紅魔ノ兄   作:紳爾零士

68 / 88
ヴァイオリン

「お散歩、お散歩っ!!らんららんららん〜!!」

 

右腕を優しく握る末妹の鼻歌。なんとも愛くるしい。吸血鬼という難儀な種族も、忘れるほど。日射からは空間を喰らい抉り、彼女のシルクのような柔肌を守っている。何人たりともフランの肌に触れさせぬ。紅魔館の住人以外は。

 

「今日は何処に行くの?お兄様っ!!」

 

にぱっと笑うその口元から見える八重歯に自然と頬が緩む。

 

「宴会の日、あの時の演奏家に会いに行く。約束は取り付けてある。」

 

「なんで?」

 

「…単なる興味だよ。」

 

小首を傾げるフランドールにそう言い放つ。優しくその金箔のような柔らかな髪を撫でると目を線のように細め、くしゃっと笑っていた。

 

とはいえ、特にフランに言ったこと以上の意味はない。単なる興味だ。霊夢から聞いた時にはあの音楽団は人里でも人気があるらしい。それこそ一度音楽を奏でれば、大衆の目線は彼女らに釘付けである。かく言う余も音楽には多少の心得がある。…母上の影響だが、自分語りはここまでにしておこう。

 

愛しい妹とのデートには少し辺境な森の中であるが、ここに居るというのだから仕方ない。

 

「お姉様も来たらよかったのに。」

 

「あれはまだ夢の中なのだから仕方ない。」

 

…ぶうたれるフランに森が騒ぐ。森にも取るに足らない雑妖共が居るだろうが、生物として余は愚かフランにも劣っているためか、姿を現さない。目に映ったとしても次の瞬間、そこに転がっているのは肉の山だろうが。

 

「…ここか。」

 

地図など用意していなかったが案外楽に着いたものだ。目の前に広がるのは人間の考える廃洋館、そのものであった。窓ガラスは割れ、庭は荒れ散らかしている。

 

「ここに人が住んでるの?」

 

「人じゃない。…確か、騒霊だ。」

 

その言葉と共に廃洋館から微かに音が漏れる。ヴァイオリンの音。

 

「なんだろう…ちょっとやな感じ…。」

 

その音にフランドールは顔を顰める。しかし、この耳に届くのは何も考えず、拍手できるほどの名器の音。…顰めるようなものではない。

 

「どうした。」

 

「う、ううん?…でも、なんか、これ、聞いてるとやな感じがするの。」

 

そう言うフランに先ほどまでの明るさはない。音楽は文字通り、心に響く。それが原因か。…若しくは奏者の能力か何か。何者かに攻撃されているのか。

 

「敵意は感じぬな。ならば…ん?」

 

ヴァイオリンの音にキーボード、トランペットの音が重なる。ソロはデュオに、そして、一団の音楽となる。ヴァイオリンだけでも舌を巻くレベルだったが、これには大枚を叩いてもいい。

 

「アポイントメントもない来訪者に敵意ではなく音楽でもてなしか。流石はプロフェッショナルだな。」

 

その言葉と共に空中からゆっくりと三つの影が落ちる。霊夢や咲夜よりも幼い風貌。レミリアやフランよりかは成長しているが、いずれにせよ幼子である。空中に楽器が浮いている。騒霊とは言い得て妙か。

 

「…誰。」

 

その中心にいる少女、ヴァイオリンを宙に浮かべた金髪の少女が此方を見る。静かな声でボソリと言った。

 

「姉さん、あれ、近くに来た吸血鬼だよ。」

 

「…そう。」

 

白髪の少女が金髪の少女にそう言った。金髪の少女とは違い、白髪の少女は眉間に皺を寄せて此方を睨んでいた。表情が生きている…というのが妥当か。怯えないのを見るになかなかだ。此方が抑えているというのもあるが。

 

「汝らの音楽を聴きにきた。金ならはずもう。」

 

「不法侵入ってやつだよね?ダメだよっ!!そんなことしちゃっ!!」

 

茶髪の少女が腰に手を当てて、此方に人差し指を突きつける。

 

「…こら。リリカ。」

 

それを制したのは姉さんと言われていた金髪の少女だった。冷静に此方を見る。

 

「本当に聴きにきただけね。」

 

「あぁ。だが、もう満足だ。」

 

「え?」

 

これから本番。そう考えていたのだろう、呆気に取られた金髪娘が腑抜けた声を出す。…価値のある料理はたった少量で腹を満たす。

 

「ソロのヴァイオリンから聞いていた。」

 

「っ!?」

 

その言葉に初めて金髪娘の表情が変わる。死化粧のような真っ白な顔が真っ赤に染まる。

 

「変じゃ…なかった…?」

 

そして、何故かもじもじとしだす。何故かはわからん。

 

「妹は嫌悪していたが、余の耳には上質に聞こえた。」

 

「…そ、そう…てか、勝手に聞いてんじゃないわよッ!!この変態ッ!!」

 

「…くだらん。」

 

顔を真っ赤にして此方に指を指す金髪娘。さっきから表情の変化が激しい。最も余が言っているのはヴァイオリンの音であり、この女の何かというわけではない。故にこの女が恥と感じるのはお門違いだ。

 

「ルナ姉さん。褒められ慣れてないから…。」

 

「お世辞はいいわよ…。どうせ、私なんか…!!」

 

…自暴自棄だ。くだらん。顔を下へと向けて、膝を曲げている。騒霊だからか、そんな座り方でも空を浮かんでいる。何処となく陰鬱だ。

 

「いいか。余はくだらん嘘はつかん。お世辞も言わん。良いものは良いと言うし、拙いものは拙いと豪語する。我が感性を愚弄しているのか?」

 

「…あぐっ…。」

 

金髪娘は口論では勝てんと思ったのだろう…顔を手で隠し、ゆっくりと後ろに飛んでいった。

 

「あらら…。お兄さん、意外と頑固だねえ。」

 

リリカと呼ばれた少女はくすくすと笑いながら、そう言った。金髪娘には白…というか、水色か…水色の髪の娘が追いかけて行った。

 

「ルナ姉さんはね。陰鬱な音楽を奏でるの。だから、姉妹で奏でないと皆んなを陰気にさせちゃう。だから、1人の音楽は聞いてほしくないんだって。でも、人一倍努力はしている。…だから、嬉しかったんだよっ!!きっと。」

 

「くだらん。能力だからなんともならんと思っている愉快な思考も、努力すれば認められると思っている単純な心理も理解不能だ。」

 

「え?」

 

その言葉にリリカと呼ばれた少女は愚か、フランドールも目を丸くする。わざと大声で聞こえるように声を張り上げた。久々すぎて喉が驚愕しているだろう。

 

「貴様のヴァイオリンは紛れもない才能だろうが。…凡庸な余のそれとは違う。誇るがいい。全人類が気付かぬ貴様のその美音に余が墨をつけてやろう。認められたくば能力の制御ぐらいしてみろ。それが出来ぬうちは、余だけが貴様のヴァイオリンを聞く権利がある。」

 

…能力が制御できない。それが自身の存在を証明している…誰が決めた。所詮、金髪娘は逃げているだけだ。世界最高峰…いや、頂点にも近い技術を持っているにも関わらず、妹らを隠れ蓑にしている。長女ならばその胸を張り、自身の力に誇りを持つべきだ。余はそれが許せぬ。

 

「霧の湖一帯は我が紅魔の手中。いずれまた会うとしよう。行くぞ。フラン。」

 

「あ…うんっ!!」

 

フランはにっこりと笑うと定位置と言わんばかりに余の右手をぎゅっと握った。いざ帰ろうかと思い、背後を向く。

 

「ね、ねぇ。」

 

その余の足を言葉が止める。後ろを横目で見ると声をかけたのはあの金髪娘だった。

 

「貴方、名前は…?」

 

「不躾な女だ。名乗らせる前に汝が名乗れ。」

 

「な、なによ…。ルナサ。ルナサ・プリズムリバーよ。ほら、名乗ったからアンタの名前言いなさい。」

 

眉間に皺を寄せて、此方を睨む金髪…もとい、ルナサ・プリズムリバー。その不躾な態度は少々気に食わないが、名乗らぬのも不義理である。

 

「余はルディウス・スカーレットである。」

 

「ルディウス…ね。別に貴方の為じゃないけれど…また、来てもいいわよ。今度はちゃんとアポありで。」

 

「…次は茶の一つでも用意しろ。」

 

「はぁ!?貴方ねぇ…!!」

 

買い言葉に売り言葉。ルナサ・プリズムリバーの顔が赤く染まり、歯を食いしばる。水色の髪の少女がルナサ・プリズムリバーの事を宥める。その様子を背後に余とフランは帰路に立った。




久々である。本当に久々である。
そろそろ異変に入りたいのです。季節に合わせたら多分頭がこんがらがる。では。

恋愛展開は

  • いる
  • いらない
  • して欲しい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。