紅魔ノ兄   作:紳爾零士

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主人の才覚

何気ない一日。無限にも続く虚無の時間の大半を図書館で過ごす。妹が眠り、太陽が起きているこの気怠い一日をただひたすらに己が勉学を極めるために使っている。

 

「…本の虫。」

 

「貴様には言われたくない。」

 

図書館の主たるパチュリー・ノーレッジが此方を見ずにボソリと言う。余よりもこの女の方がその言葉は適任だ。四六時中、本に囲まれ、その半生以上を本と共に生きるこの女の方が。

 

「なに。」

 

元から目つきの悪いパチュリーの目がさらに鋭くなる。

 

「特に。」

 

「…ふーん。話変わるけれど貴方、最近何かした。」

 

唐突に。そう、唐突にパチュリー・ノーレッジは言い放った。

 

「…その何かが何かによる。」

 

口から出た声はやけに冷静だ。焦ってもいないから当たり前だろう。本をパタリと閉じ、机に置いておく。こうすれば小悪魔が本棚へと戻してくれる。目の端でパチュリーを捉える。

 

「魔力が少し増えている。何に感化されたか、或いは何か口にしたか。…妖怪ってのは便利ね。」

 

「…恐らくは咲夜の血だ。」

 

その言葉を聞いてパチュリーが頷く。

良くも悪くも血というものと魔法、儀式というものは密接に関わる。血には念と魔力が宿る。魔法でも触媒として使われているぐらいである。それを比較的少量と言えど食事のたびに接種すれば膨大な量となる。

 

「少しってのも普通の魔法使いなら膨大な量よ。愛されてるのね。貴方。」

 

「…いくら強くなろうが、あれが身体を崩せば元も子もなかろう。」

 

「…咲夜には甘いのね。」

 

「人間なんぞに興味などあるものか。余はスカーレットの名を持つ吸血鬼。短命な愚者のことなどどうでも良い。役に立てば良いのだ。…その前に死ぬのは共に置いておく価値のないだけの話。」

 

どれだけ優秀な人間も短命である。あの女はその命すら大事にしない。優秀かと思えば使えない。そんな人間なのだ。十六夜咲夜は。

 

「…育て方を間違えたか。」

 

ため息と共に紅茶を啜る。ふと、目線を上げれば小悪魔が此方を見ていた。微笑んだ様子で。

 

「…余を笑うか。」

 

「はっ!?す、すみませんっ!?」

 

ただ声に出しただけであるのに、小悪魔は青ざめた顔で震える。殺気など一ミリも出していない。それでもえらく怯えるのだから此方が驚きだ。

 

「…そこまでか。」

 

「だ、だってぇ!!睨むんですもんぅ〜っ!!」

 

「別に睨んでいない。ただ汝の中にいる魂が余に怯えているだけだ。…で?何故、笑った。何か、気になることでもあったか。」

 

別に笑われたことに対しては何の感情も浮かんでいない。ただ何か気になることがあれば、それを此方に流すべきである。例え、くだらんことでも。

 

「あ、い、いえ…。ルディウス様にしては優しげな顔をなさっているもので…。」

 

「ルディウス様にしては?」

 

「ひ、ひえっ!?す、すみませんっ!?」

 

…淡々と声が出ただけだが、それに対して小悪魔は声を上げる。顔面蒼白とはまさにこのことだ。別に攻めちゃいない。…余計なセリフが聞こえたが、それに眉根を寄せるほど気にしちゃいない。しかし、優しげか。

 

「我ながら甘くなったものだ。」

 

「いいじゃない。別に。…減るものじゃないんだし。」

 

「…くだらん。」

 

本を閉じ、目を向ける。開けられた窓からわずかに風が吹く。気だるげな夏のぬるい風だ。

 

「…また来た。」

 

パチュリーが頭を抱え、息を漏らす。紅魔館の大図書館にネズミとは。しかも、空から入る派手な登場だ。

 

「…仕方ない。つゆ払いはしてやろう。」

 

「あら。どういう風の吹き回し?」

 

パチュリーの言葉が後ろから聞こえる。頭ばかり使っていたら身体を動かしたくなった…それだけの話である。足を進めればネズミは此方を見て目を見開く。

 

「…こりゃ、やばいのが来たなぁ…。」

 

声とは別に奴の口角が上がる。ネズミ…霧雨魔理沙は意外にも戦闘狂だったようだ。

 

「殺さねえよな?死ぬまで借りに来ただけだぜ?」

 

「死んだら返してくれるのだろう?余も本が読めなくて困っているのだよ。」

 

笑ってやれば奴はすでに上空。箒に跨がり、その手にミニ八卦炉を持っている。あれからは強大な魔力が突発的に発射される。まさにハブだ。

 

「恋符『マスター…ッ!!」

 

「どこを見ている。」

 

既に背後に飛んでいる。左手の指と指の間に電撃を纏い、電気のダイヤモンドをいくつか…あたりに作り出す。

 

「チッ!!…だが、知ってるよッ!!」

 

霧雨魔理沙は後ろを振り向く。と同時、奴にしては細々とした虹色の弾幕が此方に迫り来る。

 

「…頭を使えたか。」

 

左手を開いたまま上から下へと振り上げる。電撃のダイヤモンドが弾け、痺れるガラス片が霧雨魔理沙へと吹き飛ぶ。虹色の弾幕を潰し、目の前を黒煙に染め上げる。

 

爆風が髪を揺らすが、どうでもいい。

 

次に視界を掌握するのは黒煙を掻き分ける虹色の光線だ。

 

「…簡単に死なれてはつまらんからなぁ。」

 

光線は一直線に此方を食みに来る。それは立っているだけの余を避けるように裂け、後ろへと飛んでいった。

 

「それすらも隠れ蓑か。」

 

既に霧雨魔理沙は背後にいた。

 

「ぶっ壊すからよッ!!泣くなよッ!!お兄ちゃんよぉっ!!魔符『スターダストレヴァリエ』ッ!!」

 

「泣くのは汝だ。灼熱『スカーレット・アンタレス』」

 

星型の弾幕は徐々に増え、大きくなっていく炎の弾幕にかき消される。火球は五つほど。弾け増え、室内を跳弾。霧雨魔理沙は器用に避けていく。

 

「めんどくせぇなぁ。アンタ、やっぱ強えわ。」

 

「…主人に必要な才覚は三つ。圧倒的な強さ、圧倒的な知識、圧倒的な欲望。…貪欲に強さと知識を求める。それこそが強者である。」

 

爆風に奴の金髪がゆらめく。ずっと本を読んでいたからか、首を回せば鈍い音が響く。

 

「体を動かすのは宴会以来だな。」

 

「へへ。そうかい。…ここは一旦逃げるぜ。アンタとやり合うんだったらもっと色々魔法用意しておきたいからよっ!!」

 

そう言って霧雨魔理沙は空を滑るように飛び、逃げていった。

 

「つまらんが、悪くない。」

 

咲夜に最初に教えたこと…勝てないと思ったなら逃げろということだ。何を捨ててもいい。プライドを捨ててもいい。…相手に勝てないと状況判断することが強者たる所以だ。今勝てなくても次勝てばいいのだ。時間など…いや、時間が有限だからこそ人間にはそうして欲しい。

 

「あら、優しいわね。加減してたじゃない。」

 

降りた余にパチュリーがかけたのはそんな言葉であった。

 

「加減?…そんなことはしていない。」

 

加減など全力でぶつかってきた相手に失礼だとは思わんのか。それに一喜一憂するのは弱者のすること。

 

「ご主人様。」

 

そんな話をしていると大図書館に咲夜が現れた。ポケットに入れた懐中時計を見るにもう昼時である。仕事モードの時は対して煩わしくないので助かる。

 

「今行く。」

 

そう伝えると霞のように咲夜は消えていった。さてと余も参るとするか。

 

「そうだ。パチュリーよ。」

 

「…なに?」

 

本を読みながら横目でこちらを見るパチュリー。彼女を背後にして話を続ける。

 

「急な来訪者に気をつけろ。幻想郷の結界が如何様なものであろうと渡る手段がある以上…来ないとは限らんからな。」

 

「は?何言って。」

 

怪訝そうな声を他所に大扉を開け、大図書館を出る。杞憂ならいいが、備えあれば憂いなしという言葉もある。咲夜と美鈴にも伝えておいた方が良いだろう。




バトルしか書かないわけじゃない。日常会も書くのよ。次回がそれねとだけ言っておく。いくつかの伏線だのなんだの回収しながら白玉楼編行きたい。では。

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