える。
「長く生きているから、舌が肥えたのだろう。」
決まって、ルディウスがそう言う。
「貴方の料理が普通なのは変わりませんけどね。」
それに対しての美鈴お姉ちゃんの答えがこれだ。喧嘩してるのに、2人して相手してないみたいに、笑ってる。隣でケラケラ笑う美鈴お姉ちゃんになんでか聞いてみたら。
「何言っても認めないんだもん。慣れちゃった。」
って言ってた。ルディウスは所謂、プライドが高いらしい。言い方も図書館で見た昔の王様みたいな…。お屋敷もおっきいから本当に王様なのかもしれない。羽も豪華だし、いっつもワインか紅茶飲んでるし。…この前紅茶を淹れて飲ませてもらった。
「紅魔の従者たるもの、この紅茶の味、香り、色を覚え、我々兄妹に出せるようにしておけ。」
…だって。
何度も試してるけどいっつも違うって言われちゃう。この味の違いは美鈴お姉ちゃんにはわからないらしい。私も苦くてわからない。プリンの方が好き。プリン美味しい。
「…何をしている。余の私室で。」
…日記を書いてると後ろから低い声が聞こえてきた。そこにはお風呂に入ってきたのか、ホカホカしてるルディウスが立っていた。ルディウスは夜はモコモコの紺色のバスローブを着ている。流石に縫えないから創造魔法で作ったらしい。なんでもありだ。
「ルディウス。」
「ルディウス“様”だ。…そろそろ覚えよ。」
「ルディウス。」
「…呼べるようにはしておけ。」
ため息混じりにルディウスがそう言った。様ってなんで言うかわからない。従者って何したらいいかわからない。ぽすんっとベッドの横に座るルディウスの横に私も行く。日記は…適当なところに置いておこう。見られても別にいい。
「…髪も解かせと言ったはずだが。」
「…めんどくさい。」
「紅魔の従者たるもの、主君に恥をかかせる真似はするな。」
そう言ってルディウスは胸元からブラシを取り出す。私の髪、ちょっと長くて嫌だ。首元がくすぐったい。でも、ルディウスのブラッシングは気持ち良くて好き。これしてもらうために自分では解かないの。
「汝の髪は満月のよう。…空に浮かぶ白銀のな。故に大事にしろ。髪は女の命だ。」
「…どうでもいいよ。私は生きてさえいれば。」
「あぁ。くだらぬな。」
笑いながらそう言うルディウス。自分から話しておいてなんだろうって思ったけど、すぐにブラッシングは終わり、その手が私の頭を撫でる。
「んみゅ…。」
「…マグレでも今日は余に一撃当てたな。汝の成長は余を喜ばせる。更に励め。」
その声はいつもよりも優しく感じた。別に高くなったり低くなったりしてないけど。いつもと一緒だけど柔らかく感じた。…このくすぐったいのも好きだし。だから聞いてみた。
「…ルディウスは捨てないよね。」
…お母さんが私を捨てた。
時間がかかるに連れてその事実が押しかかってくる。ギュッと体を寄せるとルディウスは私の目を凝視した。
「はっ。戯言を。」
そして、滅多に見せない優しげな笑みを見せる。
「役に立て。さすれば捨てん。…余はそういう生命体だ。少なくとも今はそんなことは考えていない。」
そう言ってギュッと私を抱きしめてくれた。いつかは捨てる気ではいるのだろうか。…でもなんとなく心が落ち着く。
「…ルディウス…様。」
…なんだか、こういうの…いい。
暖かいの。ポカポカする。お母さんはくれなかったポカポカ。
「さぁ。今宵は眠れ。明日も鍛錬よ。」
「…ん。」
…そう言ってルディウスは…ルディウス様は私のクマちゃんを投げてくる。結局、自分の部屋よりここが落ち着くの。ルディウス様がいるから。…だから、安心して眠くなる。
「おやすみ。」
その声を聞いて、私は目を閉じた。
ルディウス様、回を追うごとに優しくなってる気がするけど…まぁ、家族にだけだよね。
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