紅魔ノ兄   作:紳爾零士

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東の都

「で?結局、住む場所はどうするわけ?」

 

余にジトーとした目を向ける美鈴の声。パチュリーの屋敷で茶を頂いていた余は左手で甘えるフランの頭を撫でながら、美鈴の方に目を向ける。

 

「アンタのことだから何にも考えてないなんてことないでしょ。」

 

「…買い被りすぎだ。」

 

所詮、余にもないものを生み出すなんて芸当は出来やしない。前の住まいも所詮は父上からの賜り物。己で何かを成し遂げたことなど一度もなければ、名は吸血鬼というネームバリューで轟くのみで、ロクなコネクションなど存在しない。

 

オレンジ色の水面から香る香りに酔いしれながら、頭の中を片付ける。

 

「あるわよ?館。」

 

「「…は?」」

 

パチュリー・ノーレッジのその言葉に頭の中がぐちゃぐちゃにされた。本を読みながらキョトンとする彼女に余と美鈴の声が重なる。

 

「どうせ、私も住むんだし。でも、ここじゃ勿論手狭だから違う場所だけど。」

 

「ふむ。確かに。」

 

5人住まいには少々手狭か。

元来、パチュリーの家はパチュリー達の拡張魔法によって居住区を確保してある。

 

「じゃあ、そこまで行くわよ。テレポートはできるし。知ってるところまでだけど。」

 

「おおー。パチュリー、お姉さまよりすごいっ!!」

 

…フランよ。純粋無垢なのはいいが、それは姉の尊厳を傷つけてやしないか。まぁ、我々の体力も無尽蔵ではない。これは行幸といっていい。

 

「では頼もう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…倫敦郊外、お化け屋敷とも呼ばれる血濡れの館。それがパチュリーのいう居住区だった。

 

「中は思ったより綺麗ね。」

 

美鈴の声に肯定を返す。使われていなかったという話なので危惧はしていたものの、蜘蛛の巣…或いはホコリひとつ舞っておらず、家具もそこそこ揃っていた。

 

血塗れの西洋洋館。

それ以外に表す言葉は無いだろう。

 

「人間たちの文明ではやはり魔女の屋敷は使えなかったみたいね。」

 

…ここまで大きな館は如何に倫敦とはいえ、ないと言っていい。異様といえば片付くものの、異様すぎて好奇心を刺激するような…。そんな場所である。

 

「住めるようにするにはざっと何年かかる。」

 

「魔力が満ちていれば、50年あればおおよそなんでも出来そうね。ただ使われてなかったからその2倍はかかるかも。」

 

ふむ。

如何に生きている時間が膨大とはいえ、なんにもしない100年とは酷なものだ。この場にいれば魔女狩り、吸血鬼狩りも会うことはないだろうし。

 

「…余は少し見聞を広めようと思う。留守を頼めるか。美鈴、パチュリー。」

 

「は?」

 

…美鈴が怪訝そうな顔でこちらを睨む。

一家の当主が急にそう声を上げるのだから、当たり前ではある。

 

「見聞を広めるってアンタ。また、襲われたらどうするのよ。」

 

「我が紅魔の従者どもがこの程度で終わりやせぬ。…東洋の地で妙な気配がするのだ。」

 

「東洋?…あそこには私の地元と…島国しかないわよ。大体、急に何よ。見聞を広めるだなんて。」

 

「無論、この屋敷を立て直すこの非常時に余は遊び練り歩くわけではない。」

 

なんだ。美鈴。その目は。

そんなに余は信用無いのか。少し心外だ。

 

「余は一家を束ねる主人だ。如何様なことがあろうとも、負けることは断じて許されぬ。故に余は旅へと出向き、見聞を広め、更なる格式と強さを手に入れる。さすれば、妹らの明日は平穏に保たれる。…何か間違ったことでも言ったか?」

 

ため息を吐く美鈴にそう問う。

東洋へ行くだけの意味にはならぬが、此度の旅でレミリアやフランドールの…いや、スカーレットの名が轟すぎた。今は大丈夫でもいつか、売名目的のヴァンパイアハンターが我らを狙いにやってくるやもしれぬ。無論、負けはせぬが念の為だ。

 

「余が居ない留守の間にここは頼んだぞ。」

 

近くにいるレミリアとフランドールの頭を撫で、微笑みかける。余の言葉を理解してか知らぬか、微笑む二人を見て元気が湧いた。

 

「は、え、ちょっ!?」

 

屋敷の扉を開け放ち、余は星が煌めく月夜の空へと飛び立つ。制止の声などなんのその。無論、上に立つ立場の者が好き勝手されてはと怒られるやもしれぬが、そこは我慢してもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ゆらゆらと海の上を飛び回り、6回目の月を見ることになった。昼間は陽光の力により、制限されては居たもののなんとか東洋の島国へとやってきた。妖力の流れとは言わば異臭のようなもの。島国の形に沿って、独特な異臭が集まっている。

 

匂いが強いほど、妖力が高い者が多いという認識だ。自身のはどう見えているかわからぬが。

 

「…ん?」

 

島国に降りて、少し歩く。

…ここは山だ。鬱蒼と背の高めの草が生い茂る。背丈の高い木々により、陽光は遮られ木漏れ日となる。

 

その自然の空気を堪能している…わけだが。

目の前に不自然なものを見つけた。

 

空と空の間にぽっかりと隔たれた何か。壁のように見える。透明な壁面だ。弱小の妖怪となれば、触れただけでかなりのダメージを受けるような。

 

触れた手に感じるのは…違和感。

部屋の壁に触れたような感覚。何も無いのになにかある。そんな違和感だった。

 

「…。」

 

…東洋の話は以前の旅の道すがら、美鈴より聞かされた。結界…というものらしい。一瞬で破壊できるほど甘い作りはしてないようだ。…穴ぐらいは作れるか?

 

綻びが起こればそこから決壊する。

それでは戦争の要になる。妹らの敵を兄である余が作るわけにはいかぬ。

 

「…ふんっ。」

 

拳を固め、結界に押し込む。

ドンッと山全体が一瞬揺れ、木々が揺れ、鳥が驚き飛び立つ。円形の小さな穴。…だが、術師が優秀なのだろう。ゆっくりゆっくりと再生をしていく。

 

穴さえ開けば侵入は可能。

…入ったものの、外との変化は何も…ん?

 

「…ほう?」

 

即座に後ろへと飛ぶ。

 

先程いた地面は上から振り落とされた蹴りによって爆ぜる。

 

「…何者だ。」

 

その蹴りの主は問う。

…強い警戒と敵視。9本の尻尾がゆらゆらと揺らめく美女と言って良い存在。修道士のような服に身を包んだ彼女がこちらを睨む。

 

「なぜ結界を壊した。なぜここに来た。貴様に問いたいことは山ほどある。」

 

「…そうか。これはもてなしか。」

 

「…もてなしが欲しいのか?…ならば、死ねッ!!」

 

目の前から迫り来る拳。

 

それを受け止め、後ろへ投げる。

 

受け身を取った女が地面を蹴ってこちらへ向かってくる。

 

左脚を軸にした顎を狙うハイキック。よくもまぁ、長いそのスカートで動くものだ。顔を上に上げ、避ける。

 

…やられっぱなしは癪に触る。

 

「ふぅ…。」

 

「ぐっ!?」

 

…放つのは美鈴仕込みの打突。

固めた右拳を女に打ち込む。

 

女は歯を食いしばるものの、打突の間に腕を差し込んだようだ。

 

「…なんだ今のは…馬鹿力め…!!」

 

「加減はしている。本気ならいくら汝のような妖怪でも臓腑が破裂している。」

 

「…出まかせではなさそうだ。ならばこちらも本気で貴様を殺す。」

 

…そう言うと何処からか、人形に切り裂かれた紙を取り出した。そこに込められるのは妖力では無いもの。

 

込められればそれは自立し、此方へと飛んでくる。自らの意思で。

 

…ただの紙ではなさそうだ。

 

ダーツの矢のように此方へと飛んでくる紙。

 

目で見て避けるも、後ろで木が切り倒される音が聞こえる。

 

紙に気を取られれば次は女だ。三度、余の顔を目掛け、蹴りを飛ばす。

 

逆もまた然り。女の攻撃を避けるように身体を動かせば、その場所を狙うように紙が来る。…なんとも珍妙な戦い方だ。

 

「…やりようはある。」

 

「何を…!?」

 

格闘も好きだが、紙があっては満足にはできない。

 

…東洋式の戦い方を拝めたのだ。妹らに土産話ができた。…感謝の意を込めて、焼き払おう。

 

「…消えろ。」

 

左手で薙ぎ払う。

すると現れるのは炎の壁。女を吹き飛ばし、木々を薙ぎ払い、円形に地形を窪ませる。

 

…出力を間違えた。

 

「ぐっ…貴様…。」

 

女は額から血を流してもなお、立ち上がる。衝撃の最中、結界とやらで守ったか。

 

「…面白いな。女。汝、名前は。」

 

「質問は此方から…したんだがなぁ…!!…ぐっ。」

 

…やけに苦しそうだ。見た目以上にダメージが蓄積しているのか。…まぁいい。殺しても構わないが、侵入したのは此方だ。生かしてはおく…ん?

 

「…っ!!」

 

危ない。

…次はレーザーか。前方、上から振るレーザーを後ろに飛んで回避。

 

そこを見るが…何も無い。

 

だが、妖力の流れはとても妙だ。余を取り囲むように渦巻いている。…これもまた土産話にカウントしておくか。

 

「何者だ。とっては食わぬ。出てこい。」

 

「あら、お優しいのね。」

 

…先ほどまで相対していた女を守るように、紫色の裂け目ができる。空間に、なんの予備動作もなくだ。そこから現れたのは傘を刺したこれまた金髪の美女。…その貼り付けた薄ら笑みには美しさよりも胡散臭さを感じさせる。

 

「私は八雲紫。…この幻想郷の管理者ですわ。貴方…随分と勝手なことをしてくれたそうで。うちの可愛い藍ちゃんをこんな目に合わせて…どう言うつもりなんです?」

 

言葉の端々から怒りを感じる。

…流れる妖力から偉く大物だという情報は見てとれた。

 

「“八雲紫”…か。その名前、覚えておこう。余はルディウス。…ルディウス・スカーレット。ここへは…そうだな。観光か。」

 

「観光?…うちの従者を殺しかけ、あまつさえ、この郷を守る結界に手をかけたというのに…観光ですか。それで済むと思っているのですか?」

 

「…襲われたなら撃退するのみ。」

 

そう返すと八雲紫の顔から薄ら笑みが消えた。軽蔑と敵意の混じった目。冷ややかと言えるその目が余をとらえる。

 

「…そう。ならば、この郷は貴方を歓迎しないわ。…ここで消すもの。」

 

「汝もそう来るか。まぁ、仕方ないな。」

 

…余もレミリアたちを傷つけられたら怒髪天を突くだろう。今の八雲紫のように。世界を焼く…と言っても過言では無い。

 

「…始めるか。殺し合いを。」

 

「死ぬのは貴方よ。招かれざる…お客様。」

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