紅魔ノ兄   作:紳爾零士

55 / 88
第三章 異変
幻想郷は悪魔の立ち入りを許す


「あら、お揃いかしら。」

 

大食堂。余の向かいに客人が座り、右にはレミリア、左にはフランを据え、他の面々も各々の場所に座る。咲夜のみ、余の後ろに控える。

 

客人…八雲紫は微笑む。

 

「幻想郷への引っ越しだ。全員揃っていなければ意味がない。」

 

本日は晴天。忌々しくも雲一つない空を太陽が掌握していた。それでも夜の帝王たる吸血鬼が起きているのには意味がある。新たなる地『幻想郷』への移住である。

 

ヴァンパイアハンターの死により、人々は我々を畏怖する。しかし、それでは街への出向もままならず、更にはヴァンパイアハンターはいるものの、人々の中で我々の存在も朧と化している。要は吸血鬼なんていないと豪語する人間の方が吸血鬼はいると言う人間の量を超えているのだ。異端者扱いされるのは後者であり、ヴァンパイアハンターも実際は名前をもらった警備隊のようなもの。人々にとっては我々も幻想である。

 

「我々は家族。故に全員で進軍する。」

 

「あら、幻想郷の管理者を前に進軍?…やはり、恐れ知らずね。」

 

…突如として冷徹な殺気が室内を掌握する。

八雲紫の笑みの裏に隠された刃が露わとなったのだ。それに慌てるのは小悪魔のみ。いや、咲夜も平然としつつ、冷や汗をかいている。大妖怪の殺気だ。立ってるだけでも褒めてやろう。

 

「なに、約束があるのでな。稀代の巫女様の力をこの身で味合わなければならぬ。」

 

「へぇ。…では、この話はご存知?幻想郷では異変を起こさなくてはならない。」

 

「…ほう?」

 

異変を解決するのは博麗の巫女の仕事である。呼び込むには最高の餌だ。だからこそ、起こせというのだろう。所謂、刺激というものである。

 

「…汝なら知っているかと思うが。」

 

「勿論、スペルカードルールでの戦い以外は禁じます。主人様が本気でやれば幻想郷ごと沈みかねないもの。」

 

…八雲紫は笑みを崩さず、そう言った。

本気の余とやりたいと嘆くのは鬼くらいなものだろう。

 

「スペルカード?」

 

「…単なる遊戯だ。」

 

レミリアの言葉に答える。

世界で最も無駄な遊戯…それがスペルカードルールだ。弾幕による美しさを競う…意味合い的にはそのようなものだったと理解している。妖怪が人間に合わせなければならない。…そういったもの。

 

「説明しますわ。ご理解の程を。」

 

八雲紫は胡散臭い笑みを浮かべながらペラペラと喋り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大きな物音と共に、景色が一変する。

室内は変わらぬが、窓の外は霧が一体に広がる森。湖も見える。感じる空気には一切の毒素も混じっていない。懐かしい景色だ。

 

「あ、あと、主人様。博麗大結界を弄るのはやめてくださいまし?」

 

「わかっている。」

 

霊力、そして、結界技術は八雲紫の下でみっちり勉強した。八雲紫や恐らくは博麗の巫女にも満たないものの、結界や霊力による力は理解しているつもりだ。守ることと縛ること、これが霊力の特徴である。妖力のようにただの武器ではなく、魔力のように媒体となることもある。まさに特異だ。

 

「わかっているなら宜しいですわ。」

 

「意外だな。…汝のことだ。疑ってかかると思った。」

 

「失礼ね。まぁ、やったら境外追放だけど。それでは。」

 

そう言って八雲紫はスキマの中へと入って行った。

 

10年ぶりの幻想郷だ。見て回っても悪くはないだろうが、外は我々にとっては生憎の天気。それに余所者が我が物顔で歩くのはいい顔をしないものもいるだろう。外に出てみれば、周りから視線を感じる。この場を束ねていた妖怪たちだ。無論、言葉の通じぬ畜生妖怪ばかりである。

 

「外から来た余が我が物顔で立っているのが気にくわぬか。」

 

…言葉に対する階はない。一際大きな妖獣が目前と現れ、大きく雄叫びを上げる。そうなれば、周りの妖怪どもは余に群がってくる。

 

一体が地面を蹴り、飛びかかってくる。涎を垂らし、歯を剥き出しにし、瞳孔を広げ、襲いかかってくる。…試しと行こうか。

 

「魔紅『スカーレット・サンダー』」

 

言葉と共に弾幕が展開。

妖獣の身体を包み込むとそのまま放電。赤い雷は音を置き去りにして、妖獣を包み込み、焼き殺した。

 

頭まで畜生と化した妖怪どもにはそれだけで牽制となる。

 

半分は散ったか、面白くはない。

 

「余はこの地の征服者となるべきもの。貴様らの道理を通したくば、余を試して見せよ。」

 

言葉はわからずとも挑発しているというのはわかったそうで。獣型の…犬と言った方がいいか、四つ足の獣は地面に爪を食い込ませ、鬼の形相で天へと吠える。耳を劈くほどの遠吠えは地面をも振るわせる。

 

その言葉に妖怪どもも弾幕を放つ。知性のかけらもない此奴らが使うのは少々、お門違いではないかと思うものの…。

 

「そうでなくては面白くない。」

 

目の前を埋め尽くす大小様々な光弾を避けて、笑みが溢れる。柄にもなくワクワクしているのだ。

 

「灼熱『スカーレット・アンタレス』」

 

頭上に飛ぶは巨大な火の玉。それが頭上で弾けると共に、小さな火の玉へと姿を変え、降り注ぐ。その中でも中規模な大きさの弾幕は空間を跳ねるように縦横無尽に動きまくる。

知能のない妖獣たちはそれによって灰となって空に飛んでいく。

 

「…。」

 

ただの阿呆か。

眠気覚ましにもならん。灰色の地面を見て、そう思った。妖怪に死の概念はない。消えるかまた生まれるかだ。だが、そこにあったのは確実に死の後である。…さて、レミリアたちもスペルカードルールに慣れる時間が必要だ。異変を起こすのは3時間後か。それくらいで慣れてもらわねば困る。

 

そもそも、弾幕は出せていた。

後は名前を与え、具現化するのみ。あの子たちは贔屓目で見ずとも天才だ。何とかなるだろう。逆に美鈴のような技を極めているものの方が難しいだろうか。

 

「…して、汝らは何者だ。」

 

「「ッ!?」」

 

…隣の木の脇。3人ほど妖力の匂いがする。一つはとても濃いが、あとは妖力と言っていいのかと思うほど薄い。横目で見ればそこには震える緑髪の少女を守るように、背中に雪化粧のような羽根のついた青髪の女と髪に真っ赤なリボンを結んだ金色の髪の女が此方を凝視している。不穏分子でも排除しに来たのか。

 

緑髪以外はなかなかにやる。特に金髪の方は目を見張るものがある…おそらくだが、封印でもされているのだろうか。

 

「やいっ!!お前、何者だッ!?」

 

「…口の聞き方がなっていないな。」

 

威勢のいい小童だ。

応えてやれば、少女は髪と同じく青ざめた顔で此方を見ている。力の差を理解したようだ。

 

「氷精か。…それと妖怪。汝らが阿呆ではなければ、この場から立ち去れ。殺しはしない。」

 

「…うぐっ…アタイは最強なんだぞ!!お前如きじゃアタイには勝てない!!」

 

「…。」

 

…阿呆か。

此方に指を指す氷精は威勢と共に冷気を放つ。真っ白な冷気が周りの大気を凍らせる。…地面の草も霜がつき、元気を失っていくようだ。確かに若干肌寒い。ギロリと此方を睨むその目は誰がどう見てもやる気だ。力はある方なのか、覇気を感じる。

 

「くらえッ!!凍符『パーフェクトフリーズ』ッ!!」

 

呼名と共に、氷精の周りにカラフルな弾幕が放たれる。ただ放たれるだけではない。それだけなら簡単に避けられる。現に、地面を蹴ってその弾幕を避けては居るが…。

 

「なるほど。」

 

弾幕は空間で静止…この場合、凍結と言った方がいいだろうか。直後、巨大な青い弾幕から驟雨のように前から降り注いでくる。

 

…だが、避けれないわけではない。

 

「は、はやっ!?」

 

天魔の攻撃をこの目で見ているのだ。このぐらいは朝飯前である。氷精も俊敏性に驚いているようだ。

 

「魔鬼『ロードオブヴルト』」

 

腕で目の前を弾くように動かす。

すると、目の前にまるで血でも広がるように大小様々な弾幕が飛んでいく。氷精たちはそれを避けていくが、弾幕ばかりに気を取られていて隙だらけだ。

 

「なっ!?」

 

「はっ!!」

 

氷精の頭へと踵を落とす。氷精はそのまま地面へと突き刺さると弾幕により身体を焦がした。

 

「チルノちゃんッ!!」

 

緑髪が氷精に向かっていく。

…氷精は先程の一撃でノックアウトだ。一応擁護すれば、これから暑くもなるし、どれだけ強かろうが気温には勝てぬ。吸血鬼がそうなのだから。光るものはあるが、余の舌を唸らせるほどではない。

 

「…何者だ。貴方。」

 

「まともに話ができるとはな。」

 

金髪の女は余に向かってギロリと睨む。

その声はあの氷精とは違い、低く落ち着いたものだ。話ができるものがいて嬉しい。先程の氷精からの不遜は忘れてやることにしよう。

 

「余は吸血鬼である。」

 

嬉々としてそう答えると金髪女の雰囲気が変わる。…というよりも目の前が真っ暗になった。比喩ではない。正しく視界が闇に閉ざされたのだ。

 

「おおっ!!良いぞッ!!これは初めてだッ!!」

 

再び、嬉々としてその声が出る。

ワクワクしているのは文字通りである。目の前にいるのは背丈などどうでもいいほどの強者。そして、感じるのは殺気と共に焦り。

 

「ハァァァァッ!!」

 

スペルカードではない。

弾幕で圧死させようと展開してくる金髪妖怪。それは少し無粋だが…自身の存在に刃を突き付けられているとなれば、それはごっこ遊びにはならない。これだ。この肌にズキズキと刺さる…まさしく殺気!!

ごっこ遊びでは感じられない命の喪失への期待ッ!!…これを求めていたのかもしれない。

 

「ならば答えようッ!!」

 

視界が塞がれようが余には嗅覚がある。

妖力を感じとる鼻。圧倒的な妖怪は逆に目を封じない方がいいまである。中途半端にどちらかを封じればどちらかがより鋭敏となる。迫り来る光弾に対し、選択したのは…右手を覆う炎。

 

「ハァッ!!」

 

地面に手を当てると地脈をなぞるように地面を走り、大木のように枝分かれしていく炎。それは地面を赤々と染め上げると共に弾幕を下から火柱をあげて、破壊する。

 

まさに真っ赤な大地。…闇で目の前が覆われているため、若干しか見えないが、そう例えるしかない。

 

「んぐっ!?」

 

「燃えろッ!!」

 

「きゃあぁぁぁッ!!」

 

…金髪少女の悲鳴と共に目の前の闇が消える。そこには黒ワンピースの…所々が焼けたあの金髪少女が倒れていた。

 

少々、強者に対する期待があったのだが…呆気なかったな。ちらっと見ると緑髪の妖精が震えながら氷精を抱き抱えていた。

 

「立ち去れ。…ここは戦場になる。次に邪魔をしたら…殺すぞ。」

 

「ひ、ひぇぇぇぇっ!?」

 

緑髪の少女はドスを聞かせたその声に対し、尻尾を巻いて逃げていった。氷精も連れてである。あの氷の妖精…もし、冬ならばどうなるか。妖怪の中でも季節や気温に左右されるものもいるからな。…光るものはあるだろうが、今はどうでもいいことだ。

 

「美鈴。…始めるぞ。」

 

「…はっ。」

 

門へと戻り、美鈴にそう言う。

美鈴は片膝をつけ、控えていた。既にパチュリー・ノーレッジが準備を進めている。

 

「我らがこの幻想郷に来たということを幻想郷の民に知らしめようではないか。」

 

門が開き、紅魔館の中へと入れば、紅魔館の住民はすでに控えていた。奥にレミリアとフランドール。横に美鈴、咲夜、パチュリー、小悪魔を据えて…。余は妹らの間に入る。

 

『御心のままに』

 

従者どものその声に空からの光が赤く染まった。幻想郷を覆う赤い霧が発生したのだ。…それが何を生み出すかは知らぬまま、我らはそれぞれの位置へと舞い戻った。




バカルテットのうち3人の即落ち二コマ。
ルーミアは強いと思ってるし、強いようにはする。兄上が強いって言ったらそうなのさ。

紅霧異変、開幕。戦闘が多くなるだろうけど仕方ないね。できるだけモチベ高めで行きます。感想も毎回ありがとうございます!では!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。