「天狗はプライドの高い種族だから。簡単に受け入れろって言うのは難しいわよね。椛は私のこと嫌ってるし。それとつるんでる貴方も同じく…って感じ。」
「…成り行きで来たが。何故、汝の家に招き入れた。」
山奥の古民家。文は一軒家をもらっていたらしく、忌まわき庁舎とはまた別の区画に拠点を構えていた。室内は紅魔館に比べれば狭く閑散としているが、辺り一面が墨やら記事の残骸やらで足の踏み場があまりない。まぁ、あの賢者の汚部屋よりはマシだ。
「なんでって。…今回は天魔様の依頼だからって連れてきたけど、本当はやりたいことがあったのよ。」
「やりたいこと?」
「撮影。…アンタの記事ならいっぱい読んでもらえるわ。」
口角をニィッと上げ、その顔を陰湿なものに変える文。綺麗な笑みだとは口が裂けても言えない。
「くだらん。偏向報道しかせんだろうが。」
「あら。貴方にもメリットはあるはずよ?…だって、貴方の妹さんも貴方の美談を聞けるじゃない。」
「…そんなことで余を手懐けると思うなよ。」
「それに、文々。新聞で人を呼び込めば宴会も華やかになるでしょ?」
…目敏い女である。
肘かけにつき、睨みつける。ため息が湧いて出る。
「…さっさとしろ。」
「よっしゃ。これで読者鰻登りよぉっ!!」
「…。」
ガッツポーズをする文をよそに、再度ため息が出る。やはり面倒なことだ。たかが記事ごときに時間を取られるとは。
「じゃあねぇ。先ずは貴方の家族について。」
万年筆を持ち、メモ帳を手にする文。顎に手を当てて、考えよう。
「家族か。…先ずは我が天使たる妹、レミリア・スカーレットとフランドール・スカーレット。我が血を同じくして次ぐ我が至高なる天使である。あの可憐さに勝てるものなどこの世におらん。」
「…貴方、妹さんたちの話になると饒舌になるわね。…正直言ってキモいわ。」
「…貴様、あまり達者な口を叩くでないわ。消すぞ。」
ため息をつきながら、引き攣った笑みをする文に正直言って眉間に皺がよった。妹らの話を気持ち悪いだと?…あまり仲が良かろうとも愚弄は許さん。
「…はいはい。じゃあ、他は?」
「後は門番がいるな。身体だけが硬いだけの女拳法師。拳技だけなら、見張るものがあるが、世の中は拳だけではどうにもならんことを考えた方がいい。」
「へぇ。」
あれには魔法、弾幕の対処法を教えねばなるまい。徒手では右に出る者は片手で数えられるほどしかおらんだろうが、それでもこの幻想郷で弾幕にやられるなどあってはならんことである。
「図書館には引きこもりの魔女と世話役の淫魔。…魔法で呼び出した眷属故に魔力は両方ともずば抜けている。が、いかんせん体力がない。病持ちだ。よく共に茶会をしているが、余の魔法については暴力的すぎると言っていた。」
「暴力的すぎる?」
「あぁ。元来、魔法とは魔法陣に魔力を満たし、詠唱と共にイメージを創出するものである。だが…。」
余の魔法は前提が違う。魔法陣は形だけ、魔力は満たさずただ無遠慮に撒き散らすのみ。故に個を作るのは得意ではない。だが、規模を広げるのは得意だ。
「だから、暴力的?」
「あぁ。破壊することに特化した魔力だ。その表現が正しい。」
魔法の研究には二世紀ほどを費やしたのだ。…結局はどれだけ消極化したとしても、規模感の問題が解決しただけであって致死の魔法となる。手の内になるため、取材には出さなくていいだろう。文も難しそうな顔で眉間に皺を寄せている。考えても考え付かぬものだ。
「じゃあ、他は?…そう言えば貴方は人間を1人飼っていたわね。」
「その言い方はよせ。穢らわしい。…あれは余にとっての家族である。そこに種族的な差異はあれど人間だからという軽蔑はない。」
「あら。そう。」
文は少し首を捻ってそう言った。無理もない。妖怪が人間を手に入れる理由など食うか使うかの2択。後者は余にとっても他人事ではないが、飼っているというようなものではない。咲夜は余にとっても無くてはならぬ存在だ。アレがいなければ紅魔館は成り立たない。…だが、そこに家族的な愛情があるのかというと微妙だ。所詮は主人と従者なだけである。
「十六夜咲夜は紅魔館の誉だ。教養もあり、仕事もできる。あれほどの人間はそれほどいない。」
「でも、人間なんてすぐ死ぬでしょう?愛情なんて抱くもんじゃないわ。」
まさしくその通りである。我々には永遠にも近い時間は人間にとってはたった80年ぽっち。100年でよく生きたなんていうほどである。御阿礼の子などもっと短い。…宿命だ。咲夜もいずれ死ぬ。
「だが、人間というのは面白い。その限りある命で我々、妖怪と渡り合おうとする。その命火の煌々と燃える様をもっと見たくはないか?」
「…やっぱり気持ち悪いわ。なんて研究なのかしら。」
「これぐらいの楽しみでも見つけないと、余は退屈なのでな。」
強者たるものも今は近くにいない。フランやレミリアは相手にはなるが、妹を何度も痛めつけるのはしょうには合わない。
「人間の従者はスカーレットの歴史の中でも初だな。昔は…とてつもないのが従者をしていたが。」
「とてつもないの?」
「…スカーレットデビルとは違う…新生の紛うことなき悪魔だ。悪魔という種族の怪物だ。」
その言葉を聞いて文の探究心に火がついた。目を輝かせ、執筆のためにペンを走らせる。走り書きというには走りすぎだ。
「我が母と父に支えていた…老父の姿した何かだ。今はどこにいるかはわからんが、死という概念はないと聞いたことがある。何処かでウロチョロしているんだろう。」
「へぇ。…てか、そろそろお昼ね。何食べる?用意するわよ。」
その言葉と共に文は立ち上がる。小首を傾げ、此方を見るが…女の飯にはいい思い出がない。特に八雲紫の飯はとんでもなかった。あれは破壊兵器だ。咲夜ぐらいだ。余が舌鼓を打つのは。
「…そんな目しないでよ。普通に食べれるわ。」
「何も言わずに女の飯を食ったとなったら、咲夜が怒りそうだが。」
「なにそれ。昨日の残りのお味噌汁と…後は卵焼きでも作ろうかしら。」
話を聞かない。割烹着に身を包んだ文は台所に立つと鍋を火にかける。一人暮らしが堂に入っている。一応…咲夜にハトでも飛ばしておくか。
「貴方、よく食べるでしょ。…ちょっと少ないかもねえ。」
「昔は余が取っていたからな。」
庶民的なテーブルに座り、肘をつきながら飯を待つ。流石に作ってもらって逃げ帰るのは義理ではない。義理人情など、妖怪に語る資格などないが。…新聞か。机の上に大っぴらに置いてある。…こんな汚い場所で物を食わす気か。
「ほら、でき…ってそれまだ書ききれてないんだけど。」
盆の上に白飯と味噌汁、卵焼きに漬物と…日本食を並べた文がジトーとした目で此方を睨む。別に読んだわけではないのだが。
「手に取っただけだ。興味もない。」
「貴方それ口癖?…ほら、食べなさいよ。」
…ふむ。匂いは上々。なんだかんだ、金を積んだ飯よりもこんな飯のほうが腹は満たされる。…心も満たされる。ホカホカと湯気を立てる卵焼きを箸で割り、一口食べる。
「…美味い。」
「でしょ。」
はにかむように笑う文。…とはいえ、それ以外の感想は出てこない。
「そういや、あの子に食べてくって伝えたの?」
「あぁ。
「便利なもんねぇ。…貴方はいくつも能力持ってて。」
…いくつもか。
余は己がよくわかっていない。ありとあらゆるものを喰らう程度の能力、血を操る程度の能力…果たしてそれだけなのだろうかと考えることが多い。昔の記憶はあの日以来、見てないが…父上はどのように扱っていたのだろうか。まともに使ったことがないとは言っていたが…。
…考えるのはやめよう。飯が不味くなる。
「お腹が膨らんだらもう少しだけ取材させてね。」
「それが狙いか。貴様。」
雌鴉の言葉をよそに温かな味噌汁で喉を潤す。…なんだか今日は喉が渇いた。
恋愛展開は
-
いる
-
いらない
-
して欲しい