…人間は理解した。理解せざるを得なかったのかもしれない。
…計り知れぬその悪魔との力量の差を。
空を覆う無数のしろい光。全てが魔法陣であり、それは10や20じゃ表せない。その中心から迫り来るのは正しく火球…だが、火球というには大きすぎる。人1人が全魔力を消費してやっと出せるほど。簡単にいえば…魔法の塊という名の太陽が空から落ちてくるようなものである。それも…一個や二個じゃない。
「逃げろォォォォッ!!」
カレノスの声に人々は森の中へと撤退をする。丈の高い木々に隠された紅魔の館を攻めに来た。それだけなのに、相手はまさしく天変地異である。しかし、撤退の判断は遅かった。遅すぎたのだ。
優美たる魔法に魅せられたものは火球に飲まれ、焼ける。…いや、焦げた者や焼けた者ならまだいい。火球に飲まれた者は正しく蒸発するのだ。骨一片も残さずに。
規格外だ。カレノスは長年の経験からそう考えた。
魔法使い団も優秀なものから選んで行った。元より人ならざるものと相対するのはそれほどの覚悟が必要だからだ。だが、今回は…まるで神でも相手にしているかのようだった。
「クックックッ!!ハーハッハッハッ!!」
当の本人は高笑いをしていた。
人の命などルディウスにはなんの興味もない。次第にルディウスの生み出す火球の雨は土すらも溶かし、溶岩と変えていく。カレノスの聖魔法による自身の強化だけでは、無意味であった。正しくそれはただの殺戮。知っていた人間が、数秒後には立ったまま焦げる。森の木々は火球が近づくだけで炭化し、魔法を過信し、魔防壁を使った魔法士団は壊滅だった。
空気は高温を常に維持し、生命活動を維持するために行う呼吸ですら死へと直結する。肺はあまりの温度に破れ、喉から血息を出し、内側から灼かれ、死んでいく。その様子を見ながらルディウスは腹を抱え、笑っていた。
「悪魔めがァァァッ!!」
その絶叫は虚しく散る。
10万、20万…いや、50まんほど用意した軍隊はその10分の1以上を蹴散らされてしまった。少ないように感じるが、ルディウスがまだ楽しむから残しているのである。ルディウスは考えた。これは好機であると。
「試したい技が山ほどあるのだッ!!死ぬなよ、肉塊どもッ!!」
嬉々としてそう言い放つルディウスにカレノスははらわたが煮え繰り返っていた。双剣を握り、そのまま前へと猛進する。カレノスは猛者だ。その二刀の銀剣により、数多くの吸血鬼を屠ってきた。ついた渾名は夜崩し。…そのカレノスに続くようにファランクス部隊が猛進していく。ルディウスはそれを見てなお、余裕を見せつけるように笑う。歯を見せ、再びその名を呼ぶ。
「『
低い声でそう紡ぐとルディウスの背後から魔法陣が現れる。次は巨大…かつ、唯一の魔法陣にカレノスは勝機を見出した。この男は我らを馬鹿にしていると。
その慢心こそ勝機だ。…突き進む己が身を蝕む何かに勘づく事なく突き進む。ルディウスはニヤリと笑いながら、パチンっと指を弾く。するとカレノスは何かが自分を突き刺した感覚を感じた。カレノスは天才だ。何があってもいいように聖魔法で状態異常の対策は行っていた。しかし、周りは違う。
ルディウスをも飲み込む紫の極光が魔法陣から発せられる。その極光が通った地面は腐食…当たった木々は中心から融け、青々と茂る草は真っ黒へと変わっていく。
それが人間に照射されるとどうなるか。
生きたまま腐っていく。ファランクス部隊の鎧は朽ちていき、あるものは斜めがけに崩れていき、あるものは足から徐々に壊死していく。動けるのはカレノスともう1人。その豪剣は吸血鬼でも受けられないとされたNo.2、バケルガ・ランヴィッチだけだった。
バケルガは銀の大剣をルディウスに向かって振り落とす。
「ウォォォォッ!!」
「その巨体で余の毒魔法を掻い潜ったかッ!!」
ルディウスは笑いながら、それを指甲冑で受け止める。ガキンっという音と共にバケルガは違和感を覚えた。…指甲冑より下に刃が入っていかないのだ。背中の筋肉が隆起する。指一本なら切り落とせる。そう思ったのだろう。
「ガァァァッ!!」
…しかし、折れたのは…己が運命を託した
「『
「ガッ!?」
…腹から徐々に燃えていく。肉がばちばちと焼ける音と共に炭化した匂いがルディウスの鼻を突き抜け、炎の光がルディウスの笑顔を照らす。黒煙が軍隊を煙に巻く。身体中の血液が蒸発し、骨だけになるまで燃え広がった。…彼らは知らない。ルディウス・スカーレットはありとあらゆるものを喰らう程度の能力を持っている。空間を食い削り、大剣を空で止めることは呼吸をするよりも容易い。
「人の命を弄ぶッ!!外道めがッ!!」
「…それは褒め言葉だなぁ?『
詠唱と共に魔法陣が空へと上がる。紅魔館を埋め尽くすような巨大な魔法陣からは膜放電が起こっていた。紫の雷撃はまだ戦おうとする人間の身体を射抜き、燃やし尽くす。命、魂を感じとり、その雷は人を迎撃する。遊ぶのをやめた雷は森を完全に亡き者にし、骸の山を作り上げる。後ろからの悲鳴も雷鳴もカレノスの耳には響いていた。
「ウォォォォッ!!」
カレノスは足をそれでも止めない。彼こそがこの軍隊の希望なのだ。そんな彼に雷が落ちる。非常な落雷はカレノスの右腕を断ち、地面に落とす。
左手の銀の刃がルディウスの首へとかかる。急死に一生、最後の機会だ。ルディウスの肉を食む銀の刃。
…勝った。目の前に散る鮮血にカレノスの緊張の糸が千切れる。…しかし、それが首とは誰も言っていない。
「これが銀の感触か。確かに不愉快だ。」
「…なっ!?」
銀の刃は確かに深々と刺さっている。
ルディウスの左腕を犠牲にし、刺さった箇所から血を垂らし、だんだんと壊死していく様は長年、吸血鬼の弱点として伝わっているというのに納得がいくものであった。だが、ルディウスは余裕の笑みを絶やさない。ルディウスは自らの左腕を掴み、肩から千切ると横に放り捨てる。すぐに骨から肉体を再生すると空間を裂き、スキマのようなものを出現させた。
「玄天。」
ルディウスの左手には真っ黒な鞘の刀が握られていた。カレノスに得物はない。今、取られた銀の刃はルディウスの足元に落ちていた。決死の覚悟で突っ込めば取れるかというところであった。
「ウォォォォッ!!」
「特攻か。くだらん。」
覚悟を決め、ルディウスに突っ込む。
ルディウスは玄天を上から振り落とすが、カレノスは自身の右耳を犠牲に地面に転がる。地面に転がる銀の刃をなんとか握るカレノス。
先ほど銀が効いたのはわかった。
それに周りの人間はすぐに肉塊となり、死んでいく中で自分だけは生きているという今の状況が彼を後押しした。右腕、および右耳はない。冥雷によって人々は散り、軍隊ももうカレノス1人である。
「ハァ…ハァ…!!」
息も枯れ枯れ。
カレノスの目はもう朧げだが、ルディウスをしっかと睨んでいた。ルディウスは玄天を地面に突き刺し、丸腰となる。
「なんの…冗談だ…!!」
「なぁに。少しの余興だ。その刃を一度だけ、余に刻むことを許してやろう。かかってこい。」
そう言ってルディウスは両手を広げ、懐を開ける。カレノスに判断する時間はない。明らかに罠だが、乗るしかなかった。地面を蹴り、決死の覚悟で銀の刃を振り上げる。カレノスの刃がルディウスの頸動脈を狙う。…この瞬間、優しい風が吹きつけた。
「『
ルディウスの声がカレノスの耳にねっとりと残る。カレノスの剣は頸動脈の上で…ぶつ切りにされた。
「なっ!?」
それにカレノスは反応する。
…だが、それは遅かった。遅すぎたのだ。カレノスの身体は風に巻かれ、風化していく。先ほどまで人の体を保っていた肉体が賽の目上に斬られ、風に吹き飛ばされ、真っ赤な血飛沫が地面に広がる。
「…さらばだ。」
ただ一言。飽くなき探究を終えたルディウスはそう言い放った。
毒蝕(ヒュドラ)…ルディウスが体得した月魔法の一つ。状態異常『毒』と『腐食』を同時に付与するレーザーを照射する。当たったものは生きたまま腐っていき、地面に液体となって落ちていく。腐食したものに触られたものも腐食する。国一つを滅ぼすほどの力を持つ。
斬風(ルドラ)…ルディウスの魔力を地面に突き刺した玄天に流し、全てを風化侵食する風を作り出す技。触れたものは触れたことすら気づかず、何物でも細切れにされる。弾幕は愚か、レーザー砲…核融合炎ですら切ることが可能。数を指定する事でルディウスを守りながら撃つこともできるが、玄天がルディウスの半径20km圏内に無ければ暴走する可能性がある。元ネタは『伏魔御廚子』。
咲夜問題にも終止符をつけなければならないね。
あと、技だけクロスオーバータグもつけた方がいいかな?結構、似たような技は色々ありそうだし。では。