後半…ルディウス
「ん…んぅ?」
…今は何時でしょう。昨日は博麗の巫女と対峙して…それで。いつの間にか布団の中に…って。キングサイズのベッドってことは…まさか。
「んひゅっ!?」
へ、変な声が出た。
ふかふかで真っ赤な毛布のベッドということは…ここはルディウス様…ご主人様の自室!!…いつも入ってるからわかるわ。しかも、隣からは薔薇の香り…ご主人様が好んで使うシャンプーの香り…ということは。…いるのよね。隣に。この腕の質感、筋肉をそのまま触っているかのようなゴツゴツとした感触。抱かれてます。私、抱かれてます…!!
何故、私がここにいるのかは分かりません。普段ならば起こすついでに少々、ルディウス様のお身体を堪能するだけなのです。抱きしめたりするだけでそれ以上の恐れ多いことなど…。でも、今はルディウス様からなさってます。確実に!!
胸が美鈴ほどあったらルディウス様の腕に潰れていることでしょう。後ろから感じる息も何もかもが愛おしい。私の顔はもうマグマぐらい熱く迸ってます!!…マグマのことは知りませんけど。
心臓もドクンドクンと五月蝿い…!!
あぁ、そんな、まさかルディウス様が寝込みを襲うような…いや、寧ろウェルカムです。さぁ、咲夜を抱いてください。どこをどう食べて頂いても構いません…!!さぁ!!早く…!!
「…何をしている。」
「んひゃあっ!?」
…背後から耳元へ低く耳障りのいい声が聞こえてきました。ルディウス様です。…私の体はこの声を聞くだけで胸の辺りがきゅんっとなる。…おかしいでしょう。そして、いつものように取り繕う。ごくりと息を飲み、いつものように微笑んで。
「まぁ、ダメですわ。ご主人様。咲夜をお好きにしたいのならば、言ってもらわなければ…。」
「…知らん。汝の部屋は時計塔の中であったろう?少し荒れてしまってな。今、知り合いに頼み、河童たちに回収させている。余の魔法では数日はかかるゆえ。」
硬く暖かな太い手が剥がれていく。もう少し堪能したかったのだけれど、ルディウス様は意外にもシャイなところがある。…と思っている。
「取り敢えず。」
そしてその手は振り向いた私の頭へと伸びる。昔からこの方は自身の血が凍りついているとか言うけれど…普通の人間よりも随分と暖かい。頭に指が当たった瞬間、目が閉じる。たった一瞬。バクバクと心臓の鼓動が早くなる。
「褒めてやる。あの博麗の巫女に、よく足止めをしていた。」
黒と毛先に行くにつれ紫になる髪の隙間から見える真っ赤な瞳。稀に見せる笑顔というには笑わず、それでも少しだけ柔らかく見える表情に…私は釘付けだった。
「いえ、私は負けてしまいました…。ご主人様に…鍛えて頂いたのに。」
次第に胸の中に無力感が去来する。何もできなかった、その事実が目に溜めていた何かが流れ落ちる。
「…泣き虫めが。」
「弱くて…すみません…。」
布団に落ちないように、その涙を手で拭う。ご主人様の顔が歪んで見えない。この人は私を拾ってくれた恩義ある人。…その人の為に命すら惜しくないと日々奔走していたのに…。利用価値がなくなれば捨てられる。そうなれば私に生きる価値なんてない。
「あぁ。期待外れだ。」
「…はい。」
低く失望したかのようにそう言い放つご主人様。まるで背中に冷たいものでも差し込まれたかのよう。心の底から恐怖を感じていた。
「本来ならば、人間よりも妖怪の方が強い筈だろう。あの美鈴め。一撃で倒れよって。…まぁ、徒手であれに勝つのは難しい。故に初見殺しの高火力が功を奏したか。なにあれ、期待外れだと言ったら奴は修行を始めた。気を練って常に弾幕から自身を守るだのなんだの言っていたな。」
「…は、え?わ、私に向けた言葉では…。」
「…自惚れるな。はなから汝に期待など寄せてはいない。故に予想以上だ。だから、褒めてやっている。」
…先ほどから撫でる手が止まらない。声の質も変わらない。でも、普通ならば憤慨するような言葉が私にはとても嬉しかった。
「何故泣く。責めているわけではない。褒めているのだぞ?」
「うっ…ぐすっ…嬉しいんです…。ルディウス様が…私を…褒めてくださるのが…。」
返されたのはため息だった。
「…昔から変わらんな。愚か者め。嬉しいなら泣くな。笑え。阿呆が。」
「は、はいっ!!」
流れる涙を強引に枯らして、口元を歪める。不細工な笑顔だろう。だが、ルディウス様は歯を見せて、笑った。
「そうだ。それでいい。」
肉を裂き、血を吸うために発達した歯がきらりと輝く。普段は見せない分、こういうところはとても策士な方だ。
「…咲夜。腹が減った。朝食を。」
「承知しましたわ。」
…だから、笑顔で答える。
普段見せないこの人が笑顔を見せてくれたのだから。
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「ルディウス様。お客様よ。」
そう言うのは門番、紅美鈴だった。幻想郷でルディウスの名前を知るものは数少ない。今やというだけの話だが、昔は流浪の西洋妖怪だなんだと言われていたはずだ。淡々とそう言い放つ美鈴の様相からして敵ではないと判断したのだろう。感じる妖力も確かに懐かしいものだ。
「入れ。」
応接間で足を組んで待つ。そこに立っていたのは真っ黒な翼を携えた短髪の女性であった。
「うふふ。失礼致します。ルディウス殿下。殿下としてもご機嫌麗しく…。」
「御託はいい。それにその言い方は辞めよ。虫唾が走るわ。」
「…そうさせてもらうわ。」
そう言うと女は余の目の前に座る。先程の笑顔の仮面など取払い、代わりにつけるのは鉄仮面。冷たい美人とはよく言ったものだ。八雲紫のような阿呆でも、霊夢のような幼稚なものでもない。
「久しぶりね。ルディ。」
ルディと呼ぶのは旧知の仲だからと言える。後ろの咲夜が何やら殺気立っているが、手で静止する。基本的にはよく躾けられた犬は飼い主の命令を無視はせぬものだ。
「汝が妖怪の山から出てくるとは。どういう風の吹き回しだ。文。」
「貴方のおかげで、いえ、天魔様と貴方のおかげで天狗は外界とのコミュニケーションを取れるようになっていたでしょう?私は自前の速さで新聞記者をしているの。昔も言ったはずよ?」
「くだらん。興味はない。」
珍妙な静寂が応接間に満ちる。
「じゃあ、今言うわ。…で、今回は天魔様からのご依頼。貴方に白狼天狗を修行させて欲しいの。」
…その言葉を聞いた瞬間、目は天井を向いた。何度も何度も水を注ぎ入れたスープかのように、興味はほとんど味がしないほど薄れていく。
「余は教育はせん。興味がないからな。」
「言うと思った。でも、今回は天魔様からのご依頼なのよね。ほら、貴方も知ってるでしょ。山の護衛をする為の白狼天狗って組織なのにどれだけ弱いかを。」
…確かに。白狼天狗は鴉天狗よりも弱い。立場が…というよりは実力がだ。立場は天魔の入れ替わりにより、多少というよりかは前と比べれば天と地ほどの差だ。物として扱われていたのが、命あるものとして扱われるようになった。だが、それは余には関係ない。
「山は貴方を天魔様と同等に扱っている。全ての天狗が貴方の言うことを聞く。それは貴方が天馬様と同等に天狗たちを統括しなきゃいけないってこと。天魔様はそう仰ってるわ。」
「暴論だな。」
「私もどうかとは思ったのだけれど。玄天が通行証明書のようなものだしね。…でも、これは貴方にとっては好機よ。だって、貴方の言葉は天魔の言葉そのもの。天狗たちは逆らえない。玄天を貰ったってことはそういうことなのよ。」
…雌鴉め。したり顔で此方を見る。策士と言った方がいい。もう受け取っているのだから、己は逃れられないと。
「それと、宴会の人集めもいるんでしょう?霊夢さんから聞いてるわよ?」
「…全く。面倒だ。」
…どうせ、呼ばねば人は来ないのだ。土地勘のほぼない余には苦行と言わざるを得ないだろう。何故、余が人集めなど面倒なことをせねばならん。
「それと、貴方…妹さん、居たわよね?…このカメラなら好きな写真撮れるけれど?」
「…本物には勝てんだろう?」
「それでも良いんじゃない?」
ニヤリと笑いながら、カメラを見せつけてくる射命丸文。確かに一見の余地はある。…決して、レミリアとフランの写真に気を取られたわけではないが、重い腰が上がる。
「今回だけだ。見込みがなければすぐに終わらせる。」
「あら。ありがとう。」
「では。行ってくる。」
後ろの咲夜が頭を下げる。後押しする行ってらっしゃいの声を他所に余と文は共に紅魔館を出た。
少し変更。付け足しました。あややは策士。
タグ付けは具体的に描写が出たらでいいはず…だめ?
恋愛展開は
-
いる
-
いらない
-
して欲しい