紅魔ノ兄   作:紳爾零士

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成長

「ルディウス様。…お掃除、終わったよ。」

 

「ふむ。」

 

…確かに。

奥まで続く回廊は埃一つを残していない。真っ赤な床はピカピカと輝いている。合格だ。小さな頭を撫でてやる。

 

「合格だ。褒めてやる。」

 

「ん…。」

 

あとはもう少し表情を前に出すようになれば人間らしくなるだろう。咲夜はあまり笑ったり泣いたりしない。美味しいものを食べたときには確かに微笑むが、それだけである。現金な女だ。

 

成長した…とこの子を評価するが、成長したのは咲夜のみにあらず。余も新しい魔法を取得した。…然るべき時に披露はするが、魔法書物を読んでいてこれだと思った…それだけである。吸血鬼とのシンパシーを感じる。なんにせよ、味方に撃つ技でもなく、そこまで磨いていないため、まだ使えないが。

 

「しかし、もう7か。」

 

「…8歳だよ?」

 

小首を傾げてそう言う咲夜。拾ってから3、4年。…何度冬を見たかも忘れたが、そろそろ敬語を覚えさせても良いだろうか。

 

「…そんな短い時など刻んだことすら覚えておらぬ。」

 

「私にとっては長いもん。」

 

「…言うようになったな。メイド見習い。」

 

…誕生日にも何も求めない。それすらも忘れてしまう我々と生活をするのが悪いのだが、この前の誕生日…基、会った日を誕生日と仮にしているが、その日には咲夜の髪を三つ編みに結ってやった。はにかんだように笑うところを見るにかなりお気に召したのだろう。今日もそのお気に入りの髪型だ。

 

「フランやレミリアよりも背丈は高いな。…それにナイフの精度も上がっている。」

 

咲夜は時間停止の術にかまけている。時を止めれば勝ち…そんな論理などどこにもない。例えば、余も魔法で同じく時を止めるなどという芸当は不可能ではない。そんなとき、相手は何を考えるだろうか。一度時を止められ、相手が考える暇を与えず絶命する。手練れなれば、タイミングを外すだろう。そして、その違和感を感じ取れるはずだ。

 

だからこそ、咲夜にはかまけるなと教えておいてある。…時間停止の間でもその次の動きを読めと。

 

「汝は強い。…たったこの数年で余に3発もナイフを刺せるようになった。だが、人間なら絶命しても妖怪ならどうだ?…余は目を斬られようが、喉に刺さろうがピンピンはしていただろう?」

 

「…だからこそ、次の行動を考える。」

 

「そうだ。」

 

人間でも死の間際は恐ろしい。

…死を恐れるからこそ、その間際まで争う。

 

「咲夜、汝は人間だ。だからこそ、目を斬られても動けとは言わん。…危険なら逃げよ。」

 

撫でられた頭の指の隙間から真っ赤な瞳をのぞかせる咲夜。

 

「“逃げる”?…みんなを置いて?」

 

「…あぁ。死にたくないなら逃げろ。…生物に備わった生きるための知恵だ。」

 

「嫌だ。…1人の方が嫌いだよ?」

 

例えばの話を鵜呑みにする。この天然さも鍛えねばなるまいが…。時に優しさとは非情だ。彼女の目の前で死ぬことを意味する。…咲夜を置いて死にたくないとは、これも何かの成長かもしれん。咲夜がボソリとつぶやいた言葉…生きるために1人を選んだこの子も成長したのだ。

 

「…何を言うか。汝の後ろには我らがいる。逃げても我らの元に辿り着けばいい。…だが、汝の出来ることはしろ。最初から我らに頼るのは愚の骨頂だ。」

 

…大事な弟子だ。この程度のことは言ってやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァァァッ!!」

 

降り注ぐのは炎の弾幕。フランがレーヴァテインを振り、打ち出す。

 

それを余は単純に飛んで避ける。フランとはこのように戦いを通じて心の安寧を図っている。破壊衝動を抑えるためのものではあるが。

 

「『獄炎(サラマンドラ)・弱』」

 

炎には炎。

炎の豪雨がフランを狙撃する。フランはレーヴァテインを振り、迎撃するも無意味。炎の質が違うため、フランの身体を貫通し、ボロボロに焼く。…骨までは流石に見えていないが。

 

「うぅ…お兄様、強いよぉ…!!」

 

「…ふむ。あれでも弱めたのだが。」

 

フランは地面に尻をつけ、ぶうたれる。

…獄炎と冥雷。この二つに関しては強弱をつけられるようになった。獄炎は規模を縮小、それぞれの弾幕を操れるようになり、冥雷は必中効果を失うが枝分かれした雷を操れるようになった。…まぁ、それによって魔力の消費量を減らせたのだが。無論、ごっこ遊びではないなら本気でやる。

 

「…さて、肩慣らしは済んだな。」

 

…今日はあの日だ。

フランやレミリアにはすでに言ってあり、咲夜は寝かしつけてある。美鈴もいつもよりも緊迫している様子だ。紅魔館の主人たる余が出ぬのは些か筋が通らぬ。

 

紅魔館の前にはやはり、すでに到着していたようで…見渡す限りの人の山。10万20万じゃ説明不可能な量があった。すでに話は聞いていた。美鈴に人の街を偵察させた甲斐があった。情報は戦況をこちらに傾かせる。

 

対してこちらは咲夜を抜いた4人。パチュリー、小悪魔は紅魔館が壊れぬように結界の維持をしてくれている。話をしに来ただけならいいが、流石に話をしに来たにしては大所帯だ。それに武装も…どことなく魔力も感じる。わずかだがな。

 

「その方ら、話があるのか?…なら、聞いてやろう。言え。」

 

…その言葉には無言が帰ってくる。中心にいる人物がニヤリと笑い、前に進み出る。其奴が持っているのも、銀の剣だった。嫌な匂いが鼻につく。

 

「私はヴァンパイアハンター教会!リーダー!カレノス・ユードリッヒ!!…貴様らが幼気な少女を何年にも渡り誘拐、監禁を行っていると報告を受けたッ!!…その為、即刻、その首を捻じ切るッ!!」

 

その言葉と共に周りの兵隊が槍やら剣やらを構える。後ろの方には魔法使いがすでに詠唱をしている様子だ。…なるほど。話は聞かぬ主義ということか。

 

「不愉快だ。…貴様ら人間如きが我々に勝てるとは。口が避けても言えぬよう、刻みつけてくれる。」

 

その言葉と共に我らに隕石が飛んでくる。

完全詠唱…魔法のそれが示すのは大規模な殺戮。…しかし、それは我らに降り注ぐ前に木っ端と化す。フランドールの方を見れば、目を見開きながらニヤリと笑っていた。

 

「壊していいのよね?お兄様ッ!!」

 

「無論だ。…来いッ!!」

 

その言葉と共に目の前から白煙が飛ぶ。

突っ込んでくるのは鉄塊の弾丸。突き進む余の肩を貫き、耳を落とすも無意味である。そのまま目の前の男の首をネジ切る。剣を持っているが、宝の持ち腐れだ。振り終わる前に首に手が届いてしまった。

 

フランに至ってはとんでもない。フランの周りは焼け野原である。レーヴァテインは煌々と炎を上げ、円形に焦げた肉塊をいくつも作り出す。

 

レミリアの前にいたものは槍を構えていた。突き出す槍の先端はレミリアを擦りはしない。即座にレミリアの蹴りに対して盾を構えるが、そんなものは無意味である。グシャリという言葉と共に男は後ろへと吹き飛んでいき、味方を巻き込みながら真っ赤な血の道を作る。

 

「私の前に立つな。下賤ども。」

 

頬についた血を左の親指で拭い取り、手にグングニルを握る。その投擲は爆風と共に人間どもの絶叫を産んだ。人がいたであろう場所は肉一つ残さず、円形の窪みを生み出した。

 

「なんて強さだッ!!…だが、俺の敵ではないッ!!」

 

近くにいた男がそんなことを言った。

手には銀のレイピア。懐には聖水のある匂いを感じる。その男の狙いは余だ。

 

「俺はNo.3のクルトナッ!!俺とやれることを心から…!!」

 

「…知らん。来い。」

 

「なんだよ。つれねえなぁ?吸血鬼風情がッ!!」

 

クルトナはそのままレイピアで余の目を薙ごうと横薙ぎに振るう。だが、切れるのは虚空。避けてくれと言わんばかりに大ぶりなそれにやられれば恥だ。

 

「へっ!!だったらこれは…!!」

 

続いて、レイピアを袈裟に落とそうと手を上げる。…振り落とされたその腕は…宙を舞い、クルトナの目の前に落ちた。

 

「…は?」

 

「…振り落とされる直前にこの指甲冑で腕を切り落とした。何も理解できぬことではあるまい。」

 

ぐちゃりという音と共に足の下で血飛沫が上がる。よく見れば…あぁ、レイピアが落ちてるじゃないか。グリップは銀ではない。だからこそ、余はそれを拾った。

 

「ひっ!?ば、化け物がァァッ!!」

 

クルトナは余を見て声を上げると、すぐさま背後を見て逃げ出した。トロトロと走っているが、やけに遅い。

 

「…おい。忘れ物だぞ?」

 

口角が上がる。レイピアを逆手に持ち、そのまま前へとぶん投げる。レイピアは恐ろしい勢いと共にクルトナの後頭部を貫くと、クルトナは物言わぬ骸と化し、前のめりに倒れた。

 

「なんだ?こんなものか、つれぬな。」

 

クルトナの遺体は火葬しておいてやろう。…他の奴らも死ぬかもしれぬが知ったことではない。

 

「フラン、レミリア、美鈴。…少々離れていろ。」

 

その言葉にレミリアたちは理解を示し、門の中へと入っていく。月を背景に空へと上がっていく余に、奴らが聞かせるのは怒号。目の前を隕石が降ってくるが、それは空間侵食を越えられない。…さて、火葬の準備だ。心が柄にもなく踊っている。

 

「最大の火力を見せてやろう。獄炎(サラマンドラ)




急に起こる大戦争。勝つのはどちらか。火を見るより明らかなのかもしれない。
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